だが、実際に薬酒を口にするのは、生まれて初めてのことだった。想像していたよりも、少しだけ苦く、渋い。だが、決して口に合わないというわけでもない。紗月が一口飲むと、じんわりとした温もりが喉から胃の奥へと落ちていき、体中がポカポカと温かくなるのを感じた。彼女が飲んだのを見て、朔も一口飲んだ。店に新しい客が入り、女将さんはそちらの接客へ向かった。紗月は酒を一口飲んだだけで、顔がポッと赤く色づき、少し酔いが回ったようだった。朔はそれを見て、手を伸ばし、彼女の赤い頬に指先でそっと触れた。わずかに熱を帯びていた。「お酒、弱いのかい?」「全然飲めますよ。これくらいじゃ絶対に酔いません。ただ、私はお酒を飲むとすぐ顔に出ちゃうから」彼女は山育ちのせいか、頬がいつもほんのりと赤く染まりやすい。そのため、アルコールが少しでも入ると、瞬く間に顔が赤く染まってしまう。朔はそれを聞くと、彼女の目の前にあった半分残ったグラスを取り上げた。「顔が赤くなるのはアルコールを分解できていない証拠だ。これ以上は飲まない方がいい」紗月はちょうど自分の皿に入っていた酢豚を食べているところだったが、ふと顔を上げると、朔が彼女のグラスに残っていた半分のお酒を、そのまま一気に飲み干したのだ。しかも、どう見ても彼女が先ほど口をつけたのと同じ位置だ。グラスの口は広くないとはいえ、少しずらして飲むことはできたはずだ。だが、そこに残っている彼女のリップの跡は、無視できるようなものではなかった。朔はまるで何も見えていなかったかのように、ごく自然に飲み干してしまった。紗月は慌てて顔を伏せ、料理を黙々と口に運び続けた。女将の手料理は確かに絶品で、二人ともお腹いっぱいになったが、それでもかなりの量のおかずが残ってしまった。紗月は思わずため息をついた。「家の近くの店なら、持ち帰りにしてもらうのに」「木村ディレクターは随分と節約家なんだな?」「普通ですよ、普通」紗月の金銭感覚は、確かにかなりしっかりしていた。何しろ、かつての一円にすら事欠くような生活が骨の髄まで染み付いているのだ。今は手元に余裕ができたとはいえ、無駄遣いをしない習慣は抜けず、家を買った時も、「住めれば十分」と割り切ってリフォームすらしなかったくらいだ。
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