さよならを手紙にかえて의 모든 챕터: 챕터 11 - 챕터 18

18 챕터

第11話

律はアクセルを思い切り踏み込み、家まで猛スピードで車を走らせた。玄関に飛び込むと、血の付いた服を脱ぐ暇もなく、秘書の手から書類と感謝状を奪い取った。その感謝状に書かれた時間も場所も、十五年前、自分が川に落ちた時のものと完全に一致していた。律は震える手で携帯を取り出し、感謝状を発行した警察署に電話をかけた。電話がつながるまでの間、自分の心臓が止まってしまったかのような気がした。プルル……やがて電話がつながる。自分の声がかすれ、震えているのがわかった。「お尋ねしたいことがあるんですが、十五年前に人命救助の感謝状を出されたことはありますか?」電話口の警官はキーボードを叩き、すぐに答えた。「覚えてますよ。あれは私が直接渡したんです。小学生の女の子でしたけど、本当に勇敢でしたね。助けたのは財閥のご子息だと聞いてます。最近テレビで見たけど……なんて名前だったかな」律は手のひらに爪が食い込み、血が滲む。「……神宮寺律」「ああ、それそれ!その名前!」律の頭は一瞬で真っ白になった。まさか――命の恩人はずっと身近にいたのに、自分はずっと別の人間だと信じ込んでいたなんて。律は奥歯を強く噛みしめ、鉄の味がじわりと口内に広がった。電話を切ったあと、視界が暗く揺らぎはじめ、家の見慣れた家具でさえ影がにじんで見えた。「……っ」自分のこめかみを拳で乱暴に叩き、どうにか意識をつなぎ止めて書類を手に取る。だが、その内容を目にした瞬間――全身の力が抜け、そのまま床に崩れ落ちた。書類の束が空中でふわりと舞い、散らばった白い紙の上に、律が一日中こらえ込んでいた血が勢いよく吐き出され、鮮やかな赤で染めていく。律は身体を折り畳むようにうずくまり、身体中がえぐられるように痛み、悔しさと後悔が混じった涙が血に混ざって床を濡らしていく。楓は、最初から自分なんて愛していなかった――なのに自分は、気づけばどうしようもないほど深く彼女を愛してしまっていた。どうすればいい。この先、何を拠り所に生きればいい――深夜、律はひとり冷たい床に倒れ込んだまま、どれほどの時間が過ぎたのかさえ分からなかった。ただ、胸の奥で荒れ狂う痛みだけが、終わりなく律を責め立てる。やがて、ゆっくりと目を開けたとき、その黒い瞳の奥には、嵐のような決意が渦巻いていた。「楓……」
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第12話

リヴィエール。楓――いや、今はもう「滝川遥」だ。彼女はオートクチュールのドレスに身を包み、オークションで手に入れたばかりのピンクダイヤのネックレスをつけて、ダイニングテーブルの前にぼんやりと座っていた。グラスの赤ワインを見つめながら、心ここにあらずになる。まるで夢みたいだった。一ヶ月前までは地獄にいた自分が、今はヨーロッパ風の大きな別荘で、世界に十本しかないワインを飲んでいるなんて。父親は自分に対する罪悪感から、考えられる限りの贅沢を惜しみなく与え、失った年月を一気に埋めようとしている。あの日、飛行機を降りた直後、リムジンで郊外の別荘へ連れて行かれた。薄暗い別荘の中、わずかなキャンドルの明かりだけが揺れていた。ベッドには老いた男性が横たわっている。痩せた手で楓の手を握りしめた。「君が遥だね。私は君の父親だ」遥は少し気まずそうに手を引っ込めた。たとえこの男が自分を苦しみから救い出してくれたとしても、もし彼が母を冷たく捨てなければ、今のような人生を歩むことはなかっただろう。ようやく地獄のような日々から抜け出したばかりなのに、今度はまた自分を捨てたこの男を、すぐに信じられるほど、子どもじゃなかった。同時に、この男をすぐに許せるほど、心の準備もできていない。だが、父親の滝川恒一(たきがわ こういち)は深いため息をつき、ゆっくりと口を開いた。「この何年も、君と君のお母さんを捨てたことを後悔してきた。実はどうしようもない事情があったんだ。極秘の研究プロジェクトで、何年も外に出られず、連絡もできなかった。君やお母さんに空虚な生活をさせるのが耐えられなくて、相談のうえで離婚した。だが、やっと研究室から出られたときには、君のお母さんはもう亡くなっていた。急いで君を迎えに行こうとしたが、またプロジェクトが始まり、何年も出られなかった。ようやく全部終わったと思ったら、今度は長年の放射線被曝でがんになってしまった。これが自分への罰なんだと思ってる……」ベッドに横たわる父親は、苦笑いを浮かべながら遥を見つめた。その瞳には、尽きることのない後悔と罪悪感がにじんでいた。「遥……お前に許してもらおうなんて思っていない。ただ、私の遺産を受け取って、これからの人生を幸せに生きてほしいんだ」遥の目に涙があふれた。これまで何度も心
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第13話

