LOGIN夕都は持っていたナイフを俊紀に預けた。
目下の不安は鎮火したものの、翌朝は思いがけない口論が起こった。
「は? バ、バイト?」
午前八時。
俊紀が目覚めてからリビングへ行くと、そこには制服を着た夕都がいた。
怪我の痛みが和らいだようだからてっきり学校へ行くんだろうと思ったのに、夕都が話した行き先は予想と反するものだった。
「うん。俊紀さんに生活費も早く渡したいし」
「いやでも、お前が行ってる高校は全日制だろ?」
俊紀は光の速さで夕都の外出を食い止める。
「そうだけど?」
夕都はあっけらかんと返事をした。
「なら学校を優先しな! 生活費はもう少し回復してからでいいから」
「そういうわけにはいかないって。それに学校は……真面目な話、卒業できる気がしないんだよね〜。俺頭悪いし」
夕都は鞄を持って玄関へ向かおうとしたが、それを先回りした俊紀に阻まれる。
「待て待て、早まるなよ。高校は大事だぞ。一時の感情で将来を棒に振るなって」
「感情の問題じゃなくて、勉強ができないんだよ。行ってもしょうがない」
「真面目に行ってれば卒業はできるだろ。あと、何も勉強だけじゃない。友達と遊んだりしてさ……思い出をつくんなきゃ」
それがいつか、良かったと思える時がくる。彼はまだ十七歳で、これから楽しい事がたくさんあるはずだから、そこは必死に説得した。
しかしやはり、彼にはいまいち響かない。
「友達なんてもういらないよ」
夕都は俊紀の横をすり抜け、あくまで玄関へと向かう。
「おい、夕都!」
「大体、俺が学校行かなくても俊紀さんには関係ないだろ。それで迷惑がかかるわけでもないんだし」
確かに、それはそうだけど。
でもなぁ……。このまま見過ごしていいんだろうか。
玄関にたどり着き、夕都は靴に履き替えようとした。
が、急いだ為か靴が前に滑り、勢いあまって頭から倒れてしまった。やっぱこいつ、色々そそっかしいな。
「いったい!」
「はぁ……大丈夫か?」
俊紀はすぐに屈み、夕都を抱き起こした。お互いの顔が真正面にあるような体勢になり、二人は目が合う。
「…………」
それが何秒続いたか分からないが、まるで時間が止まってしまったようだった。
何秒。いや何十秒、そうして彼を抱いていただろう。
動こうと思えば動けたはずなのに、俺の手は彼から離れてくれなかった。
もちろん、彼も。大人しく俺に抱かれて、綺麗な瞳で見つめてくる。
何だこれ……。
しかし気まずい空気になっているのは肌でビリビリ感じとれた。
これはいかん。笑って誤魔化そう。
それ以外に良い案が思いつかなくて、夕都の手を引っ張って起こした。
「は、はは……ごめんごめん」
この不思議な感覚の原因が何なのか分からない。それでも自分が今混乱していることは確信した。
「なに固まってんだよ。どっか打ったか?」
戸惑いを悟られないように、俊紀は彼に背を向ける。
混乱の原因は分からないが、不安の原因はわかった。
それは何年もの間隠し通してきた秘密で、誰にも批判されないように守ってきた秘密。それをもしかして───もしかしたら。
「ねぇ。……俊紀さんって」
俊紀が抱いたその不安は、次の夕都の言葉によって的中する事となった。
「実は、男が好きだったりする?」
サラッと夕都の口からこぼれた言葉は、今の俊紀には後ろから頭を殴られるより威力があった。
「何となーく……そんな気がしてたんだけど。違う?」
「何だそりゃ。じゃあ、違うって言ったら信じてくれるか?」
動揺を悟られないように、あえて夕都が言った言葉を代用した。すると彼は少し考えてから、可愛いぐらいにっこり笑った。
