All Chapters of 【推し声優の恋人になれたのに】ストーカーに追い詰められる私の日常: Chapter 21 - Chapter 30

39 Chapters

第7話 つらい

その日の夕方。会社から電話がかかってきた。「もしもし」「水野さん、上司の佐藤です」少し緊張した声。「はい」「あのね、水野さん。最近、早退が多いけど、体調大丈夫?」「はい……すみません」「それと——」佐藤さんが、少し言いにくそうに続ける。「他の社員から、相談があってね」心臓が、跳ねる。「相談……?」「水野さんの様子が、最近おかしいって」「え……」「精神的に不安定なんじゃないかって。仕事にも影響が出てるって」胸の奥が、冷たくなる。——みんな、気づいてる。——私がおかしいって、思われてる。「一度、産業医と面談してもらえないかな」「……はい」電話が切れる。手が、震える。——職場でも、疑われてる。——精神的に不安定だって。康太に、電話の内容を話す。康太の顔が、険しくなる。「会社も、お前のこと理解してないのか」康太が、低い声で言う。「でも……」「美月、少し休んだ方がいいかもしれない」康太が、私の手を握る。「休職……?」「ああ。このままじゃ、本当に壊れる」康太の目が、心配そうだ。でも——どこか、疲れている気もする。——休職。——でも、それは逃げることになる。——蓮くんに、負けることになる。「考えとく……」康太の顔を見る。優しい目。でも——少しだけ、疲れている気がする。何度も、心配をかけてる。何度も、迷惑をかけてる。このままじゃ、康太の心が離れていくんじゃないか。その恐怖が、胸の奥に広がっていく。夜。ベッドに入っても、眠れない。目を閉じると、いろんな顔が浮かぶ。山田刑事の冷たい目。上司の心配そうな声。田中さんの遠慮がちな笑顔。みんな、私を疑ってる。精神的に不安定だって。嘘をついてるって。——誰も、信じてくれない。——康太以外、誰も。スマホを見る。SNSを開く。タイムラインに、蓮くんの名前が流れてきた。『新作アニメ「蒼穹の守護者」、主人公の声は柊木蓮くんで見たい!』『蓮くんの声、また聞きたい!』『早く復帰してほしい!』ファンたちのツイートが、並んでいる。みんな、蓮くんの復帰を待っている。スクロールする。すると——『柊木蓮が干されたのって、女にハメられたんじゃない?』『ストーカー事件って言われてるけど、本当かな』『被害者ぶってる女の方が怪しい
Read more

第8話 派遣社員

翌朝。目が覚めると、康太はもう出かけていた。テーブルの上に、メモが置いてある。『先に工房に行くね。今日は打ち合わせが入ってる。夜は遅くなるかも。何かあったらすぐ電話して。—康太』文字が、優しい。でも——どこか、距離を感じる気がした。——考えすぎ、だよね。スマホを見る。時計は、午前8時を指している。会社に行く時間。でも——行きたくない。昨夜のSNSの言葉が、頭から離れない。『メンヘラ女の狂言でしょ』『蓮くんを陥れようとしてる』『最低』それでも——休んだら、負けだ。蓮くんの思い通りになる。重い体を起こして、着替える。鏡を見る。目の下に、クマができていた。ファンデーションで隠す。口紅を塗る。——大丈夫。——普通に、振る舞えば。——誰にも、気づかれない。マンションを出る。エレベーターに乗る。階数表示が、ゆっくり下がっていく。5、4、3、2、1。エントランスに出る。外は、曇っていた。灰色の空。今にも雨が降りそう。駅に向かう。いつもの道。でも——背後に、視線を感じる。振り返る。誰もいない。——また、気のせい?——それとも、本当に誰かいる?足早に駅に向かう。改札を抜けて、ホームに上がる。電車が来る。乗り込む。座席に座る。スマホを取り出す。昨夜の『SecureChat』アプリ。確認してみる。でも——やっぱり、消えている。アイコンも、受信履歴も。何もかも。——本当に、あったのかな。——私が、見た幻?不安が、胸の奥に広がる。電車が、揺れる。会社の最寄り駅に着く。降りて、オフィスビルに向かう。エレベーターで、7階へ。編集部のドアを開ける。「おはようございます」いつもの挨拶。でも——反応が、少し違う気がした。田中さんが、少し目を逸らす。他の同僚も、視線が泳いでいる。——気のせい?——それとも、本当に避けられてる?自分のデスクに向かう。座る。パソコンを起動する。メールをチェックする。仕事のメール。会議の案内。でも——集中できない。周りの視線が、気になる。みんな、私を見ている気がする。「おかしい」って、思われてる気がする。——違う。——考えすぎだ。——普通に、仕事をすればいい。深呼吸をする。そのとき——編集部のドアが開
Read more

