All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 1011 - Chapter 1020

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第1011話

茉白はしばらく言葉を失った。侑李は続けて言った。「僕が出発する前に、君が日笠さんと電話しているのを聞いた。茉白を深く信頼しているから、君が何をしようと口出しはしないつもりだった。でも、君は僕を、簡単に誤魔化せる間抜けだと思っているんじゃない?」「侑李……そんなふうに思ってないわ……」茉白は口を開いたが、言い訳の言葉も出てこず、慌てふためいていた。どうやら侑李は本当に怒っているらしい。侑李の感情は一時的に抑えが利かなくなっていたが、茉白の目に涙が浮かんでいるのに気づき、自分が言い過ぎたことを悟った。彼ははっとしてうつむき、頭を両手で抱えていた。優紀は、侑李が何も知らされていないとは知らず、茉白と相談済みだと思っていた。話しているうちに何かまずいことに気付き、最後には言葉を取りつくろうように、侑李は自分の仕事に専念しろ、茉白のことは自分が何とかするから、と言った。しかし、その言葉は侑李にとって、耳障りだった。茉白は、今に至るまで彼を身内として頼る気はないのだろうか?夫婦なのに、自分に告げず、他の誰かと一緒に危険を冒すよりも、彼に話すことを選ばなかったのか?「ごめんね、侑李……本当にごめんなさい……」茉白はうつむき、何度も謝った。侑李が無視するので、仕方なくそっと彼の袖を引っ張った。しばらくして、ようやく侑李は、その小さな仕草に負けてしまったように顔を上げた。「茉白、僕がこれを聞いた時、どんな気持ちだったか分かる?」茉白は目を伏せた。「ごめんなさい。ただ心配させたくなかったの。それに、万が一あなたが反対したらどうしようと思って……それに、今はやっとお義父さんも私を受け入れてくれたところで、また私が面倒を起こしてるって思われたくなかったの」侑李は眉をひそめた。「心配させたくない?」彼はその言葉を繰り返した。「だから一人で二階堂家と向き合い、一人で警察署に行き、一人で全てを背負ったんだな。それで僕が心配しなくなると思ったの?」茉白は、めったに侑李に叱られることがないため、悔しさが混じった声で、どこか強がって言った。「心配しなくて大丈夫よ。だって、私一人でも……やっていけるから」「君がやっていけるのは当然だ。日笠さんもいるからな」侑李は呆れたように言った。「つまり、結
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第1012話

侑李は答えず、そのまま顔を近づけ、彼女の唇を塞いだ。リビングがふいに静まり返り、天井の灯りから降り注ぐ暖かい光が、絡み合う二人を包み込んだ。しばらくして、侑李の呼吸が落ち着いてくると、茉白はようやく彼の胸から体を起こし、腕を彼の首に回して、小さい声で尋ねた。「侑李、もう怒ってないの?」「怒ってるよ」その言葉に、茉白の心は沈んでいった。「じゃあ……私にどうしてほしいの?」侑李は彼女を見下ろした。目は赤く、唇はキスのせいで少し腫れている。今まさに、戸惑いと気まずい表情を浮かべて、彼を見上げている。まるで何かを誘っているかのようだった。彼は手を伸ばし、親指でそっと彼女の頬を撫でた。「茉白」侑李は口を開き、秘め事を分けあうようにその声を抑えた。茉白は意味が分からず彼を見つめたが、しばらくして、その眼差しを見て、何かに気づいたように、顔がたちまち赤く染まった。「私が言ってるのは、そういうことじゃなくて、そういう意味じゃないの……」彼女は慌てて説明しようとしたが、言い終わるまえに、侑李の口元はすでにほころんでいた。茉白はその笑みに、恥ずかしさと腹立たしさという両方の感情を覚えた。「侑李の、バカ!からかわないでよ……」侑李は何も言わず、身をかがめて、彼女の額にキスを落とした。かつてはいつも強がって、理不尽でも負けを認めなかった彼女を思い浮かべると、彼の心の中の怒りは、いつの間にか半分以上消えてしまった。「どうしてほしいとは言わない。ただ伝えたかったんだ。君が僕に隠れて危険を冒したことが、腹立たしいって。だから……次からは、僕の気持ちも考えてほしいんだ」茉白は自分に非があると分かって、すぐに頷いた。「次はちゃんと話すわ。今回も、まあ……急なことだったから」「茉白、君の夫になる前から、僕は君の一番の友人だよ。君の決断も尊重する。僕が茉白の思うほど器の小さい男だと思われては困るよ。やりたいことを、僕が妨げるはずがないだろう」茉白の心を、侑李に見透かされた。彼女は認めなければならない。侑李は確かに一番彼女を分かっている人で、彼女のどんな思いも、彼には透けて見えている。茉白は顔を彼の胸に埋めた。「うん、分かったわ」侑李は低い声で尋ねた。「何が分かった?」「もう隠し事は
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第1013話

