All Chapters of あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!: Chapter 511 - Chapter 520

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第511話

「早紀さんが犯人だという証拠は見つけられなかったわ。でも、彩乃さんが怪我をした日、早紀さんが彼女に会いに来たと言っていたの。それに、彩乃さんの怪我があなたに見破られた後、早紀さんは確かに少し興奮した様子でね。私のところにきて、自分は彩乃さんの代わりに主役を完璧にやり遂げられると言ってきたのよ」杏奈には、南が生徒一人ひとりを大切に思っていることが分かっていた。確かな証拠でもない限り、生徒のことを悪く考えたくないのだろう。しかし、主役の座を奪うために彩乃を傷つけたという早紀の動機はあまりにも明白で、南も疑わざるを得なかったのだ。杏奈は、南をなだめるように、その手の甲をぽんぽんと軽く叩いた。「先生、柳田さんに会わせてください」南はうなずくと、今度は心配そうな顔で杏奈を見た。「ネットのことは聞いているわ。あなたの性格は私がよく分かってる。嫉妬で真奈美をはね飛ばすなんて、絶対にありえないもの。早紀さんに会わせること以外に、私に手伝えることがあったら、なんでも言ってちょうだい」そう言われ杏奈は胸が熱くなった。「ありがとうございます、先生」そして、女子寮に着くと、杏奈と南は早紀を探しに中へ入った。健吾は寮の下で杏奈を待つことにした。早紀は荷造りをしているところだった。足音が聞こえると、彼女は誰が来たのか察したようだった。一瞬手が止まったが、すぐにまた何事もなかったかのように荷造りを続けた。南が二回ノックすると、早紀がドアを開けた。二人を見ても、彼女は少しも驚いた様子を見せなかった。「先生、鈴木さん」「こんにちは」杏奈は穏やかに微笑んだ。「私も山崎先生の生徒なの。だから先輩って呼んでくれていいわ」そう言われ、早紀は一瞬きょとんとした。自分は杏奈が真奈美をはねたと証言したことは、他の人は知らないかもしれないけど、杏奈本人はそれが嘘だと分かっているはずだ。それなのに、どうして杏奈は自分にこんな風に微笑みかけてこられるのだろう?先輩なんて呼ばせてどうするつもり?普通なら、いきなりビンタの一発でも食らわされるところじゃないの?ここに来る前、杏奈は南に、後で先に席を外してほしいと頼んでいた。早紀と二人きりで話がしたかったからだ。だから南は杏奈を部屋まで案内すると、用事があるからとすぐにその場を去った。
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第512話

早紀は、さっと立ち上がった。今までなんとか平静を装っていた表情も、みるみるうちに崩れていった。「私と彩乃は長年の付き合いなんです。あなたの口先だけのでまかせで、私たちの仲を裂けると思っているんですか?」だが、杏奈は穏やかに言った。「ええ、そうね。長年の付き合いなのに、彼女が二度と舞台に立てなくなるように、あんなに長い釘をよくも仕掛けられたものだわ」「私じゃないって言ってるでしょう!」「もうすぐ、あなたが犯人だって証拠が見つかるわ」そう言って、杏奈は至って落ち着き払った様子で、ハンドバッグを膝の上に置いた。「完全犯罪なんてありえないのよ。たとえば、私はあの工事中の道なんて通ったこともないのに、あなたはそれでも私が真奈美を車ではねるのを見た、なんていうあり得ない証言ができるみたいにね。どう考えてもすぐにボロがでるのに、よくもそんなバカげたことができたものね。警察が私の無実を証明するのも時間の問題だわ。もちろん……」一旦間を置いた杏奈は口元の笑みを深めた。しかしその澄んだ瞳は、有無を言わせない厳しさを帯びていて、まっすぐに早紀の顔を射抜いていた。早紀は杏奈にじっと見つめられ、なんだか後ろめたくなり、そして、杏奈が言った「もちろん」という言葉の続きを聞くのが、なぜだかとても怖くなった。でも、彼女は杏奈の言葉を止めることもできなかった。そして杏奈は続けた。「あなたと別に親しいわけじゃないから、謝罪なんていらないわ。ただ、あなた自身の言動にはきちんと法的な責任をとってもらう必要はある。真奈美と二人で、しっかり反省しておくことね」そう言うと杏奈はハンドバッグを持って立ち上がり、部屋を出て行った。残された早紀は部屋の中央に立ち尽くし、拳を握りしめて、体を震わせているのだった。さらに、その目には恐怖の色が浮かび、呼吸する度にその怯えた息が漏れてくるようだった。一方、杏奈は階段を降りてから、やっとゆっくりと息を吐き出した。彼女が降りてくるのを見て、健吾が数歩で駆け寄り、尋ねた。「どうだった?」杏奈はうなずいた。「あなたに言われた通りに全部言ったわ。彼女の様子からして、そう長くはもたないはず。きっとすぐに真奈美に会いに行くわ」それを聞いて、健吾はすべてが読みの通りだという様子で言った。「もう真奈美の病室の外に人を配置
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第513話

