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2 Chapters

冷たい手

またどこかで間違えた。────痛い。あてもなく走り続けて思った。許されるなら倒れたい。しかしそれだけは駄目だと脳内で告げている。なのにどうして追われて、どうして逃げているのか。それすらも理解できなくなっていた。◇『お前、男が好きなんだろ?』そう言われたのはいつだっただろう。言ってきた奴は当時の親友で、中学のときだ。俺は確か……そうだ、高校受験を間近にした三年生だった。長い間隠してきた秘密がバレてショックだったことを覚えてる。だけどそれ以上に、親友に浴びせられた言葉にショックを受けた。なのに何を言われたのか肝心な内容は思い出せない。多分、意識的に記憶から消した。重く暗い出来事。一番仲が良かったから……話せば分かってくれる、なんて淡い期待を抱いたのがそもそもの間違いだった。崩れ落ちた友情から学んだことは、良くも悪くもその後の自分を守る術となった。あの日から、絶対に男を好きにならないと決めた。永遠に独りでもいい。自分の力で生きていくんだと。「清水さん、お疲れさまでした」「おぉ、お疲れ。また明日」……もう二十二時時か。勤め先のスポーツジムから外に出てスマホを一瞥する。堤俊紀(つつみとしき)、二十五歳。大学を卒業し、インストラクターとして今の職場に就職した。仕事の内容には満足しているし、多少収入が少なくても何とかなっている。それに意外と出会いもあるから楽しかった。スポーツをやってる爽やかな好青年。恐らくそれが、傍から見た自身の印象。でも実際はそんなことない。爽やかよりは、いくらか過去を引きずるタイプだ。個人的には恵まれてると思う。スポーツが好きだから頑張って体育大学に行ったけど、勉強が苦手なわけではなくむしろ得意な方だ。……今日は別の道から帰るか。普段の帰り道である大通りからそれて、人気の少な雑木林沿いの道に入った。何でこの日に限ってこの道を選んだのか。これは後になって、一生の疑問点となる。 違う道を行っていれば、また別の人生を歩んでいたんじゃないか。そう思えてならない。この道は林のせいで昼も薄暗い為、女性が夜歩くのは危険かもしれない。まぁ俺が歩くぶんには大丈夫だ。ゆったりしたペースで進んでいると、森の奥から何かが近付いてくる音が聞こえた。ガサガサと草木を掻き分けている。鳥? 猫……にしては音が大きすぎる。少
last updateLast Updated : 2025-11-27
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#1

「ふあ、さむ……っ」仕事が終わり、俊紀は早足で自宅を目指した。今日は仕事に集中できない理由があり、一日中ソワソワしていた。 その理由はひとつ。やっぱまずい気がしてきた……!何がまずいかと言うと、昨日から始まった男子高校生との同居のこと。恐ろしい話、今のところ彼について分かってることは名前と年齢、住所だけ。それだって微妙だ。嘘をついてる可能性もあるが、確かめる術もない。……にもかかわらず、普通に彼に留守を任せて今日は出勤してしまった。でも家で休んでるように言ったのは自分だし……。気付けばもうマンションの前まで来ていた。彼は家にいるだろうか。もし金目当ての不良だったら、なんて良からぬ妄想まで浮かんでしまう。だけど、そう思う度に彼の辛そうな表情が脳裏にチラつく。それに後悔するにしたって、彼を家に置いて出てきてるんだからもう遅い。……昨日の自分が信じてみようと思ったんだ。ここは腹を括るしかない。中に入ると、いつもと同じく静まり返っていた。「……た、ただいま?」リビングにひょこっと顔を出すも、荒れた形跡は一切ない。いつも通りの景色だけど、一つだけ明らかに違う、新しい存在がある。「……夕都くん?」白いダブルのソファで静かに寝息を立てる少年。今日一日ずっとソファで寝ていたんだろうか。 でも朝はワイシャツ一枚だったのに、今はしっかりブレザーを着ている。怪我してんのにどこか出掛けてたのか?彼は高校二年生。世間的には、あと少しで大人の括り。……こんなに幼い寝顔をしてるのに。ひとり息をつき、軽く首を傾げた。とまぁ、とにかく。「夕都くん、こんな所で寝てたら風邪ひくぞ。寝るならベッドで」軽く揺さぶって起こそうとした。しかし夕都の内ポケットから、何かが重い音を立てて床へと落ちる。それが何なのか、理解するのに時間はかからなかった。ナイフ!!一応、拾った。想像していたより重い。この時点で心拍数はかなり上がったが、さらに恐ろしいことに気付いて息を飲んだ。よく見ると、昨日見たものより一回り大きい。マジかよ……。物騒なナイフと少年の穏やかな寝顔を交互に見つめ、俊紀は重たい溜め息をもらした。やっぱり、信頼できない一番の原因はここにあるみたいだ。「……ん」そうこうしてる間に、夕都は目を覚ました。「あ、俊紀さん。おかえり……」彼は明る
last updateLast Updated : 2025-12-01
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