Todos los capítulos de 再会した元カレ上司は、私の愛娘の父親でした: Capítulo 1031 - Capítulo 1040

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第1031話

少し考えたあと、遥は瑛太を真由美に預けた。「お母さん、ちょっと抱っこお願いしてもいいですか?湊に電話してみます」真由美も気になっていたのか、瑛太を受け取ると、何も言わず遥に視線を向けた。呼び出し音が鳴る間もなく、湊が電話に出た。「あと会議二つだけだから。終わったら帰る」「蓮さんのこと、どうなってるの?」「家のことで揉めて、海に飛び込んだだけだよ。大丈夫。あの辺は昔、あいつとよく行ってたし、念のため人も手配してある。何かあってもすぐ動ける」湊の話を聞いて、遥もようやく表情を緩めた。蓮は何の備えもなく海へ飛び込んだわけではなかった。とはいえ、ずいぶん無茶なやり方だった。「なんだ。心配しすぎたみたい」遥は苦笑した。瑛太が生まれてから、遥は前より心配性になっていた。以前なら気にせず流せたようなことでも、今はつい悪いほうまで考えてしまう。電話の向こうで物音がしたかと思うと、今度は湊が健太に残りの仕事を指示する声が聞こえてきた。「まだ会議あるんじゃないの?」「もういい。今日は帰る」残っている会議は、担当の責任者に任せておけば十分だった。湊がいなくても、別に困ることはなかった。それなら株主たちと会議室で顔を突き合わせているより、さっさと帰って瑛太の相手をするほうがよかった。「一つだけ外せないのがあったんだけど、蓮のところとやるやつなんだよ。本人がまだ海にいるんじゃ、今日はどうにもならないだろ」その口ぶりは、どこか楽しそうだった。蓮が自分でやらかしたことなら、湊は昔から放っておく。今回も、特別かばう気はなさそうだった。駐車場に着くころ、湊のスマホにメッセージが入った。画面を確認すると、湊はすぐに遥へ伝えた。「蓮からだ。無事みたいだし、もう心配しなくていい」どこか話を切り上げたそうな口ぶりだった。遥が蓮のことをいつまでも気にしているのが、あまり面白くないようだった。電話を切ったあと、遥は真由美にも一通り事情を話した。真由美はひとまず胸を撫で下ろしたものの、まだ表情は晴れなかった。「もう、ほんとに心配させるんだから。海に飛び込むなんて、もし何かあったらどうするのよ」無事だと分かっても、真由美はまだ気が気ではなかった。いくら準備していたとはいえ、あまりにも無
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第1032話

真由美が尋ねた。「凛のところにも行ったの?」「行ったわ。蓮は泳げるし、最初は二人で口裏を合わせて私を騙してるだけなんじゃないかと思ってたの。それで確かめに行ったんだけど……」琴子はそこで、凛のところを訪ねた時のことを話し始めた。蓮が海に飛び込んだと伝えた途端、凛の顔からさっと血の気が引いた。とても演技をしているようには見えなかった。凛も、何も知らなかったのだ。琴子が一部始終を話し終えるころには、凛はその場にへたり込み、琴子の手をつかんでいた。それまで二人の間に何があったかなど、考えている余裕もない様子だった。「どこで飛び込んだんですか?もう誰か捜しに行ってるんですよね?」凛がここまで取り乱すのを見て、琴子もようやく事の重大さを思い知った。凛まで何も知らなかったのなら、蓮は本当に何も告げずに海へ飛び込んだことになる。そう思うと、急に怖くなった。「捜索には出てもらってるけど、まだ何も見つかってないっていうのよ。もう、どうしたらいいのか……」話しているうちに、琴子はまた涙をこぼした。家でじっと待っていることもできず、九条家なら何か手を打てるかもしれないと思って、ここまで来たのだった。真由美はそんな琴子を見て、ため息をついた。「あなたも、そろそろ蓮のことは本人に決めさせてあげたら?今は湊が人を出して探してるんだから、何か分かるのも、ここ数日のうちでしょう」琴子は、自分が間違っていたと思ったわけではなかった。ただ、こんな結果になったことを悔やんでいただけだった。蓮のことなら、誰より分かっているつもりでいた。何といっても、自分の息子だ。どれだけ反発したところで、所詮は家族の中でのこと。最後には自分の言うことを聞くだろうし、そこまで思い切ったことをするはずもない。自分が反対し続けていれば、いずれ凛のことも諦めるだろう。ずっとそう思っていた。まさか、こんなことになるとは考えてもいなかった。「宗介まで口をきいてくれないの。私だってつらいのに……」「だからって、あの人まで責めないの。今はみんな心配してるんだから」「じゃあ、結局、全部私が悪いって言いたいの?」スープを飲んでいた遥が、そこでさらりと言った。「まあ、そうですね」琴子は返す言葉がなかった。真由美と
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第1033話

