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#3

last update Date de publication: 2025-12-03 12:41:40

「でもそれ最近はよく聞くし、珍しくないんじゃない? 近代的っていうか禁断的っていうか……俺は偏見ないよ」

夕都は無表情で壁を見つめながら何か言っている。

俊紀は何とも言えない気持ちにさせられた。ある意味、社会人になってから一番困った事態に陥っていた。

「大丈夫だよ、人の目なんか気にしないで! 俊紀さんの更なるご活躍を祈って、俺はバイト行ってきます」

「待てこら」

流れに乗じて抜け出そうとした夕都だったが、寸での所で引き止めることができた。

「ちょっ離してよ。心配しなくても誰にも言わないって」

「もう完全に同性愛者であること前提で話進めてんじゃんか。俺も今は恋愛自体しないっての!」

「今は?」

すかさず夕都は反復した。

やばっバカした……。

墓穴を掘った俊紀は絶望的な状況に陥り、目眩が起きそうだった。もう言い訳は通用しないだろう。

しかし夕都は特に変わった様子も見せず、スマホの画面を見て嘆息をもらした。

「あぁもう、バスの時間過ぎちゃったよ。俊紀さんが素直に認めてれば済む話だったのに」

夕都は鞄を床に置き、リビングへと引き返した。俊紀もそれに続いて部屋に戻る。

「大体、何の話してたんだっけ。俊紀さんの性癖について……?」

「ぶっ飛ばすぞ。お前の学校の話」

「それだ。俺、定時制に移る。その方が色々と都合がいいから」

「親御さんは了承してんのか?」

俊紀は冷蔵庫から飲み物を取り出し、夕都にも手渡した。

「だから親はいないって。兄貴が管理してくれてるから兄貴に話す」

夕都は一気にジュースを飲み干した。

本当に興味がないのか、俊紀の眼には夕都が他人の話をしている様に見えた。

「お兄さんがいたんだな。今別々で暮らしてるって事は、結婚してんのか」

「いや、してないよ。多分一生できないと思う」

「おいおい、それは分かんないだろ」

「分かる」

確信してるような夕都の物言いに少し引っかかるものを感じたが、そこは突っ込まないでおいた。

というか、絶対に干渉させないという態度が露になっていたから。

「ねぇ、それはそうと……」

夕都は急に真剣な面持ちになり、話を切り出した。

あまり見たことのない彼の真面目な雰囲気に、こっちも思わず緊張してしまう。

何を言い出す気だ……?

