All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 231 - Chapter 240

478 Chapters

第231話

陽菜は退院後すぐにSNSを更新し、ネット上で自分を気遣ってくれたファンやネット民に無事を報告した。このことをネットにあげると凄まじいコメントが次々と返ってきた。多くの人が彼女に芸能界復帰を望んでいるようだ。もともと下火になっていた世論が、またにわかに沸き立った。そして今回、陽菜は直接ライブ配信を始め、事業を立て直すことを宣言した。しかし芸能界進出ではなく、自身の専攻だったジャーナリズムの道に戻り、社会的貢献活動のインタビューを行うと表明した。如月家自体、多くの福祉団体と提携しており、すぐに数多くのチャリティープロジェクトが舞い込み、陽菜は一夜にして数十万のフォロワーを獲得した。陽菜のライブ配信を見て、陸斗の目に笑みが滲んだ。やはり仕事に没頭する女性は魅力的に見えるものだ。陽菜もそこまで愚かではない。確かに今回同情を得るための策は効果的だった。柊馬と大衆の同情を引き出し、メリットは多かった。陸斗はすぐに和香に電話をかけ、状況を報告した。一花を襲撃した男はもうこの世にいない。柊馬も調査に手をかけている。だが柊馬がどう調べようと、陸斗たちまで辿り着くことは不可能だ。あの男は匠を憎んでいただけでなく、長年、和香に恋心を抱いていたのだ。陸斗はただ、和香の苦境を伝えるだけで、彼は喜んで馬鹿な真似をしてくれた。人というものは、手に入らないものには永遠にとりつかれるものだ。これから、如月家との提携は彼と和香の手に落ちる。一花も如月家を敵に回したことになる。西園寺グループの製薬業は、事実上ほぼこの街の経済の動脈を把握している。如月家を敵に回すのは痛くも痒くもないように見えるが、陸斗は分かっていた。如月家の背後に立っているのは、様々な福祉団体なのだ……その影響力は、想像以上に大きい。和香と陸斗のやり方は異なり、彼女はより強引な手段を好んだ。一方、陸斗は非常に忍耐強く、頭の中に曲がりくねった考えを多く持つ、機会をうかがう狩人のような男だった。厄介な「家庭内のいざござ」を処理するには、陸斗のやり方のほうが適していた。和香との通話を終えた後、陸斗はパソコンを開き、昨日秘密に黒崎グループから届いたメールを見た。彼が出資して以来、黒崎家には多くのプロジェクトが息を吹き返していた。黒崎グループも相当に気を利かせ、自
Read more

第232話

「こんなもんは食べたくない」慶の声はかすれ、トレイを一瞥するともう食欲が失せていた。「お粥が食べたい」彼が具合を悪くするたび、一花は自分でお粥を炊いてくれた。彼女の作るお粥は栄養があって美味しく、種類も豊富で、甘くて味の優しいのもあれば、あっさりしたのもある……とにかく毎回種類は違った。お粥が好きではなく、あっさりしたものが嫌いな彼でさえ、満足感と期待を抱いた。「あなた、お粥嫌いじゃなかった?この料理はあっさりしているから、わざわざ用意させたの。少しでもいいから食べて」綾芽は慶が彼女にまだ怒っていると思い、彼の不調を考え、声を少し和らげた。「食欲ないって言っただろう」慶はそばのトレイに一目もくれず、そう言うと立ち上がり、着替えて、出ようとした。「どこに行くの?」彼が上着と車の鍵を手に取ると、綾芽はすぐにドアの前に立ちはだかった。「会社に戻る。今日はまだやることがたくさん残っているから」「体調が悪いんだから、明日会社に行っても同じでしょ」「もうだいぶ良くなった」慶はそう言うと、大股で歩き出そうとした。綾芽には到底止められず、颯太も横から走り出てきたのを見て、すぐに彼に合図を送った。「パパ!」颯太はすぐに慶の太ももに抱きつき、幼く可愛い声で言った。「パパ、これから絶対いい子にするから。いうことも聞くよ、行かないで」昨日颯太は殴られたばかりで、まだ腹を立てていたが、父親が出て行こうとしているのを見て、本能的に彼を引き留めようとした。母親はいつも二人にとって一番の頼りは父親なのだと言っていた。今両親が喧嘩しているなら、彼はもっといい子にならなければならない。颯太はやはり子供だ。慶がどんなに腹を立てていても、翌日まで持ち越すことはない。息子の潤んだ大きな目にいっぱいの不満が詰まっているのを見て、彼はようやく足を止めた。「颯太、いい子だから。パパには仕事があるんだ。ママのところに行っていてくれ」しかし、綾芽の予想外だったのは、慶は聞かずに颯太を押しのけ、強引に出ていこうとしたことだった。「慶、本当に私と一緒に暮らしていく気がないわけ?前はこんなに私を無視したりしなかったのに。あなたにとって、手に入らないものが一番いいの?」綾芽の感情が高ぶり、使用人の目も気にせず、彼の背後から大声で言った。彼
Read more