「早く戻って。後のことは、私一人で何とかするから」「さっき話したこと、もう忘れたの?」「でもお義父さんが……」「僕を戻させたのは父さんだよ」侑李は多くを語らず、そのまま勇とのやり取りのチャット画面を茉白に見せた。勇は確かに、自分に付き添う必要はないと言っていた。傍には医療チームの医師たちもアシスタントも大勢いるから、侑李と茉白は自分のことに専念すればいい、と。「じゃあ、さっきのは……」茉白はまだ半信半疑だった。それならば、わざわざ彼女に聞かせず電話をする必要もなかったはずだ。侑李は彼女の頬をつまんだ。「父さんは君を僕の妻として認めている。考えすぎるな。さっきは、今夜のことを利用して、どうすれば君が最速で遺産を相続できるか、相談していたんだ」「……」茉白は驚きを隠せなかった。勇が自ら動いてくれるとは思ってもみなかったからだ。彼女は勇に言われた言葉をまだ覚えている。二階堂家との因縁には、侑李を巻き込むなとはっきり告げられた。勇は完全に商人の思考回路を持っており、侑李のように純粋な感情で突き動かされることはない。しかし、勇はそう言いながらも、結局茉白が息子の嫁である以上、本当に見て見ぬふりができるはずがなかった。彼が茉白に、西園寺家に頼ろうという考えを持つなと言うのは、彼女に早く成長してほしいからでもある。和香が失脚して以来、西園寺家と二階堂家の提携関係も終わりを迎えた。ただ、二階堂家の地位を考えれば、面と向かって敵対するのは得策ではなかった。しかし今、クラウドキャッスルが加わり、二階堂家が西園寺家に対抗する姿勢を明確にした以上、いつまでも知らぬ顔をしていれば、ただ相手に好き勝手されるだけだ。さらに今回は、二階堂家のやり方が度を越している。感情でも理屈でも、どう考えて理不尽そのものだ。ちょうどその時、茉白の携帯に勇からメッセージが届いた。相手から送られてきた言葉は少なかったが、一瞬で心強くさせるものだった。【茉白さん、明日、基金機関の者と会う約束をしておいた。侑李に付き添ってもらいなさい。怖がらなくていい。お義父さんがいるからな】彼女は再び侑李のほうを見つめ、非常に感激していた。「あなたがお義父さんにそう送ってもらったの?」「父さん自らの判断だろう。君が遠慮するんじゃないか
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第1014話

