同時に、京西市。裕美はホテルの部屋で目を覚まし、スマホを手に取った瞬間、ようやくすべてが現実になったのだと実感した。過去のすべてときっぱり縁を切るため、彼女はスマホと電話番号を新しくした。昨日契約したばかりのスマホには、翔太からのメッセージが一通だけ届いていた。【ロボットが朝食をドアの前に届けたよ。起きたら取りに行ってね】メッセージの後には、柔らかな笑顔の絵文字が添えられていた。……午後三時、裕美は翔太の車に乗り、結婚式会場へ最終確認に向かった。再び翔太と顔を合わせたとき、裕美は相変わらず彼に打ち解けられてはいなかったものの、心の中の彼への好感は、前回よりもはるかに大きくなっていた。翔太の顔には相変わらず穏やかな笑みが浮かび、彼女を見つめるまなざしは非常に真剣だった。「こんにちは。朝食は口に合った?」裕美は、料理の種類が豊富で和洋折衷の料理がワゴンいっぱいに並んでいたあの朝食を思い出し、思わず彼に視線を向けた。「合わないって言ったら、今度は外国のシェフまで呼び寄せて料理を作らせるつもり?」翔太はその冗談を受けて笑い、場の空気がほんのり和んだ。「結婚式の流れと会場のプランは、ほぼ決まったよ。これまで俺が直接確認してきたから、抜けはないはず。でも、白野さんも式の主役だから、やっぱり自分でも一度確認したほうがいいよ。気に入らないところがあったら、今日か明日ならまだ直せるから」裕美の口調にも、少し冗談めいた響きが混じっていた。「もうすぐ結婚するのに、まだ私を白野さんと呼ぶの?」翔太は一瞬きょとんとし、彼女がそんなことを言うとは思っていなかったようだ。裕美は、彼の不意を突かれた表情を見て、自分の言葉が少し踏み込みすぎたことに気づいた。少なくとも、出会ってまだ一日しか経っていない政略結婚の夫婦にとっては、少し親密すぎる発言だった。裕美の頬がわずかに赤らみ、取り繕おうと口を開きかけたとき、翔太がふっと笑みを浮かべたのが見えた。薄暗い車内でも、彼の瞳はきらりと光り、裕美は思わず見とれてしまった。かつて、拓真も同じような眼差しで彼女を見つめていた。それはもう遠い昔のことだった。あの頃の拓真の目には彼女しか映っておらず、彼が彼女を見るたびに、他人には無関心なその瞳が深い愛情で満たされていたのだ。
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