それから杏奈は空に、ありがとうのスタンプを送ると、送られてきた音声ファイルを開いた。スマホからまず聞こえてきたのは、早紀の焦った声だった。「交通事故の件は絶対うまくいくって言ってたのに……」声はそこで不意に途切れた。まるで誰かの存在に気づいて、口をつぐんでしまったかのようだ。すぐに、真奈美の落ち着き払った声が続いた。「大丈夫よ。続けてちょうだい」すこし間をおいて、早紀は再び話し始めた。「さっき鈴木さんが私のところに来たの。彼女が言うには、警察は絶対に彼女があの道を通ってない証拠を見つけるはずだって。そうなったら私が偽証したことがバレて、私たち二人とも罰せられることになるわ」それを聞いて、真奈美は馬鹿にしたように鼻で笑った。「他の場所の防犯カメラの映像は、全部こっちで消去済みよ。警察だって見つけられやしないわ。あなたっていう目撃者がいる以上、他に誰があの女の無実を証明できるっていうの?彼女にちょっと言われたくらいで怖気づくなんて、馬鹿じゃない?」そう言って、真奈美は嘲りを隠そうともしなかった。しかしその言葉は早紀を安心させ、彼女の声も次第に落ち着きを取り戻していった。「とにかく、どうなったとしても約束は守ってよね。万が一バレて、私が偽証したってことが明るみに出ても、あなたは私を助けてくれるって言ったんだから」「あなたを騙すわけないでしょ」その後は、病室のドアが開いて閉まる音。そして、真奈美が空を脅す声が録音されていた。「言っていいこととダメなこと、わかるわよね?もし今日のことが少しでも外に漏れたら、あなたはこの病院にいられなくなるようにするから」「はい」録音はそこでぷつりと途切れた。杏奈と健吾は顔を見合わせた。二人とも、真奈美が空を脅すとはと、相手の目から同じ驚きを読み取った。「彼女は、本当に救いようのない馬鹿だな」健吾がふと呟いた。空がこれを録音できたのは、明らかに病室の中にいたからだ。こんなに内密な話を、第三者がいるにも関わらず、真奈美は全く隠そうともしなかった。その上、脅しまでかけるなんて、それも、彼女が絶対に敵に回してはいけない人物を。健吾はこんなに愚かな人間を今まで見たことがないと思った。一方、杏奈はスマホをバッグに戻し、健吾の言葉に続けた。「真奈美は、自分の足をすご
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第514話

