All Chapters of 学園を支配する悪役令息のはずなのに、天使のような平民にわからせられ続けています: Chapter 11 - Chapter 20

34 Chapters

第11話 甘く溶けて、まだ足りない

「……言って。欲しいなら、ちゃんと」 絶頂の余韻がまだ身体に残る中、胸は熱くじんじんと痺れていて、脚の間にはまだ指の感触が残っている。なのに──どうしようもなく、足りなかった。 奥が、からっぽで。 そのくせ、ずっと熱くて、疼いて、どうしても……欲しい。 ハルは、そんな俺の顔を覗き込む。 唇の端を緩く持ち上げて、わざとらしく、問いかけてくる。「それとも、もう満足した?」 冗談だろ、と思った。 もっと欲しい。 だけど、意地だけは張って口を閉じていた。「もうやめていい?」 そっと耳元で囁かれると、びくりと身体が震えた。 寝ている身体を起こされて、後ろから膝の上に抱き上げられて、背中を撫でられる。 下腹部がひくりと跳ねた。 たまらず、喉の奥から掠れた声が漏れる。「……いれろ」 自分の声とは思えないほど、小さくて、震えていた。 でも、それでも言った。言ってしまった。 ハルは少しだけ目を見開いて、すぐにくすっと笑う。「ほんとに、君って可愛いよね」 そして、わざと意地悪く聞き返す。「入れてください、じゃなくて?」「……う、るさい……」 耳まで熱くなった。 ハルは満足げに笑うと、腰をゆっくりと撫でて、指先を這わせる。「──わかった。じゃあ、ちゃんとおねだりしてくれたご褒美、あげるね」 ハルの手が俺の腰を支え、ふわりと持ち上げる。 背中を撫でられながら、再び──あの熱が、俺の中へ。 背中から抱かれる形で、胸を優しく包まれる。 柔らかくて、でも熱い掌。 唇が、耳の後ろをくすぐるように触れてきた。 俺の脚の間に、ハルが硬く熱を持ったものをあてがう。 ゆっくりと腰を押し上げると、入り口がむずがゆく、きゅんと疼いた。「力、抜いて……深く入れるよ」「んっ──あ、っ……あああっ……!」 身体の奥が、ゆっくりと溶かされていく。 痛みも熱も、全部ハルに馴染んでいく。 ずるり、と沈み込んでくる感触。 下腹を貫かれるような熱に、背中がぴくりと跳ねた。「ふ……すごい、締めつけ……ほんと、君って……」 耳元で囁かれる。 それだけで、身体の奥がぴくんと脈打った。 胸を揉まれて、それから前をゆっくり扱かれながら、腰の奥ではハルの熱が、ねっとりと擦れてきて──「あ、っ、やっ、んんっ……やば……♡」 何度も、ゆっくり、でも深く
last updateLast Updated : 2025-11-10
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第12話 遠ざける愛

 あの夜を境に、俺は──まるで自分を裏切るように、毎晩ハルの布団にもぐり込むようになった。 プライドが傷つかないはずがなかった。 あれほど完璧を装っていた俺が、自分から求めに行くなんて。 ほんの数か月前の俺が見たら、きっと嗤っていただろう。 でも、それでも、やめられなかった。 その腕の中に滑り込んだ瞬間、抱かれた瞬間、胸の奥がほどけるように安らいだからだ。 優しく撫でられ、キスされ、深く抱かれると、今まで誰にも触れられなかった場所まで、じんわり満たされていく気がした。 あの温もりに溶かされていくときだけ、強がる必要も、完璧である必要も、全部忘れられた。(……それが、心地よかった) でも──それだけだった。 いくら身体が熱くても、何度絶頂しても、ハルの唇からは決して「好き」も「愛してる」もこぼれてこない。 抱かれながら、どこか遠くを見ているようなその目が、怖かった。(身体だけ……なのか) 屈辱、快楽、満たされる思い、満たされない思い。 その全部が、胸の奥でぐちゃぐちゃに混ざって、夜ごと俺を飲み込んでいった。 でも──日を追うごとに、何かが足りない気がしていた。 何が欲しいのか、わかっていた。 名前を呼ばれること。 「好き」と言ってほしいこと。 それでも、俺から言うことはできなかった。 もし、それを口にしたら、すべてが壊れてしまいそうで。 けれど、ハルもまた──日に日に沈んでいくようだった。 行為の最中ですら、どこか遠くを見ているような目をしていた。(何を考えてるんだ、こいつ……)(俺のこと、ちゃんと見てるのか?)*** その夜も、俺はハルに抱かれて、どこまでも溺れていた。 熱を帯びた肌が重なり、ハルの体温が全身を覆ってくる。 俺はベッドにうつ伏せにされ、彼に奥深くまで貫かれていた。 首を回せば、ハルの顔。 いつもと違う、少し苦しそうな、それでも俺を見つめてくれる瞳。 視線が絡むたびに、胸の奥が震えた。「……ハル……っ、あ……そこ……っ」 腰が跳ねる。 自分でも情けないくらい、甘い声が漏れていた。 けれど、止まらなかった。 こいつがほしくて、欲しくて、たまらなかった。「……好き、好き……好きだ、ハル……」 つながったまま、揺らされながら、俺はただそう呟き続けた。 口が勝手に動いていた。胸の奥
last updateLast Updated : 2025-11-11
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第13話 遠征訓練の果てで、また君に

