All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 611 - Chapter 620

735 Chapters

第611話

「柊馬、あなたは愛されることも、幸せになることもできる人なの。健康で、長生きして、そして……私に一生あなたの傍にいさせて。あなたが聞きたいなら、何回だって言って教えてあげる。この気持ちは絶対変わらないわ」「……」一花のその言葉が柊馬の凍った心に温かく流れてきた。彼はふいに、死すらもそれほど恐ろしいものではないと感じた。柊馬は笑って、一花にキスをした。彼はネットでいろいろ調べようとする彼女の手から携帯を取り、一花もそれに応えるように目を閉じた。……二人が目を覚ました時、すでに翌日の昼になるところだった。一花のほうは早く目を覚ましていた。睡眠時間は多くない。今はとても緊張状態にありよく眠れないのだ。柊馬は恐らく薬のせいか、とても深く眠っていた。一花は彼を起こさないように、彼の腕の中で動かなかった。もうすぐ昼になる時間帯なので、回診の医者が病室に来た。昨日の岩崎と杏の二人も早い時間からすでに外で待機していた。柊馬の顔色がだいぶ良くなっているのを見て、医療スタッフたちも安心し、顔をほころばせた。一花は彼らと少し話した。相手は柊馬の状態がかなり早く良くなっているので、強い薬を使った効果があらわれていると話した。しかし、一花が気になっているのは、ただ今回の状況だけではなかった。彼女が知りたいのは、彼の病気は完全に治療できるのかということだ。こちらの医療は国際的にもトップクラスだ。しかし、強力な薬を使うしかない。腫瘍を完治させるには、やはりまだまだ厳しい状況だ。医者の意見は基本的に一致していて、病状が悪化しないようであれば、引き続き薬を使い、のちにまた手術を考えるというものだった。ただ、柊馬の病状はまるで時限爆弾のようで、今は今後どうなるのか予測不可能だ。そして、ずっと薬を使い続けた場合の結果はどうなるか、みんなも言わなくても分かっていた。最終的に、体もボロボロになるだろう……柊馬は自分の事で、一花を深く悩ませたくないので、咳払いをして一花と医者の会話を遮った。すると全員、状況を察して病室から出ていった。杏が離れる時、我慢できずに柊馬と一花の二人のほうを振り返って見た。この二人は本当にお似合いだ。初めて彼女は自分の父親の話は正しいと感じた。医者の目標はただ病気を治すことではなく
Read more

第612話

柊馬は一花の話は、一番良くてその結果になるということだと分かっている。普通、研究は完治を目標に進められている。しかし、成功はそう簡単なものではないはずだ。それに、そんなに遠い所へ行くなら、一花は今そんな余裕はない。柊馬はちらりと見て言った。「俺は一人で行きたくない、君と離れたくない。今はこんな時だし、まず俺のことを気にしないで」昨夜、一花は十日という約束で自由を得たと話していた。二人はまだ西園寺家のほうを解決していない。一花が彼のためにここまでしてくれたのだから。何があっても、彼は彼女とともに闘っていくつもりだ。一花を負けさせるわけにはいかない。彼はすでに湊を帰国させて伊集院グループの調査をさせてある。ここ最近がもっとも重要な時期だ。「あなたがそう言うことは分かっていたの。もうあちらには連絡済みよ。こっちが解決したら、あなたと一緒に行くわ」一花は彼の手を握った。彼女の瞳がキラリと光った。「もう決めたの。別に私は西園寺グループがほしいわけじゃない。私は後継者を他に譲ってもいいと思っているの」一花が十日の約束をしたのは、別に一時の衝動ではなく、すでにこうする心の準備をしていたからだ。会社の中で、和香によって孤立させられようとしていた時、すでに一花の部下が和香の周りにいる人を買収していた。和香が幸雄のところで一花を待ち受けていたのだから、何かしら罠をしかけてくるに決まっている。一花は和香がどのような手を使ってくるのかは分からなかったが、何も仕掛けてこないはずがないと思っていた。和香は常に一花に目を光らせている。それで一花の部下に自分の部下が買収されていることには気づいていないはずだ。一花は一人だけでM国まで来るのは、どれだけ部下を従えていても、劣勢に置かれると予想していた。しかし、劣勢も良いだろう。そのほうが幸雄からの同情心が買えるかもしれない。劣勢であれば、和香が警戒することなく、一花に手を出してくるはずだ。昨日、柊馬の体調悪化の知らせを受けた時、部下から和香の調査資料を調べてみると、ある探偵社に行きついたという知らせも受け取った。和香の行いと行動履歴を調べておけば、一花も動こうと思うなら、多くの事ができる。それに、今や亜由も一花のほうに立っているので、幸雄のほうで何か動きがあれば、亜由
Read more