京市警察が発表したのは、一年前のひき逃げ事件だった。その事件には杏奈と真奈美も関わっていて、三回目の審理を経て、ようやく真相が明らかになったのだ。一審では、杏奈は実の息子の偽証によって、三ヶ月間、無実の罪で収監された。二審では、被害者の遺族である亮太が、保険金殺人を企てていたことを自白した。こうして、二度の誤審の結果、真犯人である真奈美は野放しになってしまった。そして最初の誤審の後、杏奈は第三者の目撃映像を提出し、実際に運転していたのは真奈美だったと証明したのだが、二審では、警察によって竜也が亮太に自首を強要する映像が発覚したのだった。これが真奈美の減刑に直接つながり、彼女はひき逃げ犯から無実の通行人になったのだった。そして今回の三審では、京市警察はついに真相を突き止め、逮捕に踏み切った。こうして真奈美は警察に連行され、竜也も責任を免れることなく署に連れていかれた。一方、杏奈はネットで巻き起こっている騒動を見て、すぐには状況を飲み込めなかった。しばらく呆然としていたが、すぐに書斎のドアを開けた。「健吾さん、もしかしてあなたが……」そう言いかけていると、彼女は健吾がイヤホンをしてパソコンに向かっているのに気づいた。どうやら会議中のようだ。杏奈はすぐに口をつぐみ、外で待っているとジェスチャーをすると、部屋を出て行った。すると、健吾は口の端を上げて笑った。実は彼は会議中ではなく、自分の父親とビデオ通話をしていた。茂は健吾に、2年間は会社を任せ、杏奈とのことに集中していいと約束していた。しかし、2年後にはすぐに会社へ戻るのだから、たとえ経営に関わらなくても、この間の会社の動向は把握しておく必要があったのだ。それを、茂が健吾に厳しく命じていたのだ。健吾も、それを断らなかった。こうして杏奈が部屋を出ていくと、健吾は待ってましたとばかりに、画面の向こうの茂に言った。「杏奈さんが俺に用があるみたいだから、先に切るよ」そして茂の返事を待たずに、彼は一方的に通話を切った。まさに、嫁さえいれば、親なんかどうでもいいといった様子だった。茂はこれまで穏やかな人生を送ってきたのに、この年になって20歳を過ぎた息子の反抗期に直面するとは思ってもみなかった。だから、彼はしばらくしてから、やっと怒りを静められた。
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第515話

「すごいわね、健吾さん。こんな動画を見つけるなんて。しかもこんなに鮮明だなんて?」褒められた健吾は、ウキウキして、天にも昇る気持ちだった。彼は少し得意げに言った。「このくらいのこと、俺にかかれば簡単さ」そうやってまるで尻尾を振っているみたいにはしゃぐ健吾を見て、杏奈は思わず笑ってしまった。……一方、竜也は最近とても忙しかった。ネットで次々と情報が出回った時、彼はすぐには気づかなかった。警察からの電話で、ようやく事態を把握したのだ。グループの社長がこんな非道なことをしたため、中川グループは世間から猛烈なバッシングを受けた。【マジか、この事件にこんなヤバい裏があったなんて!前ネットで見たときは、中川社長の奥さんがひき逃げで逮捕されたって話だけだったのに。あの頃、彼女叩かれてたよな。まさか他の女のために、奥さんをハメるなんて!人として最低だろ!】【『金持ちほど一途』というのはどこのどいつが言ったんだ?金持ちほど遊びが派手なんだよ。この久保って女、中川社長の元妻の妹らしいぜ】【義理の兄と妹ってわけか……小説の中なら萌えるけど、現実だとただの胸糞案件だな】【久保のファンに聞きたいんだけどさ、あの女が何回もコンクールのプリマを取れたのって、この中川社長が金で裏で手を回したからじゃないのか?】【中川グループがN市に支社を出すんだって?N市の空気が汚れるだろうが。京市に帰れよ】【京市にもクズ男の居場所はねえよ。中川グループを断固としてボイコットするよ!】【そうだ、中川グループをボイコットしよう!】【中川グループをボイコットしよう!】……【ついでに、ダンス協会は久保がここ数回のプリマを獲得した件について、不正行為の有無を調査すべきだ】【そうだ!問題のあるタレントは許せない!この女はひき逃げして、人の家庭まで壊して、その上、また同じ手口で人に濡れ衣を着せようとした。そんな彼女が無実なわけないだろ?】【ダンス協会、徹底的に調査してください!】こうしてたった2日間で、中川グループの株価は再び下落した。真奈美にはまだ、分別なく彼女を擁護するファンもいた。しかし、法律やモラルに触れる問題だったので、一部の冷静なファンは担降りし、逆に真奈美を批判し始めた。そしてダンス協会も、この大きな騒ぎを受けて、真奈美が数
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第516話

