Semua Bab 異世界に逃げたら仮初の夫に取り憑かれた!: Bab 11 - Bab 20

36 Bab

【第10話】討伐ギルド・後編(スキア・談)

「——つまりは、『助けてもらった優しさに触れて、この人に一目惚れした』と言うわけね?」 腕組み状態にあるシリルが要約を口にしながら訊いてくるが、どう見たってルスの話を信じている感じではない。だが、僕らが所詮は『仮初の夫婦でしかない事』や『契約を交わして、僕がルスの身に取り憑いている状態にある事』をきちんと伏せた上でルスが事実説明をやり遂げたので、ひとまずは良しとしよう。「はい。スキアさんが森の中で倒れているワタシを見付けてくれていなかったら、あのまま獣の餌食になっていたかもしれませんから」 ルスは一言も『一目惚れをした』とは言っていないのだが、反射的に訂正するというバカはせず、話の補足をしていく。「で?コボルト達はどうなったんですか?」 「崖下までは追って来なかったので、多分諦めてくれたんじゃないかと」 クレアの問いにルスが答えると、「じゃあ、早急に野良コボルトの討伐依頼を作っておくわ。町に住むコボルト族の者達の理解も得ておかないといけないわね。あとは、しばらくはゴブリン討伐を控えた方が良いかしら」 シリルが今後の流れを組んでいく。ルスを追っていたコボルト達はとっくに僕が始末しているのでその必要は無いのだが、敢えて伝える方が不信感が増しそうなので控えておこう。「でもぉ、ゴブリンくらいしか狩れなかったのってロイヤルさん達のパーティーくらいでしょう?他の人達ならコボルトに遭遇しても対応出来ると思うけど」 アスティナの言葉に、「それもそうね」とシリルが同意する。結局、野良コボルト討伐依頼を新たに作成はするが、ゴブリンの討伐も引き続き継続して張り出される事となった。奴らは放置すると鼠算的に増えるので懸命な判断だと僕も思う。(使い捨ての兵としては優秀だったが、自分が人間側に立ってみると面倒な種族だよな) 魔族側についていた時の事を一人振り返っていると、頬に指を当ててアスティナが軽く首を傾げた。ルスよりもずっと年上だろうに、可愛らしい容姿のせいでその仕草が似合っている事が地味に怖い。「……それにしてもぉ、ロイヤルさん達三人は一体何処に行ったんでしょうねぇ?」 町まで無事に辿り着いたのならちゃんと助けを呼びに行くくらいの良識が奴らにもあるとアスティナは思っていたのか、『まさかぁ、そうじゃなかったのぉ?』と不思議でならないみたいだ。「警備隊から被害の発見
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-22
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【第11話】コレでは、ただの『同居』では?(スキア・談)

 討伐ギルドのある通りからまた少し奥の方へ進み、広めの路地を住宅が多く並ぶ通りへ向かうと、ルスの弟・リアンを預けている保育所がある。 入口から中に入った途端、開口一番説教されてしまった。『ご自分で、この時間までと言っていた時間通りに迎えに来て欲しい』と。僕らよりも先に討伐ギルドの方から伝書鳥が送られてはいたらしく、深刻な事情があっての延滞である事は理解しているものの、それでも人手が足りていない現状では連絡無しのまま延滞されるのは非常に困るのだとか。(……まぁ、向こうの言い分も理解出来るが、一人寂しく森の中で瀕死にまでなっていた者に対して言う台詞では無いのでは?) ついそんな事を考えて、すぐにかぶりを振った。僕らしくない考えがふと無意識のうちに浮かんでくるこの感覚は初の経験で、なんだか気味が悪い。「すみません、すみません」 何度も頭を下げてルスが平謝りし、延滞料金を支払った。今日は報酬をかなり多く貰えたので痛くも痒くもない額ではあったものの、待ち疲れて眠るリアンを腕に抱えて家に戻ろうとしているこの道中、ルスはずっと凹んだままでいる。 そんな嫁の横で、僕は義弟となったリアンをじっと観察していたのだが……ルスに取り憑いたおかげで得られた“知識”と、ここ数日分の“記憶”の中にあるリアンの姿と、今目の前に居る彼の容姿とが、どうも違う事が気になった。彼女の認識上のリアンは丸々と太った愛らしい子犬みたいな印象なのだが、実際彼女の腕の中で眠っているリアンは—— どう見ても、巨狼・フェンリルの赤ちゃんだ。 小さくとも、細長い体躯とアイスブルーと白い毛色、隠しきれぬ禍々しいオーラを微弱に纏う点や、狼の様な凛々しい顔立ちは過去に聞き齧った特徴と一致する。 フェンリルはドラゴンとも並ぶ程の希少種で滅多にお目にかかれない。喧嘩別れした知人の一人がドラゴン族だったが、それも随分と昔の話である。(という事は、ルスはフェンリルの獣人なのか?) 逃走時の彼女の様子を思い出す。 通常のオオカミや犬の獣人ならば納得出来るレベルではあったが、彼女までフェンリルだと仮定するにはあまりに運動能力が低い。奴らは好戦的で肉弾戦が得意な種族のはずだ。だけどルスは戦闘が得意な様には見えないし、コボルト達から逃げる時に獣化していなかった事を考えると、やはり違う気がする。既に得たルスの“知識”の中
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-26
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【第12話】記憶と朝食(スキア・談)