 講堂に、教師の声が響いた。「今週末の遠征訓練の場所は──《黒曜の洞窟》とする」 ざわめきが広がった。 黒曜石の鉱脈が複雑に走り、魔力濃度が異常に高い場所。過去には騎士団ですら多数の犠牲者を出したと伝わる、危険地帯だった。 遠征訓練は年に二度──春と秋に行われる。学園生活における最大の節目であり、学生たちが卒業後に王国を支える戦力となるための最終段階の試練と位置付けられている。「この訓練は単なる模擬戦ではない。未知の地を調査し、仲間と連携し、指揮と判断を学ぶ場だ。我々教師は監督するが、基本は生徒自身の裁量に任せる。油断すれば──命を落とすことになる」 静まり返った空気の中、教師はさらに続けた。「なお、今回は王家ご嫡流、クラウディオ・ヴァレンタイン殿が視察にお越しになる。諸君の振る舞いはすべて見られていると心得よ」 再びざわめきが広がる。 その名の重みが、場の空気を一層張り詰めさせた。(黒曜の洞窟……) 魔力に狂わされた戦士たちが何人も倒れたと聞く場所。確かに危険だ。 でも──俺は心の奥で、不思議な熱を感じていた。(俺は模擬戦では常にトップだ。剣でも魔導でも、負けたことはない。ハルもいる。……まぁ、余裕だろうが──油断しない方がいいな。特にクラウディオが来るなら、みっともないところは見せられない) そう言い聞かせるように息を吐いたとき、隣のハルを見やった。 けれど、ハルの目は俺と同じ黒曜の洞窟を見ているはずなのに──そこに映っているものは、違った。 その瞳は冷たく澄んでいて、はるか遠くを射抜いていた。 まるで、今この場には存在しないもっと強大な何かを凝視しているかのように。(……なんだ、その目は。まるで、俺じゃ届かないものを見ているみたいじゃないか) 胸の奥にざらつきが走る。 次の瞬間、ハルは小さく瞬きをして、いつもの無表情に戻っていた。(気のせいか……?) そう思っても、その残像は脳裏から離れなかった。*** ──講堂を出た後。 人々のざわめきが背後に遠のいても、ハルの胸の奥は静まらなかった。(……一周目。僕は、この遠征でレオンを失った)(僕を庇って、血の海に倒れた。あのときの君の目を、僕は忘れられない) 細く息を吐き、握った拳を胸元に下ろす。(今回は違う。レオンを遠ざける。僕一人で、奴らを迎え撃つ) 脳
last updateLast Updated : 2025-11-12
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第14話 遠征前夜、偽りの安息