N市の中心部にそびえるAクラスのオフィスビルにも、朝からたくさんの人がひっきりなしに訪れた。N市の中心部へ向かう電車は、平日の朝、いつもラッシュで混み合っていたのだが、でも今日は、前代未聞の混雑ぶりだった。改札を出入りするのも長蛇の列で、電車の各ドアの前にも長い列ができていた。そのおかげで会社勤務の通勤者は文句たらたらだ。鉄道会社も急遽、列車の運行を調整し、運行時間を早めたが、それでもなんとか間に合う状態だった。そして電車が市の中心駅に着くと、混雑した人々がごった返しになって、一斉にホームへと流れ出た。通常この駅で降りて出勤する人たちは、仕方なく人の波に揉まれながら進むなか、イライラが募り、ついに人混みの中で怒りを爆発させる人まで現れた。「みんなここで働いてんのかよ?昨日までこんなに混んでなかっただろ。どこかにすごい会社でもできたのか?街の半分くらいの人間を雇ったってのかよ」一人が文句を言うと、同じように不満を抱え、出勤を急ぐほかの通勤者たちも、これをきっかけに不満をぶちまけ始めた。「いつもギリギリで出勤してるのに、今日ぜったい遅刻だ!皆勤手当がぁ!」「今日って金曜日だろ?なんでみんなこんなにやる気満々なんだよ。先週の金曜なんて、今日の半分もいなかったぞ!」「こうなるって分かってたら、今日休暇申請を出しとくんだった。そしたら遅刻して皆勤手当を引かれることもなかったのに」「まあ、うちは10時出勤だから、まだ1時間あるし間に合うけどね」……こうして不満の立ち込めた雰囲気は黒紫色の煙のように、駅全体に充満していた。駅員たちは、通勤者が感情的になってトラブルを起こさないか心配だった。だから人員を倍に増やして乗客をなだめ、案内板を立てて人の流れを誘導した。やっとのことで地下鉄の出口を抜け、Aクラスのオフィスビルで働く人々は息を切らしてビルの入り口まで走った。しかし、エレベーターホールにも長蛇の列ができていた。広々としたロビーだというのに、エレベーターホールからビルのドアまで、ずっと列が続いていた。この数日、ビルの入館ゲートが故障していた。だから誰でも上の階に上がれるようになっていたのだ。これで、もともと出勤に間に合うと思っていた社員たちは、完全にキレてしまった。ある社員が見慣れない顔を捕まえて、怒りを
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第517話

そう愚痴をこぼしていると、すぐに会社からメッセージが届いた。【今朝の遅刻者については、やむを得ない事情によるものとして遅刻扱いとはいたしません。また、アトリエ・シリンからのお詫びとして、全社員にアフタヌーンティーをご用意いたしました。午後4時に受け取るようにしてください】すると社員たちの不満は、あっという間にどこかへ消えてしまった。みんな顔を見合わせて、あのアトリエはただ者じゃないと思った。まさか、うちの会社の人事部まで動かせるなんて。遅刻扱いにならず、おまけに無料のアフタヌーンティーまでご馳走になれるのだから、雇われの身としては溜まった鬱憤もこれで晴れるわけだ。その頃、杏奈はロビーで客たちを見送り、オーダーメイドの依頼はラインか公式サイトのダイレクトメッセージでお願いすれば、スタッフが順次対応すると伝えていた。杏奈がなんとか説得して、顧客たちをオフィスビルから送り出せた時にはもう昼近くになっていた。彼女の喉はもうカラカラだった。すると、健吾が上の階から下りてきて、杏奈に告げた。このビルの全テナントの家賃を1ヶ月分免除し、彼らの怒りを収めてもらったそうだ。さらに、杏奈のアトリエ名義で、ビル全体の従業員たちへの配慮も済ませておいたらしい。それを聞いて杏奈は、なんとも言えない気持ちになった。このビルは橋本グループの所有物だ。1ヶ月分の家賃を免除すれば、その損失は相当な額になるだろう。だけど、健吾は文句一つ言わずに後始末をしてくれた。それどころか、喉を潤すようにと、水まで用意してくれていた。何があっても後ろで支えてくれる人がいる。この絶大な安心感を与えてくれるのは、健吾だけだった。そして杏奈は水でのどを潤すと、健吾とアトリエに戻った。一方、睦月はすぐに公式サイトにお知らせを掲載していた。そこには、近日中にオンラインストアを開設すること、オーダーメイドの依頼は電話で連絡してほしいこと、そしてアトリエへの直接の訪問は控えてほしいことが書かれていた。さらに、今回の騒動で影響を受けた人々への謝罪も添えられていた。それを受けてネットでは、今朝の騒ぎがすでに大きな話題になっていた。アトリエに対する意見は、批判と擁護の声で真っ二つに分かれていた。【客が起こした交通麻痺なんだから、アトリエが責任取るべきだろ。朝のラッシュ
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第518話