 “ひらがな”と“カタカナ”ってやつが均等に並んでいるボードを押している小さな指が“僕”の目に映った。安っぽい作りの、黄色くて四角いボタンをその指が押すと、文字が沢山並ぶボードから『あ』と機械音が発せられる。その音に合わせるみたいにして、今度は「…… あ」と小さな声が聞こえてきた。『い』 「……い」 『う』 「……うぅ」 『え』 「……え」 『お』 「……お」 ひたすら、聞こえた音を真似る子供の声が聞こえる。力無い声はとてもか細く、たまに咳き込んでもいる。そんな声だが、しんと静まり返った部屋の中では妙に響いて聞こえた。外は夜なのか、カーテンを閉め切っているのもあってか薄暗く、『音』を真似る子供の周囲にはサイズがバラバラな段ボールが沢山置いてある。中を覗いてみると、段ボールには同じ物が大量に入っていた。四十リットルと書かれたゴミ袋の束、洗剤、五十膳入りの割り箸が入る袋、ペットボトルの飲料水などなど。まだまだ色々多種多様な日用品が入り、そこかしこに積み重なっているみたいだが、食料になりそうな物は何も無い。栄養になりそうな物はせいぜい赤子用の粉ミルクの缶くらいだ。(こんなに同じ物ばかりあっても、消費しきれないだろうに) 業者か何かか?ってくらいに同じ物ばかりあってもどうするんだ?と不思議でならない。しかも大量の段ボールのせいで一部屋が完全に埋まっていて、本来の用途では使用出来ない程だ。だが、『音』を真似ている子供はそんな状態の部屋の隅っこに籠っている。隣にあるちょっとは広い居間よりも、箱に囲まれた狭い場所の方が安心するかのような縮こまり方で。『お・か・あ・さ・ん』 また機械音が聞こえてきた。だが、真似る子供の声は無かった。『お・か・あ・さ・ん』 再び機械音だけが聞こえた時、外の方から“自動車”って名前の乗り物が停まる音がした。子供が慌てて顔を上げ、ボサボサの髪を必死に手で整える。髪は自分で切ったのか、変な束が沢山出来ているし、年配の者が好みそうなブカブカの服を着ているせいで相当不恰好だ。そして何故かマーカーでも使ったみたいに顔が真っ黒に塗り潰されていて僕には認識出来ない。「んんっ!」と咳払いをし、子供は痩せ細って枝みたいな脚に力を入れてその場に立つと、窓の方へそっと近づき、カーテンの隙間から外を覗く。 数秒後。 落胆したかのように俯くと
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-05
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【第13話】食事をしながら——(スキア・談)