 遠征前夜。 戦闘服を準備し、剣を手にしたものの、胸の奥に重たい倦怠感がまとわりついて離れなかった。(……なんだ、これは。全然、力が入らねぇ) 額を汗がつたう。喉が渇き、視界がかすむ。立ち上がろうとした瞬間、足から力が抜け、ベッドへと崩れ落ちた。 浅い呼吸を繰り返す俺を、すぐに影が覆った。「……レオン」 静かな呼び声。額に触れる指先が、ひやりと冷たくて、熱に浮かされた意識が一瞬だけ澄む。「熱もある。……これじゃ動けない」「俺は……行く……遠征は、欠けるわけには……」 掠れ声で絞り出したが、上体を起こす前に、肩を押さえ込まれた。「休まないと」 穏やかな声。けれど、その奥に鉄の芯があった。抗いを許さない響き。「今回は……君は留守番だ。僕が行ってくる」 俺の誇りや肩書きなんか、眼中にない。 ただ一人の俺だけを見据えて、そう断言する目だった。(……なんでだ。なんでこいつは、こんな時にまで俺を縛るんだよ……) 悔しさと同時に、胸の奥を締め付ける痛みが走る。 ハルの瞳は、優しい微笑を浮かべながらも、奥に鋭く光るものを宿していた。 ──決して揺らがない、俺を遠ざける覚悟。 ハルは立ち上がり、机の上に置かれたカップを手に取った。 淡い香りがふわりと漂ってくる。「これを飲んで。蜂蜜入りのハーブティ。君の好きなやつだ」 唇にそっと当てられたカップ。 抵抗する間もなく、甘い液体が喉を通っていく。 蜂蜜の優しい甘さと、草の香りが胸の奥まで広がった瞬間、身体の力が急速に抜けていった。(……なんだ、これ……妙に……眠……) 視界が滲む。 肩にかけられた毛布の温もりが心地よくて、瞼が勝手に閉じていく。「……ごめんね、レオン」「君を生かすために、僕はこうするしかない」 そんな声が──眠りに落ちる刹那、聞こえた気がした。*** 目を開けたとき、すでに部屋の中は夕闇に沈んでいた。 喉がからからに乾いている。全身に鉛のような重さがまとわりつき、起き上がるのにも時間がかかった。(……なんだ……? どうして……) ぼんやりした頭で窓の外を見た瞬間、血の気が引いた。 日はもう傾き、遠征訓練が始まってから何時間も経っていることが、すぐに分かった。「……嘘だろ」 跳ね起きた。椅子も机もそのまま。剣も、支度も。 俺は……置いていかれたの
last updateLast Updated : 2025-11-12
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第15話 雷撃より鋭い告白

 黒曜の洞窟。  濃密な魔力に沈む空間で、ハルの命を狙った三人──ギル、サミュエル、ノアはすでに倒れていた。事前に襲撃を把握していたハルの手で、静かに、正確に沈められた。 だが本番は、ここからだった。(前回はここだ)(あの時、不意打ちをくらって……レオンが僕を庇って死んだ) 奥の祭壇。  誰もいないように見えたその空間から、突如として雷撃が放たれた。  天井の魔力回路から直接落ちてくる高密度の魔力の一閃が、ハルを貫こうとする── ハルはそれを予測していた。  寸前で身を翻し、雷撃は地面をえぐる。 そして、煙の中からその男は現れた。 濃い外套の裾を揺らし、余裕を纏った足取りで、祭壇の影から姿を見せる。「……かわしたか。予測していたのか、あるいは知っていたのか?」 問いかけたのは、クラウディオ・ヴァレンタイン。「無駄話をするつもりはない。──ここで終わりにする」 ハルが足元に魔力を流し込む。 クラウディオの立ち位置を狙った動きを奪うための封拘陣が、地を這うように発動される。 が──発動はした、はずだった。  術式の起動条件も揃っていた。  それなのに、クラウディオは微動だにせず、笑みすら浮かべていた。 ハルの額に、一筋の焦りの汗が滲む。「……君がこの世界の者ではないと、最初から疑っていた。君は、あまりにも把握しすぎていた。だから──そのつもりで、対処した」 クラウディオの身体にまとわりつく魔力。 それは、外部からの術式を一切受け付けない魔術障壁だった。 ハルが事前に仕掛けていたトラップが霧散する。  沈黙。 次に動けば、殺し合いになる──そう理解しながらも、両者とも一歩も引かない。  そして、クラウディオが笑った。「さあ、平民。続きを始めようか。私を殺すつもりだったんだろう?」 挑発に応じるように、ハルが魔力を練る。 その瞬間、魔力の奔流が洞窟の天井を裂き、岩肌が赤く焦げた。 クラウディオの掌から閃光が奔る。 ハルは重力操作で空間を逸らし、間一髪で避けるも、肩が焼かれる。「ちっ」 だがそのまま、返す刀で、結界式を起動。 複層の光輪がクラウディオを包囲し、空間を切り裂くように迫る──が、「甘い」 クラウディオが指を鳴らすと、結界が逆流し崩壊。 反魔力渦による再構築潰しだった。 直後、地面から
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第16話 好きと言われただけで、身体がほどけていく