彼のことだから、また突拍子もないことを言うかもしれない。そう予想して、大抵のことは動揺しないで答えられるよう俊紀は身構えた。

同性愛の話になっても大丈夫なように。

「……何」

「彼氏が欲しいなら、俺と付き合おうよ」

喉に通りかけていた飲み物が逆流して、激しく咳き込んでしまった。

「何でそうなるんだよ!!」

「あれ。俺に気があるんじゃないの?」

こればかりは予想外だった。あと、凄まじい勘違いだ。話が突飛すぎて、どう返せばいいかも分からない。

「いつ誰がそんなこと言ったよ。全く、最近の若者は冗談がキツいんだからな……」

「俊紀さんも若者じゃん」

ぬれた口元を拭いて、あくまで冷静に切り返した。

「お前はいつも遊びでしか付き合わないんだろ? そんなんじゃ相手が女の子じゃなくて、男だとしても気の毒だよ」

しかし夕都は首を振り、強い語調で否定した。

「ううん、だからこそ今度は真剣に恋愛してみたいんだ。それに俺、俊紀さんならマジでイケそう」

「俺は無理」

「そっか。でも付き合ってれば同居してても問題ないし」

「無理だって」

「バイトも学校もこっからのが近いしなぁ……よし、決まりだね。付き合おう」

日本語が通じない。

呆然としている間に、夕都は一人で話を始めた。

「じゃ今日からよろしく! いやぁ、俺彼氏できたの初めてだからワクワクするなぁ」

自分勝手に話を進める夕都に、さすがに我慢も限界を迎えた。

「人の話を聴け! 俺は絶対無理だし、そもそも一週間って約束だろ! だから泊まらせてやってんのに!」

「わかってるよ。わかってます。俺も最初はそのつもりだったんだけど、気が変わったんだ。けっこう、いや真面目に俊紀さんのこと好き」

夕都は立ち上がり、俊紀と息が当たりそうな距離まで顔を近づけ、呟いた。

「一週間だけって、それは俺がただの同居人だったらの話でしょ。俺が俊紀さんの恋人になれたら話は変わってくるよね?」

ありえない。

ありえない事の連続で、どうしたらいいか分からない。

それでも夕都は俊紀の前でにこやかに笑っていた。

「そうだ、もう少し落ち着いたら俊紀さんが俺の家に住むってのもアリかも!」

「だから誰もまだ付き合うなんて……んっ!」

一瞬の出来事だった。

まだ話してる最中だというのに……夕都は俊紀の唇を塞ぎ、壁に押し付けた。

会ったばっかりの高校生にキスされてる。俊紀は混乱した。夕都は煽ってるのか、わざと激しく口付けを交わし、淫らな音を立てている。

「……っ!」

その最中に夕都は腰に手を当て、俊紀のベルトを外そうとした。

「痛っ!」

しかし、俊紀は寸前で夕都の鳩尾を手加減ゼロで殴り、事なきを得た。夕都は膝をついてうずくまる。自業自得だとは思ったが、俊紀はすぐに屈んで彼を抱き起こした。

「悪い、大丈夫か?」

「あんまり大丈夫じゃない……」

夕都は涙目になりながら俊紀に抱き起こされた。

「すまん、全然手加減しなかった」

「いや……手加減ていうか」

「ん?」

夕都はブレザーをめくると、殴られただろう部分を押さえて呟いた。

「傷口をピンポイントで殴ってきたからツラいんだけど……」

そう言われてハッとした。

彼が刃物で刺された傷口はようやく塞がりかけてきていたのに、どうやらそこを殴ってしまったようだ。

「ごめんな、すっかり忘れてた……! あまり痛かったら病院行くか?」

予想外の展開にさっきから完全に混乱している。

けど夕都は少し深呼吸をして、優しく笑いかけた。

「大丈夫だよ。でもできたら立たしてくんないかな」

「あ、あぁ」

俊紀は言う通りに、夕都の手を引いて起こそうとした。……が、

「んっ!」

お互いの顔が近くなった時に、またしても夕都はキスをしてきた。ほんとに懲りない。

怒りが頂点に達し、俊紀は夕都をはたいた。もちろん、今度は頭部を。

「俊紀さん。痛い」

「さっきの痛がりようは演技か?」

低い声で尋ねると、ようやく夕都は申し訳なさそうに俯いた。

「痛かったのは本当です……」

そのあとはしばらく、彼の謝罪を聞いたけど。

夕都は思っていたよりずっと危険で、変態で、扱いづらい人間だということを知った日になった。

「よしっじゃあこうしよう。俺がちゃんと学校行った日は、俊紀さん家に泊まっていいっていうルール。それなら俺も頑張って行ける気がする!」

「…………」

夕都の提案は、また悪い意味で裏切ってくれた。どうしてこうも上手にこちらの理想を裏切ってくれるのか不思議でしょうがない。もはや尊敬の域だ。