第9話 窓際の影

夕暮れ。空が、オレンジ色に染まっている。スマホを取り出して、康太に電話をする。呼び出し音が鳴る。でも——出ない。留守電になる。「康太……今、大丈夫? 電話してほしい」メッセージを残す。電話を切る。——打ち合わせ中か。——夜、遅くなるって言ってたし。駅に向かう。電車に乗る。窓の外を見る。流れる景色。でも——心は、ここにない。佐々木さんのことが、頭から離れない。『水野さん、最近様子がおかしいですよね』その言葉が、何度も頭の中で繰り返される。——様子がおかしい。——みんな、そう思ってる。——田中さんも、そう思い始めてる。電車が、揺れる。マンションの最寄り駅に着く。降りて、マンションに向かう。夕暮れの道。人通りが、少ない。そのとき——背後に、足音が聞こえた。振り返る。誰もいない。でも——確かに、聞こえた。足音。私を、追ってくる足音。——気のせい?——それとも……。足早に、マンションに向かう。エントランスに入る。鍵を開けて、中に入る。エレベーターに乗る。5階。ドアが開く。505号室。鍵を開けて、中に入る。ドアを閉める。チェーンロックをかける。——やっと、安心。リビングに入る。康太は、まだ帰ってきていない。静かな部屋。一人。ソファに座る。スマホを見る。康太からの返信は、まだない。SNSを開く。タイムラインを見る。また、蓮くんのことが流れてきた。『柊木蓮、復帰の噂!』『新作アニメで声聞けるかも!』『蓮くん、待ってた!』ファンたちが、喜んでいる。スクロールする。『でも、あの事件の被害者、また騒いでるらしいよ』『警察に行ったけど、証拠不十分で門前払いだって』『やっぱり狂言じゃん』『蓮くんの復帰を邪魔しようとしてるんだよ』『最低』『こういう女、許せない』涙が、溢れそうになる。スマホを置く。膝を抱える。——誰も、信じてくれない。——会社でも、疑われてる。——SNSでも、叩かれてる。——康太は、忙しくて電話に出ない。——一人だ。——本当に、一人になった。そのとき——スマホが震えた。メッセージが来た。康太から。『ごめん、今打ち合わせ終わった。これから帰る。夕飯、一緒に食べよう』少し、安心する。でも——胸の奥の不安は、消
Read more

