Tous les chapitres de : Chapitre 401 - Chapitre 410

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第401話

それらの呼び名はすべて、愛が最も深まるその瞬間に、彼が彼女の耳元で囁いたものばかりだ。厄介なことに、彼女はそれに抗えず、彼に「ハニー」と呼ばれるたびに、彼女は理性を失い、彼と共に甘い泥沼へと沈んでいってしまう。そして結局、自分では受け止めきれないほどの激しさに、翻弄される羽目になるのだ。遥は半ば呆れたように、ポンと湊の胸を叩いた。「ほら、降りるわよ」何しろ、下では大勢の客が待っているのだ。湊は彼女の手を取り、自分の唇に当てて軽くキスをした。その瞳には、まるで月明かりが溶け込んでいるかのように、深い優しさが揺らめいていた。「わかった」二人が一階へ降りてくると、修はようやく誕生日会の挨拶を始めた。「本日は、一つ正式にお知らせしたいことがございます。私は手持ちの株式をすべて息子の湊に譲り渡し、今後はグループの経営から完全に退き、家で孫娘の世話に専念するつもりです。皆様の中に良い育児のノウハウをお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひご教示いただきたい」修は笑いながら、包み隠さず言った。「なにしろ、湊が小さい頃は私のそばにおりませんでしたから。幼児を育てる経験が全くないのです。結衣のこと、今後とも皆様にはお力添えをいただけますと幸いです」客たちの間から、どっと温かい笑い声が起こった。「私のコレクションの中に、8世紀の皇女の副葬品である金糸と瑠璃の耳飾りがあります。本日、これを結衣の名義で博物館に寄贈いたしました」修は有名なコレクターであり、無数のコレクションを所有している。その耳飾りは、去年とある人物が天文学的な金額で買い取りたいと申し出ても、修が決して手放さなかった代物だ。それを今日、結衣の誕生日のために寄贈してしまったというのだ!会場からは驚きの声が上がった。修は腕に抱いた結衣を見つめ、穏やかな声で言った。「寄贈したのは、我が家の結衣の幸せと健康を祈願するためでもあります」客たちがひそひそと囁き合っていた。「祈願なんて建前で、明らかにあの小娘の将来のための布石じゃないか。まだ三歳で、しかも女の子なのに、あそこまでするか?」「修様がご自分でお決めになったことだ、他人がとやかく言えることじゃない。あの子はてっきり湊様の本当の子供じゃないと思っていたが、これほどの可愛がら
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第402話

「あの女、いったい何者なの?子連れで九条湊の後妻に収まるなんて」「顔はまあまあだけど、一体どんな汚い手を使って玉の輿に乗ったのかしらね」そのうちの一人の女が鼻で笑った。「だとしたら計算違いね。見てなさい、どうせそのうちポイ捨てされるわ。九条家が、誰でも簡単に取り入れるような家だとでも思っているのかしら」「こういう女っていつもそうじゃない?少しばかり顔がいいからって、世界を手に入れた気になっちゃうのよ」楓は振り返った。怒りで奥歯をギリッと噛み締めた。遥のことをそんな風に言うなんて、絶対に許せない!文句を言ってやろうと踏み出しかけたが、その二人が真由美の方へ歩いていくのが見えた。二人とも宝石をじゃらじゃらと着飾り、身につけているものだけで数百万円は下らないであろう。楓はグッと怒りを飲み込んだ。美咲が尋ねた。「何してるの?」「腹が立ったから文句を言ってやろうと思ったんだけど、相手の身なりが良すぎて手が出せないわ。揉め事を起こしたら、後で両親に怒られちゃうし」九条家の令嬢の誕生日会だ。ケーキだけでも数十万円するものが、それぞれ違うデザインで八つも用意されている。会場の装飾も至る所まで手が込んでいる。招かれている客も、当然ながら一般家庭の人間ではない。彼女たちは、楓には手が出せない相手だ。この悔しさは、後で遥自身に晴らしてもらうしかないわね。遥ちゃんよ、親友としては、手助けしたくないわけじゃない。ただ相手が悪すぎるだけ。楓が遥を探しに行こうとしたその時、彼女の目がくるりと動き、そのまま美咲の腕を引いて真由美の方へと向かっていった。真由美は美咲の顔を見て、見覚えがあるように感じた。「あなたたち、遥さんのお友達よね?もしかして、小林さん?」美咲は礼儀正しくハキハキと答えた。「はい。祖父と奥様のお父様は、昔、同じ開拓団に所属していた仲間でした」「ああ、どうりで見覚えがあると思ったわ。お祖父様はお元気?」「はい、元気にしております。私がこちらへ伺うと聞いて、結衣ちゃんのお誕生日おめでとうと伝言を預かってまいりました」真由美は満面の笑みを浮かべた。「まあ、お祖父様にご丁寧にお気遣いいただいて!あなた、その無駄のない身のこなし、元はアスリートか何かをされていたの?」
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第403話