 ……動けなかった。 何を言われたのかはわかっている。  聞き間違えなんかじゃない。 だけど、心臓が暴れすぎて、呼吸がうまくできない。  全身が熱くて、頭は真っ白で──声なんか出せるわけがない。(……好き、だと? ずっと? ハルが俺を……?) プライドなんざ、今は足手まといでしかなかった。  こんな時に強がりを吐ける余裕なんて、俺にはなかった。 視界に映るのは、まっすぐ俺を見ているハルだけ。  その目に宿っていたのは、俺が一番欲しくて、けど一番手に入らねえと思ってたものだった。 ──愛情。 喉が焼ける。  もし声を出したら、たぶん泣き声になる。  だから、必死に飲み込んだ。 代わりに、身体が勝手に動いた。  気づけば、ハルの腕を引き寄せていた。「……っ」 同じぐらいの高さの先に、ハルの瞳がある。  俺の唇に、息がかかるほど近くて。  それでも、目をそらせなかった。  ……駄目だ。  これ以上、堪えられるはずがない。「……もう一度、言え」 掠れた声で、俺は命じた。  強がりでも虚勢でもなく、ただ切実な欲望として。 ──そして。 ハルは俺を真っ直ぐに見つめたまま、ためらいなく言った。「レオン。君が好きだ。ずっと、欲しかった。そのために──僕は、この世界を生きてきた」 その瞬間、胸の奥に染み入るような感覚が広がった。  ひび割れて乾いた大地に、ゆっくりと雨が降りそそぐみたいに。  荒んでいた心の隙間に、一滴一滴が沁みていく。 呼吸が苦しい。  けど、その苦しささえ甘い。  ……こんなにも、欲しかったんだ。 俺はもう耐えきれなかった。  ハルの襟を掴み、そのまま唇を塞ぐ。 触れた瞬間、火傷するみたいに熱が走った。  強く、深く、ただ夢中で貪る。  ハルも拒まない。むしろ、同じ熱で返してくる。 舌が触れ合い、息が混じる。  心臓が壊れるほど打ち鳴らされ、頭の中は真っ白になった。(……ああ、やっと……) ずっと、欲しかった。  ずっと、怖くて言えなかった。  でも今は、もう何もいらねえ。 唇を離した時、視線が絡んだ。  ハルはわずかに笑って、横を向く。「……そういうことだから。お兄様」 クラウディオの沈黙を、挑発するように切り捨てる。  そのまま、また俺の方へ向き直って── も
last updateLast Updated : 2025-11-14
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第17話 「愛してる」が、この世界のループを甘く閉じた

「好きとか……っ、は、恥ずかしいに決まってんだろ……っ」「でも、知ってる? 今のレオン、すっごくえっちな顔してる」 ハルの声が、甘く濡れた囁きに変わる。 シャツを脱がせながら、そのまま乳首に舌を這わせた。「んっ、や……っ♡ な、なんで、そんな……」 胸が熱い。 乳首を舐められるたび、腰の奥がきゅんと疼く。「……っ、あ、前……っ、やば……♡」 ハルの手が、既に張っていた俺の中心をそっと撫でた。「ふふ……ほんと、わかりやすい身体。可愛いよ。好きって言ったら、すぐ濡らして、こんなに硬くして……」 責める声が、やけに優しく、意地悪に響く。「こんなになってるのに、はじめてみたいな顔するんだね。ねえ、何回抱かれても──好きって言われると感じちゃう?」 言葉が、俺の芯まで突き刺さる。「……っ、うる、せ……っ、も、言うな……」 反射的に首を振る。けれど、ハルの手はそのまま、後ろへと滑っていった。「だめ。もっと可愛いとこ、ぜんぶ見せて?」 直接、下着の内側に指が触れた。 ぬるりとした感触に、ハルは喉奥で笑う。「……ああ、もうすごく熱くなってる。レオン、後ろ……触られて、気持ちいいって思ってる?」「っ……ち、がっ……♡」 抗う声も、震えを帯びる。 指先が割れ目を撫で、濡れたそこにぐっと押し当てられると、俺の身体はびくんと跳ねた。 ……いつのまにか、潤滑剤が馴染んでいた。 とろりとした滑りが、俺の熱と混ざり合って奥へ広がっていく。 そんな準備をされたことにも気づけないほど、もう感覚が追いついていなかった。「ほんとに……ほんとに素直。 もっといじめたら、どうなるんだろうね── 好きって囁かれながら、後ろでいかされるの、初めてでしょ?」「んっ……っ♡ ばっ、やめ……んなっ……そんなとこ……っ」「恥ずかしがらなくていいよ」 ゆっくりと下着をずらされる。 そして──「好きだよ、レオン。……入れるね」 その言葉だけで、奥が痛いほど痛む。「っ……ん、早く…♡」 ハルの熱がそっと入ってくる。奥までゆっくりと確かめるように──焦らされながら、愛されながら、身体が開かれていく。「すごい……全部、受け入れてくれてる……」 ぐ、っと押し広げられる感覚に、俺は声を漏らした。「あっ……おまえが……は、入って…♡ ん、ぅ、んああっ…♡♡」
last updateLast Updated : 2025-11-14
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第18話 おかえりのキスが、俺を壊す

