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九十九回の裏切り、見つけた本当の愛

九十九回の裏切り、見つけた本当の愛

Par:  ぬますぐりComplété
Langue: Japanese
goodnovel4goodnovel
24Chapitres
20.7KVues
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「心の底から愛してる」 そう囁く恋人・尾崎純一(おざき じゅんいち)は、九十九回も役所から逃げ続けた男だった。 あろうことか彼は、結婚を引き延ばすため、白井茉里(しらい まり)を巻き込む事故を偽装し、彼女のお腹の子さえ奪ってみせた。 絶望に沈む彼女の耳に、純一の嘲笑が突き刺さる。 「七年間の恋人ごっこ?ぜんぶ舞奈のための復讐だよ。あいつが本気になったら負けだ」 七年間のすべてが、嘘。 奈落の底に突き落とされた茉里だったが、幸い、まだ「次の一手」は残されていた。 彼女は正気を戻し、別の男からの求婚を受け入れる。 純一が愚かにも「百回目の逃亡劇」を計画している、まさにその時。 茉里は彼を捨て、新天地・港海市へと嫁いでいく――

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松坂 美枝
松坂 美枝
アフォ女の言葉を信じて主人公をいじめまくったら大後悔したクズどもの話 主人公の両親だけ可哀想だったかも アフォ女の行動力はすごかった(笑) ボディーガードがきちんと仕事してた
2025-11-22 10:21:49
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藍那由多
藍那由多
とても面白い作品でした
2026-02-27 09:14:01
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さぶさぶ
さぶさぶ
純一の行動が予想外で1度は拉致は許したけど、そこから先は鬼ガードで最後まで守り通しててスッキリした 被害者ぶってるけどリベンジポルノちらつかせとか陰険で悪質 兄はどの口で兄を名乗るのか、やったこと忘れたの?どっちも気持ち悪かった
2025-11-22 17:58:05
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蘇枋美郷
蘇枋美郷
ただの養女のくせに本物のお嬢様になった気になった勘違いクズ女に、なんの証拠もないのに信じて振り回されてたクズ男2人もアホすぎた。 スパダリ拓実の容赦ない守りと、愛しすぎて照れるギャップが可愛かった♪茉里ちゃんこれまでの分お幸せに!!
2025-11-23 02:47:25
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ノンスケ
ノンスケ
バカ女の養女の話を間に受けて、本当の妹を虐げ、婚約者も養女に騙されて99回も婚姻届を出さなかった。流石に乗ってる車で突っ込んで事故して、子どもが中絶とか、これは入籍拒否で済まないよね。
2025-11-22 19:20:17
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第1話
