Lahat ng Kabanata ng この花が咲く頃、君はもういない: Kabanata 1 - Kabanata 10

12 Kabanata

第1話

「遥さん、この企画案、社長がお急ぎなんです。悪いんですけど、必ず退社前までに終わらせてくださいね」丸山隼人(まるやま はやと)の秘書、木村泉(きむら いずみ)がにこにこしながら、分厚い書類の束を私の机に放り投げた。私はもう慣れたので、「わかりました」とそれを受け取る。でも泉はまだ満足していない様子で、笑いながら言った。「この後、私は社長と接待があるので、それが終わったら彼の机に置いてください。あ、そう、帰る前に社長室の掃除もお願いしますね」そう言って、彼女はハイヒールを鳴らしながら、とても機嫌がよさそうに背を向けて去っていった。同僚たちは、哀れむような目で私を見ている。どんな言葉をかければいいのか、わからないといった顔だった。社長の隼人が私の婚約者なのに、秘書の泉をものすごくひいきしていることは、誰もが知っている。隼人は以前、泉を他の会社から特別に引き抜いてきて、いきなり営業部の部長にした。それだけじゃなく、私が1か月かけて契約を取り付け、さらに1か月以上徹夜して完成間近だった数億円の大きなプロジェクトまで、彼女に渡してしまった。私が納得できずにいると、隼人はみんなの前で投票をして、プロジェクトの担当を決める、と言い出した。隼人はみんなが自分に従うと思っていた。でも結果は違った。皆がこぞって私に投票してくれた。泉の手に握られていたのは、彼が入れた哀れな一票しかなかった。すると隼人はすぐに激怒して、私が会社で派閥を作っている、となじった。プロジェクトが私に戻ってくることはなく、それどころか、彼はみんなの前で私の役職を解き、私を支持してくれた同僚全員の給料まで下げた。みんな怒りを感じていたが、何も言えなかった。後になって隼人は私に謝ってきて、泉が社内で孤立しないように、わざとやったんだと説明した。最初のころはそれを信じていたが、今では、ただ笑えてくるだけ。泉の仕事ぶりは、新人のインターンにも劣るくらいだから。彼女を守るためなのか、ただのえこひいきなのか。同僚はみんな気づいている。認めていないのは、隼人自身だけだった。上の階で物音がして顔を上げると、階段のところに隼人のすらりとした姿が見えた。彼はちらっと私の方に視線を向けただけで、すぐに背を向けて出ていった。カジュアルなスーツに着替えていて、シダーウ
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第2話

隼人は私をケチだと思った。「どうせ疑うなら、いっそ本当の関係にしてやる」というような口実で、泉を彼の秘書にした。私が怒れば怒るほど、彼はわざと泉をひいきした。いろいろな会合に泉を連れていき、会社の飲み会では、みんなの前で彼女におかずを取り分けてあげたり、口を拭いてあげたりまでした。私が隼人と喧嘩をすると、彼は無視を決め込む。私が謝ると、ここぞとばかりに友達を巻き込んで、私を諭したり責めたりする。そのせいで私も、自分の心が狭いからこんなことになったんじゃないかと、何度も反省した。でも、無視されて3日目、私が病気でベッドから起き上がれないのに、隼人はそれを見て見ぬふりをした。そしてわざと荷物をまとめ、泉と旅行に出かけたとき、私は完全に失望した。そしてようやく悟ったのだ。彼はただ、私が嫉妬深い性格を直すための「脱感作療法」という名目で、自分の浮気を正当化しようとしていただけなのだと。たとえあの時メッセージを見ていなくても、隼人はきっと別の口実を見つけて、泉と一緒になっていた。このあいだ二人が出張から帰ってきてから、相変わらず一緒に食事やスポーツに行っているが、彼らの関係がさらにベタベタになったことに私は気づいていた。でも好都合だ。私はもう、どうでもよくなったので。5年にわたる恋も、もう終わりだ。この茶番劇も、そろそろ幕引きにしなくては…………企画案を作り終えたころには、会社には私一人だけになっていた。スマホを開くと、泉がSNSに何件も連続で投稿しているのが目に入った。背景は高級そうなレストラン。二人の前のテーブルには、ロマンチックなキャンドルディナーが並んでいる。隼人が優雅な手つきでナイフとフォークを使い、泉のためにステーキを切ってあげていた。投稿には、【社長自ら切ってくださったステーキ、きっと格別においしいでしょ】というキャプションが添えられていた。コメント欄には、取引先の人たちが、【お似合いですね】と書き込んでいた。私たちの関係を知らない人からは、【いつ結婚式に呼んでくれますか?】という質問もあり、隼人は【……】とだけ返し、泉はおちゃめなスタンプを送っていた。前と同じで、関係をはっきりさせようとはしない。でも今回は、前みたいに二人の曖昧な関係に腹を立てたりしなかった。電話をかけたところで、隼人に、
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第3話

