九十九回目の婚姻届――その提出に向かう途中、尾崎純一(おざき じゅんいち)は結婚から逃げるため、白井茉里(しらい まり)を乗せたまま大型トラックへと猛スピードで突っ込んだ。激しく損壊した現場から、二人は救急搬送された。十分後、血まみれで手術台に横たわる茉里は意識を失ったまま、七ヶ月になる胎児を容赦なくその体から掻き出されていた。目覚めた時には、すべてが終わっていた。お腹の子を失ったと知り、彼女は涙が溢れて止まらなかった。医師には安静にするよう言われたが、純一のことが気になって仕方ない。茉里はこっそりと病室を抜け出し、彼のもとへ向かった。病室のドア前まで来た時、中から楽しげな笑い声が漏れ聞こえてきた。思わず中を覗いたら――「純一、お前マジですげえよ。結婚から逃げるために命張るとか。でもさ、一応お前の子供だったんだろ?医者が言ってたぜ、取り出されたのは、もう赤ん坊の形がしっかりある男の子だったって。後悔してねえの?」純一が鼻で笑う。「後悔だと?何言ってるんだ!俺があいつと付き合ってるのは、舞奈の仇討ちのためだ。子供一人どころか、あいつの命だって、どうでもいいよ」その目に宿る冷たい光。いつも自分に向けられていた優しさも愛情も、そこには欠片もなかった。茉里は息を呑んだ。華奢な肩が小刻みに震える。何度も目を擦り、声の主の顔を確認しようとする。けれど、認めるしかなかった。今話している二人は、実の兄と、七年間愛し続けた恋人。それが紛れもない事実だということを。「その通りだ」白井陽介(しらい ようすけ)が冷ややかに応じた。「七年前、あいつさえ白井家に戻ってこなければ、舞奈ちゃんが留学なんかで遠くへ行くこともなかったんだ。まったく、疫病神もいいとこだぞ」「舞奈、もうすぐ帰ってくるって」その名を口にした途端、純一の声音が驚くほど柔らかくなった。「百回目の『逃亡劇』が終わったら、茉里に種明かしして舞奈を迎えに行くよ。陽介さん、心配ないって。あいつ、今じゃ俺にベタ惚れだから。この七年間が全部嘘だったと知ったら、ショックで二度と俺たちの前に現れなくなるだろう」その瞬間、茉里の全身から力が抜けた。涙が堰を切ったように流れ落ちる。壁に手をついてよろよろと駆け出し、庭のベンチに辿り着くと蹲るように泣き崩れた。今聞いた言葉が本当だなんて、信
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