琴子を本館に残してきたことには、誰も触れなかった。佐原家と親戚でなければ、真由美だってあそこまで琴子の愚痴に付き合ってはいなかっただろう。琴子も、本当は何も分かっていなかったわけではない。ただ、自分に都合の悪いことは認めたくなかっただけだ。蓮が海に飛び込んだと聞いた時には、真由美もさすがに無茶だと思った。いくら家のことで揉めたからといって、命まで危険にさらすような真似はやりすぎだった。けれど、今の琴子を見ているうちに、蓮ばかりを責める気もすっかり失せていた。別棟に移ると、みんなそのまま食事を続けた。遥がふっと笑って、真由美に声をかけた。「お義母さん、私、あのまま出てきちゃいましたけど……まずかったですかね?」琴子が何かあるたびに人のことをあれこれ言うのは、周りでもよく知られていた。今日のことだって、あとで琴子が遥のことを何と言うか分かったものではない。けれど真由美は、そんなことなど気にも留めていなかった。「私も若い頃、川に飛び込んだことがあるのよ。だから蓮の気持ちも分からなくはないわ。子どもがそこまでしちゃう時って、本人より家族のほうがよっぽどこじれてたりするのよ」真由美はもともと、親だからといって子どものことに何でも口を出すような人ではなかった。自分にも似たような経験があっただけに、蓮ばかりを責める気にもなれなかった。遥は思わず吹き出した。食事を終えて間もなく、凛から電話がかかってきた。その時、遥は結衣を抱き寄せて一緒に絵本を見ていた。手がふさがっていたため、湊にスマホを取ってもらい、そのまま耳元に当ててもらった。「遥、蓮のこと……何か聞いてる?」遥は少し意外そうに聞き返した。「蓮さんから連絡なかったの?」遥は、蓮が無事なら真っ先に凛へ連絡するはずだと思っていた。電話の向こうで、凛が少し黙った。「……あ。私、蓮の番号、まだブロックしたままだった」前に二人で言い争った時、腹立ちまぎれに蓮をブロックした。その時は、もう連絡を取ることもないだろうと思い、そのままにしていた。凛は震える手でブロックを解除した。確認すると、蓮からのメッセージが何通も入っていた。どれも、心配しなくていいという内容だった。それを見た途端、凛は全身から力が抜けた。凛はドア
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第1034話