真由美は冷たい顔で言った。「息子の婚姻関係については、皆様にご心配いただくに及ばずですわ。もし万が一、湊が離婚することになったとしても、それは決して嫁である遥に非があるからではありません。それに結衣のことに関しても、九条家が甘やかして愛したいから愛しているだけです。そちらのご家庭で娘さんをどう扱おうと自由ですが、うちの結衣をそれと同列に語られるのは心外です!」この言葉は、相当に厳しいものだった。口調こそ穏やかで落ち着いているが、真由美の態度は非常に峻烈だ。二人はしどろもどろになりながら謝罪し、気まずさと羞恥のあまり、身の置き所をなくしていた。楓に文句を言ってやりたかったが、先ほど真由美が美咲に非常に丁寧な態度を取っていたことを思い出し、この二人が一体どんな家柄の人間なのか分からない以上、軽率な真似はできないと悟った。彼女たちは自分の家での地位も微妙だ。もし何か問題を起こしたら家族は守ってくれないだろう。そう判断し、二人は足早にその場を離れた。だが、真由美の怒りはまだ収まっていなかった。使用人を呼び止めた。「湊はどこ?」「湊様はキッズルームで、お嬢様や他のお子様たちと一緒に遊んでいらっしゃいます」使用人たちも、非常に驚いていた。湊が父親になってから、これほどまでに責任感があり真面目な父親になるとは思いもしなかったのだ。九条家のような名門では珍しいというだけでなく、一般家庭に置いても、間違いなく「最高の夫であり父親」と呼べるレベルだ。ましてや、奥さんをあそこまで溺愛しているのだから。使用人たちの目から見れば、先ほどの令嬢たちの陰口など、単なる妬みに過ぎない。真由美はいくつか指示を出し、先ほどの出来事をすべて湊に報告するよう命じた。話し終えても、彼女の怒りはまだ収まらなかった。「うちの家で、遥さんに肩身の狭い思いをさせるわけにはいかないわ。文句があるなら私に直接言えばいいのに。若い女の子をいじめてどうするのよ!」楓は心から言った。「真由美さん、本当に素敵な方ですね。遥ちゃん、この家に来て絶対に幸せになれますよ」だが、真由美はため息をついた。「あなたたちは遥さんの友達ですから、彼女が今まで一人で結衣ちゃんを育てるのにどれだけ苦労してきたか、私よりよく知っているでしょう
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第404話

