部屋の中、扉にもたれて座っていた隼斗は、その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にわずかに浮かんだ申し訳なさが、一瞬で消え失せた。信じられないというように頭を抱え、自分がこんな人のために、何度も妻と子供を傷つけてきたなんて……と、思うことすら恐ろしくなっていた。彼はうつむいたまま沈黙し、まるで石像のように動かず、部屋いっぱいの罪悪感に飲み込まれていた。翌日、隼斗は準備した肉や米、小麦粉をリュックに詰め、帰る支度を整えていた。そのとき、皓月が突然飛び出してきた。智也が学校で同級生の新しいランドセルを奪い、さらに告げ口したら殴ると言い放ったらしい。新しい学校では、誰も智也を甘やかしたりしなかった。同級生たちは口々にその時の状況を先生に話した。先生はすぐに判断した。このままでは智也を受け入れられない。保護者が連れて帰るように、と。皓月は話を聞くや否や、すぐに隼斗のもとへ向かった。隼斗の立場で事態を収めてほしいと頼み込んだ。だが、隼斗はまるで別人のようだ。すべてを聞き終えたあと、静かに言った。「学校には学校の決まりがある。俺には口を挟めない」皓月は彼の手を強く握りしめ、目元が赤く染まった。「隼斗さん……お願い、助けてよ……あなたしか頼れないの……智也が退学になったら……この子の人生は終わりよ。これから私たち母子、どうすれば生きていけるの?隼斗さん……お願い……今回だけでいい、あなたが助けてくれれば、私……あなたが望むこと、何だってする……」涙に濡れた瞳で懇願する皓月を見ながら、隼斗の胸の奥に、苛立つような熱が湧き上がった。――そうだ。彼女はいつも、涙で同情心を引き出し、自分を惑わせ、何度も家族である柚羽と陽太を置き去りにさせた。それは、柚羽と正反対だ。記憶の中の柚羽は、どんな時でも「大丈夫。どんな困難でも乗り越えられるよ」と言いながら笑っていた。柚羽はいつだって、明るい太陽のようだった。あの日までは。陽太がいなくなる、その日までは。その想いが胸を刺した瞬間、隼斗の表情はすっと冷えた。「間違えたなら、罰を受けるべきだ。この件に俺は関わらない。……そしてこれから、智也のことにももう口を出さない」それだけ言うと、彼は振り返りもせず車に乗り込んだ。――今の彼には、どうしても柚羽に会いたかった。
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