少し前、隼人と泉が出張と称して旅行に行っている隙に、私は退職届を出した。案の定、泉と一緒にいるときの隼人は彼女に夢中で、退職届を見もせずに承認した。あと、3日。3日後に引き継ぎが終われば、私は完全にここからいなくなる。私は考えた末、海外の研究所にいる指導教授・藤田修(ふじた おさむ)に電話をかけた。私は大学卒業後、優秀な卒業生として研究所に入り、かなり優遇されてたんだ。でも隼人が会社を作るのに人手が足りないと聞いて、ためらうことなくその仕事を辞めた。藤田先生が何度も引き留めてくれたのに、それを振り切って帰国し、隼人とゼロから会社を立ち上げた。今思うと、あの頃の私は本当に愚かだった。人の気持ちはすぐに変わってしまう。でも、仕事だけは自分を裏切らない。電話がつながり、私は用件を伝えた。てっきり怒られると思っていた。でも藤田先生はため息をついて、私の状況は知っていたし、ずっと前から戻ってきてほしかったと言ってくれた。「今度こそ、本気で決めたんだな?」私は頷いた。「はい。退職の件も、もうすべて済ませてあります」「退職?なんのことだ?」驚いたような声が聞こえた。振り返ると、隼人がドアを開けて入ってくるところだった。スマホを見ると、藤田先生との電話はもう切れていた。私はごく自然に、スマホの画面を消した。どう説明しようか考えていると、隼人のスマホが鳴った。泉からで、帰り道に野良猫を見つけて、わざわざコンビニでソーセージを買ってあげた、という内容だった。【かわいいな】と隼人が返信する。すぐに返事が来た。【子猫と私、どちらがかわいいですか?】メッセージには、泉が子猫を抱きしめて、唇をとがらせてピースサインをしている自撮り写真が添えられていた。隼人の口元が、思わずほころびる。【子猫もかわいいけど、君のほうがもっとかわいいよ】私がまだいることに気づいたのか、彼は笑みをしまい、眉をひそめて私を見た。「先に休んでろって言ったんだろ。なんでまだここに立ってるんだ?」その冷たい口調は、泉と話しているときとはまったく違う。私がさっき言った退職の話なんて、すっかり頭から抜けているようだ。私は軽く笑い、説明の手間を省いた。「まだやることが残っていたので」「こんなに遅いのに、家事でも残ってるのか?もっと早くで
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第4話

