「早月おばさん、私たち、病室を間違えてませんか?」「いいえ、違うわ!」早月の声が震えた。彼女は壁に手をついて一歩ずつ中へ入り、涙を流しながら言った。「拓実、いつ目を覚ましたの……?」拓実が本を置き、顔を上げて微笑んだ。「母さん。今、起きたところだよ」その時、医師も慌てて書類を持って駆けつけてきた。「奥様!ちょうどご連絡しようと思っていたところです。若旦那様の検査結果が出まして、すべての数値が正常です!今までの治療が、ついに実を結びました!」「よかった、本当によかったわ……」早月は涙を浮かべ、茉里の手を引いてベッドの傍に座らせた。そして興奮気味に言う。「やっぱり、茉里ちゃんは福の神よ!あなたがうちに来たとたんに、拓実が目を覚ましたもの!」茉里は驚いた顔をした。――本当に、厄払いの効果があったんだ……「初めまして……私、白井茉里です」穏やかな雰囲気の男性と視線が合った。ぎこちない笑みを、無理やり浮かべた。早月が横で説明する。「拓実、この方が、父さんと私が見つけた婚約者よ。京原市から来てくれて、あなたと同い年くらいで……」「彼女のこと、知ってるよ。会ったことがある」拓実の朗らかな声が響いた。彼は自ら茉里に手を差し出した。「茉里、よろしく」茉里の目が丸くなった。会ったことがあるって?驚きながら手を伸ばし、その手を握る。「私、記憶にないんですけど……」彼の手はひんやりと心地よく、茉里の緊張を少しほぐしてくれた。「十数年前、孤児院で。いつも僕のこと『お兄ちゃん』って呼んでたじゃないか。覚えてない?」拓実は柔らかく目元を緩め、まるで長年の友人を見るような目で彼女を見つめる。茉里は数秒呆然とし、それから、幼い頃の孤児院での日々を思い出した。孤児院は辺鄙な場所にあり、院長に権力もなく、子供たちの多くが満足に食べられなかった。そこへ、自分より数歳年上のお兄さんが、毎月たくさんの物資を持って慈善活動に来てくれていた。彼の登場は孤児院を救っただけでなく、茉里の色あせた生活に、彩りを与えてくれた。「まさか……あの時のお兄ちゃんが?」江口拓実が頷く。「そう。江口家には慈善活動の伝統があってね。僕が眠る前も、ずっと通ってたんだ。ただ……後から、君がいなくなってしまって」最後の一言に、拓実の
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