ウェディングドレスショップ。遥は、鏡の中に映る純白のドレス姿の自分を見つめていた。シンプルなデザインのドレスに、首にはパールのネックレスだけ。その姿はどこまでも純粋で、神聖さすら感じさせる。ふと、初めて結婚したときのことを思い出した。あの時も、同じように鏡の前でウェディングドレスを着ていた。だけど、あの頃と今とでは心境がまるで違う。当時は「三年後、悠真と幸せになれるかもしれない」そんな淡い期待と高揚感が少しはあった。今の自分にはもう、そんな気持ちは一切なかった。ただ苦笑いがこぼれる。過去の自分が、まさか二度目の結婚をこんな心で迎えるなんて、きっと想像もできなかっただろう。胸の中は冷え切っていて、結婚を控えた女性らしい浮き立つ気持ちなんて、どこにもなかった。店員たちが息をのむ声が耳に入る。「滝川さん、本当にお美しいです」「一体どんな人が、あなたの旦那さんになるんでしょうね」遥は振り向き、淡々と言う。「これでお願いします」試着室に向かい、ドレスを脱ごうとしたそのとき、隣のドアが急に開いた。中から出てきたのは、黒いオーダースーツに身を包んだ男。仕立ての良いスーツに包まれた体は、無駄な肉ひとつなく鍛えられていて、星空のように澄んだ黒い瞳が印象的だった。あまりに見とれてしまい、遥は慌てて目をそらした。男は口元に微笑みを浮かべ、低くてよく響く声で言う。「お嬢さん、俺と駆け落ちしない?」遥は信じられないものを見るように顔を上げ、目の前の、初対面でいきなり駆け落ちを提案してきた男を呆然と見つめた。最初に感じた新鮮なときめきも、一瞬で吹き飛んでしまった。遥は表情を曇らせ、低い声で言った。「結構です」ウェディングドレスショップを出たあと、遥は家に帰らず、まっすぐバーへ向かった。この三年間ずっと我慢ばかりしてきた。新しい国に来てからも、色々なプレッシャーに押しつぶされそうだった。今だけは、何もかも忘れて解放されたかった。バーの中は音楽が耳をつんざくほど大音量で鳴り響いていた。遥はカウンターにもたれ、グラスの酒を一気に飲み干した。苦味が胸の奥にまでしみわたる。そのとき、昼間ウェディングドレスショップで出会った男がまた現れる。「一杯どう?」遥は半分眠そうに男を見上げる。「つけてきたの?」
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第14話