結衣は昔から、家の大人たちとは少し違った目で物事を見ていた。さっきの言葉も、いかにも子どもらしいものではあったが、遥には、結衣の言っていることが間違っているとは思えなかった。そばで久美子がふっと笑った。「結衣なら、大きくなっても恋愛で苦い思いなんてしなさそうね」真由美もつられて笑った。瑛太はスプーンを握ったまま、かぼちゃペーストを口のまわりまでべたべたにつけていた。話を聞いていた瑛太が、きょとんと首をかしげた。「れんあいってなに?にがいの?にがいのに、お姉ちゃんはなんで食べるの?」最近の瑛太は、急におしゃべりが増えていた。言いたいことはたくさんあるのに、まだうまく言葉にできなかった。遥に言わせれば、まだまだこれからだった。結衣があまりにも手のかからない子だっただけに、瑛太を見ていると、子育てってこんなに大変なんだと思うこともあった。とはいえ、家には瑛太の相手をしたがる人がいくらでもいたので、遥一人に負担がかかることはなかった。電話の向こうでは、凛がしばらく黙ったままだった。遥も急かさず、とうもろこしを少し冷ましてから瑛太の器に入れた。そのまま、何でもない調子で仕事の話を始めた。「『àl'aube』の今季の新作、こっちはもうOK出したよ。『アンサンブル』のほうは四半期の打ち合わせがいくつか入ってるから、そっちはお願いね」「……うん、分かった」遥は呆れたように言った。「じゃあ、今の話、もう一回言ってみて」「『àl'aube』の新作が……って、あれ?そっちはもう決まったんじゃなかった?」「ほら、全然聞いてないじゃない。今はあれこれ考えすぎないで」凛はそこでようやく我に返った。頭の中は、いろんなことが入り乱れていた。遥に話しかけられてもまともに聞けず、何を答えていたのか自分でも分からなかった。今のことだけではない。昔のことや、もっと幼かった頃のことまで、次から次へと思い出していた。凛はずっと、自分は冷静に物事を割り切れるほうだと思っていた。傷つきそうになると、すぐにそこから離れた。そうやって、これ以上傷つかないよう自分を守ってきた。けれど、そのたびに傷ついていたのは、自分だけではなかった。蓮も同じように傷ついていた。凛は、そのことをずっと見落として
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第1035話

真由美は、修が気にしすぎているだけだと思っていた。とはいえ、遥と湊が墓参りに行くと決めたのなら、わざわざ止めるつもりもなかった。子どもたちも一緒なのだから、墓参りがてら少し出かけるくらいでいい。真由美の義母は生前、嫁たちに何かとつらく当たっていた。葉月も麗子も、当時は真由美ほどそつなく振る舞えるほうではなく、三人の中では真由美がいちばん苦労が少なかった。それでも今なお、義母の話になると、真由美はあまりいい顔をしなかった。だから修も、普段は両親の墓参りに行こうなどと、真由美の前ではなかなか言い出さなかった。敏が帰国した時だけは、修も一緒に墓参りへ行っていた。墓地は普段からきちんと手入れされ、一族の者も定期的に様子を見ていた。本来なら、わざわざ確かめに行くようなことでもなかった。それでも修は、あの夢がどうしても頭から離れず、湊に一度様子を見てもらうことにした。瑛太はまだ一度も行ったことがなく、行き先を聞くなり声を弾ませた。「どこいくの?たのしいとこ?」結衣は首を横に振った。「瑛太の食べるものないよ。つまんないよ」瑛太は今にも泣き出しそうに口をへの字に曲げた。すると結衣がすぐに手を伸ばし、片手でその口をふさいだ。瑛太は普段なら、泣いたり駄々をこねたりすれば、たいてい誰かが折れてくれた。けれど、結衣の前だけは別だった。結衣にひと目見られるだけで、ぴたりとおとなしくなり、それ以上騒ぐこともなかった。遥はそんな二人のやり取りを見て、思わず笑った。結衣は昔からしっかりしていて、瑛太は元気でやんちゃだった。性格はまるで違ったが、瑛太は結衣の言うことだけは不思議と素直に聞いていた。しばらくして、一家はそろって家を出た。墓地の近くで車を降りると、湊は瑛太を抱き、遥は結衣の手を引いて、ゆっくり坂を上っていった。墓地には、すでに管理を任されている人たちが待っていた。遥たちの姿に気づくと、すぐに笑顔で迎えに出てきた。「湊様、遥様。お祖母様のお墓は、特に変わったところはございません」湊は瑛太を下ろすと、墓石やその周りをざっと確認した。見たところ、特に変わった様子はなかった。普段から九条家の者がきちんと手入れをしていて、何かあればすぐに分かるようになっていた。修があんな夢を
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第1036話