「もちろん! 俊紀さんが俺をもっと信用してくれるなら、俺も俊紀さんを信じるよ!」
浮かべてる表情と違い、声はオクターブ一つ下がってる。でも、それについては冷静に指摘できた。
「なに言ってんだよ。信用してるから家に泊まらしてるんだろ」
「あ、そうだね」
夕都は納得したようで、それ以上は何も言わなかった。あまりに単純で若干拍子抜けする。
「とにかく! 俺の方が先にお前を信じたんだから、さっきの話は信じてくれるよな?」
「…………うん」
分かった。……信じてないみたいだ。
少し泣きたくなる。
ずっと隠し通してきた秘密を出会って三日の高校生に知られてしまったことがショックで仕方なかった。
「そう考えたら悪いことばかりじゃない。本当に……」壁に背を預けて、夕都は顔に貼ったシップをなぞるように指で触れた。「俊紀さん。俺に思ってること、またちょっと変わった?」「?」「尚太から全部聞いたんだろ。今回のことは、俺があいつを巻き込んだんだ。でも俺、俊紀さんにはずっと話せなくて」それは夕都が俊紀に交際を迫る前からで、近々の話ではなかった。それでも確実に、自らの傷を庇うように隠していた。自分が可愛いから、と捉えられても仕方ないほどに。そしてそんな汚い心理を彼に知られてしまうことを、夕都は一番恐れていた。「……見損なったよな」絞り出した声は弱々しく、相手に届いたかも分からない。しかし言葉より先に、その答えは夕都に返ってきた。「……っ!」全身を包む温もりと、唇に当たった感触。あ。忘れていた。この人はいつも───俺が不安になってる時、こうしてくれたんだっけ。俊紀は優しく夕都の額にも口付けを残し、微笑んだ。「仮に見損なっても、見限る理由にはならなかったな。そんなことで嫌いになるほど、軽い気持ちで好きになったりしてない」夕都の身体を更に引き寄せて、俊紀は甘く囁いた。「お前がいなくなることの方がずっと、俺は怖かった。むしろ俺の方が、お前に捨てられんじゃないかって思うこともあった。未だにお互い知らないことばかりだし」「捨てるって、俺が? そんなわけ……」夕都は驚いて俊紀の顔を見返す。しかしその表情は苦しげに歪んでいた為、口を噤んだ。「目を離したらすぐに居なくなりそうだからさ、お前。でも好きだよ。どんなに離れても、どんなに経っても……お前が好きだ」「俊紀さん……」もう泣かないって決めたのに。気付いた時には、涙が溢れていた。「夕都。泣いてるのか?」「うん。何でかな……って、俊紀さんも若干きてない?」「だな。……また会えて嬉しいから……かもな」夕都はただ、今の幸せを表現する術が見付からずに。俊紀もまた、そんな彼を大事に抱いて瞼を擦った。静かな朝だ。静寂を破らぬよう、時針だけ進んでいる。「何か飲むか?」俊紀は椅子に腰かけて、ベッドで横たわっている夕都に問いかけた。「うん」もう太陽は完全に昇っていたが、カーテンを閉めきっている為活力が湧かない。それに何より、もう丸二日起きている。体力なんてとっくに尽きている。けど頭が冴
「寒い……!!」指先は悴んで完全に感覚がない。俊紀達の動向を知る由もなく、圭司は弱々しく白い息を吐いた。「あいつら、戻ってくる気配ないな。これはマジで朝まで放置パターンじゃないか」なんて彼のぼやきを聞いた夕都は悲観的になりそうなのをグッとこらえた。これ以上ネガティブにはなりたくない。寒さと空腹だけでもうこりごりだった。 「まぁ、今度こそ何されるか分かったもんじゃないし。それぐらいなら戻って来ない方がいいっていうか」「いやでも戻って来なかったら餓死する」餓死も嫌だが、リンチにあうなら同じだろう。永遠に帰れない。結局八方塞がりだ。でもずっとこのままなんて……。