第233話

だが会社の問題が解決すれば、次は家庭の問題に直面しなければならない。以前、慶はいつも、彼と綾芽が家族から反対されなくなり、自分が事業に成功するまで耐えられると思っていた。だが、本当にその時が来ても、彼は予想していたほど興奮し、躍り上がるほど喜んではいなかった。一花はもう会社にとって不要な存在だが、彼女はやはり名目上の妻であり、まだ彼を愛している。もし彼が真実を告げ、こんな残酷な方法で彼女の傍から去れば……一花はきっと彼をとても憎むだろう。慶は以前、こうしたことを考えると、後ろめたい気持ちはあっても迷いはなかった。一花がどうなろうと、彼の心の中の恩と愛はすべて綾芽に注がれていた。綾芽と一緒になれるなら、一花に背を向けるのは必要な犠牲に過ぎないと考えていたのだ。だが、いつからか、彼の生活には一花の影が満ち、未練を抱かせ始めた。慶が部屋に戻ってシャワーを浴び、出てきた時、綾芽はちょうど着替えをしていた。わざとだろうか、彼女は新しく買ったランジェリーを試着しているところだった。そこには数着あり、それぞれが非常にセクシーで魅惑的だった。何と言ってもやはり男だ。慶はそこに立ちしばらく眺めてから歩み寄り、そっと彼女を抱きしめてキスをした。少しずつ、首筋から下へ、胸元へと埋もれていく。綾芽はうつむいて、最初はわざと不機嫌そうに彼を数回押しのけたが、すぐにだんだん順従になっていった。慶は目を細めた。突然、薄暗い灯りの下で、何かおかしいことに気づいた。「ここの母斑は?」彼はさっと綾芽の長髪をかき上げ、耳の後ろからうなじにかけて丹念に探った。かつてあった、あの小さく鮮やかな赤いホクロのような母斑が、どうしても見つからない。その母斑は元々見つけにくく、ゴマ粒ほどの大きさで、髪の下に隠れており、普段見えなくても彼は気にしなかった。しかし今日、慶は二人の当時の愛を振り返ろうと、わざと女の耳の後ろを探った。それであの母斑を見るのは、ずいぶん久しぶりだと思った。当時、あの雪山で、彼が女の肩にうつむくと、ただあの小さな赤い母斑だけが見えた。綾芽と初めて出会った時、彼はあの過去のことを話し、唯一覚えていたのも、彼女のあの位置の赤い痕跡だった。慶は素早く綾芽を下ろして明かりをつけた。綾芽も彼の様子に少しうろたえた。「あれは、
Read more