第613話

「何を言ってるんだ?」一花の話を聞いて、柊馬はすぐに顔を暗くさせた。彼が口を開く前に、一花のほうが先に自分の考えを話し始めた。たとえ一花が西園寺グループの後継者である席を譲っても、和香に多くの会社の資産を渡したりしない。一花のほうから戦いの場を離れれば、和香からの企みは減り、余裕を持って和香に対抗することができる。そしてその期間を利用し、一花は柊馬の治療に付き合いつつ、自分の会社を立ち上げることができる。西園寺グループは、ただ西園寺家が後ろに控えているから有名なわけではない。匠の経営理念と、社員全員の昔からの変わらぬ努力の成果なのだ。もし、一花が西園寺グループを良い方向に発展させるのではなく、内部の争いに明け暮れるようであれば、彼女は喜んで身を引くつもりだ。「もう決めたんだね?」一花がはっきりと自分の決定を教えたしても、柊馬は瞳の底にはためらいがあるのを読み取った。いくら何を言おうとも、一花が引くことで攻める方法を思いついたのは、結局は柊馬のためなのだ。一花の簡単には折れない性格なら、和香がどうしても一花にその席を譲ろうと迫れば迫るほど、彼女は敢えてその困難に立ち向かっていくだろう。匠の会社を継ぐというのは、一花にとってもある意味では理想だった。父と娘は一度も会ったことはないが、匠は全ての財産を彼女に遺すことに決めた。それは一花への大きな信頼と、愛ではないか。一花は自分を信じてくれた人の心を無下にしたくなかったし、自分自身も後悔などしたくなかった。「もうよく考えて決めたの。あなたも、無条件で私を応援してくれるって言ってたよね?それは今も変わらない?」一花は柊馬がまたいろいろと考えすぎるのではないかと心配し、彼の手を握りしめてそっとキスをし、彼の心を落ち着かせるしかなかった。「もちろんだよ」柊馬の表情は相変わらず険しいままだった。彼女の瞳とじっと見つめ、何か思ったようだった。「だけど、一花……もし万が一」一花は彼が何を考えているのか分かったようだった。「あのね、『万が一』なんてないの。あなたに関係のない事で、あなたを傷つけたくない。私たち二人に関わる事は、一緒に決めましょう」「……」その言葉が心に響き、彼は喉を鳴らして、すぐにうっすらと笑みを浮かべた。彼はもちろん、一花が言いたいことがよく
Read more

