Todos os capítulos de あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!: Capítulo 531 - Capítulo 540

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第531話

一方、このところ忙しかった杏奈は、ネットの芸能ニュースなんて見ていなかった。汐梨と克哉が仲直りして例のドラマに出ることにしたと知ったのも、健吾から聞いたのだ。そして、鈴木家で汐梨に会ったとき、杏奈は二人の関係が以前よりもっと親密になったように思えた。どうやら汐梨は、もう決心したようだ。そして今、健吾はそっと杏奈の手を引いて二階に上がり、彼女の部屋へと入っていった。「あなたのお兄さんたちが料理人たちを追い出して、四方八方から俺を睨みつけてくるんだ。でも俺は彼らのために料理なんてしたくない」彼は杏奈のためなら、喜んで料理を作るのだが、無理やり彼女の兄たちのために作らされるなんて、ごめんだと思った。それを言われ杏奈は笑いながら健吾の頬を撫でた。「嫌なら作らなくていいよ。兄さんたちがホスト役なんだから、自分たちで何とかするでしょ」それでも健吾は眉間にしわを寄せ、不満そうな顔をしていた。「彼らが一緒にキッチンに立って手伝うっていうなら、作ってやらないこともないけど」「じゃあ、私が一緒に入ってあげようか?」それを聞いて健吾はさらに眉間のしわを深くよせた。だが、彼が口を開こうとした瞬間、杏奈が指でその唇をそっと押さえた。「もう、わかってる。私はキッチンには入らないわ」すると健吾が、ぱくりと杏奈の指に軽く噛みついた。予想外のことに、杏奈は思わず、「痛っ」と声をあげて手を引っ込めた。「もう、なにするの!」「これで忘れないだろ?」そう言って健吾は悪戯っぽく笑うと、杏奈に顔を寄せた。そして自分の唇を指さして言った。「仕返し、する?」そんな彼を杏奈は、ぽん、と押し返した。だが、健吾は怒る様子もなく、押された勢いのままくるりと向きを変え、部屋の中を見て回り始めた。彼が杏奈の部屋に入るのは初めてだった。そこはとても広々としていた。温かみのあるインテリアで、こだわりが感じられる部屋だ。すると、杏奈はふと何かを思い出したように言った。「そうだ、あなたにあげたいものがあるの」健吾が目を向けると、杏奈はウォークインクローゼットへ向かい、しばらくしてやっと戻ってきた。そして杏奈の手には、チャコールグレーのコートが抱えられていた。コートはシンプルなデザインで、丈は健吾の膝あたりまで。肩幅も袖の長さも、彼の体
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第532話

それから階段を降りながら、杏奈は健吾にこの服をあげたことを、心から後悔していた。ここは鈴木家だから、健吾もさすがに遠慮していたけど。それでも、自分の手はまだじんじんしているのだ。一方、健吾は満足げな顔で、包み込むように優しく杏奈を抱きしめた。「ごめん。許してくれるようになんでもするからさ」だけど杏奈からしてみれば、その「なんでもする」という言葉でさえ、なんだかすごく熱っぽく聞こえて……耳元でささやかれたせいで、体中に熱がこもってしまうようだ。杏奈は、さらにカッとなった。そして、健吾のことを思いっきり睨みつけた。「もしまた……あんなこと……」恥ずかしくて最後まで言えずに、杏奈は逆ギレした。「今週は実家に泊まるから!あなたは一人でマンションに帰ってよ!」それを言われ、さすがにやりすぎたと気づいたのか、健吾はしきりに謝って、杏奈の機嫌を取ろうとした。でも、杏奈はまったく聞く耳を持たなかった。ちょうど二人を呼びに来た啓太が、階段を降りてきた。そして、健吾が妹にへこへこしている姿を目撃してしまったのだった。しかも、杏奈はなんだか不機嫌そうだ。啓太は、まるで健吾の弱みを握ったみたいに、ここぞとばかりに兄として幅を利かせてみた。「杏奈になんかしただろ?」たしかに、「なんか」はしたけど、とてもじゃないけど言えない。杏奈が健吾の方をちらっと見ると、彼は平然とした顔で口を開こうとしていた。でもなぜか、ろくなことを言わない予感がしたので、杏奈は健吾が口を開く前に、慌てて割って入った。「別に何もされてないよ。お兄さん、わざわざ呼びに来てくれたの?もうご飯の時間?」啓太の注意は、杏奈の一言で簡単によそへ逸れた。彼は健吾を一瞥して言った。「うちの家では、男がキッチンに立つことになってる。杏奈を嫁にもらうなら、お前も料理をしてもらわないとな」そう言ったとたん、啓太は何かを思いついたように、急に気分が高揚してきた。「まあ、橋本グループの御曹司であるお前が、料理なんてしたことないだろうけどな。もしできないんだったら、鈴木家に婿入りなんてさせないからな」そう言って、健吾が料理ができないと決めつけた啓太は、得意げに胸を張った。これはチャンスだとばかりに、彼をやり込めようとしたのだ。それを聞いて杏奈は呆れて、啓太を黙っ
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第533話