「何か用?」以前の私なら、隼人から話しかけられるだけで大喜びだった。だから、こんなに冷たい態度を取られるとは思ってもいなかった。彼は一瞬、呆気にとられていた。その表情は、少し気まずそうだった。「実は、話がある。泉が大きなプロジェクトを成功させたから、彼女を昇進させようと思うんだ。他の社員への励みにもなるしな。お前はどう思う?」隼人は私を見た。口では私の考えを聞いているが、これはすでに「決定事項」で、本当に私の意見を求めているわけじゃないことはわかっている。それでも私は頷いた。「反対はない」「でも、励みがあるなら罰も必要だ。そうしないとチームがまとまらない。お前はもう長い間、プロジェクトを一つも完成させていない。だから、一時的に現場に異動してもらおうと思う。また頃合いを見て、元の部署に戻すから。心配するな。長くはかからないさ。これも会社全体のためだ。お前は俺の婚約者なんだから、わかってくれるよな?」私は心の中で鼻で笑った。なんだ、隼人はまだ私が退職したことを知らないね。彼は、泉のほんの些細な変化から、彼女の気持ちを読み取ることができた。どんなものが好きか、どんなことをされたら喜ぶのか、全て把握していた。それなのに、婚約者である私のこととなると、全くの無関心。退職届が彼のサイン入りで受理されているというのに、彼は何も気づいていないのだ。やっぱり、関心があるかないかなんて、ほんの数言でわかってしまうものだ。黙っているのを見て、隼人はまた私が反論してくると思った。彼の顔が、とたんに曇った。「反対したって無駄だ。辞令はもう出したし、お前のオフィスも泉に譲った。異動を受け入れるか、会社を辞めるかだ。でも、一つ言っておく。会社はもうすぐ上場準備に入るんだ。辞める前によく考えたほうがいいぞ」私が会社を辞めるはずがないと、隼人は信じきっている口調だった。こんなことは今まで何度もあった。この1年だけで、私は泉の言葉のせいで、社内の立場をどんどん下げられてきた。あの時の私でさえ我慢できたんだから、今の私が会社を辞めるわけがない。隼人はそう確信していた。私は苦笑した。「反対するとは言っていない」「じゃあ、そういうことで」と隼人はほっとした様子だった。私が反対しないのは、同意したということだと思っ
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第5話

私が問い詰めると、隼人はすぐに仕事のためだったという証拠を突きつけてきた。そして、ここぞとばかりに私を嫉妬深い、心が狭いと責め立て、私への当てつけのように、堂々と泉を家に連れてくるようになった。私に対する泉の挑発的な態度と敵意は、うすうす感じていた。でも二人の関係は普通で、一線を越えているようには見えなかった。時間が経つにつれて、私は自分を疑うようになった。毎日、自分が間違っているんじゃないかって反省していた。でも今思えば、そんなことを考える時間があったら、何をやったって成功できたはず。翌朝、隼人は泉の昇進と、私の降格を正式に発表した。発表するとき、隼人は少し警戒していた。でも私が終始何事もなかったかのようにしているのを見て、ようやく私が本当に受け入れたんだと信じたようだった。彼は上機嫌だったし、私の気分も悪くなかった。その後の数日間、隼人が泉のためにお祝いパーティーを開いている間、私はビザの申請をしていた。あの二人が遊園地で息抜きをしている間、私は荷物の整理をしていた。持っていくものは、スーツケース一つにも満たなかった。二人が接待の席で、はやし立てられている間、私はすべての仕事の引き継ぎを終わらせた。……2日後、会社での最後の日。私は人事部で最後の手続きを終えた。「帰る前に社長室へ寄ってください。社長がお呼びです」人事部長の小川玲奈(おがわ れな)は、顔も上げずにそう言った。断ろうかと思った。でもよく考えたら、私は今夜ここを離れるのだ。もし隼人がいつものように泉と出かけて帰ってこなければ、これが最後に顔を合わせる機会になる。5年間も一緒にいたんだから。お別れには、それなりのけじめが必要でしょ。そう思い、私は階段を上がって社長室へ向かった。ドアを開けようとしたとき、ガラス張りの壁の向こうに、ソファに座っている隼人の姿が見えた。その膝の上には、ロングドレスを身にまとった泉が、頭を乗せていた。とても親密な様子だった。隼人が何かを言うと、泉は口元を押さえて、笑いが止まらないようだった。私は足を止めた。入るのをやめようか考えていると、先に泉が私に気づき、「きゃっ」と声を上げて慌てて起き上がった。「遥さん、どうしてここに来たんですか?」隼人の顔にも緊張が走った。彼は乱れたスーツを慌てて
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第6話

