一か月後。怜司は空港に降り立つや否や、ほとんど駆け足でVIP通路を抜けた。スーツケースには目もくれず、荷物はすべて秘書に任せる。真っ先にタクシーへ飛び乗り、向かった先は――病院だった。胸の奥で、焦りと後悔と、償いたい一心がぐるぐると渦巻いている。千紗がもし突然現れたら、きっと驚いて、次には拗ねた顔で「遅いよ」と泣きつくかもしれない――そんな姿を想像して、どうしようもなく会いたかった。用意したピンクダイヤの指輪で、ちゃんとプロポーズして、今度こそ全部をやり直したい。そう誓って、病院に着いた。入り口で車を降り、迷うことなくVIP病室へ駆け込む。ドアを勢いよく開けながら、思わず笑みさえ浮かべて――「千紗、ただいま……」言葉が途切れ、笑顔が凍りつく。病室には、誰もいない。ベッドはきちんと整えられ、カーテンが風に揺れている。そこには、千紗の気配も、温度も残っていない。怜司は呆然と立ち尽くす。胸が、冷たい手で鷲掴みにされたように痛む。慌てて廊下の看護師を呼び止める。「この病室の患者は?高瀬千紗はどこですか?」看護師は少し驚いてから事情を説明する。「高瀬さんなら、ひと月前にご自分の意思で退院されました。手続きもすべてご本人が済ませています」「退院した!?」怜司は思わず声を荒げる。「誰が手続きしたんだ?傷はまだ治りきってないだろ!誰が許可したんだ!」「い、いえ、ご本人がどうしてもと……すべて自分で手続きを済まされました」看護師は怜司の気迫に押されて、思わず半歩引く。自分から退院した……?怜司の胸が、ずしりと重く沈む。だが、すぐに自分に言い聞かせる――そうだ、きっと家で待っているに違いない。家の方が楽だし、メイドもいるし、そっちの方がいい。自分はただ焦って混乱しているだけだ。すぐに踵を返し、帰路を急ぐ。歩きながら後ろの秘書に早口で指示を飛ばす。「美和は彼女のマンションまで送って。俺は用事ができたと伝えて、しっかり休むように言ってくれ」美和は怜司について別荘に行きたそうに甘えてみせたが、怜司は気もそぞろに「今日は無理だ」と遮り、結局、美和は不満げに「分かった。でも、絶対に迎えに来てね」とだけ言い残して、秘書に連れられて別の車に乗り込んだ。怜司はひとりで車を走らせる。アクセルを踏み込み、闇の中
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