「豪が言ってたわ。あなたはもう大人だって。いくらお金をあげたって、失われた20数年間の愛情は埋められない。橋本社長に厳しくするのは、彼があなたの将来を担っているからなのよ。だって大事な妹だもの。そこらの男に簡単に嫁がせるわけにはいかないじゃない。それに、前の結婚がうまくいかなかったでしょ?だからこそ、橋本社長にはもっと厳しくなっちゃうのよ。あなたには頼れる実家があるんだって、思い知らせたいの」それを聞いて杏奈は、ようやく合点がいった。四人の兄は、健吾との仲に反対したり、賛成したりした。でも結局は、二人のことに口を挟まなくなった。それは、みんな自分の選択を尊重してくれていたからだった。でも、その選択でまた傷ついてほしくもなかったから、兄たちは、自分の絶対的な味方でいようとしてくれたんだ。それに気づいて、杏奈の胸にじーんと、切なくも温かいような気持ちが込み上げてきたのだった。そこで雫は、フルーツの盛り合わせを杏奈の前にそっと差し出した。「これは豪が切ってくれたの。あなたの好きなフルーツばっかりよ」杏奈は好き嫌いがなく、実家では出されたものは何でも食べた。以前、豪に好きなものと嫌いなものを聞かれたことがある。その時、アレルギーで食べられないものを伝えただけで、あとは特にないと答えていた。だから豪も、それ以上は聞いてこなかった。それなのに、ちゃんと見ていてくれたんだ。自分がどんなフルーツが好きかまで、細かく覚えてくれていたなんて。「彼って本当に優しい人なんですね」杏奈は自分用のフルーツ皿を受け取ると、うつむいて食べ始めた。一方、それを見た雫は、まるで大きな役目を果たしたみたいに、ほっと息を吐いた。「豪は、私が今まで会った中で一番優しい人よ、本当に」そう言う雫の目には、豪への愛情が隠しきれずに溢れていた。杏奈は思わず冗談を言った。「お二人を見ていると、『喧嘩するほど仲が良い』って言葉が理にかなっているように思えます」ライバル同士が夫婦になるなんて、それはそれで素敵なお話じゃない。すると雫はすかさず、隣の汐梨に話を振った。「でも、人気俳優同士の恋にはかなわないわよ」そう言われ汐梨はびくっとして、トイレを口実にその場を逃れようとした。でも、杏奈と雫に止められて、芸能界の恋愛事情を話すようせがまれた
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第534話