第234話

「ホクロ?何のホクロですか?」柊馬に弄ばれてくすぐったくなった一花は、首をかしげてから口を開いた。自分の首の後ろにホクロがあるなんて、知らなかった。「赤くて小さなホクロだよ」柊馬の声は低く、その部分に今にも唇が触れそうな距離だった。「少し見えにくいところにある、だけど……」彼の息は明らかに荒くなり、言葉は途中でぱったり止まった。「だけど?」彼がまだ何か言う前に、一花はすでに振り返った。柊馬は突然バランスを崩して前方へ少し傾き、ガッツリした体格がその勢いで一花の体を後ろの食器棚へ押しつけた。しかし彼は素早く手を伸ばし、掌を彼女の後頭部に先回りして当てた。冷たい息が一花の頬に触れ、視線が合った。真っ黒な瞳の中から見られたのは、同じように熱く、しかし控えめな感情だった。「だが……」彼の低くかすれた声は誘惑に満ちていた。「とても魅力的だ……どうしても我慢できず、もっとよく見たくなる」そう言い終わると、温かい唇が重なってきた。一花は反応する暇もなく、ただ「うぅ」ともごもごした声を漏らし、頭を上げて突然の甘いキスを受け入れた。彼女は頬を紅潮させ、電流にでも当たったかのようにしびれた感覚が体中を駆け巡った。細い五本指は思わず、彼の広い背中にしがみついた。柊馬のキスは優しかったが、とても深かった。一花は少しずつ後退り、彼の胸と食器棚の間に閉じ込められて少し辛かった。柊馬は目を閉じ、さっと彼女の体を抱き上げ、彼女の腰を抱いてその両足を自分の引き締まった腰に回させた。彼女はわずかに眉をひそめ、体はすでに力が抜けてしまっていた。しかし、柊馬の手が彼女の服の裾に入ろうとした瞬間、突然、携帯の着信音が鳴り響いた。携帯は一花の後ろにあった。今、男に拘束されている彼女には電話に出るのが不便だった。しかし、柊馬がやめる様子はなかった。だが、その着信音は延々と鳴り続けていた。一体誰なのか、何度も何度もかけてくる。一花は気が散り、思わず手元を見た。柊馬も先回りして電話を取り上げた。……見知らぬ番号だった。一花は手を伸ばして切りたかったが、柊馬は反射的に彼女のために通話ボタンを押した。彼の目は鋭くなり、表情には珍しく、ほんのわずかだが焦燥の色が浮かんだ。「一花、どうして俺の電話をブロックした?」突然、慶のやや焦った声
Read more

第235話

慶がまだ驚きから我に返る前に、電話の向こうからすぐに、艶めかしい声が続いて聞こえてきた……彼はたちまち冷静さを失った。「一花?何を言ってるんだ?お前は俺の妻だぞ!いったい誰と結婚するっていうんだ!」慶は電話に向かって怒声を浴びせ続けた。しかし、返ってきたのはさらに激しい喘ぎ声だけだった。一花は柊馬の甘やかなキスに溺れていた。柊馬が怒るとこんなに手に負えなくなるとは思っていなかった……彼のキスは強く、まるで彼女を飲み込んでしまおうとするかのようだった。一花はもう、慶が何を言っているか聞いている余裕もなく、呼吸さえも難しくなってきた。突然、彼女は柊馬の体の反応を感じとった。「一花、お前、いったい何をしてるんだ? 俺を怒らせるために、そこまでする必要があるのか?」慶は怒りを必死に抑え込み、声を少し冷たくした。彼はまだ、一花とまともに話がしたいと思っていた。結局のところ、彼女が怒れば怒るほど、それは自分を気にかけている証拠なのだから。「彼女は君を怒らせてるんじゃない。ただ、俺と二人の夜を楽しんでいるだけだ」ついに、柊馬が荒い息遣いを交えた声で口を開いた。「俺の妻にこれ以上邪魔をしたら、お前を惨めな目に遭わせてやる!」その言葉を口にすると、柊馬は直接電話を切り、携帯を隣へ放り投げた。一花は今、息が詰まって顔を真っ赤にしていた。柊馬が腕を引き寄せると、彼女は全身の力が抜けて彼の胸の中に倒れ込んだ。しかし彼は突然、その勢いを収め、危うく一線を越えそうだった動きを途中で止めた。彼女はすぐに彼の首にしがみついて離さなかった。「怒ってるの?」「ああ、嫉妬してる」一花は柊馬がこんなにはっきり答えるとは思っていなかった。彼は彼女をさっと食器棚の端から抱き下ろし、手のひらでそっと彼女の顔を撫でた。その動きは軽やかだったが、冷たい眼差しは少しも和らぐことはなかった。「柊馬さん、私は一度決断をしたら、後悔しない人ですよ。真実を知ったあの日から、私の心には絶対にもう彼の居場所は残っていないの。もうブロックもしたし、もしあなたがまだ心配なら……」「君を信じてないわけじゃない……」一花が自分のために焦るのを見て、柊馬の表情はようやく和らいだ。「だけど一花さん、俺は独占欲がとても強い人間なんだ。好きな人ほど、時に理性を失いがちで……」
Read more

