※暴力/脅迫/加害表現を含みます。私の全身を舐め回すように見ていた〝笑い犬〟の視線が、あるところで止まった。「──この髪、邪魔ですね。〝人形〟は、こんなに長くはなかった。いっそのこと、切ってしまいましょう」ナイフの刃が、私の襟足にあてられた。ビクリと、身体が電流に打たれたように反応する。「い、嫌だっ……! やめろっ……!」私はナイフを奪おうと手を伸ばした。怪我することなど、一瞬たりとも頭に浮かばなかった。ただ、守りたかった。あの日、〝王様〟がここに優しく触れた──その記憶を。「檻に戻れ! 〝笑い犬〟!」突然、隣の部屋からドンッと壁を叩く音が響いた。びくりと〝笑い犬〟の身体が痙攣し、信じられないものを見るかのように向かいの壁を凝視する。「この声……まさか、〝王様〟……!? いや、そんなはずはない……貴方はあの治療で気を失って、二、三日は目を覚まさないって〝先生〟が……」「そりゃ、残念だったな。お前の〝先生〟も、たまには間違うってことさ」かすれたせせら笑いに、〝笑い犬〟の顔が赤く染まる。だが、〝王様〟が苦しげに咳き込むと、彼はほっと息をついた。「なんだ、やっぱり〝先生〟は正しかったようですね。驚かせないでください。気丈に振る舞っても無駄ですよ? 声が震えていますから」「黙れ、〝笑い犬〟。無駄吠えしていないで、そろそろ自分の犬小屋に戻ったらどうだ?」途切れ途切れではあったが、〝王様〟の声は自信と軽蔑に満ちていた。 「まさか、興奮しすぎて忘れたってわけじゃないよな? それなら教えてやろうか。お前の部屋は──」「言うなっ……!」〝笑い犬〟がギクリとして、下に横たわる私の方を見た。「ふん。どうした? 〝笑い犬〟──いや、〇三番。お前の病室は俺の隣、〇三号室だろ?」「……〇三番?」私は〝笑い犬〟を見上げた。相手の顔はみるみるうちに赤くなり、身体が小刻みに震え出す。「それ以上、言うなっ……! この人に!」「なぜだ? いつかわかることだろう?」〝王様〟の声は冷ややかだった。「お前が、人を痛めつけるのも、痛めつけられるのも大好きな、性的異常者だってことがな」キーンと耳鳴りがするほどの静寂の中、〝王様〟の声だけが響く。「お堅そうなフリをしたって無駄だ。『外』でさんざんイタズラをして、更生不可能の性犯罪者としてここに移送され
Last Updated : 2025-12-18 Read more