それを聞いた豪と克哉は、すぐさま料理の手伝いに加わった。こうして、まだ独り身の啓太と空だけがその場に取り残されて、顔を強張らせているのだった。ついに啓太はぷんぷんしながら空の肩に腕を回し、不満げに言った。「へえ、俺たち独身は仲間はずれってわけか。上等だよ!もう俺たちは、座って待ってるだけだからな!」啓太はそう言って、空を引っ張って部屋を出ていこうとした。しかし、空はぴくりとも動かなかった。彼は少し考えると、こう言った。「もし独り身が差別されるって言うなら、俺はもうすぐその差別から解放されるよ」そう言い終わると、空は啓太の方を向いた。そして衝撃を受けたような顔をしている弟を見て、彼は意地悪っぽく口の端を上げた。「もうすぐ、この家で独り者はお前だけになるな」そう言うと、空も料理の手伝いに加わった。啓太はしばらくその場で固まっていたが、はっと我に返ると空のそばに駆け寄った。「誰なんだよ!いったい誰とだよ?俺を裏切るのか?今誰と付き合ってるんだ?まさか患者さんとか?教えてくれよ!ちょっと噂が気になる……いや、心配してるだけだからさ!」そして啓太だけでなく、豪と克哉も空の言葉を聞いて、とても驚いていた。空はこの家で一番、研究に打ち込んでいる真面目な男だった。だから豪は、空が一生を医学に捧げるものだとばかり思っていたのだ。まさか、あの色恋に興味のなかった空に、そんな春が来るなんて。そう思うと豪もそわそわして、空の口を割らせて秘密を聞き出したくなった。そして克哉も聞き耳を立てて、そちらの様子をうかがっている様子だった。ただ健吾だけが、空に恋人がいようがいまいが、まったく興味がなかった。彼はお椀の中の牛肉を見つめながら、ビーフシチューにするか、それともステーキにするかと考えているのだ。結局、空は好奇心いっぱいの兄弟たちに相手が誰かを教えなかった。ただ、患者ではないことと、うまくいくようになったら話す、とだけ言った。啓太もしばらく空にまとわりついて質問攻めにしたが、何も聞き出せなかったので諦めた。こうして食事の時間になっても、啓太はまだ落ち込んでいた。しかし、杏奈が隣に座ったとき、彼は目をきらりと光らせた。杏奈は自分と同じくらい恋愛ネタが好きなのだ。前に、克哉と汐梨の恋愛ネタも、杏奈と一緒にあれこ
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第535話

こうして杏奈は小声で啓太を慰めた。でも啓太はその言葉で、もっと胸が痛くなった。彼は黙り込んでしまった。一方そばですべての会話を聞いていた健吾は、くすっと笑うと、杏奈に料理を並べてあげた。「凪さんのレシピで作ってみた薬膳なんだ。味はどうかな?」それを聞いて、杏奈は健吾の言葉に引き寄せられ、言われるがまま食べてみると、そのほのかにハーブの香りが漂うあっさりした味わいをすっかり気に入ってしまった。「おいしい」杏奈はそう一言だけ感想を言った。健吾は彼女よりずっと料理上手で、初めてのレシピでも見事に作りこなし、仕上がりの味も絶品なのだ。それを聞いて健吾はにこやかに笑うと、啓太の視線を感じて、わざと杏奈の頭を撫でた。「気に入ってくれてよかった」杏奈は黙り込んだ。啓太も絶句した。こうして豪華な食事が並ぶテーブルを、みんなで囲んだ。以前、鈴木家の兄弟四人だけで食事した時のような、冷たくて静かな雰囲気と違って、今は七人もいるのですごくにぎやかで、和気あいあいとした雰囲気が漂っていた。そして今日の主役である克哉が、グラスを手にみんなに声をかけた。「俺は明日からしばらく修行の旅に出るんだ。上手くいくように祈っててくれよな」すると汐梨が最初にグラスを上げ、続いてあとのみんなもグラスを上げてまるで彼を歓送しているかのように、食事会は最後まで賑わった。最後まで雰囲気はとても良かったので、みんなもついついお酒が進んでしまった。ただ、杏奈だけは、医師に止められているので飲めなかった。本来は克哉のために開かれた食事会のはずなのに、鈴木家の兄弟たちは示し合わせたかのように健吾にばかりお酒を飲ませていた。健吾のほうは来るもの拒まずで、最後には顔を真っ赤にしていた。それを杏奈は見かねて、兄たちがお酒を飲ませるのを止めた。「杏奈、こいつに甘いな。俺がやきもちを焼いちゃうくらいだ」克哉も少し酔っているようで、呂律が回らない口調で言った。すると椅子の背にもたれ、頬を赤らめ、目はとろんとしていた健吾が、その言葉を聞くとニコッと笑い、杏奈の手を引いて彼女の肩に寄りかかった。「当たり前でしょう。彼女は俺の妻なんですから」「何を言ってんだよ。まだ籍も入れてないくせに。それに、お前はうちに婿入りするって言ってたじゃ
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第536話