学生時代、遥もよくネットのゴシップ記事を読んでいた。あちこち覗いてみれば、そこにはありとあらゆる噂が飛び交っていた。そして、今こうして目の当たりにしてみれば、九条グループの社長が結婚した相手は、九条家が渋々妥協して認めた女だ、などという記事まであった。九条家はその女を嫌っていたが、九条グループの社長への埋め合わせのために仕方なく受け入れた。名家のお嬢様たちの中には、嫁いでいきなり子持ちの母親になりたがる者などいなかったから、妥協してその女を選んだのだ、と。遥は舌打ちをした。本当に、適当なことばかり言っている。さらに下のスレッドをスクロールしていくと、突然、あるスレッドがトップに躍り出ており、すさまじい勢いで拡散されていた。そこには、真由美に抱かれた結衣の顔がはっきりと写った写真が晒されていたのだ。遥はもう居ても立ってもいられなくなった。椅子から跳ね起きるように立ち上がり、手のひらには冷や汗が滲んでいた。コメント欄を見ると、大半のユーザーが投稿者に対し、子供の顔写真を削除するように求めていた。ユーザーたちはゴシップ好きではあるが、子供のプライバシーを守るという点においては、皆の意見が一致している。しかし、投稿者からの返信はなく、結衣の顔にモザイクがかけられることもなかった。遥の胸に不安がよぎる。結衣はまだ幼い。もし悪意のある人間に顔を覚えられたら、どんな恐ろしいことになってしますかわからない。焦りながら再度スレッドを開くと、【この投稿は規約違反のため削除されました】という表示に変わっていた。スマホに通知がポップアップした。湊からのメッセージだ。【ネット上の件は心配しなくていい。もう処理しているところだ】【結衣はまだ小さい。子供の顔は日に日に変わるから、誰かに顔を覚えられるようなことはない】【この情報を拡散した情報源は、必ず俺が突き止める】画面には、次々と湊からのメッセージが表示されていく。彼もあらゆる可能性を考慮しているのだろう。そして何より、遥がどれほど結衣を大切に思っているかを知っているからこそ、あの記事が彼女を不安にさせ、怒らせることを理解していたのだ。湊からのメッセージを確認した遥の口からは、意外にも「やっぱりね」と、独り言のような納得の言葉が漏れた。湊があの投稿を
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第405話

その下には、遥と湊が背中を向け、結衣が積み木で遊んでいるのを一緒に見守っている写真が添えられていた。いつの間に撮られていたのだろう。真由美はさらにコメント欄でも返信していた。【これは私たち家族三人の、ごくありふれた幸せな一日なのよ。皆さん、もう閉経したおばあちゃんを使ってデマを流すのはやめてちょうだい。もし私にまだ子供が産めるなら、娘を湊に譲るなんてとんでもない。夢みたいなことを言わないでちょうだい。デマを流した人には、一生娘も孫娘も授からない呪いをかけてあげるよ。せいぜい息子を十人、孫を二十人産んで苦労なさい!】まさに、硬軟織り交ぜた見事な対応だった。九条グループの公式アカウントも、すぐさま法的措置を講じる旨の声明を発表した。九条家の名誉は、グループの株価に直結する。公式声明が出されるスピードは、相変わらず迅速そのものだった。それを見ていた遥は、思わず吹き出してしまった。凛は驚いたように言った。「真由美さんって、こんなにユーモアのある方なんですね」真理が答えた。「真由美おば様が本気で怒ってるのよ。でも直接汚い言葉を使って罵倒すると、メディアが逆恨みして義姉さんや結衣ちゃんに嫌がらせするかもしれないでしょ。だから、あんな風に皮肉たっぷりに言ってるの」だが、デマを打ち消すという目的は十二分に達成されていた。言うまでもなく、湊も真由美の投稿がトレンド入りするように裏で手を回していたのだ。野次馬たちはここで初めて、遥と湊がすでに何年も前から付き合っていたことを知ったのだ。なら、三歳の子供がいても何ら不思議ではないのだと。真由美の投稿からは、彼女がどれほど遥を気に入っているかが、ありありと伝わってきた。デマを流した者に「息子を十人、孫を二十人産んで苦労しなさい」と呪うあたり、彼女らしい。遥はそれを見ていて、笑いが止まらなかった。真由美は老眼で、普段はあまりスマホを見ないはずだ。おそらく今の投稿も、音声入力で一気に書き上げたのだろう。凛は、これほど迅速で、かつ家族への深い愛情に満ちた守り方を見たのは初めてだった。「九条家の方々は、皆さんこういう感じなんですか?」真理はあっけらかんと言った。「何言ってんの?そんなわけないじゃない。例えば私の両親なんて、
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第406話

