十数年前、修司はいつだって、自分をお姫様のように大切にしてくれていたはずだった。大学院時代、論文の捏造が発覚し、学科の学生全員から退学を求める署名運動を起こされたときも、その夜のうちに修司は駆けつけてくれた。裏金を使って学長を黙らせ、無事に卒業できるよう保証してくれたのだ。舞衣は鮮明に覚えている。あの日は涼子との結婚記念日だった。修司が飛行機を降りたとき、左手の薬指にはまだ涼子との結婚指輪が光っていた。彼女はその指輪が大嫌いだった。それは自分の敗北を証明する烙印のようだったから。もし自分があの先輩について海外に行くなんて馬鹿なことをしなければ、宮本夫人の座はとっくに自分のものだったはずなのに。どうしてあんな出来損ないの男しか見えなかったのか、悔しくてたまらなかった。「修司くん、その指輪、見たくない。それを見ると、あなたが別の人に奪われたって思い出しちゃう」修司は素直に従い、何気なく指輪を外してポケットに入れた。その後、舞衣がこっそりそれを取り出して捨てたことにも、まったく気づかなかった。またある時、修司が涼子の誕生日を祝うために数百台のドローンを手配したと友人から聞いた。彼女は修司にせがんでリハーサルを先に見せてもらい、その隙に責任者を金で抱き込んだ。そして修司の名を騙って、ドローンショーの文字を書き換えたのだ。あの日、海の向こうから生中継でその見事なショーを観た。修司は自分の名前が夜空に浮かび上がっても、謝罪もせず、動揺もせず、叱責もしなかった。舞衣はそのとき確信した――自分の地位は涼子よりはるかに上だと。涼子はただ運がよかっただけ。すべて取り戻してやる、と。でも涼子が去ってから、修司が変わった。今では自分をブロックするまでになったのだ!「あなた、修司を怒らせて何をしたの」祐美子は不機嫌そうに舞衣を見下ろした。涼子は子供を産まなかったが、それでも腐っても名家の令嬢だった。この息子を骨抜きにした舞衣は、所詮、育ちが卑しいのよ。子供を身ごもっていなければ、敷居を跨がせるつもりさえなかった。「家でおとなしくしているよう言ったでしょう。毎日ふらふら出歩いて。自分で自分を律することができないなら、修司にも管理できないわよ。本当に使えない女ね」舞衣は祐美子に罵られ、屈辱で顔を青ざめさせたが、今は怒れない。まだ
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