第614話

特許許可がなければ、伊集院グループの新製品ラインはすぐに頓挫してしまう。湊はこれを強味に、修治が新規事業で提携を結ぶのを阻止できるという寸法だ。そして、修治が今最もプライドを持っているのは、自分の伊集院グループにおける地位だ。生産ラインが彼のせいで止まってしまえば、株主たちからの糾弾にあうだろう。しかし、修治は昔から頑固者だから、柊馬が強行手段に出ようとすればするほど、彼は天邪鬼にも頑なに拒絶する。だから、柊馬は祖母の敬子に頼んで、美穂に出てきてもらうことにした。修治が唯一耳を傾ける相手は、美穂だけだ。強行手段と、美穂という奥の手を使い、修治が当時の事を自ら話すのを期待するしかない。もし、修治のほうが一向にその場に踏みとどまっているのであれば……一花のほうにも策はある。……翌日の朝早く、南関市。茉白が起きて下におりてくると、侑李が電話をしている声が聞こえた。まだ早い時間だというのに、侑李はダイニングルームの中で行ったり来たりしていて、どうも慌てている様子に見えた。「ああ、分かった。できるだけすぐに返事をするから。そっちはみんな大丈夫なの?……そっか、気をつけてね」侑李はまた眉間に皺を寄せた状態のまま電話を切り、後ろを振り返ると茉白がそこにいるのに気づいた。彼女はナイトウェア姿で、ロングヘアはまだ整えておらず、寝癖がついたままだった。まだ寝ぼけ眼で彼の後ろに立っていた。朝日が彼女の後ろから差し、普段のきつい感じが薄れて柔らかい印象に変え、可愛らしかった。「こんなに早くに起きたの?よく眠れなかった?」侑李は少しだけ驚き、声を落ち着かせて彼女に尋ねた。この新しく購入した家は茉白のために用意したものだ。部屋数は多いが、侑李は自分が一緒にいると茉白がゆっくりくつろげないと考え、二日前に部屋の片付けをする時だけ一晩泊まり、あとは基本的に自分の家に帰っている。しかし、昨夜は接待で酒を飲み過ぎてしまい、どうしてここまで来たのかよく分からない。記憶を手繰り寄せてみると、茉白が彼の体を支えながらゲストルームに連れていって……二人はベッドの上で暫くの間揉み合い、侑李は夢か現実かさだかではないが、茉白が彼の服を脱がし、上半身を長い時間触ってから抱き合って寝たような気がしていた。しかし、朝起きてみると
Read more

第615話

しかし、茉白は寝ようと思っても、すぐに目を覚ましてしまった。彼女はずっと夢で侑李が気持ち悪そうにしているのを見て、落ち着いて眠ることができなかったのだ。ちょうど、侑李も目を覚まし、下で電話をかけている声が聞こえた。「僕もよく寝られたよ。昨日は急に来ちゃって、驚かせたよね?」侑李は一瞬言葉を詰まらせて、彼女に尋ねた。彼は少し気まずかった。一体自分はどうしてこんなことをしてしまったのだろうか。車に乗る時に、秘書にこちらの住所を言ってしまった。そして玄関をノックしたことすらも記憶にない。その頃きっと茉白はもう寝ていただろう。しかし、彼は彼女がドアを開けるまで、しつこくずっとノックしていたのだ。「それは……」「旦那様、それはもちろん奥様をかなり驚かせていましたよ。夫があんなに酔っぱらって夜帰ってきたら、どこの奥さんだってそれはびっくりするでしょう。奥様は昨夜、心配されて一晩中旦那様の面倒を見ておられたんですよ。今後は仕事と家庭とバランスを取るべきです。やはり毎日家に帰ってくるのが一番でしょう。そうしないと奥様が一人っきりで……」「いいんです!」茉白があっけにとられている間に、家政婦がペラペラとたくさんしゃべってしまった。面倒を避けるために、侑李は家政婦には二人は夫婦だと伝えてある。彼のほうは仕事がかなり忙しく家をあけることが多いから、家政婦には茉白のことだけしっかり世話をし、彼を気にする必要はないと言ったのだ。しかし、家政婦は非常によく周りを見ていて気の利くタイプだ。彼女は侑李が茉白のことをとても大事にしているのは分かっている。茉白が毎日帰った時に侑李が不在なのが分かると、がっかりしているのにも気づいていた。他所の夫婦で別居しているのは、仲が悪いせいだろう。しかし、若く、見るからにお互いの仲が良いこの夫婦が、どうしてこうも、よそよそしい態度でいるのだろうか。家政婦はどうにも理解できなかった。ただ一つ、納得のいく答えは、侑李の仕事があまりにも忙しすぎて、二人が愛を育む時間が削られていき、自然とよそよそしくなっていった、これだけだ。「昨日は……茉白が僕の面倒を見てくれたの?」茉白は急いで家政婦の口を閉じさせたが、侑李の関心はそれではなかった。彼はとても不思議そうに茉白のほうを見ていた。一瞬、脳裏にあの記憶の
Read more