私は、ただ立ち尽くすしかなかった。「社長、そんなに怒らないでください。遥さんだって、きっと心配でそうなってしまっただけです。わざとじゃないと思いますよ」泉は優しく隼人の背中をさすりながら、私に言った。「遥さん、誤解しないでください。さっきのは私が疲れて頭が痛かったからで、社長は、私が仕事を続けられるよう、少しでも楽にしてあげようとしてくれただけです。すべて会社のためで、変に勘ぐらないでくださいね」でも、彼女の得意げな目は、私に勘ぐってほしいとでも言いたげだった。すべてがわかったわけではないが、これは泉が仕組んだことだと確信した。玲奈は世渡り上手だ。泉が隼人のお気に入りだと知っているから、場の空気を読んで本当のことを言えなかった。でも、たとえ本当のことを言ったとしても、おそらく隼人は信じなかっただろう。私が黙っていると、隼人はまだ怒りが収まらない様子で、声を荒げた。「彼女に説明する必要はない。プライベートと仕事は別だ。今は会社にいるんだから、会社のルールに従ってもらう!会社のルールを従わない以上、今月のボーナスは全額カット、給与も半分にする」玲奈が慌てて言った。「社長、山下さんはもう……」彼女はきっと、私が退職することを言おうとした。でも、言い終わる前に、隼人が冷たい目で睨みつけた。「彼女の言い訳は聞きたくない。俺の言う通りにしろ!」玲奈はもう何も言えず、踵を返して下に降りていった。私も帰ろうとすると、突然、隼人に呼び止められた。ひとしきり怒鳴ったせいか、彼は少し落ち着いて見えた。そして、諭すような口調で言った。「遥、わざとお前をいじめているわけじゃない。でも、これは俺が作ったルールだ。お前を罰しなければ、他の社員たちが納得しないだろう」横で泉が頷いた。「そうですよ、遥さん。今度わからないことがあったら、まず社長に聞いてみるといいですよ。それが無理なら、私に聞いてもいいんですよ」隼人は感心したように頷いた。「泉は、いつも会社のことを一番に考えている。会社のことは、誰よりもよくわかっているんだ」そう言って、彼はまた私をにらんだ。「それに比べてお前は、嫉妬したり張り合ったりするだけで、他に何ができるんだ?少しは泉を見習ったらどうだ?」見習うって、何を?人の恋に割り込むこと?陰で嫌が
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第7話

隼人は、かすかに体をこわばらせた。そして、泉の目はきらりと光った。口の端には、してやったりっていう笑みが浮かぶ。すぐに元に戻ったけど、私にははっきりと見えた。「遥さん、その言い方はちょっとひどいですよ。二人は、その……」「もういい、泉。君は先に外してくれ」泉が言い終わる前に、隼人が冷静な声でさえぎった。泉は言いたいことを飲みこんだ。そして、隼人に怒らないでって殊勝なことを言って、満足そうに階下へおりていった。彼女がいなくなると、隼人は冷たい目つきで私をにらみつけた。「遥、いい加減にしろよ。結婚してやるって言ってるのに、これ以上何を騒ぐんだ?別れるなんて言葉は撤回しろ。それから、退職届にサインはしない。今すぐそれを破り捨てろ。そうしたら、何も見なかったことにしてやる」隼人の自信満々な様子を見て、私はおかしくなった。そして、なんだか悲しくもなった。彼がこうなったのは、これまでの私が甘やかしてきたせいだって、わかってる。今までもこういうことは何度もあった。でも、いつも隼人が折れてくれるから、私も素直にそれを受け入れて、仲良しのフリを続けてきたんだ。穏便にすませることで私たちの関係を保とうとしてた。でも、いつまでも私が怒らないでいると、彼をどんどん図に乗せるだけだって気づかなかった。隼人は泉の行動を気にかけるくせに、私のことは全部無視。今になっても、彼が私の退職届にサインしたことすらわかっていない。私はふっと笑って、退職届を隼人の目の前に突きつけた。「でも、もうサインしたよ。手続きも引き継ぎも全部終わらせてあるので、今日で辞められる」最初、隼人は気にもとめていなかった。でも、退職届にある自分のサインを見て、顔色が変わった。「遥、お前は俺のサインを偽造したのか?」彼の言葉に、思わず笑ってしまった。「あなたが自分でサインしたのよ」「ありえない!こんなものにサインした覚えはないぞ!遥、わかってるのか?サインの偽造は法律違反だぞ。俺が本気になれば、警察を呼ぶことだってできるんだ」隼人はスマホを取り出して、警察に電話をかけるフリをした。これが彼の切り札だった。前は泉のことでも他のことでも、会社で大もめになると、いつも警察を呼ぶって言って私を脅してきた。隼人は私が警察を怖がると思
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第8話

