その日の夕方。会社から電話がかかってきた。「もしもし」「水野さん、上司の佐藤です」少し緊張した声。「はい」「あのね、水野さん。最近、早退が多いけど、体調大丈夫?」「はい……すみません」「それと——」佐藤さんが、少し言いにくそうに続ける。「他の社員から、相談があってね」心臓が、跳ねる。「相談……?」「水野さんの様子が、最近おかしいって」「え……」「精神的に不安定なんじゃないかって。仕事にも影響が出てるって」胸の奥が、冷たくなる。——みんな、気づいてる。——私がおかしいって、思われてる。「一度、産業医と面談してもらえないかな」「……はい」電話が切れる。手が、震える。——職場でも、疑われてる。——精神的に不安定だって。康太に、電話の内容を話す。康太の顔が、険しくなる。「会社も、お前のこと理解してないのか」康太が、低い声で言う。「でも……」「美月、少し休んだ方がいいかもしれない」康太が、私の手を握る。「休職……?」「ああ。このままじゃ、本当に壊れる」康太の目が、心配そうだ。でも——どこか、疲れている気もする。——休職。——でも、それは逃げることになる。——蓮くんに、負けることになる。「考えとく……」康太の顔を見る。優しい目。でも——少しだけ、疲れている気がする。何度も、心配をかけてる。何度も、迷惑をかけてる。このままじゃ、康太の心が離れていくんじゃないか。その恐怖が、胸の奥に広がっていく。夜。ベッドに入っても、眠れない。目を閉じると、いろんな顔が浮かぶ。山田刑事の冷たい目。上司の心配そうな声。田中さんの遠慮がちな笑顔。みんな、私を疑ってる。精神的に不安定だって。嘘をついてるって。——誰も、信じてくれない。——康太以外、誰も。スマホを見る。SNSを開く。タイムラインに、蓮くんの名前が流れてきた。『新作アニメ「蒼穹の守護者」、主人公の声は柊木蓮くんで見たい!』『蓮くんの声、また聞きたい!』『早く復帰してほしい!』ファンたちのツイートが、並んでいる。みんな、蓮くんの復帰を待っている。スクロールする。すると——『柊木蓮が干されたのって、女にハメられたんじゃない?』『ストーカー事件って言われてるけど、本当かな』『被害者ぶってる女の方が怪しい
Last Updated : 2026-01-07 Read more