【名家で育てられたお嬢様二階堂茉白はどうやって潰されたか】「……」茉白と侑李は朝早くから起きていた。七時を過ぎた頃から、二人の携帯は絶え間なく届くメッセージで震え続けていた。優紀が手配したサクラたちは、いち早く各人気のSNSを先に手を打ち、世論は一方的に茉白の仲間になっていた。茉白が長年にわたって上流社会でされた悪い評価は、今やこの逆転劇の有利な証拠となっている。二階堂夫妻が長年、茉白に対して行ってきた目に見えない虐待は、あっという間に世間の好奇の目に晒され、隠す余地すら残されなかった。勇と西園寺グループも関係者として、早朝からそれぞれのアカウントでメディアへの返答を発表した。勇の返事は、まさに爆弾レベルだった。彼はかつて公の場で茉白を嫌悪し、息子を捨てる覚悟があっても、嫁は絶対に認めないと宣言していたのだ。しかし今、彼は茉白を擁護し、息子の嫁を守るという投稿を発表した。その態度の変化は驚くべきものだったが、彼の顔に泥を塗るものではなかった。茉白が二階堂宇家から虐待を受けていたのなら、勇が誤解していたとしても無理はない。そして、二階堂家への非難が渦巻く今のネットでは、息子の嫁を守る勇の行動は完全に正義であり、好感度を上げる以外の何ものでもなかった。西園寺グループもまた、一花が新しく作ったアカウントを通じて、茉白を支持する発言をした。「そろそろ、自分自身のものを取り戻す時よ」一花はさらに、これまで関わりのあった提携先の大物や友人たちに助けをもらい、こぞって二階堂家に圧力をかけ、茉白を支持するよう呼びかけた。この一連の動きにより、数時間のうちに、ネット上の渦巻く勢いは二階堂家を飲み込もうとし、反撃の余地すら与えなかった。二階堂夫妻は一晩中、娘を探してドタバタしており、家で休んだのも二時間足らずだった。そこへ、押し寄せる情報に居ても立ってもいられなくなった。二階堂家の株価は大暴落し、会社の株主たちからの電話は、二階堂夫妻の携帯が鳴り止まないほどに殺到していた。家庭内にも会社にも解決しなければならない問題が山積みになり、二階堂夫婦も平静さを失っていた。一人はすぐにでも会社へ行きたいと気が気でなく、もう一人は娘の行方を案じて焦り狂っていた。しかし弁護士は、二人を必死に家の中に引き留めた。二
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第1015話

コメント欄の数が狂ったように跳ね上がり、数秒ごとに更新されていた。イセリーは首をかしげた。「二階堂家は二階堂茉白に負けそうね。彼女が遺産を相続すれば、西園寺グループはますます強くなるわ。それなのに、どうして笑っていられるの?」彼女には理解できなかった。計画は明らかに想定を超えて失敗しているのに、慶は少しも焦っていないように見える。「特許一つくらい、西園寺グループに譲ったところで何だというんだ?でも、二階堂家と西園寺家は、これで本物の敵になった。死ぬまで争う、そういう関係にな」慶は最初から、本当に二階堂家と協力するつもりなどなかった。和香から得た情報は十分すぎるほどだった。二階堂家は状況が厳しくなるとすぐにほかのところへ転がるような軽いやつらだ。人に使われる都合のいい道具になるしか価値のない愚か者である。そんな協力者など、彼の目には到底入らない。クラウドキャッスルにすがろうなど、寝言もいいところだ。イセリーはようやく何かを掴んだように、半信半疑で言った。「あなたは、ただ二階堂家に西園寺家と戦わせたかっただけなの?」「こんな言葉聞いたことあるか?『漁夫の利を得る』ってな。彼らの喧嘩を眺めているだけで、どちらが勝とうが負けようが、俺たちは巻き込まれない」慶は低い声で言い、その瞳は底知れないほど暗かった。もし二階堂家が特許を手に入れれば、それを利用できる。たとえ特許を取れなくても、二階堂家は自らを救うために、あらゆる手を尽くすだろう。南関市で彼らは多くの者を敵に回してきた。頼れるのは、結局クラウドキャッスルだけだ。自分がはめられたと分かっていても、喜んでこちらの刃となるしかない。つまり、最初から二階堂家に交渉の資格はなく、ただ彼らに縋るしかないのだ。イセリーはようやく理解し、感心したような目で慶を見つめた。「慶、あなたは本当に賢いのね」慶は立ち上がり、背後からイセリーを抱きしめ、その首元に二度キスを落とした。突然のスキンシップに、イセリーはドキッとした。しかし彼女は知らない。今、こんなにも丁寧に彼女を愛撫しているこの男の頭の中には、別の女のことしか浮かんでいないということを。慶はイセリーとの触れ合いによって、血の滾るような興奮をどうにか押さえ込むことができた。一花の手配がなければ、茉
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第1016話