そういう杏奈は、見るからに疲れていた。健吾は心配そうに手を伸ばし、彼女の頬にそっと触れた。そして、愛おしそうに頭をくしゃっと撫でた。「会社を経営するってことは、人生と同じだよ。うまくいくことばかりじゃない」健吾は杏奈に、「俺がそばにいる」とは言わなかった。彼は言葉ではなく、行動で杏奈に安心感を与えたかった。でも同時に、これから先にはまだたくさんの困難が待ち受けていることも、彼女にわかってほしかったのだ。そしてこの先、何度も訪れるであろう壁に立ち向かうために、しっかり心の準備をしておく必要があることを分からせたかった。健吾の言葉に、杏奈は少し気持ちが落ち着いた。そして、一息つくと、また仕事に没頭していった。一日がかりで取り込んだあと、ショップの営業を再開させることができた。そして、新作のレディースも何点か追加しておいたのだ。これは杏奈と睦月が、このあいだ話し合って決めたことだ。オーダーメイド専門では、ブランドとして大きくしていくのは難しい。だからまずは、ショップで売る既製品も手がけて、基礎を固める必要があった。そこで、杏奈と睦月は共同でレディースをデザインした。そして蒼真と話し合って、まず数千着を製造し、ネット販売を始めることにしたのだ。実店舗の出店については、ネット販売での評判を見てから、具体的な計画を立てる予定だった。そこで健吾は、杏奈と睦月はハイブランドの展開に集中すべきだから、専門のスタッフを雇ってネットショップと実店舗の運営は彼らに任せることを提案した。たとえば、国際的なコンクールに参加してデザイナーとしての知名度を上げること。それで、海外の有名なファッション誌に取り上げられるくらい、世界で通用するブランドを目指す。そうすれば、二つの路線を、同時に進めていくことができるのだ。杏奈も睦月も、健吾の意見はもっともだと思った。二人とも行動派なので、さっそく専門スタッフの募集に取り掛かった。こうして、忙しい一日が、ようやく終わった。健吾は、当たり前のように杏奈のカバンを持つと、彼女の手を引いて外に出た。杏奈は健吾の腕に自分の腕を絡ませ、その肩にこてんと頭を乗せた。その心から彼を頼りにしているその仕草が、自然と二人の距離をぐっと縮めていった。「健吾さん、なんだか私のマネージャーみたい。あなたが
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第519話

