朔は一瞬言葉に詰まり、苦笑して言った。「社長は……怒っていないんですか?」「もし漏洩させたのがお前なら、徹底的に調査した上で即座に懲戒免職にするだが、もしやったのがお前の弟なら、その責任をお前に背負わせるわけにはいかない。そんなものまでお前に押し付けたら、かえってこちらの肩の荷が重くなるからな」九条家においても、あの翔一人だけで十分に手を焼いていたのだから。翔と潤に対する処置にしても、湊は甘すぎると言ってもいいほど情をかけてきた。他の名門であれば、次男一家をあれほどあっさりと許すことなどあり得なかっただろう。今やあの二人は、一人が刑務所の中、もう一人が海外へ追放されている。朔は一瞬呆然としたが、ふっと声を立てて笑った。「分かりました」電話を切り、胸の奥で澱んでいたわだかまりが、ようやく消え去っていった。紗月は車を走らせながら、眉間を揉む朔を見て口を開いた。「どこかでマッサージでも受けていきますか?」道の両側には、タイ式マッサージの店がいくつも並んでいた。朔は首を振った。「いや、いい。心配をかけたな。もう大丈夫だ」彼はただ、考えていたのだ。もし清春がほんの魔が差しただけなのだとしたら、本当に取り返しのつかない過ちを犯す前に、まだ踏み止まらせることができるのだろうか、と。そう考えているうちに、無意識のうちにその言葉を口にしていた。紗月は少し考えた。「正直に言います。私はあなたの考えには賛成できません」藤堂清春という男は、危険すぎる。それに彼のこれまでのやり口は、あまりに度を越していた。すでに一線を越えていたとしても、何の不思議もなかったのだから。朔は手を組み、少し言葉を変えて尋ねた。「なら、もし陽菜さんが取り返しのつかない過ちを犯したとしたら、君はどうする?」紗月は眉をひそめた。彼女は反射的に反論しようとした。私は陽菜のことを分かっている、あの子がそんな度を越した真似をするはずがない、と。だがこれはあくまで「仮定」の話だ。朔だって、自分が清春のことを一番分かっていると思い込んでいたのだ。ある意味で、今の二人の境遇と心境は、恐ろしいほどに重なり合っていた。紗月は前を真っ直ぐに見たまま運転しながら、以前起きたあの小森美雪の事件を思い出した。
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