真理は遥が驚いているのを見て、彼女を慰めようと、笑顔を作ろうとした。だが、その顔には引きつったような, ぎこちない笑みが浮かんでいた。「お義姉さん、お爺様ってこういう人なのよ。もう慣れるしかないわ」遥はただ、その考えにはどうしても賛同できないと感じていた。結婚は遊びではない。人生の一大事と言っても過言ではないはずだ。お爺様のように、子や孫の縁談を独断で決めてしまえば、揉め事が起きない方がおかしいというものだ。遥は以前、お爺様が真理と樹をお見合いさせようとした時のことを思い出した。「もしあなたと相沢家の御曹司が意気投合していたら、あなたたちもすぐに婚約させられていたの?」「そうね。お爺様が彼を選んだのは、凛ちゃんと湊お兄ちゃんの縁談が破談になったから、その埋め合わせを相沢家にするため。もう一つは、彼が何の才能もない腑抜けだから、後々コントロールしやすいと思ったからよ」真理は肩をすくめた。「男のそういう大人しくて従順なところは、決して長所じゃないわ。樹みたいな、毒にも薬にもならないようなフリをして、実は猛毒を持ってるような大人しい男なんて、腐るほど見てきたわ。うちの敏叔父さんや私のお父さんの方が、彼よりはマシなくらいよ」「私、結婚なんて何の期待も持ってないの。お爺様のお眼鏡にかなって、私自身もまあ妥協できる相手を見つけて、適当に結婚して子供でも作ればそれで十分なの。結婚なんて、どうせ離婚するためでしょ。例外なんてないわ。修おじ様と湊お兄ちゃんを除けば、心から奥さんを大切にしてる男なんて見たことないもの」結婚は、離婚するためだ。その言葉を聞いて、遥は一瞬、何と返せばいいかわからなくなった。湊と結婚する前、自分もそう思っていた時期があったような気がする。結衣がもう少し大きくなって、心の中にいるあの人への未練を完全に断ち切れたら、誰かとの結婚を考えるかもしれない。だが、婚姻が永遠に続くものだとは思えなかった。離婚はよくあることだし、別々の道を歩むのも、それぞれの人生の選択に過ぎない。真理の言うことが、遥には分からなくもなかった。「私も昔はそう思ってたよ。でも人生って何が起こるかわからないわ。湊が血まみれになって倒れて、結衣と陽くんを助けてくれたのを見た時、私はすごく怖かったし、
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第407話

「はい」帰り道、真理も少し心配そうに言った。「お義姉さん、神崎先生は本当にご病気なの?」「十中八九間違いないと思うわ。だから、新しい職人さんを急いで探さなきゃいけないかもしれないわね」遥も、直接言うべきかどうか悩んでいたのだ。もし間違っていたら、徹から「縁起でもないことを言うな」と怒られていただろう。高齢者は、特にこうした話題を忌み嫌うものなのだから。だが、さっきの決断を後悔はしていない。もし祖母の時に、誰かが早くあのように警告してくれていたら。あんなにも早く亡くなることはなかったかもしれないのだ。凛と真理は揃ってため息をついた。「他の巨匠に当たってみるしかないわね。神崎先生はもともとご高齢でしたし、もし本当にご病気なら、この仕事をお任せするのは無理だわ」「羽化」シリーズは、彼女たちが心血を注いだ結晶だ。どれほど過程が困難でも、微塵の不完全さも許すつもりはなかった。ホテルに戻ると、すぐに徹から電話があった。「……父は、確かに脳出血の前兆でした。今回は本当にありがとうございました。立花社長が気づいてくださらなければ、取り返しのつかない事態になっていたかもしれません」心構えができていたので、それほどショックはなかった。遥がいくつか気遣いの言葉をかけ、電話を切ろうとした時だった。思いがけず、徹が言葉を続けたのだ。「父は君たちの作品を心から気に入っていました。デザインの細部へのこだわりも、父の感性と深く共鳴していたようです。ですが、今の父の体調ではこのジュエリーを作ることはできません。それは父にとっても非常に心残りなことでした。そこで、今回の誠意と助けへの感謝として、父の古い友人を君たちに紹介したいと言っています。海藤滄海(かいとう そうかい)先生です」遥はハッと目を見開いた。海藤先生といえば、神崎先生と並び、ジュエリー界の双璧と仰がれる生ける伝説だ。しかし、彼は長年前に引退を宣言し、それ以来一切のジュエリー制作から身を引いている。九条グループでさえ、彼が今どこに隠居しているのか知らないほどだ。探すことすら不可能だと言われていた。徹は言った。「父から海藤先生に連絡を入れておきます。住所と連絡先もお教えしますが、先生の心を動かして復帰させられるかどうかは、君
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第408話