第10話 職場の亀裂

翌朝。目が覚めると、康太はもう出かけていた。枕元に、メモが置いてある。『今日も打ち合わせ。夜は7時には帰れると思う。無理しないでね。—康太』文字が、少し急いで書かれている気がした。——忙しいんだ。——康太も、大変なんだ。スマホを見る。時計は、午前7時30分。会社に行く時間。でも——行きたくない。昨日の佐々木さんの言葉が、頭から離れない。『水野さん、最近様子がおかしいですよね』田中さんの反応。『うーん……まあ、疲れてるのかも』——みんな、気づいてる。——私がおかしいって。それでも——休んだら、負ける。蓮くんの思い通りになる。重い体を起こして、着替える。鏡を見る。目の下のクマが、さらに濃くなっていた。ファンデーションを厚く塗る。でも——隠しきれない。コンシーラーを重ねる。口紅を塗る。——大丈夫。——普通に、振る舞えば。マンションを出る。エレベーターに乗る。階数表示が、下がっていく。5、4、3、2、1。エントランスに出る。外は、曇っていた。灰色の空。冷たい風。駅に向かう。いつもの道。でも——今日も、背後に視線を感じる。振り返る。誰もいない。——また、気のせい?——それとも……。電車に乗る。座席に座る。スマホを取り出す。SNSを見る。また、蓮くんの話題。『柊木蓮、復帰決定!?』『新作アニメのキャスト発表間近!』『蓮くん、おかえり!』ファンたちが、盛り上がっている。スクロールする。『被害者の女、まだ諦めてないらしい』『会社でも問題起こしてるって噂』『精神的におかしいんじゃないの?』『蓮くんに執着しすぎ』『早く諦めればいいのに』手が、震える。——会社でも、問題?——誰が、そんなこと言ってるの?——佐々木さん?スマホを閉じる。電車が、揺れる。会社の最寄り駅に着く。降りて、オフィスビルに向かう。エレベーターで、7階へ。編集部のドアを開ける。「おはようございます」いつもの挨拶。でも——反応が、明らかに違った。田中さんが、目を逸らす。他の同僚も、私を見て、すぐに視線を落とす。——何?——何があったの?不安が、胸の奥に広がる。自分のデスクに向かう。座る。パソコンを起動する。そのとき——佐々木さんが、私を見た。その目が
Read more

第11話 休職勧告

午後。資料整理をしていると、上司の佐藤さんが私を呼んだ。「水野さん、ちょっといいかな」声が、少し深刻だ。「はい」立ち上がって、佐藤さんの席に向かう。佐藤さんが真剣な顔で私を見る。「水野さん、最近仕事でミスが多いって聞いたんだけど」「……はい」「体調、大丈夫?」「はい……すみません」佐藤さんが少し間を置いてから、前にも言ったけど、と前置きした。「産業医との面談、受けてもらえるかな。精神的な負担があるなら、ちゃんとケアした方がいい」——精神的な負担。やっぱり、そう思われてる。おかしいって、思われてる。「考えます……」答える。佐藤さんが少し困った顔をする。「水野さん、無理しないで。休職も視野に入れた方がいいかもしれない」——休職。また、その言葉。「はい……」答えるしかない。自分のデスクに戻る。座る。手が、震える。休職。でも、休んだら負けだ。蓮くんの思い通りになる。でも、このままじゃ……。そのとき、佐々木さんがコーヒーを持って私のデスクに来た。「水野さん、これ、どうぞ」小さな声。おどおどした笑顔。でも、その目が少し冷たい気がした。「ありがとうございます……」コーヒーを受け取る。佐々木さんが少し間を置いて、こう言った。「水野さん、無理しないでくださいね。休むことも、大事ですよ」その言葉が、なぜか胸に突き刺さった。休むことも、大事。でも、なんで佐々木さんがそれを言うの? まだ、数日しか一緒に働いてないのに。佐々木さんが自分の席に戻る。コーヒーを飲む。少し、苦い。午後の仕事を続ける。でも集中できない。周りの視線が気になる。みんな、私を見ている気がする。「おかしい」って、思ってる気がする。時計を見る。午後5時。もうすぐ、終業時間。早く、帰りたい。ここから、逃げたい。そのとき、スマホが震えた。康太からのメッセージ。『ごめん、打ち合わせが延びた。帰りは8時過ぎるかも。先に夕飯食べててね』また、遅い。康太、最近忙しすぎる。不安が胸の奥に広がる。もしかして、私を避けてる? 疲れて、一緒にいたくなくなってる?考えすぎ? それとも……。終業時間。荷物をまとめる。「お疲れ様です」挨拶をして、編集部を出る。エレベーターに乗る。ドアが閉まる。一人。やっと、解放される。ビルを出る。夕暮れ。
Read more

