遥は彼の肩を押さえた。「あなたは座ってて。私が出るわ」これ以上無理を重ねたら、湊の体がもたない。ドアを開けると、そこには無精ヒゲを生やした敏が立っていた。遥の顔を見て、彼も驚いたようだった。彼はすっかり魂が抜けたような顔をしていた。敏は手に持っていた茶封筒を遥に差し出した。「前に約束していた結婚祝い、少し早いが受け取ってくれ。湊にはゆっくり休むように伝えてくれ。俺は今夜からベルギーへ行く。後始末は俺がやる」遥は封筒を受け取った。何か言おうとしたが、自分には口出しする立場にない。彼女は九条家の人間ではないし、ただの姪の嫁なのだ。しかし敏は彼女の心を見透かしたかのように、冗談めかして笑った。「心配するな、あの映画のことじゃない。湊にはもう撮影しないと約束したんだ、二度と撮らないよ。ベルギーには俺の古くからの出資者が何人かいるから、とりあえずそっちを当たってみるつもりだ」部屋の中から、疲労の色が濃く滲んだ湊の声が聞こえてきた。「分かりました」敏が立ち去った後、遥はドアを閉めて部屋に戻った。茶封筒を湊に手渡す。「ほら、自分で開けて」封筒を開けてみると。中に入っていたのは、敏が所有する株式の譲渡証明書だった。各所の公証も済んでおり、譲渡先は湊になっている。日付を確認すると、一ヶ月も前からこの手続きを進めていたようだ。結婚祝いというのは建前で、ただ譲渡する口実を探していただけなのだろう。湊は深くため息をついた。「お爺様は本来、この株を自分で回収するつもりだったんだ」そうすれば、湊の首根っこを握ることもできる。まさか敏が、自分の持ち株をすべて湊に譲るとは思ってもみなかっただろう。湊は遥の腰を引き寄せ、一緒にベッドへ倒れ込んだ。二人で柔らかな布団にくるまると、まるで雲に包まれているようだった。「少し一緒に寝てくれ」遥は十三時間も飛行機に乗っていたのだ。当然機内でろくに休めるはずもなく、そのまま仕事の対応をしていた。今の彼女は、立っているのもやっとというほど疲れ切っていた。抱き合って眠るにはちょうどいい。……夜の静寂を破り、セーヌ川の夜空に花火が打ち上がり、まばゆい光を放った。遥は花火の音で目を覚ました。起き上がって時計を見ると、すでに深夜零
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