一体前世で俺はどんな悪行をしたんだ、と圭司は考えていた。こんな事なら常日頃から遺書を用意しとけば良かった、なんて想いまで頭によぎる。しかし二十分後、その考えは断ち切れた。「兄貴! やっぱりここだったんだ……!」部屋に反響する透き通った声。この聞き慣れた声は────、「尚太!」小走りで駆け寄ってきた少年は幻ではなく、本物の弟だった。「お前、よくここが分かったな」「まぁね。……色々ごめん。さっ、早く出よう」尚太は圭司の手を縛るロープをほどきにかかる。「梁瀬を捜してたんだろ。何で俺も一緒にいるのか聞かないのか?」「……聞かないよ。兄貴が先輩に絡む理由なんて、どうせ俺の為だろうし」尚太の物言いにムッとして言い返そうとしたが、その前にロープは解けた。「でも、先輩は良い人なんだよ。兄貴と同じで口は悪いけど、俺のことを助けてくれた……だから俺は今ピンピンしたられるんだ」尚太は、圭司の袖を震えるほど強く握った。「わかってる。やっとわかったよ。……遅すぎだけど」二人は可笑しそうに笑い、手を取り合った。「本当にごめん。俺、これからはちゃんと学校行くから。早く家に帰ろう」……良かった。仲直りできたみたいだ。丸く収まった様子の二人を廊下から眺めて、すぐに俊紀は隣の部屋へ向かった。「夕都、待たせたな。生きてるか?」夕都は、部屋の一番奥に座り込んでいた。「生きてるけど、今にも死にそう」「大丈夫そうだな。待ってろ、すぐに解いてやる」色褪せたロープは雁字搦めに結ばれていたが、力押しで強引に緩めて解いた。「痛いところは?」「体勢がずっと同じだったからそこら中痛いけど……大した
その後は、退屈ではなくなった。代わりに幼稚な苛立ちが増していった。学校も家も居心地が悪い。だからか、やはり俺は壊れていく仲間達の元へ足を運び続けてしまった。そしてその結果は、わりと早く俺自身に返ってきた。『尚太。クスリ買う気ないならせめて、俺の言うこと聞いてくんね?』ある夜更け、一層暗くなった溜まり場へ行くと、染谷先輩は開口一番にそう言った。というか、やっぱり買う気がないって見抜かれてたみたいだ。『ほら、そこにいる奴、何回か来てるから顔は知ってるだろ』染谷先輩が指差す先を見る。そこには、ひとりの少年が倒れていた。一体どれだけ殴られたか分からないほど、顔面が腫れ上がった状態で。『ちょっ……大丈夫なんですか? その人』『あいつ、俺の女とヤッたんだよ。吸ってる最中に妄想入って襲ったんだと』年は俺らと同じぐらいだろうか。 顔は知ってるだろ、と言われたが、面識があるかなんて分からない。ハッキリ言って原形が分からない。それだけ重体に見えた。 『そいつにトドメさしてくんない? そんでどっかに捨ててきてくれよ』『はっ?』我ながら馬鹿みたいな声を出してしまった。いや、だって何で憎い奴を俺に……。『大丈夫だって、捕まったりしねぇよ。俺ら皆協力してやるから』先輩がそう言うと、呆然とぽかんと口を開けてた連中もゲラゲラと笑い始めた。そこでようやく彼らの魂胆がわかった。罪を被せるのに丁度いい人間を探していたんだろう。カラン、と小気味いい金属音が響いた。『ほら、そいつで首もとかっ切ってやれ』先輩が投げた、鋭利な刃物が足下に落ちていた。それを拾いはしたが、……切りつけたりなんてできるわけがない。先輩からしたら殺したいぐらい憎い人物かもしれないけど、自分にとっては赤の他人だ。『できるだろ? ……赤沼』視線が痛かった。先輩だけじゃない、ここにいる全員がそれを望んでる。その圧迫感が半端じゃなかった。……っ。でもやっぱり、俺には無理だった。ナイフを持ったまま、膝が震えそうになるのを堪えるだけで精一杯だ。『それもできないなら……どうしてやろうかな』先輩は一歩ずつ俺に近づいてきた。けど、それを止める誰かの声が響いた。『おい! お前ら何やってんだよ!!』部屋に乗り込んできたのは夕都先輩だった。『お前って……あぁ、梁瀬か。やばい久しぶりだな』染