九十九回目の婚姻届――その提出に向かう途中、尾崎純一(おざき じゅんいち)は結婚から逃げるため、白井茉里(しらい まり)を乗せたまま大型トラックへと猛スピードで突っ込んだ。激しく損壊した現場から、二人は救急搬送された。十分後、血まみれで手術台に横たわる茉里は意識を失ったまま、七ヶ月になる胎児を容赦なくその体から掻き出されていた。目覚めた時には、すべてが終わっていた。お腹の子を失ったと知り、彼女は涙が溢れて止まらなかった。医師には安静にするよう言われたが、純一のことが気になって仕方ない。茉里はこっそりと病室を抜け出し、彼のもとへ向かった。病室のドア前まで来た時、中から楽しげな笑い声が漏れ聞こえてきた。思わず中を覗いたら――「純一、お前マジですげえよ。結婚から逃げるために命張るとか。でもさ、一応お前の子供だったんだろ?医者が言ってたぜ、取り出されたのは、もう赤ん坊の形がしっかりある男の子だったって。後悔してねえの?」純一が鼻で笑う。「後悔だと?何言ってるんだ!俺があいつと付き合ってるのは、舞奈の仇討ちのためだ。子供一人どころか、あいつの命だって、どうでもいいよ」その目に宿る冷たい光。いつも自分に向けられていた優しさも愛情も、そこには欠片もなかった。茉里は息を呑んだ。華奢な肩が小刻みに震える。何度も目を擦り、声の主の顔を確認しようとする。けれど、認めるしかなかった。今話している二人は、実の兄と、七年間愛し続けた恋人。それが紛れもない事実だということを。「その通りだ」白井陽介(しらい ようすけ)が冷ややかに応じた。「七年前、あいつさえ白井家に戻ってこなければ、舞奈ちゃんが留学なんかで遠くへ行くこともなかったんだ。まったく、疫病神もいいとこだぞ」「舞奈、もうすぐ帰ってくるって」その名を口にした途端、純一の声音が驚くほど柔らかくなった。「百回目の『逃亡劇』が終わったら、茉里に種明かしして舞奈を迎えに行くよ。陽介さん、心配ないって。あいつ、今じゃ俺にベタ惚れだから。この七年間が全部嘘だったと知ったら、ショックで二度と俺たちの前に現れなくなるだろう」その瞬間、茉里の全身から力が抜けた。涙が堰を切ったように流れ落ちる。壁に手をついてよろよろと駆け出し、庭のベンチに辿り着くと蹲るように泣き崩れた。今聞いた言葉が本当だなんて、信
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第2話
「江口社長……息子さんとの縁組のお話、お受けいたします」電話の向こうから、驚きと喜色が入り混じった男の声が響いた。「本当か!ありがとう!海外の仕事を片付けるから五日待ってくれ。その時京原市まで迎えを行かせよう。それに茉里ちゃん、安心してくれ。息子が目を覚まそうが覚めまいが、江口家の財産は全部君のものだ!」「……はい」短く返事をして、茉里は電話を切った。財産なんてどうでもよかった。植物状態の男と結婚することにも、もう何も感じない。自分はただ、安心して暮らせる場所が欲しい。青い空を見上げ、茉里は深く息を吐く。これでようやく、あの人たちが望む通りになる。――陽介、純一、私はもう白井家には居座らない。「白井家の令嬢」という名も、舞奈に返すから。指に嵌まった婚約指輪が、きらきらと輝いている。唇を噛み締め、茉里はその指輪を外した。近くのゴミ箱に投げ捨てようとした、その時。純一が慌てて駆け寄ってきた。「茉里、捨てないでくれ!」彼は彼女の細い体を抱き寄せる。「あくまでもアクシデントだ。今回出せなくても、また次に出せるから」心配そうな眼差し。以前と変わらない、優しく力強いはずの抱擁。だというのに、茉里が感じるのは、突き放すような冷たさだけだった。「アクシデント?」茉里が皮肉っぽく笑った。「あなたが逃げたのは、これで九十九回目よ。一回目は準備ができてないって、途中で引き返した。二回目は胃が痛いって病院に連れて行かれて、三回目は会社の外せない用事があるって……」拳を握りしめ、一つ一つの「アクシデント」を数え上げていく。「もう九十九回。百回目はいつ?ねえ純一、もしかして最初から届け出るつもりなんてなくて、ただ私を弄んでるだけなんじゃないの?」純一の瞳が、見抜かれたように揺らいだ。「そんなこと、あるわけないだろ……茉里、俺がどれだけ君を愛してるか、分かってるはずだ」茉里が自嘲気味に笑う。「でも、あなたの愛は私たちの子供すら、守れなかった」まるで、失ったばかりの小さな命に別れを告げるように、彼女は蒼白な顔で、細い手をそっと下腹部に当てる。「子供なんて、また作ればいい」純一が切なそうに顔を歪める。「体が回復したら、もう一度婚姻届を出そう」今の態度と、病室で聞いたあの声。どちらが本当の彼なの