最初、湊は草むらで倒れていた女性を特に気にしていなかった。遥に言われて、ようやくそちらへ目を向けた。しばらく女性の顔を見ていたが、やがて眉を寄せた。「……いや、覚えてない」「大学のときのルームメイトだよ。忘れた?」「あの頃は、お前のことしか見てなかったからな」遥は一瞬きょとんとして、それから湊と顔を見合わせた。そう言われてみれば、妙に納得できた。当時の湊は、もともと周りの人間にあまり興味がなかった。遥だって、あの頃あれだけ何度も湊に会いに行っていなければ、きっと記憶にも残っていなかった。まして、遥と同じ部屋だった学生たちのことまで覚えているはずもなかった。遥は入寮の手続きが少し遅く、学生寮では空きのある部屋に入ることになった。ルームメイトは別の学科の学生が多く、専攻もばらばらだった。毎日顔を合わせてはいたものの、いつも一緒に行動するほど親しかったわけではない。その後、正男の病気で海外へ渡ってからは、寮の仲間たちとも次第に疎遠になっていった。遥は女性のそばまで行くと、しゃがんでその顔をよく見た。やはり間違いなかった。大学時代のルームメイト、音羽奏(おとわ かなで)だった。「湊、やっぱり奏だと思う。大学のときのルームメイトで、声楽を専攻してたの。入学したばかりの頃、一緒にステージに立ったこともあるよ」そう聞いて、湊も入学した頃に遥と一緒にステージに立っていた女性のことを、ぼんやりと思い出した。湊は遥の手を取って立たせると、かがんでスカートの裾についた土を払った。「それより、どうしてこんなところにいたのかのほうが気になる」一族の墓地があるこの山は、九条家の所有地だった。普段、関係のない人が入り込むような場所ではない。裏手には細い道が何本か通っていたが、人が通ることはほとんどなく、野生動物が姿を見せることもあった。墓地の管理を任されている人たちでさえ、めったにそちらへは行かなかった。見るからに華奢な奏が、子どもまで連れて、どうやってここまで入り込んだのか。遥にはまるで見当がつかなかった。遥は近くにいた管理の人に声をかけた。「目を覚ましたら、私に連絡してください」「はい、遥様」子どもまで一緒に倒れていたこともあり、遥もそのまま放っておく気にはなれなかった
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第1037話

遥が病院へ向かうことになり、湊たちも一緒に山を下りることにした。湊はスマホをしまいながら言った。「帰りに寄れる店、もう予約してある」墓地そのものには、結局何も変わったところはなかった。唯一気になったのは、奏と子どもがあんな場所で倒れていたことだった。病院に着くと、医師が遥たちを見て軽く会釈した。「女性はもう目を覚ましています。お子さんにも特に問題はありません。ただ、ご本人にはいくつか傷がありまして……本人は自分でやったと言っていますが、警察は不自然だと見ているようです。第三者によるものではないかと」そこから先は、警察に任せるしかなかった。ただ、二人とも身元の分かるものを何も持っておらず、警察もまだ身元を確認できずにいるらしかった。遥が病室をのぞくと、奏はベッドの上で、窓の外に咲く木をぼんやり眺めていた。そのままじっと外を見つめていて、何を考えているのかは分からなかった。遥はドアを軽くノックし、確かめるように名前を呼んだ。「……奏?」奏はゆっくりと顔を向けた。遥を見るなり目を見開き、その顔に戸惑いと驚きが浮かんだ。遥はその様子を見て小さく息をつき、そばにいた警察官へ向き直った。「大学時代のルームメイトで、音羽奏で間違いありません。必要な確認はお願いします。ただ……ご家族への連絡だけは、できれば少し待っていただけませんか」幼い子どもを連れているのに、奏はお金ひとつ持っていなかった。その子も、見たところ瑛太とそう変わらない年頃だった。何か人には言えない事情があるのかもしれない。警察官が病室を出ると、遥は奏のそばへ歩み寄った。「本当に奏だったんだね。どうして九条家の墓地にいたの?」奏は黙ったままだった。遥は少し待ってから、もう一度声をかけた。「私、遥。大学のとき、寮でベッドが向かいだったでしょ。覚えてる?」奏は遥の顔をじっと見つめ、うなずいたかと思うと、すぐに首を横に振った。しばらくして、ようやく掠れた声が返ってきた。「……覚えてる。大学のころ、よく私の分まで洗濯してくれたよね」「洗ってたっていうか、私のと一緒に洗濯機に入れてただけだよ」遥たちの寮では、自分で用意した洗濯機を使うことも認められていた。手洗いが面倒だった遥は、入寮してすぐに一台買って部屋に置いた
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第1038話