「ね、同居すれば俺も学校行けるしもっと俊紀さんのこと知れるし、一石二鳥でしょ」

お前だけな……。

「よし、今日はバイト休も。誰か代わってくれるよう電話」

夕都は電話をかけようとしたけど、慌ててそれを取り上げる。このタイミングを逃したらまずい。

「ちょっと待った。学校に行くのはいいけど、俺ん家に泊まっていいかどうかってのは俺が決めることだ」

「うん」

「とても俺の意見を尊重してくれるようには見えないけど……?」

ペースを狂わされっぱなしで、いつしかこっちの方が疲れていた。口論ではあまり意味がないし、何より朝から揉めるのは疲れる。

「心配しないで! 俊紀さんの気持ちは分かるよ。俺と付き合うには、知らない事が多すぎる。特に好きでもない高校生なんかと暮らすなんて異常だって」

図星だった。

というより、そこまで分かってるなら素直に引き下がってほしいんだけど。

「でも俺は、俊紀さんが好きになっちゃったんだ。俺は思い立ったら即行動する人間だから止まれない」

「それでよく失敗しないか?」

「するよ。でも俺が決めたことだし、後悔はしない。絶対に」

大したポリシーだなぁ……。

それはともかく、同居を許すかどうかは心の問題だ。素性が分からないのも勿論だが、本音としてはプライベートな空間にズカズカ入ってきてほしくない。

「でも……最終的な判断は、俊紀さんに任せるよ」

夕都も椅子に座り、穏やかな口調で告げた。

「俺をここに住まわせてくれるならそれでいいし、駄目なら俊紀さんが俺の家に住めばいいだけだ」

「どっちにしても同居は免れないのかよ」

それはあまりに一辺倒で、自己中な物の考え方だ。

まずこんな提案を持ち出してくる時点で頭おかし……いや、そこは広い心で、彼の人間性という事にしておこう。

「やっぱり……駄目?」

夕都は以前のように、上目遣いで頼んできた。

それは普通に困っている少年の態度だった。

「……」

俺は彼のこういう表情に弱いんだって、ここでようやく気付いた。

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  • 恋の保護先   #1

    「そっか。何で春だと元気なんだ?」「さぁ。春だからじゃない?」全く答えになってない。夕都の頭の中はどういう回路で形成されているのか、秀一は未だに弟のことが不思議でならなかった。ただ、彼の自由すぎるペースに慣れてしまったのも事実。ため息を飲み込み、夕都に生活費を渡した。「ありがと! 今度給料出たら返すから!」「それは親父達のお金だからいいけど、堤さんに迷惑かけるなよ? お金のこととかは特に」「わかってる。俺も早く就職したいなぁ……」夕都は玄関へ向かい、ぼやきながら外へ出る。秀一も家の前まで見送りする為に一緒に行った。「そういえば、夕都。春らしいこと、ちゃんと堤さんとしてるか?」「………え?」不意に掛けられた言葉に夕都は冷や汗を浮かべる。生き物が活発になり、性欲が高まるこのときに……春らしいこと?「い……いくら兄貴でも、あんまり他人の性事情は聞かない方が……これはプライバシーもあって、俺だけの問題じゃないし……」「違う。俺は季節の話をしてるんだよ」戸惑いながら言う夕都に、秀一は若干怒りのこもった声で答えた。「はぁ……やっぱり、お前の頭の中が春みたいだな。そうじゃなくて、この季節はイベントが一杯あるだろ。何もしてないなら、これ持ってけ」「な、何?」やばい方向のアダルトグッズだったらどうしようと思いながら、手渡された紙袋の中を覗く。だけど恐恐取り出した中身は卑猥なものでも何でもなくて。「あぁ。そっかぁ。……ありがと、兄貴」そこでようやく、春らしいイベントを思い出した。夕都は秀一と別れ、家路につきながら恋人に電話を掛けた。『もしもーし。俊紀さん、今からちょっと出られる?』実家に行ったはずの夕都から出動要請があり、俊紀は上着を着て外へ出た。……急に何だろう。ぼんやり考えながら夜空を見上げる。春とはいえ、夜はまだ冷える。もう二十二時近いし、心配だから迎えに行こうか迷ってたところだった。ちょうど良かったと思いながら、普段使わない駅へと歩いた。河沿いをひたすら進んで大きな橋を渡る。夕都からはその辺りで待ってる、と連絡があった。「おぉ……すごいな」見れば、冬は殺風景だったのに今は見事な桜並木の景色が遠くまで続いている。「あ。やっほー俊紀さん、わざわざ出て来てくれてありがとね。これ兄貴から」その後すぐに現れた夕都は、持っていた

