菊がお茶を運んできて、白磁の湯呑みを奏の前に置いた。「奏様、お茶をどうぞ」奏はソファの端に腰を下ろし、そつのない笑みを浮かべた。「ありがとうございます」真由美はお茶をひと口飲んだ。「これ、この前湊がオークションで落とした『白峰茶舗』の玉露でね。数百万円はするのよ。口に合うかしら」奏もお茶に口をつけた。いい香りはしたが、まだかなり熱かった。正直、奏には味の違いまではよく分からなかった。ただ、これだけの値段で、九条家で出されるものなら、きっといいお茶なのだろうと思った。「本当に、おいしいお茶ですね」真由美は遥にも声をかけた。「遥さんも飲んでみて」遥はひと口飲むと、少し眉を寄せた。「これ、『白峰茶舗』の玉露じゃないですよね?この前、結衣が持って帰ってきたお茶じゃないですか?」真由美ももうひと口飲んで、少し目を丸くした。「あら、本当だわ。これ、結衣がこの前摘んできたお茶ね。菊が仕上げてくれたやつだわ。ごめんなさいね。私ったら勘違いしてた。これ、大した値段じゃないの」奏は口元をわずかに引きつらせた。さっきまで気にならなかったのに、口をつけたお茶が急にやけに熱く感じられた。真由美には胸の内まで見透かされているようで、どうにも落ち着かなかった。そこへ、新聞を手にした修が二階から下りてきた。二人の話が耳に入ったらしく、そのまま口を挟んだ。「何が大した値段じゃないだ。結衣が自分で摘んだお茶だぞ。『白峰茶舗』なんかより、こっちのほうがよっぽど値打ちがある」真由美は修を呆れたように見たが、どこか楽しそうでもあった。目尻には皺が増えていたものの、真由美らしい華やかさは少しも変わっていなかった。遥はその横で、何も言わずにお茶を飲んでいた。今日はゆったりとしたワンピースを着ていて、腰にはパールのベルトを合わせていた。幾重にも重なった裾はつぼみのようにふんわりと広がり、その間から白くすらりとしたふくらはぎがのぞいていた。そんな遥の姿は、どこかアイリスを思わせた。奏はひと目で、それが有名メゾンの今季の新作だと気づいた。しかも、誰でも簡単に手に入れられるようなものではなく、限られた顧客しか注文できない特別な一着だった。人気女優でさえ、こういうドレスを着るのはレッドカーペットのような晴れの場
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