泰夫が亡くなって以来、裕はほとんど会社に住みつくようになった。桜井家にはめったに戻らなかった。戻れば悲しい出来事ばかり思い出されるからだ。裕は一瞬たりとも気を緩めようとはしなかった。仕事の手を止めれば、無限の思慕に沈んでしまうから。彼は短期間で会社をさらに高い段階へと引き上げた。だが、それは体を削って得た成果でもあった。半年後、彼はすでに人の形を保てないほど憔悴し切っていた。ある朝、幹部会議を終えた直後、裕は会議室で倒れた。次に目を覚ましたとき、すでに二日が経っていた。病床の上で、裕はとても長い夢を見ていた。――夢の中で自分は、十八歳の誕生日の日、千晴が告白してきたその姿を見た。そして思わず即座に承諾した。千晴はうれしさのあまり跳ね回り、そのまま胸に飛び込んだ。自分は千晴を強く抱きしめ、深く口づけた。――そのとき、突然ひとつの顔が目の前に割り込んできて、二人を無理やり引き離した。雅乃だった。裕はその瞬間、恐怖に打たれたように目を覚ました。目を開けると、兄の桜井翔(さくらい しょう)が、真っ赤に腫れた目で悲しげに見つめていた。「裕……ようやく目を覚ましたか。どうして自分をこんな姿にまで追い込んだんだ!」裕はまだ悪夢の余韻から抜けきれず、現実に戻っていた。「兄さん、どうして帰ってきたんだ?ただの持病だ、心配いらない」翔が心配しないはずがなかった。弟が倒れたと聞いて急いで戻ってきたのだが、半年でこれほど痩せ衰えた姿を見るとは思ってもいなかった。この半年、彼は地方で絵画展の開催に追われていた。家の執事から、祖父の死後、裕は会社に没頭していると聞き、それを祖父への思いだと受け止めていた。だが、こんな結末になると知っていたら、決して放っておくことはしなかった。まさか弟がここまで深く思いつめていたとは。一方には祖父の遺言、もう一方には愛する女性。どちらも捨てられず、彼にできたのは命がけで働き続け、痛みを忘れようとすることだけだった。そして、その結果、わずか半年で体を壊したのだ。医者の診断は――胃がんの末期。すでに全身へ転移しており、治療の意味も薄い状態だった。胃がんの末期、どれほどの苦痛だったことか。それでも裕は、倒れるまで一言も弱音を吐かなかった。兄として、唯一の弟を失うわけには
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