 王都へ戻る道すがら、俺はずっと背筋を伸ばして歩いた。 脚はがくがくだったけど、誰にもそれを悟られたくない。 黒き獅子──その名の意地が、俺を立たせていた。 隣を歩くハルは、何も言わない。 ただ俺の歩幅に合わせ、黙って横にいる。 その沈黙が妙に優しくて、心臓がやけにうるさかった。 寮の扉を開け、中に入った瞬間。 ──限界だった。 膝から崩れ落ちるように玄関で座り込む。 もう立てるはずもない。「……っか、は……疲れた……」「お疲れさま、レオン」 ハルがしゃがみ込み、そっと目線を合わせてくる。 優しく笑ってるくせに、俺の全部を見透かしている目だった。「最後まで気張ってたね。ほんと、見栄っ張り」「……うるせ……」 顔を逸らした俺の頬に、ひやりとした指先が触れた。 頬から耳の後ろ、首筋へ── ゆっくり、撫でるみたいに。「ねえ、レオン。……部屋、どうする?」「……は?」「分ける? 遠征前、そうしたいって言ってたよね」「──今それ言うか!?」 怒鳴ろうとした瞬間、 顎を軽く掴まれ、強制的に上を向かされ── 次の瞬間、唇が塞がれた。「……っ!?」 最初は触れるだけのキス。 でもすぐに、後頭部を掴まれ、 深く、逃げられない角度で押し込まれる。 舌が触れた瞬間、息が止まった。「んっ……っ、は……っ」「本当に部屋、別にしたい?」 濡れた唇のまま囁かれ、 そのまままた深いキスが落ちる。「ん……っ、はる……っ、むり……っ」「離れたいの?」 わざと意地悪な声だった。 その言葉だけで、胸がきゅっと締まる。 ハルの指が顎の下をなぞり、軽く押し開くようにして、舌が差し込まれる。「んっ……っ、ぁ……っ!」 口の中を撫でられ、絡め取られ、腰が完全に抜けた。「レオン、震えてる」 腰を抱き寄せられて、胸が触れ合う。 どこにも逃げられない。「……離れたいの?」 その問いに、 胸の奥でなにかが決壊した。「……離れるわけ……ねえだろ」 掠れた声だった。 でも止まらなくて、さらに続けた。「一緒が……いいに決まってんだろ」 ハルの瞳が、一瞬で熱を帯びた。「レオン……」 次の瞬間、 押し倒されるみたいな勢いで深いキスをされる。 舌が絡み、息が奪われ、喉の奥から甘い声が漏れる。「んっ……っ、は……っ、や…
last updateLast Updated : 2025-11-15
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第19話 社交界に散る微笑と、ただ一人の視線