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第3話
陽介が眉をひそめた。「そんな暗い顔しやがって!子供を守れなかったのは、お前の責任だろ」「やめてよ陽介さん、茉里だってわざとじゃないから!」純一が彼女の前に立ちはだかる。「お前は、甘やかしすぎだぞ」陽介が鼻で笑った。「茉里は俺の婚約者だから。甘やかして当然でしょう」純一が振り返って、彼女の頭を優しく撫でた。その瞬間、茉里ははっと息を呑んだ。いつだってそうだ。陽介が彼女を罵り、すかさず純一が庇いに入る。だが、純一が本気で守る気なら、親友である陽介がこれほど遠慮なく罵倒できるはずがない。理由は一つ。二人は示し合わせて、この茶番を演じているのだ。途端に、すべてがばかばかしく思えた。彼女は無理矢理笑顔を作った。「……自分の病室に戻って、休むよ」茉里は長い間眠った。途中で舞奈と純一が来た気配はしたが、相手をする気になれず、ずっと寝たふりをしていた。不意に、カメラのシャッター音と、下卑た嘲笑が聞こえてきて――茉里は跳ね起きた。「誰っ!?」咄嗟に布団を引き寄せて体を隠し、怯えた声を上げる。目の前に立っていたのは、あからさまな敵意をこちらに向ける、見知らぬ男女の集団だった。「もう忘れたか?」下卑た笑い声が響く。「昔、同級生だったじゃん。よくお前が働いてた『店』に遊びに行ってたんだぜ!」嫌な予感が胸をざわつかせる。茉里は震える手でスマホを掴み、助けを呼ぼうとした。だが、それはショートカットの女に叩き落とされた。「尾崎さんに助けを求めるなんて無駄よ。あの人は舞奈さんのものなんだから!」「あなたたち、舞奈の……差し金?」茉里が信じられない、という顔で問い返した。するとショートカットの女が、容赦なく平手打ちを食わせた。「ペッ、あんたみたいな下品なヤツが、舞奈さんの名前を呼ぶんじゃないわよ!」女は力任せに茉里の布団を剥ぎ取り、平らになった下腹部を指差して声高に笑う。「流産したんだってね?自業自得だよ。夜の店で男漁りして、舞奈さんの恋人まで奪おうとするんだから!」他の連中も口々に囃し立てる。「流産して当たり前だ!」「違う……」茉里の顔が真っ青になる。必死で首を振った。だがショートカットの女は収まらない。拳を振り上げ、何度も茉里の下腹部を殴りつけた。「全部あんたのせいで舞奈さんが傷ついた
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第4話
純一が拳を握りしめた。彼女を見る目に一瞬、心痛の色が浮かんだが、それでも声は冷たいままだった。「だからといって、舞奈が差し向けたって証明にはならない。それに、結果的に君を助けたのは舞奈だろ?茉里、反省すべきは、なぜあいつらが君を襲ったかだ。全部を舞奈のせいにするんじゃない!」真実を突きつけられても、純一はまだ舞奈を庇う。茉里は、もう可笑しくて仕方がなかった。心はとうに凍てつき、もはや抗う気力も残っていない。「……分かった。私が悪いのね」純一は眉間に皺を寄せ、苦しげな表情を浮かべると、両腕を広げて彼女を抱き寄せた。「明日、舞奈も一緒に食事するって。その時、ちゃんと謝れば大丈夫だ。舞奈なら許してあげる」茉里は彼の肩に顔を埋めた。鼻の奥がツンとするのを、必死で堪えた。どうせ自分は、すぐに港海市へ嫁ぐ身だ。この食事会が、あの人たちとの最後の別れになる。翌日、退院前。純一は医師から説明された茉里の術後の注意事項を、それは丁寧にノートに書き留めていた。そして、そのノートを得意げに茉里に見せた。