第616話

家政婦はすぐにハッとして、謝った。茉白は顔を赤くして、何か言おうとし口を開きかけたが、侑李のほうが先に答えた。「大丈夫です。これからは僕たちの事はあまり気にしないでくれればいいです。妻は恥ずかしがり屋なので。じゃ、松井さんは引き続き家事をしてください」「あ、はい。かしこまりました。ありがとうございます」松井と呼ばれた家政婦は、侑李からそう言われて、すこし申し訳なさそうに茉白のほうをちらりと見た。茉白は松井も怒っていないことを確認して、心の中の居心地の悪さは消えてしまった。「松井さんはとてもお世話好きな方みたいだから、茉白が僕に冷遇されてるんじゃないか心配したんだよ」侑李は淡々とそう言った。昨日の夜の出来事を松井に言われてしまい、茉白が気まずい思いをしているのが分かると、侑李自身も同じく気まずくなった。昨夜の夢だと勘違いしていたあのシーンが脳裏に何度も浮かんできた。彼は自分が一線を越えるような行為をしたのか、それすら分からないままだった。それに……茉白がこんな自分に反感を覚えているのではないか気になっていた。しかし、彼女の家政婦に対する反応がかなり大きかったのを思い出し、侑李は彼女に謝罪しようと思った。その言葉が喉まで来て、やはり昨夜のことをまた話題にしないほうがいいかもしれないと思った。「お腹が空いてるんじゃない?朝食はできているよ」侑李は背を向けて、キッチンと繋がっているカウンター席のテーブルの上から、松井が作ったサンドイッチを茉白の前に持ってきた。茉白は何も言わず、気持ちを落ち着かせてから話し始めた。「さっき、一花さんからかかってきたの?」「どうして分かったの?」侑李は尋ねた。茉白は言った。「あなたの話し方から分かるわ」一花と話すときだけ、侑李の口調は柔らかく気遣いのあるものに変わり、まるでお兄さんのようになる。「そっか」「一花さん、何かあったの?さっき電話してるとき、顔色があまり良くなかったわよ」「うん、ちょっと複雑な状況でね。匠おじさんに関わることなんだ。彼女に代わってちょっと調査する事があるんだよ」侑李は茉白に隠すことはなかったが、事情が事情なだけに、あまり詳しく語ることはなかった。それに一花が彼に話した内容も、比較的簡潔だった。侑李自身もただ、大体の状況を把握している
Read more

第617話

侑李からの誘いのような言葉を聞いて、茉白は驚いた。侑李は付け加えた。「だけど、二階堂家も招待されているんだ。レストランの正式なオープン前に、父さんがたくさんの友人たちを招待した。二階堂家のあの両親も招待された対象だよ。だけど、僕が特別な席を確保してある。個室で景色もいいし、それに、茉白も新しい料理を食べてみたくないかなって」侑李の家は、主に飲食業と貿易業を生業にしている。勇は侑李が幼い頃から、この飲食業を行ってきた。そのレストランなど多くのブランドは南関市の三分の一の市場を占めている。主に、高級レストランが主力となっている。そして小さい頃、侑李はよく茉白を新しい店に連れていって、いろんな料理を食べさせてくれていた。茉白も、侑李がこっそり自分を連れて彼の家が経営するレストランで食事をするのが楽しかった。毎回二人は大きな顔でやって来てはテーブルいっぱいに注文し、会計時にはさっさととんずらしていた。そのまま逃げて捕まらないことがとてもスリリングな経験だった。侑李は家に帰ると父親から罰を受けるだけの話だ。もし店で捕まってしまえば、彼は自分が社長の息子であると告げるだけだった。これが、幼い頃の二人がやっていた悪趣味な遊びなのだ。そして茉白が大学生になると、二人はもうこのようなことをしなくなった。「じゃ、今夜行ったら、お金を払う必要がある?」暫くして、茉白は小さな声でそう尋ねた。侑李はその言葉を聞いて鼻を鳴らし、笑いだした。彼女は彼の笑い声を聞いて、思わず自分も笑ってしまった。「いらないよ」……午後、茉白のところに侑李から宅急便が届いた。彼は事前に彼女に、今夜着るドレスだと連絡していた。レストランは外国風で、レストランを訪れる客もきちんとした礼服を着用する必要がある。だから、茉白がラフな格好をして来れば、かなり目立ってしまうのだ。茉白は会社の更衣室に持って行って、それを開けてみた。それは淡いピンクのマーメイドラインのドレスだった。彼女の体は余計な肉はついていない。背は高いほうで、出るところは出て、腰はキュッと引き締まったスタイルをしている。着る人のスタイルがはっきりと出やすいマーメイドラインのドレスを着れば、彼女のセクシーさと美しさがより際立つ。だから、二階堂家にいる時に何かのパーティーに参
Read more