 春の宵、王都セリュアンにはまだ冷たい風が残っていた。 けれど、ヴァレンタイン侯爵家本邸の大広間には、百を超える燭台と魔導光が灯り、温かな光が満ちている。金と青で統一された壁面装飾は、空を象徴し、そこに掲げられた獅子の紋章は力の象徴── 今宵ここに集うのは、王族を除く上級貴族とその子弟。侯爵家の未来を見定めるための、社交の場。 ざわめき、笑い声、杯が触れ合う音。 けれどそれは、どこか上滑りしていた。 皆が待っていたのだ。 ──レオン=ヴァレンタイン。 若き「黒き獅子」の異名を持つ、侯爵家嫡子の姿を。 そしてもうひとり。 彼が番を結んだという平民が、本当に現れるのかどうかを。「……噂、ほんとうかしら」「番? 侯爵家が平民と?」「でも美貌らしいわよ」「まさか、従者か庶子筋の養子でしょ?」「──違うわ、番なんてただの噂。婚約なら正式に発表があるはずよ」 扉が、静かに開かれた。 その瞬間── 空気が変わった。 柔らかく、それでいて圧倒的な存在感が、空間を満たす。 先に足を踏み入れたのは、黒の礼装に身を包んだ青年。 レオン=ヴァレンタイン。 端正な顔立ち、鋭く引き締まった瞳、まっすぐな背筋。そのすべてが、ただ立っているだけで空間を支配していた。 だが、視線は彼一人にではなかった。 レオンの隣に、もう一人いた。 黒髪が魔導光を受けて、ひそやかに光を弾いた。飾り気のない藍の礼服が、肌の白さを引き立てる。伏し目がちに微笑むだけで、空気が静かに染まった。──天の使いか、あるいは、夜そのものか。 彼の名を、まだこの場の多くは知らない。だが──その佇まいは、平民のそれではなかった。 深い紺色の上着。装飾を最低限に抑えた中にも、隠せない気品と静けさがある。 彼の歩みは、あくまでレオンの半歩後ろ。けれど誰よりも、その背を支えるように自然だった。 一瞬、空気が張り詰めた。 令嬢たちが、ざわ……と唇を寄せる。「……あれが」「本当に……?」「従者にしては……美しすぎる」 レオンは、歩みを止めなかった。 そして、肩越しにひとこと、ぽつりと。 「……ついてこい」 それだけで、隣の男──ハル=アマネは、微笑んで一礼した。 その仕草にさえ、社交界の誰もが目を奪われた。 煌びやかな燭光の
last updateLast Updated : 2025-11-16
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第20話 社交界の真ん中で、ただ一人を選んだ

 レオンは、令嬢たちの言葉を途中で断ち切った。  「──失礼」と短く言って、踵を返す。 迷いはなかった。  父の視線が刺さるのも、令嬢たちのざわめきも、何もかも、知ったことではなかった。 ──ハル。 レオンは、まっすぐ彼の前に立った。「……ハル」 呼びかけられて、ようやく顔を上げた青年は、静かに微笑んだ。  けれど、その笑みはどこか──さみしかった。「……僕に構わなくていいのに……君の立場もある。だから──」 「言うな」 レオンの声が、低く落ちた。「君の立場とか……らしくないだろ。それに、お前のためじゃない」 目を逸らすハルの手を、レオンは掴んだ。  強く、けれど乱暴ではなく。「……俺が……お前じゃないとだめなんだ」 そう言ったレオンの目は、真っ直ぐだった。  濁りも、迷いもない。  ただ──願っていた。 ハルが、わずかに目を伏せた。「……でも、今ここは──」 「キスしてくれ」 レオンが小さく言った。  誰にも届かないほどの声で。けれど、その声には確かに熱がこもっていた。 ハルの目が、わずかに見開かれる。「……ここで?」 「……ああ」 ハルが小さく問い返した。  それは驚きではなく、確認のような響きだった。 レオンは頷く。 その言葉に、ハルの瞳がふっと揺れた。  わずかに笑って、彼は一歩近づく。「──本当に、可愛い。好きだよ、レオン」 低く、甘く、微熱を孕んだ声。  レオンの目がゆっくりと細められる。「……俺もだ」  その言葉に、ハルの肩がふっと揺れた。 次の瞬間、ハルの腕がレオンの腰を抱いた。 静かに、けれど迷いなく。  片腕で引き寄せるようにして、レオンの身体を抱き寄せた。  視線が重なった瞬間、空気が凍るように静まった。 ──そして、唇が重なる。 触れるだけの口づけではなかった。  ハルの唇が深く食い込むように押し当てられた瞬間、レオンの背筋に震えが走る。 ──舌が触れた。 ハルの舌先が、静かに、しかし確かにレオンの唇を割って入り込んでいく。  甘く、熱く、ゆっくりと味わうように──レオンの舌を探し当てて絡め取る。 レオンは抵抗しなかった。  いや、できなかった。  目を閉じたまま、呼吸を忘れ、ただその深い口づけに身を委ねる。 周囲の喧騒も、ざわめきも、すべて
last updateLast Updated : 2025-11-17
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