「ほら、茉里。俺がどれだけ君のこと気にかけてるか、分かるだろ」茉里は無言で頷いた。荷物をまとめ、舞奈から指定された高級レストランへと向かった。店に入ると、もう全員揃っていた。純一の母親、尾崎智晶(おざき ちあき)もいる。「純一、来たのね。こっちに座りなさい!」智晶が、当然のように純一を舞奈の隣へと促した。婚約者のはずの茉里には、いつも通り目もくれない。代わりに陽介が気づいた。「おい、ぼーっと突っ立ってないで、注文取ったり配膳したりしろよ。年下のくせに、気が利かねえな!」茉里は純一が何か言ってくれるかと思った。だが彼の視線はずっと舞奈に張り付いたまま、茉里には一瞥もくれなかった。「……はい」茉里は目を伏せ、陽介の言う通りに従った。惨めに全員の水を注ぎ、注文を取った。舞奈の傍に来た時、突然足が伸びてきて茉里を引っ掛けた。手に持っていたドリンクが跳ね、舞奈のドレスに降りかかる。「きゃっ」舞奈が悲鳴を上げ、全員の視線が集まった。「茉里、何するんだ!」真っ先に声を荒げたのは、純一だった。「母さんが舞奈のために特別に仕立てたドレスなのに、嫌いだからって手を出すなよ!」茉里の目
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第5話
「茉里、こんなところで何してるんだ?いつからいた?」純一は慌てて舞奈から離れると、大股で歩み寄り茉里の手を取った。その心臓が、ドクドクと不安げに跳ねている。茉里の唇が小刻みに震える。必死に涙を堪えた。「転んで頭をぶつけちゃって……手洗い場で洗おうと思ったんだけど、ここ広くて。やっと見つけたところ」声がかすれる。力なく服の裾を握りしめた。注意深く見れば、彼女の異変に気づけたはずだった。だが純一は、ただ聞かれなかったことに安堵しただけで、それ以上何も追及しなかった。舞奈に目配せして立ち去らせると、茉里の手を引いて洗面台へ向かった。「ちょっと目を離しただけで、こんなに怪我して」純一が優しく傷を拭う。カバンから絆創膏を取り出し、心から心配するような目で貼ってくれた。「これからは茉里から離れないようにしないとな。心配で仕方ないよ」そして優しく茉里の唇に口づけする。「行こう。食事はやめて、家に帰ろう」茉里は虚ろな目をしていた。この男、そこまで完璧に演じきって、疲れないの? その言葉は喉まで出かかったが、飲み込んだ。どうせすぐに出ていく身だ。最後の三日間、このまま気づかないフリを続けよう。マンションに戻ると、純一が優しく茉里の顔を包み込んだ。「茉里、あと三日で君の誕生日だな。その特別な日に、婚姻届を出したいんだ」茉里は呆然とした。自分がここを去る日が、奇しくも自分の誕生日だったとは。純一は彼女が黙っているのを見て、焦って付け加える。「今回も前みたいに何か起きるんじゃないかって心配してる?大丈夫、君の誕生日だ。今度こそ絶対に何も起きないって約束する!」茉里は唇を噛んだ。胸の奥が苦い。誕生日に婚姻届――これが純一の考えた、百回目の「逃亡劇」の筋書き。彼女は無理やり笑みを作る。しかし、心が冷え切っていく。「……うん」「じゃあ決まりだな。ちゃんと準備しとけよ」純一が満足げに笑みを浮かべ、茉里を抱き上げて寝室へ運んだ。茉里は、もう拒まなかった。翌日、荷物を整理していると、孤児院の院長からもらった別れの品を白井家に残してきたことに気づいた。幼い頃迷子になった自分を、院長が拾ってくれなければ、茉里は生きていなかっただろう。もうすぐ京原市を去る。あれが、自分にとって最後の思い出の品だっ
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第6話
