律はアクセルを思い切り踏み込み、家まで猛スピードで車を走らせた。玄関に飛び込むと、血の付いた服を脱ぐ暇もなく、秘書の手から書類と感謝状を奪い取った。その感謝状に書かれた時間も場所も、十五年前、自分が川に落ちた時のものと完全に一致していた。律は震える手で携帯を取り出し、感謝状を発行した警察署に電話をかけた。電話がつながるまでの間、自分の心臓が止まってしまったかのような気がした。プルル……やがて電話がつながる。自分の声がかすれ、震えているのがわかった。「お尋ねしたいことがあるんですが、十五年前に人命救助の感謝状を出されたことはありますか?」電話口の警官はキーボードを叩き、すぐに答えた。「覚えてますよ。あれは私が直接渡したんです。小学生の女の子でしたけど、本当に勇敢でしたね。助けたのは財閥のご子息だと聞いてます。最近テレビで見たけど……なんて名前だったかな」律は手のひらに爪が食い込み、血が滲む。「……神宮寺律」「ああ、それそれ!その名前!」律の頭は一瞬で真っ白になった。まさか――命の恩人はずっと身近にいたのに、自分はずっと別の人間だと信じ込んでいたなんて。律は奥歯を強く噛みしめ、鉄の味がじわりと口内に広がった。電話を切ったあと、視界が暗く揺らぎはじめ、家の見慣れた家具でさえ影がにじんで見えた。「……っ」自分のこめかみを拳で乱暴に叩き、どうにか意識をつなぎ止めて書類を手に取る。だが、その内容を目にした瞬間――全身の力が抜け、そのまま床に崩れ落ちた。書類の束が空中でふわりと舞い、散らばった白い紙の上に、律が一日中こらえ込んでいた血が勢いよく吐き出され、鮮やかな赤で染めていく。律は身体を折り畳むようにうずくまり、身体中がえぐられるように痛み、悔しさと後悔が混じった涙が血に混ざって床を濡らしていく。楓は、最初から自分なんて愛していなかった――なのに自分は、気づけばどうしようもないほど深く彼女を愛してしまっていた。どうすればいい。この先、何を拠り所に生きればいい――深夜、律はひとり冷たい床に倒れ込んだまま、どれほどの時間が過ぎたのかさえ分からなかった。ただ、胸の奥で荒れ狂う痛みだけが、終わりなく律を責め立てる。やがて、ゆっくりと目を開けたとき、その黒い瞳の奥には、嵐のような決意が渦巻いていた。「楓……」
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