名前を呼ばれた少女が顔をあげる。前髪の隙間から夜の訪れを告げるアメジストがばっちりとマリックを捕えた。 「ミア! 本当にミアなのか?」 ――どうしてこんなところに。信じられない。夢でも見ているのだろうか。 マリックが駆け寄ると少女はホッと安堵したように肩を下げた。そのやわらかな笑みはたしかにミアのものだ。 マリックはただ衝動のままにミアを抱き寄せた。ぎゅっと彼女の背に手を回せば、ミアもまた控えめにマリックの背に手を回す。マリックを労わるような優しい手つきで彼女は二度、三度とマリックの背を撫でた。 「会いたかった」 マリックの心からの想いに応えるようにミアが腕の中でかすかにたじろいだ。背中に回っていた彼女の腕が離れ、決して強くはない力でマリックの胸元を押す。マリックはそれを合図に体を離した。名残惜しいがミアの嫌がることはしたくない。それに。離れたほうがミアの顔がよく見える。 「どうしてここに」 マリックはようやくそこで疑問を口にした。ミアはまだ抱擁されたことへの恥じらいがあるのか俯いたまま小さな声で答える。 「マリック王子がおひとりで残られていると従者の方がお話されているのをお聞きして」 いても立ってもいられなくなったとミアは付け足して苦笑する。 「私のせいで、ごめんなさい」 「いや。ミアのせいなど……! ただ俺がそうしたかっただけだ」 ミアの謝罪をかき消すように精一杯強がる。だが、マリックの態度を見てもミアは申し訳なさそうな顔を崩さない。本当に自分のことを責めているらしかった。 マリックはできるだけ丁寧な手つきで彼女の頭を撫で、絹のようにサ
最終更新日 : 2026-01-01 続きを読む