第618話

茉白はわざと強調するように言った。ドレスを着るのはレストランの規定に則ったものだと。「あ、それなら私たちも招待されています。彼が一花さんの部下である私たちにも招待してくれたんですよ。レストランで好きなだけ食べていいって。さっき、二階堂さんも誘おうと思って探しに来たんですけど、私ったらバカですね、お二人の関係を考えれば、私なんかが誘う必要もないのに」夏海にからかうようにそう言われて、茉白は気まずく思った。「だけど確かに、そういうレストランならではの決まりみたいなのがありますよね。私たちも、招待された時に正式な格好で来たほうがいいと書かれていました。夏海は自分の格好を見た。他の人はみんなヒールにスーツやスカート姿だ。今から帰って着替えるか、あるいは付近にあるモールでワンピースでも買えばいいだろう。夏海はこの時オフィス用の服とはいえ、かなりラフに見える。でも、お金を使って新しく買いたくもなかった。「やっぱり私はやめておこうかな。美味しい物とは縁がなかったってことで」夏海が不満そうにそう言うと、茉白がすぐに彼女の手を掴んだ。「行きましょう。ワンピースくらい私が綺麗なのを買ってあげるから!」「いや、いいんです。そんな無駄使いさせるわけには」夏海はすぐに拒否したが、茉白は頑なにその手を離そうとしなかった。「いいんです。プレゼントということで受け取ってください」「プレゼントって、別に何かしてもらったわけでもないし、そんなの悪いです……」「そんな細かい事は気にしないで、とにかくプレゼントすると言ったらするんです。ちょっとモールにある美容室でお化粧もしてもらおうと思っていたし、一緒に行きましょ」茉白はそうすると決めたら行動が早い。夏海がまだ断わろうとしていたが、強制的に連れ出されてしまった。夏海はわけがわからなかったが、茉白はあの大雨の日に、彼女が励ましてくれた時、正直に自分の心に従うことができずにいた。茉白は侑李とは、ただの夫婦という肩書きでしかないと分かっているが、暫くの間好きな人と一緒にいられるだけで、もう十分だった。茉白と夏海はエレベーターで陸斗と遭遇した。陸斗はエレベーターをおりようとしたところで、夏海と茉白が一緒にいるのに出会った。もともとつまらなそうにしていた瞳を、その瞬間キラリと光らせた。あの夏海
Read more

