Todos los capítulos de あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!: Capítulo 551 - Capítulo 560

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第551話

「杏奈さん、着いたよ」杏奈は目を開けた。ぼんやりしていた視界がだんだんはっきりしてきて、その澄んだ瞳に映ったのは、健吾の端正な顔だった。「着いたよ」彼女は健吾の言葉を繰り返すように、そっと呟いた。健吾は、そんな杏奈がたまらなく愛おしいと思った。思わず彼女の頭をくしゃっと撫でて、頬をつまんだ。「着いたよ。降りようか」すると杏奈は数秒ぼうっとしてから、健吾の後について車を降りると、目の前に現れたのはN市の服飾博物館だった。それはN市で唯一の、服を専門にした博物館だ。杏奈は少し前に、この博物館のプロモーション動画を見て、いつか来てみたいと思っていた。でも、最近は忙しすぎて、ずっと後回しになっていたのだ。まさか健吾が覚えていてくれたなんて。彼女は少し感動して、自分から健吾の手を握った。「あなたって優しいね」そう言われ、健吾は笑って杏奈の手を握り返すと、博物館の中へ入るように促した。博物館はN市の郊外にあって、敷地もかなり広い。N市でもトップ3に入る規模の大きな博物館だ。展示されている服は、過去のものから未来のデザインまで、国内だけでなく海外のものもあった。ここにある服は、一つ一つが時代の特徴を色濃く反映していて、それぞれに持ち主の物語も秘めているのだ。博物館に人は少なく、来館者たちはみんな静かに見学していた。館内は撮影禁止だ。杏奈と健吾が歩いていると、ひそひそと話す声だけが聞こえてくるのだった。健吾は杏奈に小声で言った。「確か、今回のコンテストのテーマは『雅』だったよね。歴史の重みからインスピレーションが得られるかもしれないって思ったんだ」正直、健吾こそこの業界にいれば、きっと優秀なデザイナーになっただろう。そう思って杏奈は、健吾のセンスを少しも疑っていなかった。彼女は健吾を見て笑った。「すごく助かったよ」「インスピレーションが湧いたら、ご褒美くれるんだよね」誰がご褒美をあげるなんて言ったのよ?そう思ったが、杏奈は甘えるように、健吾の腕を軽くつねった。大して力も入れていないのに、彼は大げさによけてみせた。こうして中に進むと、博物館には不思議な力があるようで、中に入ると自然と頭が空っぽになって、入る直前までどんなに焦っていても、歴史の重みに触れると心が落ち着いてくる
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第552話

だが、佑は、目の奥の冷たさを隠し、杏奈に優しい眼差しを向けた。その佇まいは至って気品にあふれ紳士的だった。「鈴木さんは、近々開催される国際ファッションコンテストに参加されると聞きました。インスピレーションを探しにここにいらしたんですね?」「ええ」杏奈は今、健吾のことで頭がいっぱいだった。だから、佑にそう聞かれても上の空だった。それに杏奈は、礼儀として挨拶を交わしただけで、彼との雑談を続ける気にはなれなかった。だから、佑が何かを言いかける前に、杏奈は彼の言葉を遮った。「ごめんなさい、柴田さん、彼氏を探しに行かないといけないので、また今度お話ししましょう」佑の目の奥に鋭い光が走ったが、すぐにその気配を消した。「いえ、お気になさらず、鈴木さんもそんなに畏まらないでください。これからは直接下の名前で呼んでもらって構いませんよ」「わかりました。では、あなたも私のことを下の名前で呼んでください」そう言って杏奈は笑顔で返し、佑と少し会話を交わしてから、その場を去ろうとした。だが、振り返った途端、彼女は博物館の係員に呼び止められた。「すみません。少々お待ちいただけますか」杏奈は、その係員の方を見た。「どうかしましたか?」係員は言った。「お客様は、先ほど中世服飾の展示室から出てこられましたか?」杏奈は少し不思議に思ったが、正直にうなずいた。すると係員の表情が、途端に険しくなった。「申し訳ありません、お客様。先ほど、展示室内の中世の宮廷ドレスが、何者かに傷つけられているのを発見しました。お手数ですが、調査にご協力いただけますでしょうか」そう言った係員の態度は威圧的だった。杏奈は、彼女を見て眉をひそめた。「ここの服を傷つけたことなどありません」中世の服飾展示室では、ドレスはガラスケースに入っていなかった。しかし、立ち入り禁止のロープが張ってあった。杏奈は傷つけるどころか、近づくことすらなかった。だから、彼女は係員に言った。「防犯カメラを確認すればいいじゃないですか」係員は答えた。「ここの防犯カメラは、先週から故障しているんです。なので、カメラの映像でお客様の無実を証明することはできません」そう言われ杏奈は、だんだん腹が立ってきた。防犯カメラで無実を証明できないからって、簡単に自分が服を
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第553話

