本来なら、このような書類をわざわざ朔本人が届ける必要などないのだ。彼がわざわざ来たのには、当然別の目的があった。この時間なら紗月はおそらく大学にはいないだろうと踏んで、「àl'aube」にいるかもしれないと期待してやって来たのだが、まさか途中でばったり会えるとは思っていなかった。しかも、今日はたまたま自分の車を出していなかった。もしかすると、何か見えない縁のようなものが存在しているのかもしれない。子供たちを送り届けた後、紗月もタイムカードを切って退勤した。よく考えてみれば、今日は数時間ほど有給でサボったようなものだ。得した気分だった。朔は彼女について地下駐車場へ降り、紗月の車の前にやって来た。「家まで送っていきましょうか?」「いえ、私の家はここから少し遠いので」朔は外の通りを指差した。「この前の交差点まで送ってくれないか。そこでアシスタントに迎えに来させるから」紗月は彼を助手席に乗せ、車を発進させた。「藤堂さん、もしかして私の車を見くびってます?」アシスタントを呼ぶくらいなら、自分がそのまま家まで送った方が早いのに。「そうじゃない。ここから君の家まで往復すれば、一時間はかかる。君が家に帰る頃には深夜になってしまうだろう」朔は少し言葉を切り、付け加えた。「心配なんだよ、紗月」紗月のハンドルを握る手が、ピクリと止まった。そういえば、今日の午後もそうだ。幼稚園の前で彼女を見かけたとき、彼は確かにそう呼んでいた。 彼は、時に思いもよらないほど真っ直ぐで率直だった。そういう飾らないところが、紗月には不思議と居心地よく感じられた。大通りの交差点まで送ると、そこにはすでに朔のアシスタントが車を停めて待っていた。相変わらず仕事が早い。朔はドアを開けて降りた。「道中気をつけて。それじゃあ、また」紗月は彼に向かって手を振った。朔は路肩に停まっていた車に乗り込んだ後も、窓から彼女に向かって手を振っていた。紗月の車が発進し、見えなくなるまで待ってから、朔の車も発進した。紗月はそのまま車を走らせて帰宅した。スマホを取り出すと、新着メッセージが一通入っていた。それは発信元の表示されない、見知らぬ番号からのショートメールだった。【お前の平穏な日々も、もう長くない
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