健吾はそう言うと杏奈を離し、自分勝手にベッドに上がって横になった。そう言われると杏奈は呆れて言葉も出なかった。これで酔ってないって言うの?彼女は仕方なく、タオルを濡らして健吾の顔を拭いた。そして彼の服を脱がせ、豪の部屋から持ってきたパジャマに着替えさせた。一方、酔った健吾は意外に素直で、目を閉じていたけど、杏奈の言うことをちゃんときいた。「起きて」と言えば起き上がり、「手を出して」と言えば手を出していた。そして着替えが終わるとまたベッドに倒れ込み、そのまま寝入ってしまった。杏奈は思わず苦笑いが漏れた。「酔うと素直になるのね」そこで健吾のスマホが鳴ったから、杏奈はぐっすり眠っている彼を一瞥し、スマホを取って画面を見た。香織からの電話だった。電話に出ると、こちらが挨拶するより先に、電話の向こうの香織が口を開いた。「健吾、家に帰ってきてちょうだい。澪ちゃんが帰ってきたの」その声は、どこか切羽詰まっているようだった。それを聞いて杏奈は少し間を置いてから言った。「おばさん、健吾さんは酔って寝てしまいました。明日帰るように伝えましょうか?」すると電話の向こうは、杏奈が出るとは思っていなかったようだった。香織は我に返ると、慌てて言った。「あら杏奈さんなのね。健吾は今夜あなたのお家で食事だって言ってたから、もう終わった頃かと思って。そう、それならいいの。酔ってるなら休ませてあげて」「はい、おばさん、明日帰るように伝えておきます」それから電話の向こうで少し沈黙が続いたあと、結局、香織はそれ以上何も言わず、杏奈に挨拶をすると電話を切った。杏奈は健吾のスマホをサイドテーブルに置いた。そして自分もシャワーを浴びてベッドに入ると、すぐに深い眠りに落ちた。翌朝、杏奈は昨夜の香織からの電話の内容を健吾に伝えた。健吾はまだ頭がぼんやりしていたが、杏奈の話を聞いて少し固まった。そして、口の端を歪めて冷ややかに笑った。「わかった」あの女が橋本家に戻ってくるなんてな。きっとお人好しの香織にでも泣きついて、庇ってもらおうって魂胆だろう。一方、杏奈は澪のことについてそれ以上は聞かなかった。それから朝、家族で克哉と汐梨を見送った後、杏奈はアトリエへ向かい、健吾は橋本家へと帰っていった。健吾が家に着くとリ
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第537話

香織の声は、真剣な響きを帯びた。「とにかく、これからはもう、澪ちゃんを橋本家から出て行かせないようにするから」それを聞いて、健吾は何も言わなかった。伏せられたまつ毛の影が、彼の瞳の奥に宿る冷たさを隠していた。香織は、澪のことを心から心配し、本当の家族のように思っていた。しかし澪は、嘘をでっち上げて自分が被害者であるかのように装い、香織にすっかり同情を買おうとしたのだ。そう思って、しばらく沈黙した後、健吾はゆっくりと澪に視線を移して言った。「話してみろ。どうやってD国に連れて行かれ、どうやって柴田の手から逃げ出せたんだ?」澪は、香織の前ではか弱いふりをして、でっち上げた話をすらすらと語ることができた。しかし、健吾を前にすると、胸に詰まった悔しさで言葉が出てこなかった。彼女は心のどこかで分かっていたからだ。たとえ作り話でも、本当にあった辛い出来事でも、健吾に打ち明けたところで、彼は同情などしてくれるはずがないんだ。今の健吾は、もう昔みたいに、自分の言うことを何でも聞いてくれることはないのだ。健吾には恋人ができたから、もう、自分のことなんてどうでもいいんだ。杏奈が、健吾の関心を全部奪ってしまったのだ。そう思うと、澪は膝の上の手を固く握りしめ、心に湧き上がる怒りを必死に抑え込んだ。「私……数日前に知らない電話がかかってきたの。電話の男に、あなたの弱みを握っているから、D国に来なければ、それを使ってあなたを陥れるって言われて」「何の弱みだ?」澪が言い終わる前に、健吾が話を遮った。澪は言った。「鈴木さんがあなたの弱みだって言ってたわ」彼女の声はとても小さかった。最後の言葉を口にするとき、かすかに不満が滲んでいたが、気づかれないほどだった。それを聞いて健吾の口元の笑みが、さらに広がった。「だとしたら、なぜ俺に直接言わなかった?そんなことでD国まで行くなんて」「あなたに連絡できなかったの」「俺に連絡できないなら、母には連絡できたんじゃないか?」すると、澪の顔は少し青ざめ、口ごもって何も言えなくなった。それを見て、香織が澪をかばった。「心配のあまり、冷静でいられなかったのよ。澪ちゃんもあなたのことを心配していたのよ。そんなに問い詰めるような言い方しなくてもいいじゃない。もっと優しく話してあ
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第538話