「お客様、どうしてこれが刃物で切られたものだとお分かりなんですか?」杏奈は呆れたように答えた。「私はファッションデザイナーですから。こんなにはっきり刃物で布が切られた跡くらい、見れば分かりますよ」「ファッションデザイナーだからこそ、誰にもバレずに服を切り裂く方法を知っているんじゃないですか」杏奈は黙って係員を見た。その目には、じりじりと怒りの炎が燃え上がっていた。どうやらこの係員は、自分に罪をなすりつけるつもりのようだ。さっきまで、この展示室には誰もいなかった。健吾もいつの間にかいなくなっていて、自分には証人がいない。「警察を呼びましょう。骨董品がこんなにひどく傷つけられたんですよ。あなたの憶測だけで、私を犯人扱いするのはやめてください」そう言って杏奈はスマホを取り出し、警察に電話をかけようとした。しかし係員は、一足先に彼女のスマホを奪い取った。「何をするんですか!」ここまでされて、さすがの杏奈も怒りを爆発させた。係員は言った。「あなたには骨董品を破壊した疑いが十分にあります。話をそらそうとしたって無駄ですよ。今すぐ館長を呼んできますから!」「私のスマホを返してください!」杏奈は数歩前に出て、スマホを取り返そうとした。だが、係員が後ろに下がったため、彼女は腕を伸ばしても取り返すことはできなかった。逆に、隣にいた佑が大股で係員に近づき、その手からスマホを奪い返した。そして彼は係員をじっと見つめた。その目から放たれる冷たい視線に、係員は少し怯えた。「警察は呼ぶなと言いながら、館長は呼ぶなんて、誰かに罪をなすりつけたのが見え見えなんですよ」すると、係員はバツが悪そうに目をそらした。そして佑は係員の手を振り払うと、奪い返したスマホを杏奈に渡した。さらに、杏奈の斜め前に立ち、彼女をかばうような姿勢をとった。「杏奈さん、警察を呼んでください」親しげな呼び方をされたが、杏奈もそれを気にしていられず、すぐにスマホで警察に通報した。そして通報を終えたあと、彼女はやっと健吾からのメッセージに気がついた。【ちょっと電話に出てくる。すぐ戻るから】メッセージの送信時間は、10分前だった。それを見て、健吾からの連絡があったことに、杏奈は少しほっとした。そして彼女は健吾に戻ってきたか尋ねる
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第554話