遥は奏の背中に枕をあて、起き上がるのを手伝った。「子どもは今、小児科のほうにいるよ。大きな問題はないって。ただ、少し栄養が足りてないみたい。あとでこっちに連れてきてもらうから」「ありがとう……」奏はコップを両手で包み、少しずつ水を飲んだ。「そのうち調べれば、全部分かるんだよね。でも……何から話せばいいのか分からなくて」知らない相手になら、まだ話せたのかもしれない。けれど、昔から自分を知る遥を前にして、奏はかえって言葉が出てこないようだった。大学を卒業してから、すでに何年も経っていた。あの頃は二人ともまだ学生だったが、久しぶりに顔を合わせた今は、もうすっかり大人になっていた。遥には昔の面影が残っていたが、奏のほうは顔色も悪く、ひどく疲れて見えた。遥はそれ以上急かさず、ひとまず消化のいいものを用意してもらうことにした。そのとき、結衣がドアのところからそっと顔をのぞかせた。「ママ、私、パパとうおちゃんと近くで待ってるね」「うん、分かった」結衣は奏のほうを向くと、ぺこりと頭を下げた。「こんにちは」幼いながらも、挨拶はきちんとしていた。奏は結衣を見つめ、目を潤ませた。「遥の娘さん?」「うん。息子もいるよ。奏の子と同じくらいの年」子どもの話が出ると、奏の表情が少しだけ和らいだ。しばらくうつむいていたが、やがて小さな声で話し始めた。「私も分からない……どうして、こんなことになっちゃったんだろうって。卒業してからは、レコード会社に入ったの」遥は黙ってうなずいた。声楽を学んでいた奏なら、レコード会社に入ったと聞いても不思議ではなかった。「でも、実際は思ってたような世界じゃなかった。みんなコネも後ろ盾もあって、何のつてもない人が仕事をつかんでいくのって、本当に大変で……」話しているうちに、奏の涙が掛け布団に落ち、膝元にじわりと染みが広がっていった。奏が頬を拭うと、遥はティッシュを差し出した。「苦労はたくさんしたよ。でも、あの頃は不思議とつらいとは思わなかったの。むしろ、結構面白いと思ってたくらい。それで……今の夫と知り合ったの」奏は少し顔を上げた。「遥も知ってる人だよ。私の夫、九条敏なの」遥は一瞬、言葉が出なかった。敏が再婚して子どももいることは知っていた。そ
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第1039話