  • 恋の保護先   ◇回春

    それは、ある春の日のこと。「俊紀さん、兄貴から連絡きてさ。生活費支給するっていうから、ちょっとだけ実家帰るね」「そっか。気をつけて行ってこいよ。秀一さんによろしく伝えといてくれ」夕食を終え、皿洗いも終わり寛いでいた俊紀は何も考えずに答えた。いつもと変わらない風景……ところが夕都は不服そうに眉を寄せ、彼の隣に腰を下ろす。「ねぇ、俺がいない間寂しくない?」「全然。それとも泊まってくるのか?」「いや速攻で帰る」「じゃあ問題ないな」あぁ、そうか。……じゃなくて!「ちょっとの間でも会えないと寂しくない? 俺は俊紀さんに一秒でも会えないと寂しくて涙腺崩壊しちゃうよ!」彼に寂しがってほしかったのに、いつの間にか自分の方が寂しくて取り乱してる。何でここまで彼に依存するようになったんだろう。夕都は自分自身に困惑した。「あ~駄目だ! 考えれば考えるほど無理、俊紀さんが居ない生活とか考えられない! 死んだ方がマシ!」「元気だなぁ。春だからかな? まぁお前は年中元気か……お、野球やってる」俊紀は夕都の方を見もせずにテレビを点け、番組の内容に集中する。一方、夕都は俊紀の言葉に衝撃を受けていた。( 春………!? )そういえばそんな季節があった。雪が溶け、草木は若緑に芽吹き、ここぞとばかりに花粉が舞い散る。また性的な意味でお盛んな人間が増える時期。動植物の繁殖期ともいえる。軽い気持ちで虫の交尾を検索したり女子の衣替えにワクワクしたりの全てを「春だから」で済ませられる素晴らしい季節。性欲が強まる。ということは俊紀さんも活発になる時期……。夕都自身、別に春だから特別な気持ちが芽生えるということはなかったが、そういえば入学式を迎え、初々しい新一年生達を見たばかりだ。今は当たり前のように一緒にいる彼のことを考えても、……なるほど、環境が一変する季節に間違いない。春は、特別な季節だ。「よーし! 俊紀さん、春関連のしりとりしよう。俺からスタート! 花粉症!」「羽化」「花粉症! ……は今言ったか。じゃあ花粉」「終了だな。夕都、明日のゴミ出しは頼んだ」新しい香りがする、春の季節。去年の今頃、彼と出会った。「待った! それはないんじゃないかな。そういう勝負だったら俺は本気出してた。いや本気出す以前に俊紀さんの負け」付き合って一年になる俊紀と夕都は、今日

  • 恋の保護先   ◇宝物

    昔馴染みと色々あり、歳上の恋人ができ、一年が経った。「梁瀬。お前相変わらずテスト最高点キープだな」まだ目新しい教室で、夕都は先週受けた採点済みのテストを渡された。それを見た隣の席の、去年と同じクラスの男子生徒が目を見開く。「お前って全っ然勉強してそうに見えないのに」「そう思うじゃん。でも実は真面目にやってるんです」テスト用紙を机に置き、わざと自信満々に答える。するとクラスメイトはよし、と手を叩いた。「じゃ今度のテストは俺と賭けようぜ。負けた方がその日の学食奢り」「いいけど、現文と古典以外な」「お前って完璧理系だな。それにしても」周りが静かな為か、彼は少し声を潜めた。「二年に上がれて良かったな。俺正直、お前留年しちまうかと思ったもん」「……うん。俺もそう思った」内容自体は大して驚かずに、夕都は黒板に向き直る。「でもぶっちゃけ、春休みに死ぬほど頑張ったんだよ。全教科レポート提出したりしてさ」「へぇー、そりゃすごいな。でもソレ、あんま他の奴らに言わない方がいいぞ。絶対文句言い出す奴らがいるから」「あぁ、サンキュ」確かに、我ながら黒歴史を作ってしまった。散々好き勝手やってきたのに、最終的には全教科の担当教師に頭を下げる羽目になったのだ。軽はずみな行動は取るもんじゃないと痛感した。さすがにちょっと調子に乗りすぎたと猛省している。プリントを机の中に突っ込み、代わりに教科書とノートを取り出す。参考書は隣のクラスの奴に貸してしまっていて、今は手元になかった。完全に授業に集中できる真面目な人間になれたらいいのだが、生憎まだそこまでは到達してない。この学校はとにかくレベルが高いから、皆血眼になって教科書にかじりついているけど。教室の温度は相変わらず。それでも、昔に比べたら随分居心地は良くなった。その証拠にあれだけ長く感じた学校での一日が今はとてつもなく速い。気付けば放課後、バイト、そして……家。「今日」も終わりに近付き、家路へと早足で歩いた。特別なにかあるわけじゃないけど、一秒でも一緒に居たいあの人がいるから。本当に急いでるのは、足よりも心の方だ。「ただいま!」「おぉ、お帰り。早かったな」いつも変わらない笑顔で出迎えてくれる人がいる。それは……それこそが、自分がずっと憧れて、待ち望んでいたものかもしれない。兄がいたから別に不