その言葉を聞いた健吾は、少しずつ表情を曇らせていった。彼は冷たい視線を佑に向け、まるで、今にも飛び掛かりそうな勢いで睨みつけた。その瞬間二人の間は一触即発の雰囲気になり、張りつめた空気は、骨董品が壊されたことよりも、周りの人々を緊張させた。一方、杏奈は、佑が突然そんなことを言うなんて思ってもみなかったようだ。しかも、どう見ても佑には健吾に対する明らかな敵意があるようだった。二人が会ったとき、何か嫌なことでもあったのだろうか?そう思って杏奈は、繋いでいる健吾の手をぎゅっと握りしめ、佑に言った。「彼はさっき用事で外に出ていたけど、ちゃんと連絡はありました」彼女はスマホを振って、履歴が残っていることを示した。「でも、そんなことはどうでもいいです。今は骨董品が壊されたことの方が問題ですから」そう言って杏奈は問題を引き戻した。それを聞いて健吾もようやく佑から視線を外し、一歩前に出て彼と彼女の間を割るようにして杏奈の隣に立った。片や修平は、その展示品の前に険しい顔で立っていた。そして大きく裂かれた切れ目を見つめるうちに、彼の顔はどんどん青ざめていき、目には隠しきれない動揺が浮かんだ。「防犯カメラの映像を確認しろ!骨董品を傷つけたのがどこのどいつか、絶対に突き止めなければ!」すると、係員は修平の後ろでおどおどしながら言った。「館長、お忘れですか?ここの防犯カメラは先週から壊れたままで、まだ修理が終わっていないんです」「だったら、建物周辺のカメラを調べろ!今日ここに出入りした人間を全員チェックするんだ!」係員は指示を受けると、急いでその場を離れた。それから修平は眉間に深いしわを寄せながら、杏奈たち三人に目を向けると、その視線は健吾に注がれた。「橋本さん、ご安心ください。この件はこちらで必ず責任をもって対応します。ただ、皆さんにも調査にご協力いただきたいです」健吾は頷いた。「ご心配なく。我々も全面的に協力させてもらうつもりですから」すぐに警察がやってきた。警察が現場検証をしている間、杏奈は小声で健吾に尋ねた。「館長と、お知り合いなの?」健吾も杏奈の耳元でささやいた。「橋本グループが、この博物館に出資しているんだ」杏奈は、それで納得がいった。彼女は少し考えてから、つい尋ねてしまった。「さっき
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第555話

それに彼女は一度見たものを忘れないタイプだから、記憶違いなんてありえなかった。しかしそれを聞いた警官は困っていた。「館の外の防犯カメラを確認しましたが、あなたが出たのが最後です。その後は誰も入っていません。もしあなたが出た時に、まだ服が無事だったとすると、話の辻褄が合いませんね」「どこが合わないんですか?」そこで傍にいた佑が何気なく言った。「彼女が出た後で、そこの係員が中に入ってるでしょう?」そう言って佑は、修平の後ろにいた係員を指さした。指さされた係員は慌てて言った。「こんなの明らかに誰かの仕業です!私はここの係員ですよ。ここの展示品を傷つけるなんて、するわけないじゃないですか!」「さあ、それはどうかな!」佑は言った。「世の中には悪いことを考えて、社会に復讐しようとする人間もいるものですから。もしあなたが館長に何か恨みでもあれば、こんなことをしても不思議じゃないですよね?」すると、係員は顔を真っ赤にして叫んだ。「でたらめを言わないでください!」しかし、ここで言い争っても埒が明かないので、警察は一人ずつ話を聞き、証拠を集め始めた。一方佑は、杏奈と健吾の後について、横に並んで立っていた。それを見た健吾は、佑の視線が杏奈に届かないように、一歩前に出て、間に割って入った。片や警察の捜査は素早く、すぐに犯行に使われた道具が見つかり、あの係員が犯人だと特定された。すると係員が警察に連行される時、杏奈たち三人に向けられたその視線には、どこか悔しさが滲んでいるようだった。これでようやく、周りの人たちも散っていったところに、修平がやってきて、杏奈に謝罪した。「本当に申し訳ありません。とんだ災難に巻き込んでしまいましたね。お詫びのしるしに、当館からこちらの貴重なコレクションブックをお渡しします」杏奈は、修平が差し出してくれた図録を受け取った。それは分厚い本で、博物館にある代表的な服飾がすべて載っていた。杏奈は修平にお礼を言うと、健吾と一緒に博物館を出て行った。これで今日も、収穫ゼロというわけでもなくなったのだ。杏奈はウキウキして、さっきまで感じていた濡れ衣を着せられたことへの怒りもすっかり忘れていた。そして、博物館の正面玄関まで来たところで、健吾は不意に足を止め、振り返って佑を見た。「いつまで
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第556話