第236話

「どうしたの?」一花の声はぼんやりとして、すぐに恥ずかしそうに小さくなった。「私……何か気に障ることした?」「違う」柊馬の慌ただしい声はひどくかすれていた。「ただ、このまま続けるのはよくないと思う」一花はまさに魅力の塊そのものだった。それでいて純粋で完璧、宝物のような存在だった。少しでも彼女を痛めつけることなど、彼は胸が張り裂けそうに思えた。「君がこんなにも……」彼は息をのみ、少し辛かったが、しかし固い決意に満ちた声ではっきりと言った。「俺も、これは結婚式の後まで取っておきたい。君に、完全で一生の思い出に値する新婚の夜をあげたいんだ」一花は一瞬目を見開いたが、驚きながらも感動のほうが上回った。「柊馬さん……」しかし彼は言い終わると、すぐに彼女の襟元を整え、そっと彼女を胸に抱き寄せ、手のひらで彼女の背中をさすった。一花はすでに覚悟を決めていた。しかし柊馬はとても頑固で、彼は彼女自身よりも、一花のすべてを大切にしていた。この感動が、まだ尽きぬ欲望を、全て優しさへと変えた。静かに降り注ぐ月光よりも、さらに優しいものへと。一方、慶は一晩中眠れなかった。一花が結婚したと言い、しかも本当にそばに男がいるのを聞いて、彼はただ頭も胸も張り裂けそうだった。ありえない。一花は彼らの偽りの結婚の真実を知らないのに、他の人と結婚するはずがないだろう?一花はただ怒らせるためにしているのだろう……しかし、彼女が彼を怒らせるために、本当に他の男と一緒になれるのか?自分はまだ一度も一花と体の関係を持っていないのに、他の男にいいようにされてしまっているかもしれないと思うと、慶は今、死にたい気持ちでいっぱいだった!午前四時、慶はもう我慢できなくなった。彼は秘書に電話し、どんな手段を使っても一花の住所を突き止めるよう命じた。どうりで、あんなに長く我慢して慶を探さなかったわけだ……慶はその目で確かめに行こうと思った。一花が本当に都合のいい「ペット」を飼っているのかどうかを!翌朝、柊馬が伊集院グループに到着して最初にしたことは、湊に命じて、黒崎グループに関する全面的な調査報告書を入手させることだった。一花は彼に、黒崎家への復讐は自分の手でやりたいと言っていた。だから当初、柊馬は手を出そうとは思わなかった。しかし今、慶はまさか
Read more

第237話

柊馬のこの突然の質問に、湊は面食らった。「西園寺グループが黒崎グループに出資をしたんですか?」彼自身、その項目があるのを見ていなかった。常識的に考えて、一花が今西園寺グループにいるなら、西園寺グループが黒崎グループと関わりを持つはずがない。しかし、西園寺グループの誰が、このような普通の会社に出資などするだろうか?「調べてみます。暗号化されているようですから」湊は資料を受け取り、すぐにまた言った。柊馬はそれ以上声を出さなかったが、表情は曇っていた。可能性は二つしかない。西園寺グループで一花を狙っている者がいるとすれば、それは陸斗たちだ。しかし、もう一つの可能性……それは一花自身がやったのだ。彼女はまだ慶を忘れられていないのではないか?その思いが一瞬よぎったが、すぐに否定された。柊馬もそれがあり得ないことは分かっていた。しかし、一花に関することとなれば、彼はどうしても考え過ぎずにはいられなかったのだ。人を好きになると湧いてくる、このように相手の行動に一喜一憂する気持ちに……彼自身は、少し反感を持っているのだ。……夕方、慶は慌ただしく車を走らせて実家の屋敷に戻り、ゲートの前で綾芽が出てくるのを待った。西園寺グループのあの謎のスポンサーが、彼と来週会うことに約束してくれた。今夜、彼は宝石オークションに行って、何か良いものを競り落とさなければならない。本来、慶は一人で行くつもりだった。しかし、綾芽は今回の宝石オークションが国際的に有名な主催者によるもので、数多くのトップクラスのコレクションが出品され、南関での大物たちが特別招待を受けていると聞きつけた。彼女も多くのことを見て視野を広げたいと思った。もしついでに自分用の宝石をいくつか競り落とせれば、なおさら良い。綾芽は直接慶に頼まず、則孝に遠回しに話を持ちかけた。結局のところ、宝石の贈り物を選ぶのは女の方が得意だ。ましてや則孝は今、綾芽におとなしくしていてほしいだけなのだから、彼女の要求が度を越えていない限り、則孝は異議を唱えなかった。それで、慶は仕方なく綾芽を一緒に連れて行くことになった。彼は門の前で長い間待ったが、綾芽の姿は見えない。慶がいら立っていると、また電話がかかってきた。秘書が、一花の調査結果を報告してきた。しかし、結果は「な
Read more