朝の光が遥の顔に降り注いでいた。ぼんやりと目を開けると、自分が何も着ていないことに気づく。腰に感じる見知らぬ心地よさと温もりで、一気に目が覚めた。隣の男はまだ眠っている。全身がまるでバラバラにされたあと組み立て直されたように痛い。脚を少し動かせば、太ももの付け根がしっかりと掴まれていた感触が蘇る。遥は思わず目をつむった。相手の名前も知らないのに一夜をともにしたなんて、ほんとにお酒のせいだ。慌てて服を拾い、そっと部屋を出る。男が目を覚ます前にこの場から離れなくては、と足早に立ち去った。だが、彼女が去った直後、男は静かに目を開け、優しい眼差しで去っていく後ろ姿を見送っていた。あっという間に、結婚式の日がやってきた。遥は披露宴会場の外で待機しながら、目の前の扉をぼんやりと見つめていた。前にこの場所に立った時、扉の向こうにいたのは律だった。そのとき、心のどこかで「いつかこの扉の向こうには悠真がいてくれるかもしれない」と夢見ていた。でも今、扉の向こうに誰がいるのか、顔すら知らない。苦笑いを浮かべ、混乱した思考を振り払う。音楽が流れ出し、扉がゆっくりと開き、父・恒一がしっかりと手を握って歩き出す。老いてはいるが、頼りがいのある父の横顔を見て、少しだけ心がほぐれる。今回の結婚も望んだものではない。けれど、父がそばにいるだけでまだ救われる気がした。親族や招待客たちが一斉に視線を向けてくる。「まさか滝川会長の娘さんが、こんなに綺麗だったとは」「新郎の橘(たちばな)さんも素晴らしい人だし、皆がどんな人が彼女の相手になるか気にしてたけど、これで安心だね」「でも、遥さんって一度結婚して離婚してるって噂だよ」小さな声もはっきりと聞こえる。遥は眉をひそめるが、誰かがその言葉をさえぎった。「俺の花嫁に、余計なことを言わないでくれ」聞き覚えのある声に遥の心臓が大きく跳ねる。顔を上げると、バージンロードの先にいたのは、あの一夜をともにした男だった。数日前に「駆け落ちしない?」なんて冗談を言い、あの夜、自分と関係を持った男――遥の頬はチークで赤いはずなのに、さらに真っ赤に染まった。それは恥ずかしさじゃなく、悔しさと怒りのせいだった。この男は本当に意地悪だ。彼女が誰かを知っているくせに、わざわ
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第15話

家に帰ろう?遥は、その言葉に一瞬ぼうっとした。この十年間、遥には「家」と呼べる場所なんてなかった。桜庭家も、神宮寺家も――どこも、彼女を温かく迎え入れてくれる本当の家ではなかった。家族を名乗る人間たちは、むしろ「家族」の名のもとに彼女を傷つけてきた。会場がざわつき始める。「今のって、神宮寺家の律さん?今は神宮寺グループの社長で、遥さんの元夫」「まさか、これって結婚式を乗っ取るつもりじゃ……?」海斗の表情から、初めて笑みが消えた。彼は一歩前に出て、遥の前に立ちはだかる。「警備員、この男を外へ」警備員たちが一斉に会場へなだれ込んで、律を取り囲んだ。律は鋭い目で海斗を睨みつける。その一瞬で、無言の火花が二人の間を走る。遥はようやく我に返り、ボロボロの律を見て、心の奥で言葉にできない切なさが広がった。「律、何しに来たの?あなたに渡した書類を読んだなら、もう全部分かったはず。私は……あなたを愛したことなんて、一度もない」律はすべてを知っていたはずなのに、その事実を遥の口から聞いた瞬間、ひときわ大きく肩を震わせた。何度も夢に見た相手が目の前にいる。律は衝動的に一歩踏み出し、かすれた声で言う。「信じるもんか。たとえお前が俺を愛していなくても、俺はお前を愛してる」「……何度言えば分かるの。私は、あなたを愛したことなんてないし、これからも絶対に愛することはない」遥は律の目をまっすぐ見て、ひとことひとこと、はっきりと突き刺した。「でも、お前は俺の命の恩人なんだ。恩返しすらさせてくれないのか?」律の声は、今にも壊れそうなほど弱々しかった。でも、遥はただ静かに言った。「律、あなたは人違いの恩返しのために、私にたくさん残酷なことをしてきた。今度は私に恩返しするって言って、また誰かを傷つけようとするの?そんな恩返し、私は望んでいない」律の顔色はさらに真っ青になり、必死に言葉を重ねた。「違うんだ、楓、全部美波……いや、あの女のせいなんだ!全部あの女に騙されてた。でも、今日はちゃんと連れてきた。過去の苦しみも、全部復讐できるようにした」その言葉の直後、美波が引きずられて会場中央に投げ出された。これまでの気の強さは消え失せ、腕を抱えて震えている。「私、もう悪いことしないから、ごめんなさい、本当にごめんなさい…
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第16話