純一は平静を装って、冷たく背を向けると舞奈を病院へ連れて行った。陽介も心配そうにそれに続く。屋敷には、痛みで息もできない茉里だけが残された。「なんで……信じてくれないの」震える唇が、か細い声を紡ぐ。胸が激しく上下する。どう見てもこっちの方が重傷なのに、婚約者も、実の兄も、誰一人として気にかけてはくれなかった。絶望の涙が彼女の頬に流れる。スマホを拾って救急車を呼ぼうとしたが、立ち上がった途端に目の前が真っ暗になり、力なく床に倒れ込んだ。どれくらい気を失っていたか分からない。茉里は、乾いた血だまりの中で目を覚ました。屋敷はしんと静まり返り、外はすっかり暗くなっている。熱っぽい体が、すぐに病院へ行けと訴えていた。「うっ……」茉里は辛うじて体を起こす。一歩歩くたびに全身の傷が軋み、重い呻き声が漏れた。彼女はよろめきながら玄関へ向かう。だが、ドアを開けた瞬間――人の群れが狂ったように押し寄せてきた。「白井茉里さん!ネットで拡散されている不適切な写真はご本人ですか!」報道陣がカメラを担ぎ、マイクを突きつける。無数のフラッシュが、茉里の蒼白な顔を照らし出した。「お嬢様でありながら、なぜ体を使って取引を?」「数日前に愛人に強制的に中絶させられたという話ですが、ご説明いただけますか!」刃物のような言葉が、次々と茉里の心を抉っていく。彼女が怯えれば怯えるほど、彼らの声は興奮を帯びていった。「幼い頃迷子になって孤児院で育ち、両親のもとに戻った後は養女を虐待したというのは本当ですか!」茉里は人込みに押されてよろめき、倒れた。頭を抱えて丸くなるしか、身を守る術はなかった。「あなたを育てた孤児院の院長が、この騒動が原因で心臓発作を起こして亡くなったそうですが、罪悪感はありますか!」その言葉に、茉里の目が見開かれた。記者のズボンの裾を掴んだ。「何ですって……?院長先生が……亡くなった?」誰も答えない。彼らは自分たちが聞きたい答えしか求めていない。次第に群衆は膨れ上がり、茉里は自分が何度踏みつけられたか、もう分からなかった。絶望しかけたその時、純一が駆けつけ、人込みに怒鳴り声を上げた。彼はボディガードに記者たちを追い払わせると、地面に倒れた茉里を慌てて抱き上げた。「茉里、ごめん。遅くなった。今すぐ病
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第7話
全身を襲う痛み。茉里は乾いた唇を舐め、苦しげに顔を歪めた。ネットに拡散された写真も、記者に囲まれたことも、すべて純一が仕組んだことだった。自分を育ててくれた院長が亡くなったのに、最期の別れすら許されない。彼は本当に、ただの一度も、自分に心を動かされたことなどなかったのだ……しばらくして、純一がまた病室に入ってきた。茉里が目を覚ましたのを見て、彼はすぐに嬉しそうな表情を作った。「よかった。このまま二日間目を覚まさなかったら、入籍に間に合わないかと思ったよ」茉里は顔を伏せた。心の中で冷ややかな笑みを零した。入籍に間に合わない?違う。あなたの「逃亡劇」が間に合うからでしょう。茉里は指輪をそっと外し、純一の手に乗せた。「これ、プロポーズの時にもらった指輪。今返すから……明日、婚姻届を出したら、もう一度あなたから付け直して」純一は一瞬戸惑い、それから笑った。「ああ、分かった。茉里の言う通りにする」彼女は深く息を吸い込み、尋ねた。「プロポーズを受けた日、あなたがどれだけ喜んでたか覚えてる?私のあなたへの気持ちは変わってない。でも聞きたいの。あなたは私に、本当の気持ちって、まだある?」「もちろんさ。茉里への想いは、死ぬまで変わらない」彼は、即座に答えた。茉里は急激に虚しくなった。「うん」とだけ返事をして、ベッドに横になった。「疲れたから、もう帰って。付き添わなくていいから」「じゃあゆっくり休んで。明日、役所で会おう」純一は彼女に布団をかけ直し、枕元に水の入ったコップを置いて離れた。どこまでも完璧な、優しい婚約者の姿だった。翌日。茉里は、頭から浴びせられた氷水で目を覚ました。骨まで凍みるような冷たさに、思わず三回くしゃみが出た。怯えて顔を上げると、目の前に立っていたのは陽介だった。茉里の全身が強張る。「今日はお前の門出だ。特別に見送ってやる」見下すような、施しを与えるかのような眼差し。「この水で、お前の過去の罪を洗い清めてやった。これからは人に優しくしていれば、白井家にお前の居場所くらいは残してやる」彼はメイクアップアーティストを二人呼び、真っ白なウェディングドレスを取り出した。「俺は兄として父の代わりに、お前のために用意したものだ。メイクが終わったら、運転手が役所まで送る」