それから、杏奈はアトリエに行かなかった。デザインコンペに集中するためだ。睦月も家でデザイン画に専念するように言ってくれたし、アトリエの経営も今は安定しているし、自分が数日休んでも問題ないだろうから。そういった面で杏奈は睦月にとても感謝していた。だから、時間を見つけてアトリエの株の割合を見直して、睦月の持ち分を増やしてあげようと考えていた。こうして杏奈は数日間、マンションにこもりっきりだった。健吾も、そんな彼女に付き添っていた。二人が一緒にラブラブな生活を送るようになって2ヶ月が経つけど、少しも飽きる様子はないのだ。午後の日差しが大きな窓から斜めに差し込み、カルトンの前に座る杏奈の体を、金色の光で縁取っていた。一方の健吾は、その日差しの中へ軽やかな足取りで進み、その視線は、杏奈のふんわりした後ろ髪から彼女のカルトンに描かれたドレスのデザインへと動いていた。杏奈もちょうど描き終えたところで、カルトンをじっと見つめていた。でも、どこかしっくりこなかった。しかし、あまりに長い時間描き続けていたせいで、そう感じていても、具体的に何が問題なのかは分からなくなっていた。すると、彼女は、がっくりと肩を落とした。その時、背後から不意に健吾の声がした。「どこか遊びに行かないか?気分転換すれば、また違った視点で見られるようになるかもしれないだろ」杏奈は振り返って健吾を見た。「何か問題点、分かったの?」自分はまだ何も言っていないのに、彼は問題があるって言った。きっと何か気づいたに違いない。しかし、健吾は何も言うつもりはないらしい。彼はただ手を伸ばして杏奈の頭をくしゃっと撫でた。「家で休むか、それとも遊びに行くか。どっちがいい?」杏奈は、ずっと同じ姿勢でいたせいで、肩が少し凝り固まっていた。ちょっと考えを巡らせた後、彼女はやっぱり息抜きをしに行くことに決めた。一日中家にこもっていても、いい考えが浮かばないかもしれないから。ふと、啓太のレーシングクラブのことを思い出した。杏奈はぱっと目を輝かせて、健吾を見た。「レースとかって、する?」そう言われ、健吾は眉を上げた。それから2時間後、二人は啓太のレーシングクラブにいた。啓太は自ら杏奈を出迎えてくれた。でも、彼女の隣にいる健吾に気づくと、露骨に嫌な顔をした。
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第557話

そう言って啓太はわざと杏奈から顔を背けた。杏奈に潤んだ瞳で見つめられたら、きっと断れず、情に流され、彼女をコースに出してしまうのが怖かったからだ。それで、もし杏奈に何かあったら、天国の両親に顔向けできなくなる。一方、健吾はサーキットにある一台のスポーツカーを指さして、啓太に尋ねた。「あれ、あなたの車ですか?」啓太が指さされた方を見ると、ブラックゴールドに塗装されたレースカーがスタートラインに停まっていて、流れるようなボディラインが、すごくクールだった。すると、彼はとても誇らしげに頷いた。「ああ、俺の愛車だ」健吾は頷くと、さも当然といった様子で口を開いた。「じゃあ、それでいいです。俺が代わりにやるから、貸してください」啓太は愛車を貸すのは惜しかったけど、杏奈のきらきらした瞳を見たら断れず、しぶしぶ健吾に鍵を渡した。「俺の愛車だから、大事に扱えよな」「わかっています」そう言って健吾と杏奈は車に乗り込んだ。杏奈がシートベルトを締めたのを確認すると、健吾はアクセルを思いきり踏み込み、車は弾丸のように飛び出した。久しぶりのスリルに、杏奈の心に溜まっていたもやもやが晴れていくようだった。健吾のドライビングテクニックは間違いなくトップクラスだ。コーナリング、加速、ひとつひとつの動作がとても滑らかだった。車体は矢のように走り、サーキット上にブラックゴールドの残像だけが残るほどだった。啓太は、大型スクリーンに映し出された愛車がサーキットを颯爽と駆け抜ける姿を見て、なんだか誇らしい気持ちになった。「啓太、お前の義理の弟は……」「義理の弟」という言葉を聞いて、啓太は顔を向けると、冷たい視線を送った。するとチームメイトは慌てて口をつぐんだ。「橋本さん!そう、橋本さんだ!あの人、今までサーキットで見かけたことなかったけど、まさかこんなに腕がいいなんて。うちのチームに入ってくれたら、俺たちきっと無敵になれるぜ!」「そうだよな!なあ啓太、お前が誘えば彼だって断らないだろ?」一人がそう言うと、他のメンバーも啓太に口々に同意を求めた。そう言われ、啓太は眉間にしわを寄せながら彼らを見た。彼もメンバーが来月の海外遠征を心配しているのは分かっていた。だが、彼は言った。「レースに出るのはお前たちだろ。出るなら、正々堂々、
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第558話