一花はそれを素早く鞄にしまい、店員を呼んでデザートを一品注文し、食べ終えてからようやく席を立った。彼女は優紀に、主治医が言っていたT7に関する研究プロジェクトを調べさせていた。確かに、これはM国で開発された、癌細胞の転移を逆転させることができる新型の抽出物で、臨床データも非常にいい結果を出しているという。ただ、この抽出物の由来だけが、意図的に抹消されていた……優紀はありとあらゆるルートを動かして、たどり着いたのはたった一つの言葉だった。バイオテクノロジー‌。一花はその返信をじっと見つめ、背筋に寒気が走るのを感じた。生物からの抽出物だったら、いったい何の生物からなのか。これほど徹底的に情報を隠す必要があるというのか?だが、今はそれについて深く考える余裕もなかった。カフェを出た時、あの視線を感じる感覚が再び襲ってきた。一花は振り返った。雑踏の群れに、彼女を見つめている者は誰もいなかった。隅で待機していたボディーガードとアシスタントも駆け寄ってきて、一花の探るような視線に気づき、警戒を強めた。「奥様、何か問題でも?」「……」一花は答えなかった。うつむいて時計を確認した。思っていたより長く出ていた。柊馬の今日の治療も、そろそろ終わる頃だ。早く戻らなければ。「柊馬に買うものは揃ったの?」一花は視線を戻し、部下たちに尋ねた。ボディーガードが両手のショッピングバッグを一花に差し出した。中には高級食材がこれでもかと詰まっていた。今夜は柊馬に手料理を振る舞うと言って、自分で買い出しに行きたいと出てきたのだ。だが、ショッピングモールに着くなり、一花は部下たちに買い物リストを渡して追い払い、自分はカフェで半日、息抜きをしていた。もちろん部下たちが一花の私事に口出しするはずもなく、空気を読んで買い物へ向かった。買い物が済んだことを確認し、一花も車に戻ろうとした。「誰か来て!助けて!このおばあさんが急に倒れたんだよ!」突然、一花の背後から切羽詰まった叫び声が聞こえた。少し離れたところに老人が倒れており、周りには数人の通行人が立ち止まっている。叫んだのはその中の一人だった。しかし、誰一人として助けに近づこうとせず、救急車を呼ぼうとする者さえいなかった。一花は気づいた。あの老人は、ずっ
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第1017話

ボディーガードとアシスタントがすぐに一花の前に出てきた男を遮った。彼女はそのまま慌ただしく車に乗り込んだ。車が救急車のそばを通りかかった時、一花はおばあさんが担架に乗せられるのを目にすると同時に、二人の大柄な男と目が合った。彼らの視線は、まるで自分に釘付けになっているかのようだった。一花は手のひらを強く握りしめた。いっそ、自分が緊張しすぎているのではないかと思えてくる。何もかもが敵に見える、そんな気配に怯える状態だった。……夕食の時、一花はどこか上の空だった。柊馬が何度かわざと咳をしても、彼女の注意を引くことはできなかった。柊馬は箸を置き、彼女をじっと見つめて言った。「明日の夜、南関市に戻ろう。もう手配は済ませてある」「え?」一花は一瞬呆け、ようやく柊馬が何を言っているのかを理解した。彼女の頭の中は、まだT7のことでいっぱいだった。南関市では、茉白が特許を無事に取り戻し、すぐにでも薬の製作に移れる状態だった。すべては順調に進み、本来なら喜ばしいことのはずだ。だが、なぜか一花はどうしても落ち着かなかった。「そんなに急ぐことないでしょう? 治療はあと三日で一区切りつくのよ」一花は柊馬の手を握り、優しく言った。彼が会社のことを心配しているのは分かっていたが、それにしても急すぎる。それに、今彼女が本当に心配しているのは会社のことではなく、彼のことだった。「薬での治療なら、どこにいても同じだ」柊馬はほんのりと口角を上げ、続けて言った。「今日は何か心ここにあらずの様子だが、出かけた時に何かあった?」「……」一花は柊馬を見つめ、長い間考え込んだ末、ついにすべてを打ち明けた。この二日間、彼に内緒で進めてきたことを聞けば、彼は驚き、あるいは不満を覚えるだろうと思っていた。だが、その逆で、柊馬の表情はとても穏やかだった。彼はうつむき、そっと彼女の手のひらを撫でながら言った。「君に、そこまで心を砕かせてしまったな」「柊馬、怒ってるの?」柊馬の落ち着きようは、むしろ異常なくらいで、一花はかえって不安になった。「隠していたのは、わざとじゃないの。ちゃんと事が済んでから話したほうが確実で失望させないだろうと思ったから。それに、もしT7を手に入れられなかったら、期待させてしまう
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第1018話