第12話 帰らない夜

時計を見る。午後7時。康太は、まだ帰ってこない。お腹が空いているけど、食欲がない。でも——康太は、お腹空いてるはずだ。最近、ずっと康太が作ってくれてる。今日は、私が作ろう。立ち上がる。キッチンに向かう。冷蔵庫を開ける。中には、野菜と肉。康太が買ってきてくれたもの。——何を作ろう。——カレー? パスタ?——簡単なもので……。まな板を出す。包丁を持つ。玉ねぎを、切る。でも、手が震える。包丁が、上手く動かない。玉ねぎが、涙を誘う。いや、違う。涙は、玉ねぎのせいじゃない。手が、止まる。——疲れた。——体が、重い。——何も、できない。包丁を置く。まな板の上には、半分しか切れていない玉ねぎ。こんな簡単なことさえ、できない。料理さえ、作れない。何もできない。涙が、溢れてくる。——情けない。——本当に、情けない。——康太はいつも、私のために作ってくれてるのに。——私は、何もできない。まな板に手をついて、泣く。声を殺して、泣く。涙が、まな板に落ちる。どれくらい泣いていたんだろう。気がつくと、時計は午後8時を指していた。康太から連絡はない。スマホを見る。既読もついていない。もしかして、何かあった?それとも……。不安が、どんどん大きくなる。玉ねぎを冷蔵庫に戻す。まな板を洗う。包丁を洗う。結局、何も作れなかった。ソファに戻る。スマホを握りしめる。康太に電話したい。でも、忙しいって言ってた。邪魔したくない。これ以上、負担をかけたくない。午後8時30分。まだ、帰ってこない。電話をかけてみる。呼び出し音が鳴る。でも、出ない。留守電になる。「康太……心配してる。電話ください」メッセージを残す。電話を切る。手が、震える。どうして出ないの? 打ち合わせ中?それとも、私からの電話を避けてる?考えすぎ? それとも……。午後9時。ドアが開く音がした。「ただいま」康太の声。立ち上がる。康太がリビングに入ってくる。疲れた顔。いつもより、もっと疲れている。「おかえり……」「ごめん、遅くなって」康太が、そのままソファに座る。鞄を床に置いて、大きくため息をついた。「康太、電話したんだけど……」「ああ、ごめん。打ち合わせ中で出られなかった」康太が、私を見ずに
Read more

第13話 ガラスの破片

翌朝。目が覚めると、康太はもう出かけていた。枕元に、メモ。『今日も朝から打ち合わせ。夜も遅くなる。ごめん。—康太』文字が、急いで書かれている。いつもより、そっけない気がした。スマホを見る。時計は、午前7時。会社に行く時間。でも——体が、重い。起き上がれない。目を閉じる。このまま、消えてしまいたい。でも——休んだら、負けだ。蓮くんの思い通りになる。無理やり、体を起こす。着替える。鏡を見る。目の下のクマが、もっと濃くなっていた。ファンデーションを塗る。でも、隠しきれない。口紅を塗る。手が、震える。マンションを出る。エレベーターに乗る。エントランスに出る。曇り空。冷たい風。駅に向かう。いつもの道。でも——今日も、背後に視線を感じる。振り返る。誰もいない。——気のせい?——それとも……。電車に乗る。座席に座る。スマホを取り出す。SNSは、見たくない。でも、見てしまう。タイムラインを開く。『柊木蓮、新作アニメ出演決定!』『蓮くん、完全復活!』『やっぱり蓮くんの声は最高!』ファンたちが、喜んでいる。スクロールする。『被害者の女、彼氏と別れそうらしい』『自業自得』『メンヘラに捕まった彼氏が可哀想』『早く解放してあげてほしい』息が、止まる。彼氏と、別れそう?どうして、そんなことまで知ってるの?昨夜の康太の態度を、思い出す。一人掛けのソファに座った康太。疲れた目。少し、冷たい声。——まさか。——本当に、別れることになるの?涙が溢れそうになる。スマホを閉じる。電車が、揺れる。会社の最寄り駅に着く。降りて、オフィスビルに向かう。エレベーターで、7階へ。編集部のドアを開ける。「おはようございます」小さな声で、挨拶する。でも——誰も、返事をしなかった。みんな、私を見て、すぐに視線を逸らす。田中さんも、目を合わせてくれない。——完全に、孤立してる。自分のデスクに向かう。座る。パソコンを起動する。そのとき——佐々木さんが、私を見た。その目が、少し勝ち誇っている気がした。——やっぱり。——佐々木さんが、情報を流してる。——蓮くんの、手先。メールをチェックする。仕事のメール。会議の案内。でも、集中できない。午前中。資料を
Read more