一方、健吾と杏奈が啓太のそばに行くと、啓太は健吾をちらっと見て、わざと張り合うような態度で、杏奈に話しかけた。「杏奈、君が怪我してなきゃ、橋本なんて相手にならなかったのにな」なにせ、杏奈の兄として、天才ドライバーの兄として、彼は、健吾が妹より優れているなんて、絶対に認められないのだ。それはなんだか意地を張っているようで、可愛らしかった。一方、健吾は気だるそうに啓太をちらっと見たけど、何も言わなかった。その様子に杏奈は笑いをこらえきれないでいた。「もし私が走れてたら、どっちが勝つかわかんなかったかもね」そういう杏奈も大口を叩いているわけじゃない。彼女のテクニックもトップクラスなのだから。そして杏奈は首をかしげながら健吾を見た。その目線には、隠しきれない挑発と甘えが混じっているのだった。健吾はそんな杏奈の頬を優しくつねった。そして彼の瞳の奥からは、優しさが溢れ出そうだ。「それはそうだ、俺があなたに勝てるわけないだろ」そう言う彼はさっきの気だるい雰囲気とは打って変わったかのような様子で、杏奈を見つめる瞳がとても優しくて、今まで纏っていた鋭い雰囲気もすっと和らいだようだ。啓太は健吾のこの変わりように慣れているようで、呆れた表情を露わにしていた。でも、幸せそうな杏奈を見ると、そんな健吾の態度も悪くないように思えた。そうだ、このまま、妹への愛をこれからも見せつけて欲しいものだ。そう思うと、啓太が健吾を見る目つきも、ずいぶん和らいだ。でも、啓太のチームメイトたちは、このラブラブな光景にちょっと引いていた。そして杏奈も、さすがに少し恥ずかしくなった。彼女は肘で健吾の脇腹をつつき、啓太に言った。「お兄さん、私たちはただレースを見に来ただけ。さっき一周走って楽しかったし、もう満足したから、みんなも自分たちの準備をして。私たちは観客席で見てるから」そう言われ啓太は彼女を引き止めなかった。それから杏奈は健吾の手を引いて観客席へ向かった。二人が観客席に座ると、周りからはさっきのデモ走行の興奮冷めやらぬ声が聞こえてきた。「さっきの黒とゴールドの車、すごかったな。すごい出遅れてたのに、最後の最後で全員ごぼう抜きにしたよ!」「ほんとあれ。誰だったんだろう。カメラが降りてくる人を撮ろうとしてたのに、ドアが開い
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第559話

