「俺が今日来なかったら、どうなってたか分からなかったな」美月はため息をついた。「……分かったわよ。私が悪かったわ」「自分が悪いと分かったら、もう黙って手を洗ってきな」そう言うと、静真はツンとした顔でキッチンに入り、料理を再開した。やがて料理が次々とテーブルに並べられた。美月が真ん中に座り、二人がその両脇に陣取ると、作ってきた料理をすべて彼女の前に押しやり、「どっちの味が好みか食べてみてくれ」と迫ってきた。二人が露骨に張り合っているのは明らかで、美月が気に入った料理を作った方が勝ち、という腹積もりらしい。普通の人間ならプレッシャーを感じるところだが、美月にそんな繊細さはない。彼女は出された料理を端から一口ずつ味見し、純粋に自分の好みに合ったものだけを無心で食べ進めた。それが誰の作った料理かなど、全く気にする素振りも見せなかった。美月がほとんど食べ終えようとした時、静真が得意げに笑った。「こいつがナスの揚げ浸しが大好物だってこと、知らなかっただろ?」静真は文則を見て言った。文則は鼻で笑った。「たかがナスの揚げ浸しだろ。俺だって作れる。今度俺が作ってやれば、確実にお前のより美味いと言わせてみせるさ」「お前が美味いと思っても、こいつの好みに合うとは限らない。例えば、お前が作ったこのラムチョップ。美月はラム肉自体は好きだが、味が濃い赤ワイン煮込みは嫌いで、あっさりした香草グリルじゃないと食わないんだよ。それからこの里芋、どうして彼女が全然食べないないか分かるか?里芋アレルギーだからだ」静真が文則の料理を一つ一つ論破していくのを聞きながら、美月は彼が自分のことをこれほど詳細に把握していた事実に今更ながら驚いていた。自分の好きなもの、嫌いなもの、味の好みまで、彼がすべてを理解していたなんて。文則は完敗だった。しかし、それはあくまで料理の好みに関してだけだ。「なるほどな。お前たち、本当は付き合ってないんだな」静真の顔色が沈んだ。「俺たちが付き合ってようがいまいが、お前には関係ないだろ」「もし本当に付き合っていて恋人同士なら、お前がここまで不安がる必要はないはずだからな」「俺たちは……」「ただの友達なんだろ?」文則は微笑んだ。「奇遇だな。俺と美月も、今はただの『友達』だ」友達?
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