 貧相な朝食の間に、ルスが自分達の事を色々と教えてくれた。『会話』と言えるやり取りをしながら食事(と言うのも烏滸がましいが)をする機会が滅多に無いらしく、ついテンションが上がってしまったっぽい。——とは言っても、ルスは別に騒がしいタイプじゃないから、『ちょっとだけ、口数が多いな』くらいなものだった。(多少は言葉を理解してはいるみたいだが、まだ獣人化も出来ないリアンが相手じゃ、『会話』にはならないもんな) 話の内容としては、ルスが今は十八歳・リアンが一歳である事。異世界からスカウトされてこの世界に来た移住者であり、ヒーラーである事。一年前からこの世界で生活している事。ギルドから仕事を紹介してもらってはいるが、あまり収入が得られなくて食料を買う余裕も無かったからこんな感じの食事内容になってしまった事などを、訊いてもいないのに教えてくれた。一部知っている内容と多少の違いはあったが、まぁ今後の生活に支障はないだろう。 勝手に得たルスの“記憶”の一部を振り返ってみても、確かに毎食レタス・林檎・肉くらいしか食べていない。ひとまず肉と野菜と果物を食べておけば死なないだろうという魂胆が感じられるが、どう考えたってこれでは栄養不足だろ。成長期であるリアンも居るんだし、昨日の一件のおかげで収入面の改善は出来るだろうから、この先はもっとちゃんと栄養を考えて食事を用意してやらんと——(ってぇぇ!何真っ当な事を考えてんだ、僕は!) ……いやいや、こ、これは必要な優しさだ。上げて堕とす。その目的の為にもたっぷり優しくしてやるんだ。散々甘えさせ、贅沢をさせて金を使う癖もつけさせよう。今までずっと極貧生活だった分、『贅沢』という蜜の甘さにはそう簡単には抗えないはずだ。思いのまま欲しい物が手に入ると言う快楽に慣れていけば目の前の物を手に入れるためには何だってする様になるだろう。人間も魔物も獣人も、所詮は欲深い生き物なのだからな。「それにしても、異世界からの移住者ねぇ……」 「うん。最初の三ヶ月は教育期間を設けてくれて、この世界の事を勉強したりもしてたんだよ」 「異世界への転移魔法陣をそんなふうに使うとは……」 ——以前の僕は、“魔王”となった魔物に取り憑く前に、人間の魔法使いに取り憑いていた。 僕との契約により無尽蔵に使える魔力を得たことで、初代・魔塔主となった者だ。 そして今
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-09
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【第14話】昼寝・前編(ルス・談)

 今日はスキアからの提案と甘い誘惑に流されて、急遽お休みとなった。討伐ギルドから頂く仕事はほぼ全て単発のものなので、毎日行かねばならないものではないから支障はないのだが、この世界へ移住して来て、三ヶ月間の教育期間を経て以降、お休みだなんて初めての事だ。そのせいかちょっとソワソワとしてしまう。自分はすっかり仕事中毒状態だったのだと、約二百七十日ぶりに休んでみて初めて気が付いた。 この部屋の家賃は大家であるマリアンヌさんと町のご厚意により他の同等物件よりは安く済んではいるらしいものの、二人分の食費だ、リアンの保育代だと払っていくと、ワタシの収入では殆どお金が残らなかった。でもそれが当たり前だと思っていたので不平不満もなく九ヶ月もの間やってきたのだが、実は結構な額を中抜きされていた事が昨日の騒動でわかった。主にワタシを雇い入れてくれていたのはロイヤルさん達のパーティーだったので、別パーティーの方々にされていた分は、彼らがやっていた事を真似ていたといった感じだろう。毎日の貧相な食事内容の振り返ると、ちょっとは『あらま』と思ったが、終わった事だし、もういいか。(ギルドの方で不正分を回収してみるって言ってくれてはいたけど、ロイヤルさん達が見付からない事にはどうにもならないだろうしね)「こっちの掃除は終わったぞ」 リアンと遊んでくれつつ、弟の部屋の掃除していたスキアの作業が終わったみたいだ。ワタシが掃除をしていたキッチンとは違って、あの部屋は他と比べて物が多いから大変だっただろうに、彼は仕事が早い。「ありがとう」と礼を言ってそっと弟の部屋を覗くと、リアンは疲れたのか、ペットベッドの上で丸くなって寝ていた。すよすよと小さな寝息が聞こえてちょっと可愛い。 「玩具箱を持ちながら僕が走り回って、そこら中に落ちていた玩具のぬいぐるみをリアンが咥えて投げ入れる遊びをしながら片付けをしていたから、流石に疲れたみたいだな」 「……子供の扱い、慣れてるね」 「世の親達の行動を見様見真似でやっただけで、僕に隠し子はいないから安心していいぞ」 音を立てないように気を付けながら近づき、小さな布団をそっとリアンの体に掛けてやる。リアンの手形が沢山あった窓なんかも綺麗になっているから、スキアは随分と隅々まで掃除してくれたみたいだ。「このまま寝かせておくよな?」 「もちろん。寝る子は育
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-15
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【第15話】昼寝・後編(スキア・談)