南は、ひどく心を痛めていた。彼女は、公式に声明を出した後、仕事を休んで何日も家に引きこもっていて、すっかり憔悴しきった様子だった。杏奈はその知らせを聞いて、とても心配になった。彼女は、南が情に厚い人だと知っていた。真奈美がどんな人間であろうと、南にとっては大事な教え子なのだから。教え子があんな非道なことをすれば、南も責任を感じて、自分を責めてしまうのだろう。そう思って、杏奈は南の夫・山崎成一(やまざき せいいち)に電話をして、N市に来て気分転換でもしないかと誘った。しかし成一の話では、南は病気で入院してしまったとのことだった。それを聞いて居ても立ってもいられなくなった杏奈は、その日の夜に京市行きの飛行機のチケットを取ろうとした。しかし、夜の便のチケットはもうなかった。それを知った健吾は彼女をなだめた。「明日の朝イチのチケットを取ったから、一緒に行こう」健吾にそう言われて、杏奈は少し落ち着きを取り戻した。杏奈は​豪に一声かけ、アトリエの後事を頼むと、翌朝早く健吾と一緒に京市へ向かった。その頃、​裕一は澪から、杏奈の元夫と息子のことを聞き出していた。彼はそれに興味津々だった。杏奈と健吾が早朝の便で京市へ向かったと知ると、裕一も京市にいる手下に連絡を入れ、後を追った。彼は冷たい目でホルを見つめた。その目には、ホルが今まで見たこともないような好奇の色が浮かんでいた。「橋本に人の妻を横取りする趣味があったとはな。感心できないから、俺が叩き直してやるよ」ホルは、どうやって叩き直すのかと尋ねた。​裕一は馬鹿を見るような目で彼を見た。「決まってるだろ、鈴木さんを奪うんだよ。橋本が見初めた女だ、何か特別な魅力があるに違いない。俺がじっくり確かめてやる」そう言われ、ホルは言葉を失った。「確かバークは、あの中川社長と組んだことがあったな?」ホルは頷いた。​それを見て裕一は続けた。「連絡を取っておけ。京市でただブラブラさせるわけにもいかないから、橋本には、俺たちが彼について来たと気づかれないようにしないと」「バークさんとはもう長いこと連絡が取れません。飛行機を降りたら、直接中川社長に連絡します」​裕一はホルに視線を向けた。「あいつと連絡が取れない?」ホルは真剣な顔で頷いた。「調べたところ
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第560話

それを聞いて、杏奈は何も言えなかった。実は、真奈美の性格はとっくの昔から知っていた。久保家にいた頃なんて、表でも裏でも、しょっちゅう足を引っ張られていたから。真奈美が名の知れた劇団で活躍しているのに、あんな風に人を陥れたり、自滅するようなことをするなんて、以前の杏奈だったら、きっとすごく意外だったはず。だけど今は、むしろ驚くまでもないように思えた。そもそも真奈美が、竜也たちをそそのかして、自分をひき逃げの犯人に仕立て上げようとしたのも、自分をプリマの最終選考に出させないためだった。やり方が本当に陰湿で、相手をとことん詰めるまで手を引かないのだ。だから、そんな人間が羽目をはずすようなことをしても、それほど驚くことではないのだ。一方南は杏奈の手を引くと、少し言いにくそうに口を開いた。「杏奈ちゃん、真奈美のところに面会に行って、私の代わりに伝言を伝えてくれないかしら」杏奈は少し黙ってから、「先生、どんな伝言ですか?」と尋ねた。杏奈が引き受けてくれたのを見て、南はほっと息をついた。でも同時に、こんなことを頼んでしまったことに、申し訳ない気持ちになった。「ありがとう、杏奈ちゃん」……それから、京市に着いたばかりだということもあって、健吾の車は、まだ橋本家にあるから、杏奈と健吾はタクシーで警察署に向かった。道中、健吾が杏奈に言った。「俺は、あなたが真奈美に会うべきだとは思わないけどな」でも、杏奈は健吾の方を向いて、にっこりと微笑んだ。「今だからこそ、彼女の落ちぶれた姿を見に行くべきなのよ」「あんなやつ、見るだけで気分が悪くなるじゃないか。山崎先生に頼まれなかったら、あなただって会いたいなんて思わないだろ」そう言われ、杏奈は健吾の手のひらをくすぐり、口元の笑みを崩さなかった。「先生は、別に私に頼み込んだわけじゃないのよ」そう言って彼女はため息をついたようで、こう続けた。「先生は情に厚い方なの。どの生徒にも心をこめていたから、真奈美があんなことになって、先生は平気なふりをしているけど、心の中は傷だらけなのよ」そうは言うものの健吾は、杏奈が強がる姿を見ていられず、手を伸ばして彼女をぐっと抱き寄せた。「先生だって、病気が治ってから自分で会いに行けばいいだろ」その耳元で聞こえるくぐもった声に、杏奈は笑
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