「夏野さん、本当に中絶手術を受けられますか?」ぼんやりとしていた意識が、医師の重ねての問いかけによってはっと覚めた。夏野千晴(なつの ちはる)は大きく目を見開き、いま目の前で起きていることが信じられないといった様子だった。さらに医師が促すと、ようやく自分が生まれ変わったことに気づいたのだ。前世でもちょうどこの日、自分が妊娠していることを知り、そして、取り返しのつかない代償を払う選択をしてしまったのだ。お腹の中の子は桜井裕(さくらい ゆたか)の子で、つまり血の繋がりのない彼女の義理の叔父にあたる人物の子だ。千晴が七歳の時、両親は海外で商談中に爆発事故に遭い、二人ともその場で亡くなった。夏野家は裕に恩があったため、裕は彼女を自らの手で引き取り、育てることにした。幼い頃の千晴はおとなしく、可愛らしかったため、裕はすべて自分の手で面倒を見た。七歳の女の子を十七歳の少女へと育て上げたのだった。千晴は桜井家でこの叔父にしか心を開かず、常に彼に甘えていた。思春期を迎えると、彼女はこの男を抑えきれずに好きになった。十八歳の誕生日の日、千晴は酔った勢いで告白し、つま先立ちで裕の唇にキスをした。裕は普段から自制心が強いが、その日はなぜか一杯しか酒を飲んでいないのに体が熱くなり、頭もぼんやりして、唇に触れたあの冷たさに理性を完全に失ってしまった。目覚めると、ベッドはめちゃくちゃになり、裕は激しく彼女を押しのけた。千晴は初めて彼の目に憎しみを見た。裕は激怒していた。しかし、千晴には何が起こったのか理解できなかった。自分はただ我慢できずにキスをしただけで、その後起きたことは純粋に偶然の出来事だった。しかし裕はそれを、千晴が計画したものだと思い込んでいた。「千晴!お前、何をしてくれたんだ!俺はお前の叔父だぞ!」千晴は説明しようとしたが、裕は聞こうともしなかった。ひたすら自分は叔父だから、こうしてはいけないと繰り返すだけだった。そこで千晴は初めて反論した。「でもあなたは私の実の叔父さんじゃないし、血の繋がりもないでしょう」これが二人の初めての言い争いとなり、裕は怒りに任せて桜井家の屋敷を出て行った。千晴が再び裕に会えたのは、一か月後だった。彼女が妊娠していたため、裕は家族の命令で桜井家に呼び戻され、二人の
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