健吾は首を横に振った。「なんでもない」杏奈に余計な心配をかけないよう、彼は付け加えた。「ただ、澪が今みたいになっちまったことに、あいつの兄に申し訳なくてな」これまで杏奈は、健吾が本心を語るのをほとんど聞いたことがなかった。たまに本音を漏らすことがあっても、それは冗談めかした軽い調子だったからだ。でも、今の健吾の顔に浮かんでいるのは、どこか悲しげな表情だった。「あなたと彼女の兄って、どれくらい仲が良かったの?」健吾を救うために命を落としたのだから、澪の兄はきっと健吾を本当の親友だと思っていたのだろう。杏奈の問いかけをきっかけに、健吾の記憶は将太との過去へと遡っていった。「将太とは小さい頃からの知り合いで、あいつは隣の中学に通ってたんだ。俺が学校をサボって不良に絡まれたのを、あいつが助けてくれた。それがきっかけで、自然と親しくなったんだ」そこまで話すと、健吾は思わず軽く咳払いをした。子供の頃はサボりなんて普通だと思っていたが、好きな女の子の前でそんな話をするのは、さすがに少し恥ずかしかった。だが、杏奈は健吾をいい加減なところがあってもしっかりしている人だと思っていたけど、まさか中学生の頃から学校をサボっていたとは思ってもみなかった。「あなたの反抗期って、てっきり大学時代だと思ってたわ」あの頃は海外まで命を狙われていたのだから、相当なトラブルを起こしていたはずだ。健吾はその言葉には答えず、急いで話題を変えた。「将太の家は裕福じゃなくて、家庭環境も複雑だったんだ。澪は、ほとんどあいつが一人で育てたようなもんでさ。俺も時々、稼げる仕事を紹介して、少しでも生活が楽になるように手伝ってたんだ。それから母が彼ら兄妹のことを知ってからは、澪の学費を全部援助するようになったんだ。でも将太はプライドが高くてな。『自分で稼げる』って言って、母の援助を頑として受け付けようとしなかった。それであのあと特殊部隊に入隊したんだ。しかも、入隊する前に、『強くなってお前も守れるようにするからな』って言ってたんだ」そこまで話すと、健吾はなんだか笑えてきた。年下のやつに守ってもらう必要があるわけないのに。「将太も俺の家の事情は知ってたから、除隊したあとは俺についてきてくれた。それでとある任務中、あいつは俺を庇って死んだんだ。死ぬ間
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