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第8話
レストランの個室で、純一は舞奈の細い肩を抱き、愛を語っていた。茉里が京原市を去ったことなど、まだ知る由もない。やがて、陽介も到着した。ドアを押し開け、悪意に満ちた笑顔を浮かべる。「準備は万端だ。あのバカが嬉々として婚姻届を待ってるぞ。ウェディングドレスまで着てやがる」彼は口角を吊り上げた。「さっそく役所に向かおう。もう待ってるかもな」茉里が絶望に染まる顔、見たくて仕方がなかった。七年間愛し続けた男から、付き合ったのは復讐のためだったと告白されるのだ。どんな女だって耐えられない。ましてや純一に骨抜きの茉里なら、なおさら。三人は役所へ向かう車に乗り込んだ。だが純一は、なぜか胸騒ぎが収まらなかった。役所に着いて車を降りると、記者が二人待機していた。純一が訝しんだ。「なんで記者が?」陽介が笑って説明した。「もう一度、あいつに追い打ちをかけようと思ってな。育ての院長の死んだばかりなのに、愛人と婚姻届を出そうとする薄情な女――こんなニュースにしたら話題沸騰だろ」純一は急に吐き気を覚えた。陽介がそこまで茉里を憎む理由を、問いただしたくなった。だが、堪えた。茉里に同情してはいけない。最初から、復讐のためだけに近づいたのだから。舞奈の腕を取り、純一は前へ進み、人混みの中に、純白のドレス姿を探した。しかし、三人で役所中を探し回っても、茉里の姿はどこにもなかった。純一の胸に、不吉な予感が広がっていく。その時、場違いな冷たい風が吹き抜けた。役所の脇にある大木の葉が、ざわざわと不安げに揺れている。純一がぶるりと身震いした。思わず眉をひそめた。「茉里は?運転手に迎えに行かせたんじゃないのか?」陽介も困惑していた。「ああ。メイクが終わったら、役所に来るよう言ったはずだ」二人の記者がカメラを構えたまま、迷子のように右往左往して、やがて不機嫌に言い放った。「白井さん、特ダネって話はどこ行ったんですか?まさか、ふざけてるんじゃないでしょうね?」「焦るな」陽介が睨みつける。スマホを取り出し、茉里に電話してどういうことか問いただそうとした。だが、奇妙なことに、彼女の電話はまったく繋がらず、メッセージも受信拒否設定になっていた。「……いい度胸だ。俺をブロックするとは」スマホを握る力が強
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第9話
いつもなら婚姻届を出すと言えば、茉里は可愛い子犬のように喜んでいた。新しい服を準備したり、一晩中嬉しそうに抱きついてきたりした。しかしここ数日、彼女は恐ろしいほど平静だった。昨夜、指輪を外してあの妙な質問をしてきた以外、何の感情の起伏も見せなかった。「もう来ないだろ。茉里はここ数日、俺たちの演技に付き合ってたんだ」純一が苦しそうに言葉を絞り出した。二人の記者は事態を察し、眉をひそめて軽蔑した口調で言った。「結局来ないのかよ。時間の無駄だった」そして手を差し出し、冷たく陽介に告げた。「来なくても、報酬は一銭も減額できませんからね」陽介が呆然としたまま、スマホで決済した。その時、画面上部からニュースの速報通知が飛び込んできた。何かに導かれるようにタップすると、太字で書かれた見出しが目に飛び込んでくる。