副会長室を出たあとも、雅人の胸には冷たい不快感が残っていた。隆臣は、自分を切り捨てる準備を始めている。そう考えれば、先ほどの態度も理解できた。高瀬への条件を広げたのは、確かに雅人だ。株式。共同特許。患者の歩行データ。検証責任者の交代。高瀬を弱らせ、一ノ瀬が失った力を取り戻す。そのために使えるものは使った。だが、最初に火をつけたのは隆臣だった。今さら自分だけへ責任を押しつけるつもりなら、黙って従う気はない。執務室へ戻ると、秘書が困った顔で待っていた。「一ノ瀬様。美玲様がお見えです」雅人は眉を寄せた。「約束はしていない」「お帰りいただくよう申し上げたのですが……」言葉が終わる前に、応接室の扉が開いた。「兄さん」美玲が出てくる。淡い色のワンピースに、丁寧に整えられた髪。外見だけなら以前と変わらない。だが、その目には隠しきれない焦りがあった。「勝手に本社へ来るな」「電話に出ないからでしょう」「今はお前に構っている場合じゃない」秘書を下がらせ、雅人は応接室へ入った。美玲は座ろうともせず言った。「沙耶と話したわ」雅人の眉間に皺が寄る。「もう接触するなと言ったはずだ」「だって、怜司の中からまだ消えていないもの」「何がだ」「沙耶よ」その言葉だけは、雅人にも簡単には否定できなかった。怜司は美玲との未来を約束しようとしない。離婚した沙耶についても、以前のように単純に切り離してはいない。だが今、それを考えている場合ではなかった。「もう沙耶にも怜司にも近づくな」「命令しないで」「お前が勝手に動くたびに、余計なものが増える」「私は
Dernière mise à jour : 2026-09-22 Read More