第619話

「俺が人を見る時には堂々としているだろ。どこが失礼なんだ?」陸斗は目を細めた。夏海は不機嫌そうな口調で話すものだから、彼も興奮状態になってしまった。茉白はすぐに、これ以上彼を相手にするなと夏海の手を引いた。陸斗が夏海をからかって遊ぶことが好きなのを茉白は知っている。こうやって夏海が彼女を庇うことで、彼の策にまんまとはまってしまうのだ。しかし、茉白がそうやって手を伸ばして夏海を引いた時に、陸斗は茉白の薬指に大きなダイヤの指輪がはまっているのが見えた。十カラット以上ある大きなダイヤだ。デザインもかなり凝っていて、非常に目を引く。二階堂家がいくら金持ちでも、茉白自身に大した金はないはずだ。だから自分でこんな物を買えるわけがない。目ざとい陸斗はすぐに何かに気づいた。「二階堂さん、その指輪、すごく綺麗ですね。結婚指輪か何かですか?」彼にそう言われると、茉白はギクリとしてすぐに手を引っ込めた。「いえ」彼女は無意識に否定した。しかし、彼女のかなり緊張した面持ちが全てを物語っていた。陸斗は茉白をじろじろと見て、ニヤリと不適な笑みを見せた。「今日は侑李君の家が新しいレストランをオープンするって聞いたけど、この付近だったはず。二階堂さんもオープニングセレモニーに出席するんですか?」「……」茉白が黙っていると、陸斗がまた口を開いた。「どうやら、侑李君との関係にどうも急な進展があったみたいですね。まさか、今夜は侑李君はあなた達の結婚を発表するとか?」「副社長、何をそんな笑えない冗談を言ってるんです?」夏海は陸斗が茉白に探りを入れているのを見ると、すぐに横槍を入れた。「そうだな、この冗談は笑えるわけないさ。だって、冗談なんかじゃないんだから」陸斗の瞳は瞬時に冷たくなり、淡々とした調子で夏海を見ていたが、その言葉は茉白に向けて放ったものだった。「聞いた話によると、勇おじさんは侑李君に他の婚約者を見つけたとか。家柄も釣り合っているし、かなり優秀な女性だと聞いたよ。もし、侑李君と二階堂さんが結婚したとなれば、おじさんの顔を潰すことになるんじゃないか?勇さんは普段話の通じやすい人のように見えるけど、息子の侑李君にはとても厳しい。おじさんが一体何をしでかすことやら」陸斗の言葉に、茉白の顔は一瞬にして青ざめた。夏海も茉白
Read more

第620話

茉白は、陸斗がただ自分に探りを入れるためにああ言ったことは分かっていた。しかし、彼が和香に伝えてしまえば、勇のほうにもすぐに情報がいく。茉白は自分の心配はしていないが、侑李が自分のせいで責められるのが怖かった。「そうだ……二階堂さんと西園寺さんってまさか本当に……」夏海は少し気になって、茉白の手に光るダイヤの指輪を見た。うっかり今までその指輪を薬指につけているところまでは気づいていなかったのだ。茉白は手を引っ込めた。彼女も夏海に隠すつもりはなく、頷いて、あの大雨の日に夏海に励まされた時のことを話してしまった。夏海はそうかもしれないと疑ってはいたが、まさか本当に二人が結婚していたとは。彼女はとても驚いていた。しかし、それよりも侑李に感心した。彼は見た感じ真面目で、まっすぐな道から外れないようなタイプで、陸斗が両親の言葉に従うよりも、さらに従順な人間なのかと思っていたのに、まさかこんな大胆な行動をとれるとは……「どうであれ、彼はただ私を助けるためにやってくれたことなんです。私もあの時は衝動に突き動かされちゃって、今では本当に彼を巻き添えにしてしまうんじゃないか怖くて」そんな茉白の心配を夏海は理解できた。誰がその立場になっても心配になるだろう。それに、茉白には実の親からの支えなどない。侑李がいくら強いといっても、西園寺家と勇からの圧力がある。「心配しないで。西園寺さんのお父様も全然話が通じないような人ではないみたいだし、お二人が本気で愛し合っているなら……」「須藤さん、彼はただ誰かと結婚なんてしたくないと思っているし、私には約束と同情心から助けてくれただけで、別に私のことを好きなわけじゃないんです」茉白は夏海の言葉を遮り、否定した。その言葉に、夏海は呆れ、信じられないといった顔で茉白を見つめた。「あなた……本気でそう思ってるんですか?」茉白は頷いた。それに夏海は完全に言葉を失ってしまった。「西園寺さんがあなたのことを好きじゃなかったら、彼のこのような行動は一体なんなんです?」「……」茉白は夏海の顔を見た。夏海はそんな彼女の瞳から純粋すぎる愚かさを見た。「だったら、あなたは彼が一体……」「彼はあなたのことが好きなんですよ。いえ、ただ好きなわけじゃなくて、心の奥底から愛しているんです!」
Read more
PREV
1
...
6061626364
...
74
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status