結婚して十年。その人は夫でありながら、私は彼を息子の葬儀に参列させない。理由は――息子が亡くなる前に残した三つの願い。一つ目。「今はまだ……パパに僕のことを言わないで。パパが悲しむから」二つ目。「最後の誕生日、僕の一番好きな料理を作ってほしい。それを食べながら、パパと一緒に過ごしたい」三つ目。「もしパパが来なかったら……絶対に、絶対に、絶対に、あの人を僕のお墓に近づけないで」だから息子が息を引き取ったあと、外でどれだけ激しい雨が降ろうとも、その人の目が真っ赤に腫れて震えていようとも、どれほど声が枯れるほど泣き叫んでいようとも――私は決して、息子に一歩たりとも近づかせなかった。三日前。鷹見隼斗(たかみ はやと)は、藤崎皓月(ふじさき こうげつ)母子と夜通し花火をして祝った帰りに、新品のランドセルを息子に買ってきた。息子の誕生日に戻って来なかったことへの「埋め合わせ」として。私が涙を浮かべたのを見て、彼は眉をひそめた。「たかが一回の誕生日だろう。次にちゃんとすればいいだけじゃないか?」そのとき、彼はまだ知らなかった。私たちの七歳の息子は、喘息で亡くなり、もう二度と入学の日を迎えることはないということを。……遺品を整理し終え、私は死亡診断書を持って病院院長のサインをもらいに行った。三階の個室病室。半開きのドアの隙間から、私は数日行方をくらませていた隼斗の姿を見た。「鷹見さん、藤崎さんは……ただ少し擦りむいただけですよね?もう五日も付き添ってるんです。本当に帰らなくていいんですか?奥さん、この数日何度もこちらに来てましたよ。鷹見さんの指示通り、一度も会わせませんでしたが、何度か……奥さん、膝をついてお願いしてました。息子を、見に来てほしいって。こんなふうにして、本当にいいんですか?」側にいた同行スタッフの青年佐藤(さとう)は、気まずそうな表情で言った。隼斗の表情は変わらない。ただ、私が膝をついたという言葉のところで、ほんの僅かに唇を動かした。迷惑そうに。しかしすぐに、ベッドで眠る若い女性を見ると、彼の声は揺らぎなくなった。「皓月は離婚したばかりで不安定なんだ。今は側にいて支える必要がある」「そして、柚羽(ゆずは)のことだが……」彼はほんの少し間を置いた。「俺があの人と結婚した理由は、家の
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