別に困っていたわけじゃない。ただこの生活に、差し障りの無い程度に刺激を足したかったのかもしれない。あの時の俺は……。「俊紀さん」尚太は少し咳払いして、息を整えた。「少しだけ聞いてほしいんです。俺らのこと」「え」「先輩達をさらった奴らが誰かは分かってます。俺らの昔の遊び仲間。それが理由じゃないけど、まだ警察には連絡しないでほしい」「どうして?」俊紀は話が飲み込めないまま小首を傾げた。「夕都先輩は、多分そう言うから」「……そういや、俺と会ったときもあいつはそう言ってたな。でも、その遊び仲間はどういう繋がりなんだ?」「元々俺は何の関係もなくて、夕都先輩の知り合いばっかなんです。ただ集まったら遊ぶだけの仲で……学校が好きじゃなかった俺を、先輩はよく誘ってくれてた。皆俺と同じで家も学校も嫌いだったから、楽しかったんだけど」毎日にウンザリしていた。学校はつまらない。家では優秀な兄と常に比較された。だから同じ気持ちの仲間と喋って、気が楽になった。いつからか、夕都先輩より俺の方がそのたまり場に顔を出すようになった。それは一時的な現実逃避で、ずっと続くわけない。馬鹿な自分でもわかっていた。けど。『尚太、これやるよ』ある日のこと。夕都先輩が来なくなってから、グループの中心になった染谷という先輩がいた。彼が持ち出した麻薬によって、明らかに自分の住む世界が変わった。『お前の為にも少し貰っといてやったからさ。結構高いんだぜ。今回だけは俺の奢りだから、次からは自分で買えよ』手渡された袋の中に入っていたのは、テレビや教科書の中でしか見たことない薬物だった。 『え。これ、本物ですか?』『あぁ。俺らも使ってる』息を飲んだ。俺が知らなかっただけで、皆気持ち良さそうにそれを使っていたらしいから。効果は確かによく聞くけど……。その後に地獄の苦しみが待ってるというのも、よく聞く。苛々が収まってく具合なら煙草とそんな変わりないんじゃないか、と何も分からない自分は思ってしまう。『あの、夕都先輩は?』『あいつは駄目だ、頭固いから。お前は信用してるからもらってきてやったんだよ』『……』生まれて初めて、“信用”という言葉に引っ掛かるものを感じた。手に嫌な汗をかきながら、彼の気分を害さないよう穏やかに笑う。『あ……ちょっと、また今度でもいいですか? 今日は…
「……おい。おい、起きろよ」感情も何もない、無機質な声。────夕都は白い息を吐きながら眉を顰めた。「このクソ寒いのによく寝れるな。寝てる間に死ぬかもしんねぇぞ」「別に寝てねえよ。暇だからボーッとしてただけ」まるで氷の上に座っている感覚。冷蔵庫の中にいるようだ。本当に、この寒さで寝れるわけない。じっとしていたら震えてしまう。「相変わらずボケてんな。梁瀬、お前俺らに何か言うことあんだろ」……もう疲れた。この質問も何回目だろう。さすがにうんざりだ。時計がないから分からないが、どれぐらいの時間、ここに監禁されているのか。────国道から少しそれた森の中にある、暗い廃屋。夕都はそこの小さな部屋の中に居る。いや、居るというよりは拘束されていた。地べたに座り込んでいる状態だが、両手両足を硬いロープでキツく縛られている。そんな彼を見下ろしているのは、二人の少年。「はー、なんか反応薄すぎて萎えるわ。ちょっと出掛けようぜ」「そうだな。