床に倒れた男は、もう以前のような穏やかで優しい雰囲気など微塵もなかった。いや、あれはもともと作り物だったのだ。ただあの頃の遥は幼く、人の二面性を見抜けなかっただけ。遥は、震え上がる悠真を見下ろしながら、不思議なほど心が静かだった。――なんだ。悠真なんて、ただの普通の人間だったんだ。自分が勝手に、愛という幻想で彼を神格化していただけ。今振り返れば、なんて滑稽だったのだろう。遥は深く息を吸った。「いいよ。あなたと一緒に行く。ただし……半月だけ。半月経ったら、私を元の場所に戻して」会場中が一斉に息を呑んだ。律は目を細めて、歯を食いしばりながら低く言った。「……そんなに、あいつが好きなのか」海斗が素早く遥の腕をつかむ。「遥、行くな。僕が君を守る」遥は彼の腕をそっとたたき、微笑んでみせた。だが海斗に背を向けた瞬間、その微笑みはすっと消え、冷たさだけが残る。「いいえ。あの人はもう好きじゃない。だから私は海外に来てるし、今日だって別の人と結婚しようとしてる」遥は冷静に続けた。「ただね……今日私が行かなかったら、あなたは何をしでかすか分からない。だったら、早く終わらせるだけ」遥は父に安心するよう声をかけ、海斗を振り返り、その唇は無言のメッセージを形作っていた――お父さんをお願い。すぐ戻るから。海斗は葛藤しながら遥を見つめていたが、結局は彼女の決意を尊重するしかなかった。遥はゆっくり階段を降り、律が構えた銃口に手を伸ばし、下へ押し下げた。「行こう」……律は自ら操縦するプライベートジェットで遥を連れ出し、人気のない孤島へ降り立った。飛行機から降りた瞬間、律は濡れた子犬のように遥を抱きしめた。まるで、恋に狂った恋人同士のように見えた。だが二人だけが、この間に横たわる深い溝を知っていた。「これでようやく、誰にも邪魔されずにいられる。ここは……お前と俺だけしか知らない場所だ」遥は顔をこわばらせ、律を引き剥がそうともがく。しかし律は必死に抱き締め、逃がす隙を与えない。「あなた、半月経ったら私を戻すって約束したよね」律はその腕にさらに力を込めた。遥を自分の中に埋め込むような強さで。「楓……行かないで。お願いだ」こんなに卑屈な律の声を、遥は初めて聞いた。だが、彼女の心は微動だにしなかった。「ここにはもう、私
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第17話