一方、香織に慰められて、少しは気持ちが落ち着きかけていた澪だったが、振り返った先に健吾の相変わらず冷たく鋭い視線が目に入ると、思わずドキッとしてしまったのだ。「俺が知る限り、柴田は血も涙もない残忍な男だ。人を簡単に信用するようなやつじゃない。なのに、お前の言葉一つで、あいつがお前を信じたっていうのか?」それを聞いて澪は、信じられないという表情で健吾を見つめた。「健吾さん、それ……どういう意味……」「つまり、そんな小細工で騙せると思うのは、母だけにしておけってことだ」そう言って健吾の声は、すっと冷たくなった。そして香織が眉をひそめて澪をかばおうとするのを見て、彼はその言葉を遮るように言った。「お前が柴田とどんな取引をしたかなんてどうでもいい。だが、もし杏奈さんの身に何か一つでもあったら、お前も柴田も、俺は絶対に許さないからな」「健吾……」「お母さん、俺は杏奈さんを危険な目に遭わせるわけにはいかないんだ。今までみたいに澪がちょっとした悪さをするくらいなら、俺も目をつぶってきた。でも、今回狙われているのは金や権力だけじゃない。杏奈さんの命がかかってるんだ。あなたがずっと娘みたいに可愛がってきた彼女が、本当はどんな人間なのか。そろそろ、ちゃんと見極めるべきなんじゃないのか」普段はどうであれ、いざ厳粛な場面になると、その「お母さん」という一声は思わず口をついて出てしまうものだ。だけど、片や自分の息子と嫁、もう片方は長年、娘のように可愛がってきた子。香織にとっては、どちらも大切な存在であって、気休めにどちらかの肩を持つことはできなかった。だから、健吾が二階へ上がっていくまで、彼女は何も言えずにいた。そして澪がまだ泣いているのを見て、香織は深いため息をついた。「もう泣かないで。あなたのことを信じているから。ただ、あなたは今まで色々してきたでしょ。だから健吾も、すぐにはあなたを信じられないのよ。でも、本当にあなたがやっていないなら、時間が解決してくれるわ。きっと健吾も分かってくれるはずよ」だが、その言葉は澪にとって、何の慰めにもならなかった。それでも彼女はしゃくりあげながら涙をこらえ、香織に、「分かりました」と答えた。「ええ。さ、もう少し休んで。これからは、うちにいるといいわ」澪は唇を噛んで、ためらいがちに
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第539話