だからこそ、一花はあれほど慎重になっていた。そして、彼女のすべての行動を、柊馬は誰よりも繊細に、鋭く気づき、心に刻んでいる。そんな愛する人を、どうして責められるだろう?また弱さを見せられるはずがないだろう?……その頃、南関市は翌日の午後を迎えていた。世論と多方面からのプレッシャーに包まれる中、基金機関は自ら茉白に交渉を申し入れてきた。茉白は現時点で遺産を全部相続する条件を満たしてはいないが、二階堂家が保護者としてのルールに違反した以上、基金機関がその遺産に対して一部分を占有する権利があるというのが、基金機関の主張だった。二階堂家は基金機関に裏で根回しし、特許を二分して、二階堂家と機関が同時に保有するよう提案させていた。だが、その提案は当然のように却下された。話し合いがまとまらず、法的な手続きに持ち込むことになれば、引き延ばすのは容易い。二階堂家はひとまず胸をなで下ろした。茉白も結局は最後の一手が足りなかったと思ったのだ。何しろ基金機関は二階堂家の協力者であり、利益を分け合う間柄だ。二階堂家と縁を切れば、基金機関も南関市ではやっていけない。どちらが大事か、基金機関の者なら分かっているはずだ。ところが、二階堂家がようやく一段落かと思った矢先、茉白と六時間にわたって膠着していた基金機関が、自ら折れて、わざわざ協議書を茉白の手元に届けさせたのだ。瞬く間に、茉白が相続協議書にサインしたという知らせがネット中に広まった。世論は一方的に拍手喝采し、最近のメディアは本当に仕事が速いと持ち上げた。だが、冷静に分析する投稿も後を絶たなかった。基金機関が相続権をすべて譲り渡した以上、その背後にはさらに大きな利益が絡んでいるに違いない、と。西園寺グループや伊集院グループは言うまでもなく、南関市の権力者たちが総出で圧力をかければ、基金機関どころか二階堂家だって耐えられるものではない。しかし、そんな効率の良さを実現するには、圧力だけでは足りず、別の手段も必要なことを知っているのは、茉白と侑李だけだった。優紀にはとっておきのやり方があった。基金機関が引き延ばそうとしたらやればいい。半日で顧客の八割を失わせ、資産もあっという間に消される。一日すら持たない基金機関が、本当に二階堂家に付き合って茉白と裁判を戦えるは
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第1019話