おい、俺らが戻るまで生きてろよ? 死んでたりしたらビビるからさ」二人はそう言い残すと、夕都の頭を軽く叩いて部屋から出ていった。やがて響く足音も聞こえなくなり、部屋は静寂に包まれる。やっと行ったか。そう思った時、隣の部屋からそう小さくない声が飛んできた。「おい。あいつらどっか行ったか?」少し声が枯れてる気がする。姿は見えなくても、隠しきれない疲労感が伝わってきた。「あぁ、飯でも食いに行ったんじゃない? 束の間の平穏だよ。良かったな、お兄様」「何も良くないだろ。お前のせいで俺までこんな目に遭って、最悪だっつーの」壁の向こう側にいる声の主。それは、夕都と全く同じ状態で拘束されている赤沼圭司だった。今は昼か夜か。それすらわからない。 静まり返った、窓のないコンクリの部屋で夕都はため息をついた。気温が低いのは確か。だがこの部屋は廊下から冷たい風が流れ込んできて寒いため、おおよその時間帯も見当がつかなかった。……嫌だな。ここにいると、また昔を思い出しそうになる。「梁瀬、お前ちょっと大声出せ。もしかしたら誰か気付くかもしんないぞ」「はあ? お兄さんがやればいいじゃん。何で俺が」圭司の突然の提案に、夕都は怒気を含んだ声で返した。直後、忌々しいと言いたげな舌打ちが聞こえる。「誰のせいで、俺までこんなことに
……昨夜は幸せだった。朝まで俊紀さんとイチャイチャした。何回思い出しても最高。夕都は油断すると笑みがこぼれそうなほど夢の時間に浸っていたが、現実を思い出してため息をつく。昨夜の良いことも掻き消されてしまうぐらい、今の彼は憂鬱が頂点に達していた。「で……ほんとに、いい加減にしろって。……赤沼」少し乱暴にコップをテーブルに置いた。平日の真っ昼間、場所はファミレス。夕都と向かい合う席に座る少年は、口元を手で隠してひっそりと囁いた。「俺は真面目に言ってるんです、……先輩」彼は夕都の反応を分かりきっていたようで、余裕を崩さず堂々と言った。「本気です。俺と俺と付き合ってくたさい」「……」同じテーブルにいるのは、赤沼尚太。白昼堂々、彼は夕都に告白した。しかし夕都自身、感情の機能していなかった。嬉しい、悲しい、恥ずかしい、照れ臭い……告白をされたら真っ先に抱くような感情が一切生まれない。怒り半分、戸惑い半分で彼を睨み、次いで周りを見回した。「も~大丈夫ですよ、誰にも聞かれてませんって」「そういう心配はしてない」「じゃ、何が心配なんですか赤沼は頬杖をつき、口を尖らした。……良くない。このままじゃただの口争いに発展する。夕都は額に手を当てて、溜め息を吐いた。そもそも何でこんな話になったんだろう。今日は祝日の為学校が休みだった。でも俊紀さんは普通に仕事だから、ひとりで暇をもて余していた。そこで赤沼から会えないか連絡がきたから、呼ばれるまま来たけど。こんな話なら来るんじゃなかったと後悔してる。「先輩? 考え終わりました? 返事は」「せっかちだなあ……も少し心に余裕を持てよ。大体、お前ゲイだったの? 悪いけど全然知らなかったよ」「そうですね。でも先輩もでしょ? それが分かったから、今こうして告白してます。先輩は考え出すと長いから、時間をかけず一気に畳み込むのが正解だと思って」「畳み込むって、お前ホントは俺のこと好きじゃないだろ!」「大好きですよ。誰よりも先輩のことを想ってます。だから、もう待てないんです」待てない、か。どこまで本気か分からないと思った。彼は自分以上に気まぐれなところがある。けど自分もずいぶん変わった。意中でない相手の告白をこんなに厄介に感じるとは、昔だったら思わなかっただろう。以前なら誰彼かまわずオーケーし、