第14話 監視の目

その夜。康太は、リビングのソファで寝た。いつもなら一緒のベッドなのに、今日は違う。私は、一人でベッドに入った。冷たいシーツ。康太の温もりがない。目を閉じても、眠れない。康太の言葉が、頭の中で何度も繰り返される。『少し、距離を置こう』距離を置く。別れるわけじゃない、と康太は言った。でも——これが、終わりの始まりだって、わかる。もう、康太の心は離れ始めてる。私のせいで、康太の工房が傷ついてる。注文のキャンセル。SNSでの誹謗中傷。全部、蓮くんの仕業。蓮くんが、私と康太を引き裂こうとしてる。そして、成功しつつある。涙が、枕を濡らす。声を殺して、泣く。リビングにいる康太に聞こえないように。どれくらい泣いたんだろう。気がつくと、時計は午前3時を指していた。スマホを見る。SNSを開く。また、蓮くんの話題。『柊木蓮、完全復帰! ファン歓喜!』『蓮くんの声、やっぱり最高!』『待ってた甲斐があった!』スクロールする。『被害者の女と彼氏、別れたらしい』『やっと解放されたね』『浅井康太さん、お疲れ様でした』『次は、まともな女性と幸せになってほしい』心臓が、激しく跳ねる。別れた、って。まだ、別れてない。距離を置くだけ。なのに、もう別れたことになってる。どうして?どうして、そんなに早く情報が広がってるの?誰が、流してるの?佐々木さん?それとも——まさか、康太が?いや、違う。康太は、そんなことしない。でも……。疑念が、頭の中に広がる。康太を、疑いたくない。でも、こんなに早く情報が広がるなんて、おかしい。スマホを置く。窓の外を見る。カーテンの隙間から、外が見える。向かいのマンションの窓。今日も、一つだけ明かりがついている。その窓に——やっぱり、人影。こちらを、じっと見ている。心臓が跳ねる。でも、もう驚かない。毎晩、あの人影がいる。蓮くんだ。絶対に、蓮くん。ずっと、私を見てる。私の部屋を、監視してる。ベッドから出る。窓に近づく。カーテンを、少し開ける。人影が、はっきり見える。男の、シルエット。その人影が——また、手を振った。ゆっくりと。まるで、「見てるよ」って言ってるように。背筋が、凍る。カーテンを閉める。体が、震える。——写真を撮ろう。——証拠を残さなきゃ。
Read more