 お姫様抱っこにも、背後からの添い寝にもルスは動じなかった。まるで小さな子供が父親に構ってもらった時程度の反応だ。仮にも『夫婦』という枠にある僕達でコレはマズイと思う。ただでさえ僕らは見た目の年齢に相当の開きがあるのに(中身を語り始めたらもっと酷い事になるので、その辺は割愛しておく)、このままの空気感ではただの親子だ。 過去歴代の憑依者達とは『夫婦』という関係を築いた相手は一人もいなかった。形だけの『弟子と師匠』や『参謀と上司』、近くてもせいぜい『義姉と義弟』くらいなものだったし、契約の印となる魔法陣を他人には見えない位置に刻んでやるみたいな気遣いが必要な者達でもなかった。だから過度な触れ合いも必要なかったから、『設定どおりの関係っぽく見せなければ』という配慮も不要だったのだ。 だが今回は違う。 印を刻んだ箇所が箇所なだけに、僕らが『夫婦』であるという『設定』は非常に重要なのだ。 とびきりの善人を探して厳選して約六年ぶりに得たこの肉体を維持するためには、僕らの契約印がルスの体に馴染むまでの間、毎日魔力を彼女の体に流して馴染ませ続けなければならない。完全に契約が済んでしまえばこっちのものなのだが、今のままでは、相手に逃げられると、僕は再び姿を持たない影でしかなくなるのだ。 だが、契約が完了してしまえば、契約者側から僕を切り捨てることは不可能となり、全ての“知識”と“記憶”を自在に覗けるようになる。あとはそこから弱みや欲望を探り当て、周囲に災いを蒔き散らしながら好き勝手に生きていくように堕落させていくという流れが毎度のパターンだ。(そのための行為であって、それ以上でも以下でもないんだが……) 僕の腕を、非力な力で目いっぱいルスが押してくる。眠そうだった瞼はすっかり開いていて、一旦は納得しかけたはずなのに、恥ずかしさが上回っているのか、ささやかな抵抗を試みているつもりのようだ。だけど体格差のせいもあってか赤ん坊が暴れる以上にルスは非力である。仮にも一応は獣人の形態を得はしてはいても、所詮は見た目だけに近いせいか、人間よりもちょっとだけ運動能力が優れている程度で、僕の拘束から逃げられるほどには有していないみたいだ。ヒーラー職の者達は総じて筋力に優れていない者が大多数であるから仕方がない事でもあるのだろう。「アンタがこれ以上の力を得るには、僕が契約印に触れて
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-21
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【第16話】善良な毒(スキア・談)

 ふっと意識を取り戻してまぶたを開くと、僕の腕の中でまだルスが眠っていた。 掛け布団の上でゴロンッと横なっていた状態だったから、きっと少し寒かったのだろう。温もりを求めて自ら進んで体を引っ付けてきたような体勢だ。仮眠開始時に腕枕をしてやってはいたが、ルスの頭は僕の二の腕にまで達していて、彼女の獣耳が顔に当たってちょっとくすぐったい。抱き合っているに近い体勢でもまだ少し寒いのか、もふっとしたアイスブルー色の大きな尻尾を自分達の上に掛けるみたいにしている。(あー……) かわいいな、このクソが。 好意的な感情で心が動かされるこの感覚が心底気持ち悪い。なのに自分からこの体勢を変える気にはどうしてもなれず、彼女の温かな後頭部に自ら顔を寄せた。 窓から差し込んでくる陽の光で頭部が温まっているからか、ルスの髪と小さな翻訳石を埋め込まれた獣耳はおひさまみたいな匂いがする。部屋で寛ぐだけなら充分な日差しだが、掛布も掛けずに眠るには少し寒いという半端な室温であった事に感謝したくなって、また胸の中にイラッとした感情を抱いた。 僕が僕じゃなくなるような、変な気分だ。 明らかにこれは、今までの契約者達とは全然違うタイプに取り憑いたことによる弊害だ。 僕は肉体を持たない、“意識”だけの存在であるがゆえに、取り憑いた相手の性質に本質を引っ張られやすい。これまでは、資質も思考も心さえも悪意の塊のような、自分と似た性質の者にばかり取り憑いてきたため、それでも何一つ問題はなかった。だが、根っからの善人であるルスが相手となると話は別だ。今回は、自滅するまで堕とし切るには時間制限があると考えたほうが良さそうだな。(完全に、僕の本質が彼女の色に染まる前にどうにかしないと) 現状を把握しようとしているうちに、だんだんと“ルス”と言う名の毒でも煽った様な気分になってきた。 コレはかなりの猛毒だ。侵食され切る前に彼女を堕落させられる事が出来ればいいが……。どうあがいたって堕落させるのが無理そうなら、いっそ早めに見切りを付けて契約を切ろう。 ——珍しく少し弱気になっていると、「……んっ」と小さな声をこぼしながらルスが身動きした。まだ眠気のせいで重たそうなまぶたをうっすらと開けて状況を確認しようとしている。「起きたか」 「あ、おはよう……」 少しかすれた声でそう言って、ルスが体をゆっ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-27
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【第17話】山猫亭①(スキア・談)