もし運転席がもう少し広ければ、湊はとっくに蓮を蹴り飛ばしていたところだ。妻を迎えに来るのに付き合うとはどういうことだ。蓮の目的が他にあることは、火を見るより明らかだった。立花社のオフィスの明かりが消えた。東都にも雪が降り、昨夜の一晩で雪が積もっていた。会社の清掃員たちが、手をこすり合わせながら道に融雪剤を撒いている。路面が凍結すれば、配送のトラックも入れなくなってしまうからだ。ビルの下、街灯の光に照らされて、雪が花びらのように舞い散っていた。ふと視線をやると、街灯の下に立つ遥の姿が目に飛び込んできた。たとえそこに立っていなくても、彼女は十分すぎるほど眩しい。今日、彼女はゆったりとしたピンク色のニットに、グレーのニットパンツを合わせていた。ダウンコートを羽織らずに降りてきたらしく、立ち話しながらコートに袖を通そうとしている。冷たい風が、容赦なく彼女の服の中に吹き込んでいた。湊は寒さで赤くなった遥の首元を見ると、隣の蓮が何を言っていようが構わず、車のドアを開けて降りた。大股で彼女の前に歩み寄り、コートのファスナーを一番上までしっかりと引き上げ、ついでにフードも被せてやった。遥は彼の姿を見て、少し驚いた。実際、ここ数日湊もかなり忙しくしていた。お互い何日も顔を合わせておらず、それぞれの仕事に没頭している。そんな適度な距離感も、悪くない。「私、まだ手配しなきゃいけないことがあるから、ちょっと待ってて」遥は踵を返し、倉庫のスタッフに今夜の夜勤の指示を出しに向かった。今回の荷物は仕入れ値が非常に高く、絶対に損失を出すわけにはいかない。彼女たちが持っている個人資産を、ほとんど注ぎ込んでいるのだ。輝が警備員の詰め所から出てきた。「ご安心ください、社長。今夜は俺が帰らずに見張ってますから」「お母さん、家で一人で大丈夫なの?」輝は一瞬言葉を失った。遥が自分の仕事ぶりを非難するでもなく、以前遥に危害を加えそうになった過去を咎めるでもなく、ただ、家で一人でいる母親のことを心配してくれたのだ。「大丈夫です。お袋も、俺がここで働いてるって知って喜んでますから」「そう。明日は朝一番で来るから。風邪引かないようにね」「ええ、任せてください」輝は、遥が吹雪の中を歩いていき、背の高い
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第409話