第238話

マネージャーはうなずいた。「承知しております。今日、お越しいただいたことは誰にもお知らせしません」一花だけでなく、実は彼らも会場でトラブルが起こるのを心配していた。ほどなくして、一花は事前に宝石を選び終わった。一つは最高級のエメラルドのネックレス。デザインがシンプルだが、敬子のオーラにぴったりだ。もう一つは、稀な綺麗に輝くピンクダイヤのピアス。ちょうど美穂のように美しく華やかで、少女のような気質もまだ残っている夫人に似合うのだ。価格はもちろん、一花は気にしなかった。オークションが始まるとすぐ、一花が事前選択した品物が最前列に並べられた。彼女はもちろん一歩も引かず、一気にエメラルドのネックレスを買い取った。だが、このような行動はすぐに人々の注意を引いた。「聞くところによると、今日は謎の大物が来ているらしい。開始早々からこんなに大金を払うなんて、間違いないな」「南関の大物たちって、いったい誰だろう?西園寺家か?それとも伊集院家?」西園寺家の名を聞き、慶の眉がぴくりと動いた。彼は横目で、向かいのVIPエリアを見た。だが、カーテンで遮られ、ボディーガードたちも立ちふさがり、その人物の人影すらまったく見えない。もし本当に西園寺家の人なら、あの令嬢だろうか?手始めに最高級のエメラルドを購入するとは、確かにセンスが良い。慶がぼんやりしていると、綾芽が突然彼を引っ張った。「これ、いいわ。すごく気に入ったの」彼女が指したのは、ちょうど展示されている一対のピンクダイヤのピアスだった。小さいため、値段は先ほどのエメラルドネックレスほどではないが、希少性は非常に高く、紫がかったピンクのダイヤが、鮮やかに輝いていた。綾芽はとても欲しくて、切望するような目で慶を見つめた。「確かに悪くはないな」慶は商品を一瞥し、それでもなお西園寺家のあの令嬢のことを考えていた。あの日、彼女の声を聞き、とても若々しく、一花にそっくりだと思った。彼は思わず、二人の顔を重ね合わせてしまった。もしこのピアスを一花が耳につけたら、きっととても美しく、よく似合うだろう……そのことを考えると、慶は直接札を上げ、入札した。するとすぐに、誰かが六千万を上回る値でまた入札した。やはりVIPエリアのあの謎の大物だ。慶は思わず立ち上がり、向こう側を
Read more