【白井茉里氏、白井家との親子関係断絶を声明】陽介の心臓が止まった。さらに記事を読み進め、思わず大声で叫んだ。「あいつが――俺たち家族との縁を切るだと!?」「そんなはずない!あいつは、ずっと俺の機嫌を取ろうとしていたのに……!」陽介がよろめいた。何度も見直すが、読み間違いではなかった。純一の不安が頂点に達した。婚約者も、実の兄も捨てた。まさか彼女は……彼は必死に茉里の番号にかけ続ける。一体どういうことなのか。役所に来なかったのなら、どこへ消えたのか。それを知りたかった。何度かけても繋がらず、純一は陽介の襟を掴んだ。「運転手に電話しろ!早く!」陽介がようやく我に返って運転手に連絡する。だが運転手は、一日中茉里の姿など見ていない、と答えるだけだった。「くそっ!あと一歩で計画が成功するところだったのに、なんでこんな時に!」「だめだ、茉里を探しに行く!」純一の目が血走った。心臓を何かに強く掴まれたような痛みで、息が詰まった。「私を置いていくの?」ずっと黙っていた舞奈が、慌てたように彼の腕を掴んだ。「計画が失敗したって構わないわ。だってもう九十九回も逃げたんだもの。最後の一回が成功しなくても平気よ!彼女が自分から関係を断ってくれたんだから、むしろ好都合じゃない。お兄ちゃんだって、今後あの子の面倒を見なくて済むし」舞奈は徐々に口調を緩め、純一を抱きしめた。「二人で種明かししたら婚姻
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第10話
執事がすぐに迎えに出た。「若奥様、お帰りなさいませ」彼は丁寧に周囲の人々を紹介していく。「こちらがご主人様と奥様でございます。こちらが家政婦の奥山さん、こちらが栄養士の大友さん……」茉里は一歩前に出て、軽く頭を下げた。「江口社長、奥様、初めまして」温和な中年夫婦が微笑んだ。「茉里ちゃん、そんなに堅苦しくしないで。名前で呼んでくださいね」江口早月(えぐち さつき)が優しく彼女の手を取り、屋敷へ向かいながら言う。「本当は江口家の親戚も皆会いたがってたんだけど、遠くから来て疲れているだろうからってお断りしたの。体調が良くなったら、また改めて紹介するわね」茉里は小さく頷き、「お心遣い、ありがとうございます」柔らかい絨毯を踏みしめながら、茉里はまるで夢の中にいるような感覚だった。ほんの短い時間で、京原市からここ港海市へ。見知らぬ街、見知らぬ家族のもとへ嫁いできたのだ。「茉里ちゃん、きっとご存知だと思うけれど、うちの息子の拓実は事故以来ずっと意識不明で……この先、目を覚ますかどうかも分からないの」早月の声に悲しみが滲む。彼女は心配そうに茉里を見つめた。「だから、もう一度だけ聞きたいの。本当に、嫁いでくる覚悟はできている?」茉里は力強く頷いた。「江口社長……いえ、和宏おじさんと約束しましたから。約束を違えるつもりはありません」この港海市に来た以上、恋愛への希望なんてもう持っていない。嫁ぐ相手が目を覚まそうが覚めまいが、もう関係なかった。江口家で平穏に残りの人生を過ごせるなら、それが一番いい。早月の表情がぱっと明るくなった。嬉しそうに茉里をソファに座らせると、三十分ほど談笑した。話せば話すほど、二人は気が合うようだった。「茉里ちゃんが来てくれたこと、本当に江口家の福の神だわ。きっと、拓実もすぐに良くなると思うの」その言葉に、茉里は少し驚いて目が潤んだ。これまでずっと、陽介に「疫病神」「災い」と罵られ続けてきた。誰かに「福の神」と言われたのは、生まれて初めてだった。傷だらけの心に、温かいものが流れ込んでくる。「皆さんと出会えたこと、私の方こそ幸せです」夕食後、早月が寝室まで案内してくれた。「ゆっくり休んでね。明日起きたら病院に連れて行って、拓実に会わせるから」「はい。おやすみなさい
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