第15話 崩壊

電話が、鳴り止まない。床に投げたスマホが、震え続けている。画面が割れているのに、まだ着信が来る。——もう、無理。——本当に、無理。立ち上がる。床に落ちたスマホを拾う。画面に、細かいヒビが入っている。でも、まだ動く。着信履歴を見る。50件を超えていた。全部、知らない番号。留守電も、たくさん入っている。聞きたくない。でも——確認しなきゃ。震える手で、留守電を再生する。『水野美月、お前のせいで蓮くんが——』消す。次の留守電。『いい加減にしろよ、メンヘラ女』消す。次。『死ねばいいのに』消す。次。次。次。全部、同じ。誹謗中傷。脅迫。罵倒。手が、震える。——電源を切ろう。でも——康太から連絡が来るかもしれない。電源を切れない。仕方なく、機内モードにする。着信音が、止まる。やっと、静かになった。スマホを、ソファに置く。でも——静かすぎる。一人。完全に、一人。時計を見る。午前11時。お腹が空いている。でも、食欲がない。冷蔵庫を開ける。中には、康太が作り置きしてくれた料理。でも——もう、康太はいない。冷蔵庫を閉める。水だけ、飲む。ソファに戻る。テレビをつける。音が、欲しい。誰かの声が、欲しい。ワイドショーが流れている。芸能ニュース。そのとき——画面に、蓮くんの顔が映った。心臓が、跳ねる。『声優・柊木蓮さん、三年ぶりの復帰! 新作アニメでメインキャスト決定!』アナウンサーが、明るい声で言う。『三年前のストーカー事件で活動を休止していた柊木さんですが、この度完全復帰となりました』画面が、蓮くんのインタビュー映像に切り替わる。蓮くんが、カメラに向かって笑っている。優しい笑顔。でも、私には——その笑顔が、恐ろしい。『三年間、いろいろありましたが、ファンの皆さんの応援のおかげで戻ってくることができました』蓮くんが、丁寧に頭を下げる。『これからも、精一杯頑張ります』スタジオが、拍手に包まれる。コメンテーターが、言う。『柊木さん、本当に大変でしたよね。あの事件、結局被害者の方が精神的に不安定だったという話も……』『ええ、そういう噂もありますね。でも、柊木さんは一切恨み言を言わず、前を向いて頑張ってこられた』『素晴らしいですね』私の手が、震える
Read more

第16話 再会

どれくらい、床に倒れていたんだろう。気がつくと、部屋は暗くなっていた。窓の外が、夕暮れ色に染まっている。体を起こす。頭が、ぼんやりする。床に散らばった写真。全部、私。監視されていた、私。——これ、警察に持っていかなきゃ。——証拠だ。——やっと、証拠ができた。震える手で、写真を拾い集める。箱に戻す。メモも、大事に箱に入れる。——明日、警察に行こう。——これを見せれば、信じてもらえる。少しだけ、希望が見えた気がした。ソファに座る。割れたスマホを手に取る。機内モードを、解除する。すぐに、何件も通知が来た。でも、着信は止まっていた。——やっと、諦めたのかな。メッセージを確認する。康太からの連絡は——ない。心臓が、痛む。でも、仕方ない。康太は今頃実家で休んでいる。私のことなんか、考えたくないだろう。SNSを開く。タイムラインを見る。また、蓮くんの話題ばかり。でも——もう、あまり心に響かない。麻痺してしまったのかもしれない。時計を見る。午後6時。お腹が空いている。でも、やっぱり食欲がない。冷蔵庫を開ける。康太の作り置き料理。少しだけ、食べよう。無理やり、口に運ぶ。味が、しない。でも、食べる。生きるために、食べる。半分ほど食べて、やめた。もう、限界。水を飲んで、ソファに戻る。窓の外を見る。暗くなっていく空。向かいのマンション。——また、あの窓に明かりがつくんだろうか。——また、蓮くんが現れるんだろうか。不安が、胸の奥に広がる。そのとき——スマホが震えた。知らない番号。また、嫌がらせの電話?でも——出てしまう。「もしもし……」「美月さん」蓮くんの声。心臓が、激しく跳ねる。「写真、届きましたか?」「……」声が、出ない。「気に入ってくれたかな。僕が、一生懸命撮ったんです」蓮くんの声が、優しい。でも、ぞっとする。「美月さん、辛そうですね」「……やめて」やっと、声が出た。「彼氏とも別れて、会社でも孤立して。でも、大丈夫」蓮くんが、囁くように言う。「僕が、いますから」「やめて……」「美月さん、今夜会いませんか?」息が、止まる。「久しぶりに、二人で話しましょう。昔みたいに」「嫌だ……」「そう言わないで。美月さんも、本当は寂しいんでしょう?」蓮くんの声が、少し低くなる
Read more
PREV
1234
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status