健吾は杏奈を腕に抱き、ベッドに横になると、杏奈を胸に抱き寄せて、彼女の髪に愛おしそうに顔をうずめた。「お休み」でも、杏奈にはまだ眠気がなかった。だけど、健吾の腕の力がとても強くて、杏奈は彼の胸に顔をうずめたまま、頬をかすかに染めていた。そして、耳元からは、すぐに健吾の穏やかな寝息が聞こえてきた。彼はもう眠ってしまったようだ。杏奈はしばらくじっとしていたけど、やっぱり眠れなくて、そっと体を起こそうとした。だけど彼女が身じろぎしたとたん、腰に回された腕にぎゅっと力がこもった。これでは、身動きが取れない。こうして彼女はまるで抱き枕のように、抱かれていることしかできなかった。周りは静まり返っていた。そして眠くはなかったのに、うとうとするうちに、杏奈もそのまま眠ってしまった。次に目が覚めたときには、もう2時間も経っていた。杏奈はがばっと体を起こした。寝ぼけて頭がぼーっとして、少し重たく感じていた。隣に健吾の姿はもうなかった。いつ出て行ったんだろう。彼女がそう思ってスマホを取り出すと、健吾からメッセージが届いていた。【気持ちよさそうに寝てたから起こさなかった。午後はかなり忙しくなるんだ。アトリエの方が大丈夫なら、夜、一緒にご飯でもどう?】メッセージの後には、すごく可愛いスタンプがついていた。銀髪のアニメキャラが、頭の上にハテナマークを浮かべているスタンプだ。杏奈はそのキャラクターを知らなかったけど、なんだか健吾にそっくりだ。杏奈は【いいよ】と返信した。それから健吾からは返事がなかった。きっと仕事中なのだろう。彼女は身支度を整えて、少し散歩でもしようと外に出ることにした。するとオフィスを出た途端、派手な身なりの女性と鉢合わせになった。秘書室の人が案内していたけれど、その秘書は困った顔で、その女性にこう言っていた。「平野さん、社長は本当に会議中でして、今は手が離せない状況なんです……」しかし、秘書の言葉が終わる前に、平野安紀(ひらの あき)は足を止めた。彼女はサングラスを外すと、杏奈を険しい目つきで睨みつけた。「あなた誰?なんで健吾のオフィスから出てくるのよ?」そう言うと、安紀は秘書の方を振り返った。「健吾は会議中だって言ったじゃない。じゃあこの女は誰よ?」一
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