第1話 学園を支配する悪役令息、平民にわからせられる 俺は、レオン・ヴァレンタイン。 聖ルミナス魔導学園の支配者──いや、正確にはこの国の貴族たちが通う、異世界屈指の名門魔導学園を支配する「黒き獅子」と呼ばれてきた。 侯爵家の嫡男として、学園の予算、人事、派閥、教師すらも俺の意向ひとつで動く。 魔法演習の順番から食堂のメニューまで、俺が決める。 それが当たり前だった。 貴族であることにあぐらをかいていたわけじゃない。俺は誰よりも勉強し、誰よりも魔導を極め、誰よりも人を支配することに誇りを持ってきた。実力の伴わない権威など意味がない──だからこそ俺は、誰にも隙を見せず、いつも完璧であろうとしてきた。 模擬戦では三年連続で主席。魔法理論の論文はすでに王立魔導学会に所蔵され、数十の貴族派閥が俺を中心に結びついている。 笑われたことなど一度もない。 膝をつかせてきたのは、他人のほうだ。 なのに、黒髪の新入生──ハル・アマネが現れてから、胸の奥がざわついて仕方がない。彼は平民奨学生。ただの庶民のはずだったのに、あの笑顔ひとつで、俺が築いた支配を崩しつつある。教師たちは彼に好意的になり、女生徒たちは彼に夢中になり、貴族の息子たちですら彼の言葉に耳を傾ける。わずか一ヶ月で、学園の空気は半分、彼のものになってしまった。 「天使」なんて呼ばれているが、俺には毒にしか見えない。……いや、本当は最初からわかっていた。あいつは毒だ。 だからこそ、惹かれてしまう自分がいる。 いや、そんなはずはない、気のせいだ―― 入学式の日、講堂のステージに立つハルを初めて見たとき、時間が止まった。 俺が審査したわけでもないのに、平民の少年が学園に入ったというだけで腹立たしい知らせだった。 だが、黒髪が光を弾き、透明な肌と笑顔がステンドグラスの光を浴びるその姿は、天使の降臨にしか見えなかった。 胸の奥が、不本意に熱くなる。 視線を外したいのに外せない。 心臓がうるさくて、指先が痺れた。(なんだ、この感覚は。苛立ちか、それとも──惹かれている?)「音楽室に呼び出せ」 俺はわざと冷たい声で命じた。 脅して、ビビらせて、あの天使の笑顔とやらを大人しくさせる──そのつもりだった。 本気で体を傷つける気はない。 ただ、あの綺麗な顔からプラ
Last Updated : 2025-10-27 Read more