  • 恋の保護先   #4

    「そうだっけ? でも俺は、俊紀さんのこと本気で自慢に思ってるけど」夕都は眉ひとつ動かさずに言い放った。何か、嘘でも冗談を交えずに言われると責められない。自分も大概単純だ。完全にペースを崩され、乱暴に頭を掻いた。横に乗り出し、夕都を押し倒して唇を奪う。「ん……っ」夕都はそれを簡単に受け入れて。身体を密着させて、濃厚なキスを続けた。「ちょっと待って、苦しい」腰が、と夕都は顔を顰める。確かに隣合ってるため、だいぶ厳しい体勢を取っていた。「じゃ、不自由ないベッドに移動するか?」夕都の顎を持ち上げ、悪戯っぽく問いかけた。そして彼の唇を大きく甘噛みする。「今かなりエンジンかかってきてるから……覚悟しろよ」「わっ!」驚く夕都を抱きかかえて、寝室へと歩いた。そして彼をベッドの上に下ろす。「俊紀さ……っ」彼がなにか言おうとするより先に、また口付けをする。シャツのボタンを順々に外した。部屋の電気をつけてない為、お互いの表情もぼんやりとしか分からない。「は、あっ……あ……」過敏になっているのか、夕都はいつもより声を上げていた。彼の兄が帰った直後に……本当に自分は悪い大人だ。良心が痛むが、身体はとっくに火がついている。今さら止まることはできなかった。全身のキスを終えると、夕都のズボンの中へ手を差し込んだ。 彼も逃げられないと分かっているが、身を捩って逃げようとする。生理的な反応だ。夕都は目を瞑って、背中に手を回してきた。何度肌を重ねても緊張してしまうのは、やはり彼が好きだからだと言い聞かせて。「夕都。脚、広げて」位置をずらし、夕都の脚の間に頭を沈める。手で支えて腰を上げさせると、後ろの穴に舌を這わせた。「あ……っ!!」夕都は強く目を瞑り、声をもらさないよう歯を食いしばった。我慢すればするほど、身体はビクビクと震える。「声出せよ。俺けっこうお前の喘ぎ声好きなんだから」嫌味でも冗談でもなくそう言うと、夕都は一瞬頷きそうになったが、「や、でも……やっぱ自分の声は気持ち悪いし」理性を手繰り寄せ、恥ずかしそうに顔をそむけた。「はは。でも、一緒に喘げばそんな事ないだろ?」笑顔で言うと、夕都はムッとして反論した。「何言ってんだよ。いつも俺だけ散々声出して終わるのに」「まぁな。俺は別にそれでいいんだけど」夕都の意見を適当にあしらい、行