基金機関の者は、どうにか後ずさりしながら言った。「我々も本当に精一杯やったんです。それに、何しろクラウドキャッスルの……上の方からも、茉白さんのものを早く返してやれ、さもなければ火の粉が降りかかると、そう言われてしまっては……」以前、正章は基金機関に圧力に耐えるよう根回しをしていた。基金機関を安心させるために、自分はすでにクラウドキャッスルと手を組んだと、直接言い放っていたのだ。クラウドキャッスルは何と言っても背後にY国の王室がいる。南関市の連中などよりずっと格が上だから、賭ける価値は十分にある、と。「何だって?」「本当なんです……」正章が驚く中、基金機関の者は早口で、今日クラウドキャッスルから届いた連絡を打ち明けた。クラウドキャッスルは世論に逆らうなと説得しただけでなく、ついでに一つの提携案件まで恵んでくれたという。クラウドキャッスルが茉白の味方をするなら、基金機関に抵抗し続ける理由など、もはやなかった。二階堂家の方は、まだ茉白と和解できるならそれに越したことはない。もしどうしても聞く耳を持たないなら、二階堂家ももう終わりだろう。「出て行け!この野郎! さっさと消えろ!」正章は薫を押しのけ、振り返って居間の花瓶をまた持ち上げた。これを見た基金機関の者は、とても留まっていられず、すぐに逃げ出した。「落ち着いてよ!今は何よりも萌絵を探すのが先でしょ!会社も茉白のことも、一旦置いておきなさいよ!」薫は危うく押し倒されかけたが、幸いにも傍らの使用人が支えた。彼女も腹が立って、大声で叫んだ。その一言で、ようやく正章の理性が戻ってきた。彼は体を強張らせ、立っていられない様子だった。執事がすぐに彼を支えて座らせ、水を渡して落ち着かせた。その時、またインターフォンが鳴った。使用人がすぐに応対に向かうと、薫が即座に指示を飛ばした。「お客さんはお断りなのよ!誰であっても!」だが、次の瞬間、使用人は興奮したように声を上げた。「奥様……どうやら、どうやら萌絵お嬢様がお戻りのようです!」「何ですって?」薫は一気に笑みを見せ、周りの者を押しのけて外へ飛び出した。ドアを開けると、確かに萌絵の姿がそこにあった。二日二晩。彼らは警察に届け出て、ありとあらゆる手を尽くして街中を探したというのに、萌
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第1020話

正章が娘の肩を抱き寄せて、ねぎらいの言葉をかけようとしたが、まさにその時、萌絵は父親をも、同じように冷たい目で睨みつけた。彼女はすこし後退し、父親に触れさせようとしなかった。「どうして、どうして茉白なんていうあの女を養子にしたの?」正章は一瞬言葉を失い、やがて深いため息をついた。「萌絵、君も今の状況を分かったのか」萌絵は父親の問いに答えなかった。黙ったまま前に歩き出した。その身から漂うオーラは、以前とはまるで別人のようで、使用人たちも近づくことができなかった。ようやく、萌絵は先ほど正章が手に取り、また置いた花瓶の前で立ち止まった。「萌絵……」薫が驚いて反応する前に、萌絵は両手で花瓶を持ち上げ、力いっぱい床に叩きつけた。周囲の者たちが慌てて躱した。砕け散った破片が飛び散り、危うく正章の顔に当たりかけた。執事が素早く反応し、何とか彼を隣へ引き寄せた。しかし、避けられなかった使用人が一人、腕を切ってしまった。悲鳴が上がり、腕から流れる鮮血が絨毯に滴り落ちた。薫は思わず甲高い声で叫んだ。「ぼうっとしてないで、早く手当てさせなさい!絨毯が汚れるでしょ!」この花瓶は骨董品で、価格はかなり高い。だが、割れてしまったものは仕方がない。愛する娘が投げつけたのなら、どうしようもない。しかし絨毯もまた、手作りの特注品で、こちらも相当な値段がする。使用人の血で台無しにされたのが、何より悔しかった。萌絵は花瓶を一つ割っただけでは飽き足らず、振り返って他の高価な置物を探し出しては、次々と床に叩きつけた。執事は慌てて周りの者に指示し、皆で萌絵を止めようとした。正章も娘の異変に気づき、鋭く叱り飛ばした。「いい加減にしなさい!いったい何があったんだ!」「何かあったって……そんなの、あなたたちのせいでしょ……」萌絵は腕を掴まれ、暴れることもできず、顔を上げて父親を睨みつけた。「茉白が死ぬべきなのは当然よ。でも、あなたたちも同じく死ぬべきなんだから!だって、こんなことになったのは……全部あなたたちのせいなんだから!」薫は娘が心配でならなかった。すぐに手を振って使用人たちを下がらせ、萌絵をなだめようと近づいた。だが、萌絵はただ悲鳴を上げていた。「触らないで!あんたたち……触らないで!」萌絵がこれほど
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