面倒事に、付き合わされる事になった。 侯爵の爵位を持つ星澤家で開催される夜会の話を義父から聞かされた時に思った、率直な感想だ。都内に住む貴族達の情報は叩き込まれてはいるが、あくまでも基礎的なもので最新の情報じゃないから知識の更新が必要だし、兄達から『やっておけ』と指示されているレポートの用意や、本当に使うのか不明ではあれども普段の勉強の為に要点をまとめたものの準備もしてやらねばならない。そして今は何よりも自分の時間も欲しいというのに、更にまたアイツらに時間を奪われるのか、と。(だけど、行って良かったな) 立場的に『断る』という選択肢は無かったとはいえ、今は心底そう思う。(拘束魔術でしっかり軟禁しておいたのに!) 会場内でアルカナを見た時は『どうしてここに?』とかなり慌てたが、標準よりもずっとむっちりとしたぬいぐるみ系ボディで必死にホール内を歩く(……いや、あれでも一応は走っていたのかも?)姿も見られたし、超が付く程の希少種である『龍』の『獣人』となった彼女と踊る事が出来たのは何よりの幸運だった。(でも、アレは反則だろ……) ただでさえ好みの匂いだというのに、アルカナの『あの姿』を思い出すだけで顔どころか耳まで熱い。 クロスタイをやや乱暴に外し、シャツの前ボタンにかけていた手を止め、右手で顔を覆ったが、冷やす効果はなさそうだ。 人生初だった夜会を無事に終え、かなりの疲労を抱えながらも自宅に戻れはした。慣れぬ行為ばかりですぐに寝たいくらいに疲れているのに、寝室で無防備に眠るアルカナを前にすると、腹の奥が急速に重くなっていく。御丁寧に扉が閉まっていたせいか、隙間風がよく吹き込む部屋なのに彼女の甘い香りが充満しているからだろう。(……鼻が利くのも考えものだな) まんまるな背中をさらしてくーくーと眠るその姿に『龍』の『獣人』であった面影は少しも無い。存在自体が幻想かと思うほどの儚さも、威厳も、何もかも会場に置いて来たみたいだ。「……あの後は大変だったんだぞ?」 ベッドに両腕だけを預け、アルカナのふわふわとした頭に顔を埋めたが、起きる気配はまるでなかった。 ——星澤家の邸宅で開催された夜会でアルカナと夢の様なひと時を過ごした直後、彼女は霧が如く消え去ってしまった。 今まで誕生報告情報すら無かった『龍』の『獣人』が会場に現れ、そして忽然と消えた
Última atualização : 2026-02-03 Ler mais