するとさっきの電話が、またしつこくかかってきたようだった健吾は杏奈をそっと離すと寝室を出て、声を潜めて電話に出た。「もしもし」電話の相手は、杏奈のスマホから男の声が聞こえてくるとは思ってもみなかったようだ。ガサガサと物音がしたあと、「杏奈さんのスマホだよね」と相手が尋ねてきた。「橋本健吾だ」「ああ、橋本社長でしたか」正人はほっと息をつくと、からかうように言った。「半年ほど会わないうちに、杏奈さんとお付き合いをするようになったんですか?」健吾はもともと他人には冷たいタイプだから、たとえ正人が杏奈の師匠のような存在で、自分が彼女に紹介した人物だと知っていても、彼の態度は変わらなかった。そして、他の男が杏奈に電話をかけてくることに、どうしても嫉妬してしまうのだ。だから、健吾は正人と世間話をする気にはなれなかった。「何の用だ?」正人は本来の目的を思い出したようだ。「実は、杏奈さんのアトリエのことなんです。3ヶ月後に国際的なファッションデザインコンペがあるんですが、彼女の実力なら問題なく出場できます。ぜひ検討してもらえないでしょうか」「伝えておく」そう言って、健吾は容赦なく電話を切った。すると、電話の向こうの正人は呆然としてしまったのだった。まだ話は終わっていなかったのに。彼は急いでコンペの詳細をメールで杏奈に送り、ラインにもメッセージを残した。【杏奈さん、国際ファッションコンペの応募要項をメールで送ったから、確認してね】健吾はそのメッセージに目を通したが、何も言わずにスマホをしまった。昨夜は寝るのが遅かったので、健吾もまだ眠かった。もう一度寝ようとしたとき、今度は彼のスマホが鳴った。洋介からの電話だった。「社長、千葉さんが海外で音信不通になりました」それを聞いて、健吾は眉をひそめ、声のトーンが一気に低くなった。「いつからだ?」「こちらも今朝連絡をもらったところです。大学側によると、3日前から行方が分からなくなったそうです」すると、健吾の表情が、さらに険しくなった。「何か手がかりは?」「監視カメラには、千葉さん自身が荷物をまとめて寮を出ていく姿が映っていましたが、行き先は不明です」「現地のエージェントに連絡して、探し出せ」電話を切った健吾から、すっかり眠気は
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