「私たち、ちゃんと付き合って結婚したの」気持ちが少し落ち着いてから、奏はぽつりぽつりと話し始めた。「敏ってね……すごく人を惹きつける人なの」遥にも、それは分かる気がした。九条家の男たちは、性格はともかく、揃って顔立ちがよかった。修も髪はすっかり薄くなっていたが、骨格が整っていて、年を取っても見た目は悪くなかった。敏も五十を過ぎていたが、昔から体を鍛えていたこともあって、年齢のわりに若々しく、若い頃とはまた違った魅力があった。奏はしばらく黙ってから、また口を開いた。「最初は、ただ助けてもらってただけなの。私がどうにもならなくなったときに、何度も助けてくれて……私だって、住む世界が違うことくらい分かってたよ。あの人の子どもたちだって、私とそんなに年が変わらないし」あの頃の奏は、何をしてもうまくいかず、すっかり行き詰まっていた。そんな時期に何度も敏に助けられ、奏の気持ちも少しずつ彼へ傾いていった。「私たち、結婚してからは海外で暮らしてたの。子どもも生まれて、最初のうちは本当にうまくいってた。でも……前の奥さんが来てから、全部変わったの。それからは、私も子どももずっと振り回されてて……」遥は眉をひそめた。「葉月さんのこと?」「うん」奏は小さくうなずいた。「九条家に追い詰められて、帰国するな、戻ったら刑務所に入れるって言われてたみたいで……敏も放っておけなくなって、うちに住ませたの」奏は青ざめた顔のまま、力なく笑った。その様子だけで、その後どんなことになったのかはだいたい分かった。「二人はしょっちゅう喧嘩してた。九条家の息子二人のことで、いつもお互いを責め合ってて……そのうち、私とうちの子まで巻き込まれるようになったの」葉月にとっては、奏もその子どもも、敵のようなものだった。そんな葉月と奏が同じ家で暮らしていれば、何も起きないはずがなかった。遥は少し黙ってから聞いた。「敏さんと離れようとは思わなかったの?」「離れて、どこに行けばいいの?」奏はすぐにそう返した。「遥、子どもを連れて出たって、行くところなんてないよ。私一人なら、どんなに大変でも我慢できる。でも、子どもまで一緒にそんな思いはさせられないよ」遥はすぐには答えられなかった。「……敏さんに連絡しようか?」
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第1040話

湊は心配そうに遥を見た。遥は、さっき奏から聞いたことを湊に話した。「つまり、敏さんが彼女と子どもを連れてお祖母様のお墓参りに来て、途中で二人を山に置いて帰ったってことか?」「うん、そうみたい。でも、やっぱりちょっと変なんだよね。敏さんって、無責任なところはあっても、女の人や子どもをあんなふうに放っておく人じゃないと思うの」敏にはたしかに無責任なところもあった。けれど、自分の子どもまでほったらかしにするような人ではなかった。しかも、まだあんなに小さな子だった。その点は、湊も引っかかっていた。遥の手を握ったまま、空いた手でスマホを取り出し、健太に電話をかけた。「敏さんの再婚相手を調べてくれ」「承知しました、社長」しばらくして、健太から折り返しがあった。「確認が取れました。彼女は敏様の再婚相手で間違いありません。大学では声楽を専攻し、卒業後は芸能関係で音楽の仕事をしていたようです。敏様が関わった映画で何度か挿入歌を担当していて、そこで知り合ったようです。資料はもうお送りしてあります」「分かった」湊は送られてきた資料に目を通した。そこには、二人が国内と海外、それぞれで結婚の手続きをしたときの写真も入っていた。奏が敏の再婚相手なのは間違いなかった。ただ、奏の話にはどうしても引っかかるところがあった。遥の大学時代のルームメイトが、よりによってあの山で倒れていて、それを遥が偶然見つけ、病院まで付き添ってきた。ここまで重なると、さすがに出来すぎている気がした。湊はそのまま敏に電話をかけた。「敏さん、奥さんが病院にいます」「奏が?どうしたんだ?病院にいるって、何があったんだ?」湊は眉をひそめた。「お祖母様の墓地で見つけました。意識を失っていて、体にも傷がいくつもあります。警察はDVを疑っています。戻ってきて、事情を話してください」電話の向こうで、しばらく沈黙が続いた。やがて、敏はどこか気のない調子で答えた。「ああ、分かった。すぐそっちに戻る」「敏さんの私生活に口を出す気はありません。ただ、九条家の人間である以上、やっていいことと悪いことくらい、俺に言われなくても分かりますよね」敏は「ああ」とだけ答えた。「病院の場所、送ってくれ。奏と子どもは俺が迎えに行く」湊は電
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