  • 恋の保護先   #3

    「って、今日初めて会った俺にこんな力説されても困っちゃいますよね。すみません」「いえ、そんな事ありません! ありがとうございます」苦笑する彼の言葉を否定し、少しずつ本音を話した。「俺は自分と同じような人と関わる機会がなかったから、秀一さんのお話を聴くことができて本当に良かった……」率直な感想だ。もう少し上手いことを言えたら良かったけど。「堤さんはお優しいですね」「いえ、そんな」夕都を例にするわけじゃないが、お世辞でもあまり煽てられると困ってしまう。「なんというか、昔の僕と似てるところがある」そう言って秀一は夕都に笑いかけた。「夕都。堤さんに会えて良かったな」「まぁね」夕都は自慢げに呟いた。「同性愛者ってだけで最初から不安定な立ち位置にいる。なら普通の人より大変な想いすんのは分かりきってんじゃん。俺は先に覚悟しとけば、何かあっても慌てない自信があるよ。悪いけど、俺は強い」「はぁ……確かに、異性だからって必ず結ばれるわけでもないけどね」「そ。俺は女の子とも付き合えるから言わせてもらうけど、どっちも大変だよ。同性はハンデがあるだけ……それよりもう食べようよ! 腹減った」「はは。じゃ、そうしますか」自身の腹をさする夕都を見て、俊紀と秀一は笑った。────久しぶりに賑やかな食卓を囲んだ。こんなに居心地が良く、安心する時間はいつぶりだろう。また、こんな楽しい夜を過ごしたいと思った。「今日は本当にありがとうございます、堤さん。今度はぜひ私達の家に来てください」時間が流れるのはあっという間で、もう終電もない深夜だった。「もうこんな時間だし、良ければウチに泊まっていきませんか?」秀一はてきぱきと身支度を始めていたが、心配になってそう提案した。けど、「大丈夫、恋人に車で迎えに来るよう言ってるから。長く居座って申し訳ない、楽しくて時間を忘れるぐらいだから」「それは俺も……あっ、夕都のこと連れ帰らなくていいんですか?」慌ててリビングのソファで眠る夕都を見た。少し前から急に眠いといって横になってしまったのだけど……。元々、彼は夕都と過ごす為にこっちに帰って来たのだと聞いた。なら解決すべき問題はもうひとつある。「大丈夫。今は仕事も落ち着いたから、会おうと思えばいつでも会えるし」秀一は夕都に近付き寝顔を一瞥すると、小さく笑った。その言葉

  • 恋の保護先   #2

    「イケメン……」それは、つまり。「弟の俺なんかよりずっと可愛い存在なんだって、昔から散々聞かされてたんだよ。ね、兄貴」「っ……何の事だか分からないな。夕都、なにか勘違いしてるんじゃないか?」「あーもう、隠す必要はないよ? だって俺と俊紀さん、付き合ってるから」────あぁ。信じられない。本当に言った。言ってしまった。バレてるとは思っていたが、それでもまだ誤魔化す手はあったのに。絶望感から泣きたくなった。秀一は案の定、というより不憫なほど驚いている。その様子から、夕都の言葉が冗談ではない事に気付いているようだ。「あはは、分かってたくせに。驚いてるふり上手いなー」気まずいのもあるし、素直に受け入れていいのかどうか、という悩みもあるだろう。秀一は固まったまま動かない。夕都は相変わらず軽いノリで笑っていたが……フリーズした秀一に痺れを切らし、容赦なく彼の頬をつねった。「いった! 何するんだ!」「リアクション長すぎ」さっきまで散々彼の反応を楽しんでいたくせに、夕都は冷たい目で秀一さんを睨みつけている。本当に自分勝手だ。「夕都。秀一さんの気持ちを考えてみろよ」と、彼のショックの原因でもある俺が言ってみる。もちろん説得力はゼロだ。「兄貴が何にショックを受けてんのか俺には理解できないけどね」夕都は椅子に深くもたれかかり、前で手を組んだ。「───俺は幸せだよ」彼の、人の話を聞かず自分の世界に入ろうとするコレはもう治らないんだろうか。「何故かって? そんなの決まってる。俊紀さんは優しいし、頼りがいがあるし、見ての通り美形だし、おまけにドSだし、こんな人と愛し合えて不幸って方がおかしい」「…………」長い沈黙が流れた。俺がスベッたわけじゃないのに、こんなに痛い沈黙を味わうとは。けど自分なんかより、彼の兄の方がずっとダメージを食らってるはずだ。「堤さん、夕都の言ってることは本当ですか……? 愛っ……て」そう問いかける彼の顔は青ざめている。「いえっ! えっと、あのですね……」一応、考えてはいた。こんな早くにアウティングするとは思わなかったけど。このままずっと夕都と一緒にいるのなら、いつかは必ずぶち当たる壁。自分の家族、そして夕都の家族にも、自分達が一緒にいる理由を伝えなくてはいけないのだ。同性愛者だと近親者に知られること。当た

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