今回、私は彼に呆れるのではなく、スマホを取り出した。「そのセリフは、警察に言って」隼人ともめるつもりはなかった。でも、もし彼がごねるなら、徹底的にやる覚悟はできていた。私が本当に警察に電話をかけたのを見て、隼人は顔色を変えた。彼はすごい勢いで私のスマホを奪い、通話を切った。「遥、気でも狂ったのか?」「​狂ってないよ。ただ、あなたの言うことが法律的に認められるのか、聞いてみたいだけ」私が本気で一歩も引かない姿は初めてだったんだろう。隼人は慌てだした。彼は唇をきゅっと結んだ。「わかった、遥。もうやめよう。お前が泉のことを気にしてるのはわかってる。明日から、彼女とは二人きりで会わないようにする。それでいいだろ。それから、結婚式だ。今すぐ予約する」隼人はスマホを取り出した。「このブライダルプロデュース会社、ずっと前から見てたんだ。今回の出張から帰ったら、お前と結婚式のことを話そうと思ってた。ほら……」そう言って、彼はスマホを私の前に突き出し、担当者とのチャット履歴を見せてきた。私はちらっと目をやった。確かに、隼人が担当者と結婚式についてやり取りしている記録だった。でも、途中に一つ、彼が担当者に青色系のウェディングドレスと衣装があるか尋ねる一文があった。確か、青は泉の一番好きな色だったはず。そして私は前に、青が一番嫌いな色だと隼人に伝えていた。じゃあ、この結婚式はいったい誰のためのものなんだろう?考えるまでもなく、答えはわかっていた。私は鼻で笑って、静かに言った。「もういい。夜の便に乗るので、用がないならこれで失礼する。家の鍵は郵便受けに入れておいた。これからは、よほどのことがなければ連絡しないで。できれば、用があっても連絡しないでほしい」そう言うと、彼を無視して、私はまっすぐ部屋を出ようとした。ドアを開けたとたん、ドアの前で盗み聞きしていた泉が前のめりに倒れ込んできた。「ごめんなさい、社長、遥さん。お二人が私のせいで喧嘩してるんじゃないかって心配で、それで私……」彼女はうろたえた様子で、悔しそうな顔をした。「遥さん、さっき、私のせいでここを出ていくって聞きました。そんなことしないでください。社長はあなたをすごく愛してるし、あなたなしではいられないんです。私から謝ります。今日、
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第9話