湊は無表情だった。横目で、隣にいる遥をちらりと見る。以前、遥が他の男とお見合いしようとした時のことを思い出したのだろう。「お見合いをするなら俺を相手にしろと言ったはずだ。お見合いだというのなら、筋を通すために俺の母を向かわせて、話をさせたまでだ」遥は思わず吹き出した。「よくそんな恥ずかしげもなく言えるわね」あの時、遥は死ぬほど恥ずかしかったのだ。自分の立場が気まずくて仕方がなかったし、湊という男も、本当に変な奴だと思った。蓮は唖然とした。湊が女を口説くのに、ここまでなりふり構わない奴だったとは!そして思わず口に出してしまった。「……そんなに恥知らずな真似をして、後で後悔しないのか?」湊は少しも顔色を変えず、淡々と言った。「男のメンツなんて、一番どうでもいいものだ。俺が唯一後悔しているのは、かつてメンツにこだわりすぎたことだ」でなければ、結衣が宿り、生まれてくるその瞬間を、彼も一緒に見届けることができたはずだった。家族として遥のそばに寄り添い、彼女が一番辛かった時期を支えてやれたはずだった。あの頃の自分のすべての想いを、彼女に伝えることができたはずなのだ。今でも伝えることはできるが、過ぎ去った時間は戻らない。あの頃と今とでは、やはり心境が違う。車が交差点で止まった。湊は冷たい声で言った。「降りろ、お前の家だ」蓮はぐずぐずと言った。「なぁ、空港まで送ってくれないか?」湊は振り返り、まるで正気を疑うかのような目で彼を見つめる。「お前、この吹雪でダイヤが乱れてる可能性も考えずに、宿の予約もしてないのに、このまま畿西府に行くつもりか?」車内が、静まり返った。これほどの悪天候だというのに、運行情報はおろか、現地での宿泊先すら全く頭になかったのだ。湊に指摘されなければ、空港に着いた途端、「運転見合わせ」の案内板を前に立ち往生していたところだった。蓮は素早く車のドアを開け、一度も振り返ることなく、吹雪の中へと飛び出していった。遥は笑って言った。「あなた、二人をくっつけたいの?」「あいつもその気があるみたいだしな。それに、元々俺が蓮に凛へ近づくように仕向けたんだ。最後まで面倒を見るのが筋だろ」湊が高校時代の話を持ち出した。遥はそれを聞いて、面白そうに
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第410話

湊には、彼女が十八歳にも満たないうちに手を出すことなどできなかったのだ。だからこそ、あの時彼女が附属高校にいなくて、本当に良かったのだと。湊の言葉の裏にある意味を察して、遥は耳まで真っ赤になった。この男、どうして頭の中はそんなことばかりなの!だが確かに、高校時代から付き合い始め、我慢できずに一線を越えてしまう学生は少なくなかった。湊は微笑んだ。遥の手を引き、家の中に入る。「それに、高校時代のお前は、大学の頃よりずっと騒がしかったはずだ。もし同じ高校にいたら、俺たち二人揃って海外に飛ばされてたかもな」遥もつられて笑った。湊は成績優秀で、附属高校にいた頃は常に学年トップだった。一方の遥は南林で、自分の地頭の良さにかまけ、父の正男からもうるさく言われなかったのをいいことに、勉強はそこそこに遊び呆けていた。その後、美術の道へ進むことになったのだ。それでも彼女は本番に強いタイプだった。大きな試験では必ず実力を発揮し、その年の帝都大学芸術学部の合格最低点に、見事なまでに滑り込んだのである。久美子が顔を出し、二人が玄関で立ち話をしたまま中に入ってこないのを見た。この二人は、どこからそんなに話すことが湧いてくるのだろう。久美子は笑って言った。「何を話してるの?さあ、夕ご飯にしましょう。二人の分も残してあるわよ。今夜は越前蟹よ」「遥が高校生の頃、どれくらいうるさかったかって話してたんですよ」久美子も懐かしそうに思い返した。「遥ったらね、高校の頃は毎日男の子から家に電話がかかってきて、一緒に遊びに行こうって誘われてたのよ。もう、お父さんったら心配で生きた心地がしなかったみたい!幸いこの子は全く色恋沙汰に鈍感で、その頃は毎日何を食べようかってことしか考えてなかったけどね」湊がキッチンへ食器を取りに行き、振り返ると、手を洗い終えた遥が眉を上げて彼を見ていた。目元にも口元にも、得意げな笑みが浮かんでいる。「どう?私ってモテるでしょ?」と言わんばかりだ。久美子の手前、湊は何も言えなかったが、眉を上げ、意味深な視線を彼女に送った。その視線に、遥は思わず胸がざわついた。いっそのこと、今夜は会社に戻って残業しようかしら?今の時期の越前蟹はたっぷりと濃厚なカニミソが詰まっており、一口食べると
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