 昨夜は興味も薄かったから、この辺一体にある賃貸住宅群の大家が営んでいる料理店の店構えをよく見てはいなかった。ルスとリアンの借りている一号室からは徒歩十歩程度と言う好立地にも拘わらず、節約のためにと、一度も食事をした事がなかったせいで彼女から得た“記憶”の中でもこの店の様相はうろ覚えである。 そんな料理店の名前は『山猫亭』。何ともまぁ、店員からの注文の多そうな名前だ。名前に相応しく、小憎らしい目をした山猫の描かれた巨大な木製の看板が扉の上にドンッと飾ってあって結構目立つ。そんな絵に対して興味津々といった眼差しを向けるリアンの頭を軽く撫でてやりつつ扉を先に開け、ルスを店内へ先に入れてやった。「いらっしゃいませー!何名様かしらん?」 随分と、無理矢理甲高い声を出しています感の強い声が聞こえた。ここの大家は、厨房は他の者に任せて、自分は“ウェイトレス”をやっているらしいから、この声はきっとオーナーであるマリアンヌのものだろう。ルスの“記憶”から得ている大家の容姿は確か……黒髪で、背の高い妖艶な印象の美人だ。……だった、んだが……。(——おいっ、またか!)「あらーん!ルスちゃん、いらっしゃい!お昼時に顔を見せてくれるだなんて初めてじゃない?」 頑丈そうな腰をくねらせ、嬉しそうにマリアンヌがルスの方へ駆け寄って来る。最速で彼女の腰に手を回し、「丁度良いわ!今日こそはご飯食べて行って頂戴な!」と奥の方へ誘導していく。 「はい、ありがとうございます」 嬉しそうに答え、されるがまま席に案内されていくルスについて行くと、四人掛けの席に着いた。一切声を掛けられてはいないが、一応僕の存在も認識はしているらしい。「すぐにリアンちゃんの椅子も持ってくるわね!メニューを見て待っていて」 「はい、ありがとうございます」 定型文しか話せない玩具みたいに先程と同じ言葉を口にし、ルスが椅子に腰掛ける。僕は彼女の向かい側に座ると、丁度リアン用の子供椅子をマリアンヌが軽々と片手で持って戻って来た。「はーい、リアンちゃんはこちらに座りまちょうねぇ」 微妙に赤ちゃん言葉を使いながらマリアンヌがリアンに声を掛けると、彼も慣れた様子で子供用の椅子の方へ飛び移った。首周りからの温かなモフッと感が急に消え、少し寂しい気持ちに。「さて、何がいいかしらん?まずはドリンクでもどう?サービスし
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-29
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【第18話】山猫亭②(スキア・談)