その後、時間が経つにつれて、彼の興味は次から次へと変わっていった。でも、私は日々の研究の中で、どんどんその世界にのめり込んでいった。この数年、ずっと隼人の会社でロボットとはまったく関係ない仕事をしていた。それでも、暇な時間にはこの分野の進歩を追いかけていた。だから、研究を再開しても、それほど大変だとは感じなかった。その間、隼人から何度かメッセージが来た。私が本当に彼のもとを去るとは思っていないようで、まだやり直すチャンスを匂わせていた。私は返信しなかった。すると隼人は、写真を何枚か送ってきた。泉の人事異動の通知だった。【調べがついた。お前の退職届を承認したのは俺じゃなくて、泉が操作ミスで承認してしまった。でも、彼女は申請したのがお前だとは知らなかったんだ】【もう彼女を裏方の部署に異動させた。二度と会社の業務には触れさせない。お前の機嫌ももう直っただろう】すぐに、泉からも謝罪のメッセージが届いた。長文で、一見するととても丁寧な文章だった。でも、すぐにわかった。それは私を嘲笑う、皮肉なメッセージだったんだと。よく見れば、文面に私をバカにするような意味が隠されている。言うまでもなく、そのメッセージは隼人に言われて書いたものだろう。彼は内容を確認もせず、泉に送らせたんだ。昔は私が何をしても、泉への当てつけじゃないかと疑われた。なのに今、彼女が堂々と私の悪口を言っているのに、隼人は見て見ぬふりをする。私はふんと鼻で笑った。もう慣れっこだし、彼らのために貴重な時間を無駄にするのもバカバカしい。連絡先をすぐに削除した。これで終わりだと思っていた。でも、ある日の深夜、突然隼人からビデオ通話がかかってきた。画面に映る彼は、以前のような自信にあふれた姿ではなかった。顔つきは少しやつれていた。声にも疲れがにじんでいた。「遥、もう意地を張るのはやめてくれないか?もうずいぶん時間が経った。俺たち、仲直りしよう。な?」彼の、まるでへりくだるような口調に、少し戸惑ったと同時に、おかしくなってきた。今になっても、私がただ意地を張って怒っているだけだと思っているんだろうか。「お前を引き留めなかったのは、どうでもいいからじゃない。お前が旅行に出かけてるって知ってたから、少し頭を冷やす時間が必要だと思ったんだ
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第10話

「遥には、ほんと参ったよ。俺が女にここまで折れるなんて初めてだぞ。光栄に思えよ。俺の泉に対する我慢強さなんて、お前に対するそれの十分の一にも満たないんだからな……」隼人がまた得意げに話し続けようとするのを、私はさえぎった。「勘違いしないで」私はそばにあった書類を取り出し、カメラの前に突き出した。「私、移住した。もう二度と帰らない」……電話を切ったとき、向こう側の隼人はまだ状況を理解できていないようだった。彼は呆然と立ち尽くし、手の中の指輪ケースが床に落ちる音がした。でも、わかってる。隼人はすぐに状況を理解するだろう。そして、すぐに立ち直る。彼が泉をかばって、私にあれこれ意地悪をしていた時から、いつかこうなることはわかっていたはずだ。隼人の一件は、もう私の心に影響しなかった。私はその電話のことを忘れ、研究に全身全霊を注いだ。私が本気で別れる気だとわかったのか、隼人はもう私を取り戻そうとはしなかった。彼は気兼ねなく泉とあちこち旅行に行き、ラブラブな様子をSNSで自慢しはじめた。私たちはそれぞれの道を歩んでいた。彼らがプロジェクトの成功を祝い、キャンドルディナーをしている時、私は研究室でプログラムのテストをしていた。彼らがショッピングや人気のレストラン巡りをしている時、私は頭を抱えながら故障の対応に追われていた。彼らが飲み会で酔っぱらって、SNSで交際宣言してみんなから祝福されている時、私はふと研究について新しいアイデアを思いついた。1ヶ月後、努力は報われた。私たちはついに、長年の課題だった「動的な環境変化に対応してロボットが自律的に立つ」という問題を解決したんだ。まだ高額なコストが大きな問題だけど、科学技術の進歩はゆっくりと、でも着実に進むものだ。未来がどうなるかなんて、誰にもわからない。でも、みんなこの日の成功を、心から喜んでお祝いした。その夜、藤田先生はとても上機嫌で、この大きな進展を祝うために5つ星ホテルを予約してくれた。お酒も進み、彼は顔を赤らめて私の手を握りながら、昔のことを何度も語った。私が途中で研究を辞めたことを本当に残念がって、もし私がいたら2年も前にこの課題は解決できていたかもしれないと。そして藤田先生は、後輩たちの前で、私のことを一番優秀な学生だと紹介
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