第239話

綾芽は眉をひそめ、何か言おうとしたその時、突然、スーツを着た数人の男たちが彼らの背後に現れ、二人に他の場所で少し話しをしたいと低い声で言った。「どうした?」慶は仕方なく綾芽と共に席を立ち、数人に連れられて廊下へ向かった。「申し訳ございません。招待状をご提示ください」一人の男が丁寧に口を開いたが、相当よそよそしい声だった。「招待状はない。俺はオークションに参加するチケットを購入した」慶は少し不愉快だったが、それでも入場チケットを取り出して相手に見せた。しかし、向こうの男はあまり確認もせず、ただこう言った。「申し訳ございません。お客様はご招待の特別ゲストではございませんので、特別商品のオークションに関するルールに違反されております。チケット代はお返しいたしますので、今すぐ、ご退場にご協力ください」「どういう意味?」綾芽は完全に混乱した。どうしてオークションで人を追い出すのだ?「そんな馬鹿な、俺たちが一体どんなルールに違反したというのか?」慶も少し怒って言った。相手は顔色一つ変えずに説明した。「招待状をお持ちのゲストの方のみ、特別のコレクション品を入札することができます。お客様のチケットにも説明があるはずです」その規定は確かに本物のルールだ。招待されたゲストの特権を示すため、希少な品物はゲストに優先的に競売され、誰も競りに参加しない場合にのみ、一般の客に順番が回ってくる。しかし、たとえそういう規定があったとしても、規定に触れた者に対し、これまで真剣に退出を求めたことはない。慶は自分が二回も辱められたと感じた。「どういうつもりだ? たとえこのルールを見ていなかったとしても、お客を追い出すなんてことはないだろう?」綾芽も憤慨して言った。「言っておくけど、私たちは普通の客じゃないわ。黒崎グループって知ってる? 彼は黒崎グループの社長よ。今、黒崎グループは西園寺家から出資を受けてるの。バックについているのは西園寺グループなんだから、私たちに逆らえば、西園寺グループに逆らうことになるわ!」彼女がこれを言わなければまだしも、この話をした途端、その場にいる数人は、呆然とした。西園寺家だと?西園寺家のお嬢様は今、まさにVIP個室に座っているじゃないか。もし彼らの後ろ盾が西園寺家なら、なぜそのお嬢様は彼らにこの二人を追い出
Read more

第240話

「あれ、水瀬さんじゃない?」綾芽は目ざとく、すぐに一花の姿を見つけた。彼女は少し緊張して慶を見た。どうして彼らが一緒にいる場合で、毎回水瀬一花に会うのだろう?まさか、あの女は陰で尾行してるんじゃないだろうか。口では慶と別れたと言いながら、会社の株式を要求したり、しつこく絡んできたり……手口が実に多く、本当に腹黒い女だ!慶は視線を上げ、一花を見た瞬間、本能的に綾芽と距離を取った。「ちょっと行ってくる。先に車に乗ってて」彼は慌ただしくそう言い残すと、一花の方へ走り去り、綾芽に少しも反応する時間を与えなかった。一花は隅にいる二人には気づいていなかった。ボディーガードが品物を安全に車に積み込むと、すぐに去った。一花は運転席に座り、ちょうどドアを閉めようとした時、誰かの手が強くドアを押さえつけた。その男の手には高級ブランド品の腕時計と、見慣れた結婚指輪をつけており、人目を引くように光っていた。「一花!ついに現れたな!」慶は声が慌ただしく、息切れしている。無理やり体半分でドアを押さえつけた。本来ならば、彼は彼女に対して腹の底から怒りを抱いていた。しかし、彼女を見たこの瞬間、突然、その怒りの大半が消えてしまった。一花の美しさに、彼の心は鼓動を高めた。それはまるで、かつて大学で初めて彼女に出会った時のような衝撃に劣らなかった。一花の豊かで黒い長い髪は簡単にスタイリングされ、左右両側にダイヤのヘアピンが留めてあった。ウェーブのかかった毛先は肩の後ろまで垂れ、つややかに輝き、高級な香水の香りを漂わせていた。彼女の着ている服のスタイルは以前とほとんど変わらず、シンプルで上品なデザインで、グラデーションのかかった白いロングドレスだった。ブランドは分からないが、質感は非常に上質だった。身に着けている装飾品もシンプルで、二つの真珠のイヤリングに、透明なティアドロップのダイヤモンドネックレスだけだった。ただ、その手には大きなダイヤの指輪とペアブレスレットをつけていた。指輪を見ると、慶は問答無用で一花の腕を掴んだ。「この指輪はどういうことだ?俺たちの結婚指輪は?お前、本当に外に男がいるのか?」この目で見ない限り、慶は一花が浮気するなんて絶対に信じられなかった!「触らないで!」一花はまさか慶に遭遇するとは思ってい
Read more
PREV
1
...
2223242526
...
48
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status