午後になり、叶糸は『授業があるから』と残念そうな顔で大学の講義室に向かった。私はといえば、大半の者には姿が見えぬのをいい事に大学の敷地内を見学させてもらっている。(叶糸相手には通じないが、それ以外の者が相手なら完全に隠す事ももちろん出来るしな) 叶糸的にはずっと側に居て欲しかったようだが、何かある度にチラチラこちらを見て授業に身が入らないとかが物凄くありそうなので断った。(圧倒的はまでの癒し不足とはいえ、学生は学業が優先だからな。気を遣わねば) 国立の大学である此処『幻都魔術大学』は国内最高峰の大学というだけあって、施設の充実っぷりは半端ない。都内の一等地にありながらも広大な敷地を誇り、駅は構内直結だし、当然バス停も正門の目の前で、学生達を主な客層にしている洒落た商店街まで近傍にはある。周辺地域には身分別で選べる学生寮なんかも数多くあるらしく、申し分ない環境が整っている。 主体となっている魔術系の学科以外にも、叶糸の通う薬学科や錬金術、機械工学などの他に農学部まである。当然学生達の質も高くて皆勉学に対して真剣だ。受験シーズンだけじゃなく、入学後も常に相当勉強をし続けねばすぐ周囲に置いていかれる程苛烈な学生生活となるが、その分得られるものが大きいから入学を願う者は後を絶たない。就職は他校出身者よりも相当有利だが、その分『楽しい大学生活』とは無縁だ。だけど真面目に研究や勉学に取り組みたい層には天国の様な環境が約束されている。 実は、叶糸のニ歳年上の義兄である滋流もこの大学を目指していた時期があった。叶糸に作らせたテスト対策問題のおかげで好成績を取れていたせいで自分の力量を笑える程に見誤っていたからだ。だが実技試験の結果が大学の入試を受けられるレベルには達していなかったせいで、受験すら出来なかった。魔法科目の実技は本人でなければ受けられないし、似ても似つかない二人では叶糸を替え玉に仕立て上げる事も不可能だったから、もしも受験資格をどうにかして得ていようが、結局どうにもならなかっただろうな。 『人生に箔が付くから』という理由だけで憧れていた学校に、義弟の叶糸がトップの成績で合格し、入学式では新入生代表として挨拶までするとなった時のキレ方はもう異常者そのものだったとか……。叶糸に利用価値が無ければ、それこそこの時点で殺していたかもしれない程だったらしい。(
Last Updated : 2025-12-11 Read more