「杏奈が俺たち久保家にいた頃は、何不自由なく大切に育ててきました。家族みんなで愛情を注いできたのです。その恩の代償として、鈴木家には40億円を支払っていただきたいです。これできっぱり、恩は返したことになります。これ以降、杏奈は完全に鈴木家の人として、俺たち久保家とは一切無関係だってことにしませんか?」豪は数秒考え、頷いた。「いいですよ」彼は修也に契約書を作成するよう指示した。「契約書にサインをお願いします。そうすれば、すぐに40億円の小切手をお渡しします。それでよろしいですね?」圭太は、まさかこんなに簡単にお金が手に入るとは思っていなかった。豪があまりにもあっさり承諾したので、彼は逆に一瞬きょとんとしてしまった。すぐに我に返ると、圭太は慌てて同意した。杏奈からは20億円さえもぎ取れなかったのだ。だから、今日も豪を説得するのは骨が折れるだろうと覚悟していたのに。まさか、ふっかけた40億円がこんなに簡単に手に入るとは。だったら、最初から60億円と言っておけばよかった。しくじったな。そしてサインを終えると、圭太は長居することなく、40億円の小切手を持って鈴木グループを後にした。これだけあれば、久保グループを立て直せる。一方、圭太が帰った後、修也が尋ねた。「社長、本当によろしいのですか?久保家は実の娘が戻ってきてから、杏奈さんを敵のように扱っていたそうですよ。お金を返すよう、追い詰めていたとも聞いています」そう言われ豪もまた、以前調べ上げた妹が久保家で送っていた生活を思い出していた。だけどもし、久保家が本当に妹を可愛がっていたという事実がなければ、彼も今日、40億円も払うことはなかっただろう。そう思って彼は言った。「杏奈を育ててくれた恩は本物だ。だが、真奈美が戻ってから杏奈をいじめたという恨みも本物だ。恩はさっき返した。だから次は、恨みを晴らす番だ」それを言われ、修也ははっとした。なるほど、恩には恩、仇には仇で報いるということか。「準備を進めておけ。久保グループが息を吹き返した頃に、盛大なお祝いを届けてやるんだ」「かしこまりました」そして、修也が去ると、豪の表情はみるみるうちに氷のように冷たくなっていった。……一方、圭太は40億円を手に、すぐに京市へ戻った。真奈美の件はもちろん耳にし
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第520話

さらにネットでも、真奈美が5年連続でプリマを務めていることに、批判的な意見が上がっていた。そこでダンス協会の理事である南も、上からの命令を受け、真奈美のプリマ就任に不正がなかったかを徹底的に調査し始めた。そのため、南は忙しい日々を送っていた。一方、杏奈のアトリエもネットの炎上で大混乱しており、彼女もここ数日は後始末に追われていた。だから、二人で約束していたN市での観光も、延期するしかなかった。そして、数日後、杏奈の仕事はようやく一段落した。やっと、ひと息つける時間ができたのだ。「もう限界!健吾さん、今日こそは外で美味しいものを食べないとやってられない!」一方、健吾はソファに座り、杏奈のノートパソコンで企画書に目を通しているところだった。その声に顔を上げると、椅子でぐったりしている杏奈の目元には薄っすらと隈ができているのが見えた。そしてこの数日で、せっかく少しふっくらした頬がまたこけてしまったようだった。そう思うと健吾の胸は、ぎゅっと締め付けられるように痛んだ。彼は作業の手を止め、杏奈に言った。「何が食べたい?今すぐお店を予約するよ」杏奈は、以前に行ったあの和食レストランに行きたかった。そう言われ、健吾はすぐに電話で予約を入れた。その店は本来、1週間前の予約が必須だ。しかし、そこは橋本グループ傘下の店なので、オーナーの健吾が行くとなれば話は別だった。夜のごちそうを想像して、杏奈の目にだんだんと輝きが戻ってきた。彼女はぱっと立ち上がると、健吾の手を引いてオフィスを飛び出した。「今すぐ行こう!」時刻はすでに夜の10時。他の人はとっくに帰宅していた。杏奈はオフィスのドアに鍵をかけると、待ちきれない様子で健吾に車を出すよう急かした。幸いなことに、その店の営業時間は午後2時から深夜2時までだ。二人が店に着いたのは、11時ごろだった。杏奈は車の中から健吾のスマホで店長に直接オーダーしていた。だから、二人は店に着いてすぐに食事を始めることができたのだ。こんな遅い時間の食事は、もちろん夜食になる。健吾は杏奈が楽しそうに食べているのを見ていたが、やはり忠告せずにはいられなかった。「夜食だから、あまり食べ過ぎるなよ。後で少し散歩しながら帰ろう。明日は週末だし、ゆっくり寝ていいからさ」「
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