遥は、目の前で血まみれになっている律から視線をそらした。自分の声が、驚くほど平静なのがわかった。「……でも、私が受けた傷は、あなたが自分を傷つけたところで消えないよ」律の身体からは絶えず血が流れ、床は真っ赤に染まっていた。それでも彼は、まるで痛みを感じないかのように低く言う。「どうしたら、許してくれる?」遥は淡々と答えた。「……きれいに終わりにしましょう。律」その日を境に、律はまるで何もなかったかのように――いや、それ以上に狂ったように遥へ尽くし始めた。かつて遥は、律のために自分の嫌いなことまで必死に覚え、努力し続けていた。だが今、立場は完全に逆転していた。遥は静かな時間を好む。律は何十億のプロジェクトをも投げ捨て、一日中何もせず、ただ遥の横で黙って海を眺めた。遥はお茶を好む。彼は毎朝、山に登って自分で新芽を摘み、丁寧に煎れた。遥は魚を好む。律は炎天下の海で、黙々と釣り続けた。その姿を見て遥は、胸が痛くなるような気持ちになった。昔の私は、こんなふうに見えていたのか。可哀想で、哀れで、ひたすら自分をすり減らして。そして今、遥ははっきり理解した。こんな関係では、永遠にうまくいかない。恋愛は「対等」でなければ成立しない。どちらか片方だけが尽くし続ければ、残るのは崩壊だけだ。律の傷が少し良くなった頃、彼は遥を海辺へ連れ出し、一本のロープを手渡した。深くて、切ないほど真剣な目で遥を見つめながら言う。「前に俺は……お前が高所恐怖症だと知りながら、無理やり屋上に吊るして、丸一日苦しめた。だから今度は、俺の命をお前に預ける。それに……この命はもともとお前がくれたものだしね」言い終えるやいなや、遥が止める暇もなく、律は自分の身体に大きな石を縛りつけ、海へ飛び込んだ。重りは凄まじい勢いで律の身体を海底へ引きずり込む。十五年前――遥が救った少年。その少年が律だったからこそ、彼がどれほど水を恐れているか遥は知っていた。三年の結婚生活の間、一度たりとも律が海に近づくところを見たことがない。そんな律が、いま自ら海へ飛び込んだ。時間が一秒、また一秒と過ぎていく。静まり返った海面に、ぽつりと波紋が広がった。律が水中で必死にもがいている証だった。氷のように冷たい海水が、律の耳、鼻、口……から容赦なく流れ込み、幼い頃に溺れた記
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第18話

半月の約束はあっという間に訪れた。だが、律は遥を帰す気などまったくなかった。遥の忍耐はとっくに尽きていた。もうこの狂った男の「やり直しごっこ」に付き合う気力など残っていない。15日目の零時ちょうど。遥は待ちきれないように律の寝室のドアを開けた。室内では、律が遥の写真を手に、溺れるような声でつぶやいていた。「……楓」もう片方の手は、盛り上がった下腹部を激しく動かしている。遥が立っていることに気づいた瞬間、律の目が異様なほど輝いた。「遥……許してくれたのか?」しかし遥は、表情ひとつ動かさず言った。「十五日が終わった。約束どおり、帰して」律の動きが止まった。瞳の光が急速にしぼんでいく。「……この十五日間……少しも俺に心を動かさなかったのか?」心を動かす?遥は鼻で笑いながら答える。「あなたが私を傷つけた時、一度でも心を痛めたことある?」律はうつむき、乱れた前髪が徐々に狂気を帯びていく表情を隠していた。「……そうか。もう寝よう。明日、ここを出よう」翌朝。律は約束どおり、遥を飛行機に乗せ、来たときと同じように、静かに島を離れた。滝川家の庭に足を踏み入れるまで、遥は信じられない気持ちだった。つい昨日まであれほど狂気に満ちていた律が、まるで別人のように穏やかだったからだ。屋敷に入る前、遥はふと足を止め、振り返った。「……もう二度と会わないで。あなたの幸せを祈ってる」律は静かに笑った。「楓、お前を手放せるわけがない」してやったりというように飛行機の後部ドアを開けた。中には――びっしりと、時限爆弾が並んでいた。律の瞳に宿るのは、狂気と執着の混ざった光。「楓……俺と一緒にいてくれないなら……一緒に死のう。お前のいない世界なんて、俺には無理だ」遥はその場で固まった。その背後から、恒一と海斗が駆け寄ってきた。今度こそ二人とも、遥を見捨てて逃げることはなかった。恒一と海斗は遥の手を左右から握った。「大丈夫だ。一緒だからな」でも遥は、自分のせいで父が死ぬなんて、とても耐えられなかった。胸が引き裂かれるような痛みの中で、ふいに笑みがこぼれる。きっと、これが自分の運命なのだ。幸せになんてなれない、そう決まっているのだろう。彼女はすべてを受け入れた。父の手を振り払うと、律のもとへと駆けだした。こ
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