そこで杏奈はうなずいて、引き受けることにした。すると佑はほっとしたように笑みを浮かべたあと、杏奈と服のデザインについて打ち合わせをするのに、オーダーの採寸を伝えてきた。だがスーツのサイズを見て、杏奈は一瞬固まってしまった。そのサイズは、竜也のもの。彼女はよく覚えていた。以前、竜也の服はすべて杏奈が管理していた。パーティ用のスーツをオーダーするときも、彼女がデザイナーと打ち合わせをしていた。だから、竜也のサイズは隅々まで把握していた。でも、杏奈はすぐにそんなあり得ない考えを頭から追い出した。竜也の服をデザインするわけがないんだから、きっと考えすぎだろう。それから、佑は手付金を払うと、すぐに帰っていったから、杏奈も、そのことを特に気にはしなかった。そして、正人から、推薦状が書けたのですぐに申し込むようにと、返信を確認すると、杏奈は彼に礼を言った。その直後、正人から電話がかかってきた。「杏奈さん、このお礼をどうやってするつもり?」彼のからかうような口ぶりに、杏奈は思わずクスッと笑った。杏奈はふと、正人が自分のことをコネ入社だと思って、あからさまに嫌な顔をしていたときのことを思い出した。「コンテストでそっちに行ったら、いいところを案内してください。そのときは、全部私が奢りますので、これでどうでしょう?」「太っ腹だね」正人は少し退屈していたのかもしれない。それで杏奈に電話をかけてきて、世間話を始めた。師であり友でもある二人の関係は、会っていなくても薄れることはなかった。むしろ、デザインについて何度も話し合ううちに、より深い友情が育まれていた。そして、杏奈は今まで、メンズ服をデザインした経験があまりなかった。ちゃんとした服は健吾のためにデザインしたコートと、修のために作った着物くらいだ。そこで杏奈は正人に相談してみようと思った。するとちょうど電話があったので、杏奈はさっきの出来事を正人に話した。そして、共同でデザインして、収益は折半にしないかと持ち掛けた。「俺はデザインを手伝うだけなのに、折半なんて。俺が得してしまうじゃないか」正人は冗談っぽく言った。杏奈は笑いながら言った。「あなたはこれまで、たくさん助けてくれました。これくらい当然ですよ」結局、正人は協力することに同意した。
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第540話

「すみません、本当にすみません!今、足をくじいてしまって……火傷させちゃいましたよね?わ、私が病院にお連れします!」「杏奈さん、大丈夫ですか?」杏奈はそこでようやく何が起きたのかわかった。すぐそばを通りかかった人が足をくじき、持っていたトレーがまっすぐ自分の方に倒れてきたのだ。そこを隣にいた佑がとっさに彼女を引っ張ってくれたおかげで、熱いスープを浴びずに済んだ。でも、自分をかばった彼の腕にスープがかかってしまった。腕が真っ赤になっていた。杏奈はまず睦月の問いに答えた。「私は大丈夫です」それから立ち上がって佑を見た。彼の肘より下が赤く腫れ上がり、スープが思い切りかかっていたのだった。佑は少し顔が青ざめていたけれど、それでも唇の端にはいつもの穏やかな笑みを浮かべていた。「大丈夫です。ただの火傷だから、病院に行くほどじゃないですよ」「いえ、かなりひどいのでこのままにしておくわけにはいきません、こうしましょう、私はこのあと用事がありますので、ひとまず連絡先だけでも交換して、それからタクシーで病院へお送りします。費用はすべて私が持ちますから」一方、料理をこぼした相手もとても誠心誠意謝っていたので、佑もそれ以上は責めなかった。周りの人はみんなこの騒ぎに気づいたけれど、佑の同僚は近くのショッピングモールにでも行っていたのか、誰も寄ってこなかった。そんな状況下で杏奈は、彼を一人で病院に行かせるわけにはいかないと思った。だって、彼は自分の身代わりになって怪我をしてしまったから。だから、彼女は佑を病院に連れて行くと申し出たのだ。佑もそれを断らなかった。それから杏奈は睦月に一言断ってから、佑に付き添ってオフィスビルを出た。ほどなくして、二人はすぐに病院に着くと、佑が診察室で手当てを受けている間に、杏奈はアプリで着替えを配達してもらえるように手配をしたのだ。少し落ち着くと彼女は空腹感を覚えた。そういえば、今日のお昼ごはんは、まだ一口も食べていなかったのだ。そこで診察室のドアがまだ開かないのを見て、杏奈は自動販売機でパンとジュースを買った。それを食べると、ようやく生き返った心地がした。しばらく待っていると、ようやく診察室のドアが開いた。佑の腕の傷は、もう手当てが終わっていた。医師から処方箋をも
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