「外にある掲示板を見て来たんだが、ここの大家と話は出来るかな?」 丁度昼時で食事をしに来ている客でごった返している店内を、真っ黒なマントで身を包んでいる男が堂々と横切っていく。身長と声からするとまだ少年の様だ。いかにもなとんがり帽子を頭に深くかぶり、手には外にある掲示板に貼ってあったであろう“空き部屋情報”の書かれた紙を持っている。そのまま持ち歩くには大きなサイズのものだからか、ぐるっと筒状にしているが、よくまぁあれを剥がして持って行こうって気になったものだ。「オーナー!賃貸の件での要件があるって方が来てますけど、奥の席にご案内しておいてもいいですか?」 ホール担当の女性が厨房に戻っていたマリアンヌに声を掛ける。彼がした『OK』の合図を見て、「こちらの方でお待ちいただけますか?」と店員が声を掛け、全身真っ黒な少年風の男が僕達の座っている席の方へ案内されて来た。「何か飲み物でもお持ちしましょうか?有料ですけど」 「じゃあ、オレンジ……いや、ホットコーヒーをブラックで!」 「ホットコーヒーですね。今は丁度忙しい時間なのでオーナーとお話するには結構待って頂く事になると思うんですけど、お時間は問題ないですか?」 「あぁ、問題ない」 不遜な態度でそう言うと、少年と思われる男は案内された席に座ろうとした。が、ちらっとこちらの席に視線をやったかと思うと、とんがり帽子とマントの隙間から少しだけ見えている顔を真っ赤に染めて、急にルスの方へぬっと腕を伸ばし、彼女の手を勝手に握った。「君!——ボクの、嫁にならないか?」 「はぁぁぁぁぁ⁉︎」 少年の声とほぼ同時に叫んだのは、夫(仮)である僕ではなくて、厨房からリアンのための料理を運んで来たマリアンヌの方だった。その隙に僕は少年の手を叩き落としてルスの隣に席を移し、彼女の肩を抱いて自分の方へ、これ見よがしに抱き寄せておく。愛情の伴っていない仮初の夫婦であろうが、夫婦は夫婦だ。憑依先でもあるルスを盗られまいと少年の顔をキッと睨む。「ちょ!そっちもそっちで何やってんのよ!」 怒った猫みたいに毛を逆立ててマリアンヌが怒っている。高身長のせいか、『山猫亭』という店名と同じヤマネコが怒っているみたいにも見えた。「あ、リアンちゃんのご飯持って来まちたよぉ」 急に声を甲高くしてそう言うと、マリアンヌは持っていた大皿
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-02-02
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【第19話】山猫亭③(スキア・談)

「はぁぁぁぁぁぁ⁉︎」 店内どころか、外にまで聞こえそうな声をマリアンヌがあげた。彼自身がこの店や周辺一体のオーナーでもなければ通報モノの大声だ。“男”丸出しの低い声だったからか、彼を“彼女”だと認識していたルスがかなり驚き、僕の履いているスラックスの太腿部分をぎゅっと掴んでくる。その甘えがちょっと嬉しいなと思っている自分に喝を入れつつ、「その夫です」と宣言して僕は軽く手を挙げてみた。「最初から『誰だ?コイツ』とは思ってはいたけど、ま、ま、まさか、一番有り得ないだろうと思った答えだったなんて…… 」 愛どころか恋すら理解していなさそうな(実際問題、マジで理解していないのだが)くらいに幼い容姿をしたルスの連れが、こんなオッサンでは確かに一番予想しない関係性だろう。しかも昨日まではこの町に居なかった、急に降って湧いた存在だし、当然か。「……あ、詐欺?詐欺ね?結婚詐欺。『お金あげるから結婚しろ』って言われて『うん』って答えちゃったんじゃないの?ルスちゃん!」 結婚詐欺としては辻褄の合わぬ内容を早口でまくし立て、僕の腕の中に綺麗に収まったままになっているルスの方へ、ぬっと筋肉質な腕を伸ばし、マリアンヌが彼女の右手をぎゅっと掴んだ。「お金なら私がいくらでもあげるから、そっちじゃなくて、私と結婚しときましょ!」 ごつい体型の顔だけ美人が、叫ぶわ半泣きだわでもう、この席周辺だけ完全に地獄絵図である。何故僕は、この短時間の間に二度も嫁(仮)が求婚を受ける様子を目にせねばならんのだ。愛情ありきで結婚したわけではなくても不愉快極まりない。「まさか、この色香に惑わされたの⁉︎駄目、絶対!こういうタイプの男はどこに行っても散々モテまくって浮気し放題よ!釣った魚には餌もやらず、ルスちゃんが浮気を責めたら『お前は黙って家に居ればいいんだ、面倒臭い奴め』って自分の行為を棚上げしてくるに決まってるんだからっ」 散々な言われ様だが、僕のこの容姿を充分評価しているみたいだ。五十代くらいのオッサンである点を除けば、彫りの深い目鼻立ちや少し垂れ目がちなのに意志の強そうな印象のある青鈍色の瞳、シミのない艶やかな肌質や、後ろにただ流しただけなのに様になる髪質などはかなりの高得点をつけられるものがあるので、マリアンヌが警戒心を丸出しにするのも納得である。「ルスちゃんみたいに純粋無垢な子には
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-02-04
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