「宮本様、本当によろしいのですか?胎嚢と心拍が確認できて、赤ちゃんは順調に育っていますよ。ご主人様と、もう一度よく相談されては……」「いいえ、結構です。処置をお願いします」宮本涼子(みやもと りょうこ)は俯いたまま、か細い声で答えた。その言葉は、騒がしい診察室の慌ただしさにあっという間に掻き消される。彼女は顔を上げ、待合スペースの大型モニターに目をやった。画面では、今年度の入社式が生中継されている。「それでは、新人代表の佐々木舞衣(ささき まい)さんから一言お願いします」中央に立つ綺麗な人が、優雅な仕草でマイクを手に取った。「最後に、ある方に心からの感謝を伝えさせてください。その方は、私のすぐ後ろにいらっしゃいます。この七年間、私が困難に直面し、心が折れそうになったとき、いつもそばで励まし、支えてくれました。七年かかりましたが、ようやく戻ってこられました。待っていてくれてありがとう。修司くん」舞衣はマイクを置くと、振り返り、背後の男に迷いなく抱きついた。宮本修司(みやもと しゅうじ)は目を細め、愛しそうに彼女を見つめる――その瞳には、隠しきれないほどの愛おしさが滲んでいた。カシャリ。画面はそこで静止した。「佐々木さん、本当に幸せ者ね。宮本家の御曹司を射止めるなんて、もう一生勝ち組確定よね」「しっ、射止めるだなんて。佐々木さんって、宮本さんの初恋の人なんですって。七年前に海外へ行かれて、最近やっと帰国されたらしいわよ」「でも宮本さんって、確か奥様が……」「ああ、その噂の奥さんのこと?宮本さん、一度も奥さんを表に出したことないでしょ。結婚してるって言っても噂かもしれないし、それに七年も経つのに子供の一人もいないなんて、その涼子さんってひょっとして……」二人の若い看護師が、口元を押さえながらひそひそと囁き合い、涼子のそばを通り過ぎていった。手に握りしめていたエコー写真は、もうくしゃくしゃだ。ふと、涼子は力を抜いた。七年間待ち続けても、修司の心を温めることなんてできなかった。彼女はそっとお腹に手を当てる。ここに子供が加わったところで、どうなるのだろう。一人で背負ってきた罪を、二人で分かち合う必要はない。七年前、涼子の実家・森山家は没落した。森山家の養子だった修司は、実の親元である宮本家に引き取られ、認知
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