All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 711 - Chapter 720

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第711話

綾芽が帰る時に浩之に電話をかけたが出なかったので、彼はもう先に寝てしまったと彼女は思っていた。執事がすぐに答えた。「柏木様、三条様は今お客様の接客中でございます」「お客様ってこんな遅くにどちら様?」綾芽はそう聞きながら、部屋に着替えに向かった。執事は綾芽の持ち物を受け取り答えた。「探偵の方です」綾芽はその言葉にピクリと反応した。「やっぱりまた妹さんのこと?」執事は頷いた。綾芽はついでにその進展を軽く尋ねてみたが、執事は知らないようだ。浩之は長年妹を探し続けている。最近になって探偵の方から頻繁に連絡を取ってくるようになっていることから、何か分かったのかもしれない。ここ暫くの間、綾芽は浩之について京原市に行き、仕事に専念していた。それで自分の能力をもう一度証明したいと思っているのだ。しかし、一花と慶によってできた綾芽への大きなダメージは一生をかけても忘れることはできない。しかし、復讐するのに早い遅いなどないはずだ。彼女自身が力をつけてまた南関市に戻ったら、絶対に一花の全てを奪い、倍返しにしてやるつもりでいた。もちろん、彼女が一花に対抗するなら、今浩之を後ろ盾に頼るしかなかった。浩之は綾芽に気があるようだが、二人はまだ体の関係を持つまでには進展していない。ここ暫く、綾芽は浩之に対してとても良く接していて、二人の仲は急激に近くなっている。ただ、彼女がいくらもっと深い関係に踏み込もうと思っても、彼のほうがそのつもりがないらしいのだ。もう手に入れたから興味を失ったのか。それとも浩之は綾芽のことを探り慎重な姿勢を保っているのか、彼女にははっきりとは分からなかった。しかし、今回綾芽はそこまで焦っていない。絶対にいつかは浩之と堂々と恋人同士になるつもりだった。綾芽は着替えてからそのまま書斎へと向かった。浩之は昔からずっと妹のことを気にかけていた。ギャロップが南関市に支社をつくるという計画も、彼が妹を探していることと関係しているのだ。綾芽も個人的に人に頼んで、浩之の手助けができないか助力していた。もし、彼女が浩之の妹を見つけ出せれば、浩之との結婚も自ずと成功するはずだ。「その捜索方法で期待できるでしょうか……ええ……ではよろしくお願いします」綾芽が書斎の前まで来た時、中から浩之の声が
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第712話

「私は大丈夫よ。今この瞬間を大切にしたいと思っているの。あなたと一緒にいる毎日をとても幸せに感じるわ」綾芽は優しい声で、そっと浩之の肩に寄りかかった。「君が気持ちを切り替えて、すぐに自分を立て直したことを俺も嬉しく思ってるんだ。ただ、あまり無理をしてほしくないだけだよ」浩之は穏やかな声で、寛容な眼差しで彼女を見つめていた。浩之も綾芽が深く慶のことを愛していたことはよく分かっている。だから、こんなに短い時間で自分のほうを好きになることは難しいことも分かっていた。だからこそ、綾芽は今自分から積極的に彼に近づこうとするほどに、彼のほうは彼女が自分に以前の失敗へ報いるためにそうしていると感じてしまうのだ。綾芽は顔を横に振った。「私は別に無理していないわ」しかし、その言葉を浩之は全く信じていないようだ。彼女のほうも焦って説明することはせず、すぐに話題を変えた。「もうこの話はやめにしましょう。あなたの妹さんのことだけど、また何か手がかりが掴めたのね?」その話になると、浩之は嬉しくなった。彼は綾芽の手をぎゅっと強く握りしめた。「妹は今南関市にいることが分かったんだ。それに、小さい頃に冬のキャンプに参加したことがあるらしく、すでに当時のそのキャンプについて調査を始めてもらったよ」数カ月前、探偵がある児童養護施設に狙いを定め、多くの子供たちの情報を探り当てた。そして、時間を限定して四人の子供が調査中の条件に合うことが判明している。探偵は更に深くそれぞれの子供たちについて調べてみたが、そのうち三人は浩之の妹ではないことが分かった。それなら残りは一人の子供しかいない。最後の一人が彼の妹だと確定していいだろう。ただ、浩之のこの妹は昔何度も里親が変わっていた。彼女が高校生になると国の助成金と学生ローンで自分でなんとか暮らしていた。探偵はどうにかしてその里親の一つの家庭を探し当てた。しかし、こんなに長年経っているので、妹の消息までは分からず、彼女の名前すらも分かっていない。当時の施設にいる時の先生たちが呼んでいた彼女の名前で、里親もそのように呼んでいた。彼らは彼女が大きくなってからまた新しく名前をつけようと思っていたが、彼らの家に新しく二人の子供が生まれたので、また別の里親に彼女を養子として出してしまった。しかし、
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第713話

浩之は喜びを抑えきれず、感動し、すぐに綾芽を抱きしめた。綾芽が言った。「おめでとう、やっと家族と再会できるのね」「これで母さんの願いを叶えられるよ。そうしたら天国でゆっくり休めるはずだ」浩之は軽くため息をついた。彼が八歳の頃、両親の離婚騒動があり、母親とはかなり長い間離れてしまった。そして後のほうでは父親の傍には多くの女性の影があった。そんな中母親が一度酔って家に帰ってきて父親と大喧嘩していた。浩之は玄関で両親の喧嘩を聞いていた。そして直に、母親は多くの男と寝て、そのうちの一人の子供を産んだと言ったのだ。その瞬間、父親は激怒し、母親をひどく殴りつけた。その時から、両親は完全に別居することになった。しかし、母親は結局父親と離婚することはなかった。しかし、この世を去るまで父親のことを許したことはない。浩之は当時まだ小さく、母親の行いが父親を怒らせたのだと思っていた。そして母親が亡くなってから、彼に残した手紙を見た。それで、母親は本気で父親に復讐するために、あのような真似をしたのだと知った。彼女は一体誰の子供を身ごもったのか分からず、罪のない子供を中絶するのが忍びなく、自分一人でこっそりと出産したという。その子を出産した後、母親は今度は自分の行いに向き合うことができず、衝動的に、その子を南関市のある児童養護施設に預けたのだ。死ぬまでずっと、彼女はその過去を口に出すことはできなかった。しかし、母親として、彼女はその子に対してずっと罪悪感を抱いていたようだ。それでこのような手紙を残した。いつか、浩之にその子を探し出してほしいという願いがあったのだ。「あなたのお母様も本当にすごい人ね。自分の子供も捨てることができるなんて。あなたの妹さんはきっと小さい頃から長年苦労してきたでしょうね」綾芽はとても優しい瞳で浩之を見つめ、涙が光っていた。まるで彼の気持ちに深く共感しているかのようだった。綾芽がここまで優しく人の気持ちを理解してくれることに、浩之もかなり安堵した。以前の彼は、綾芽が十年もクズ男に騙され続けていて、可哀想だと思ってはいたが、彼女自身にも問題があったのだと思っていた。彼女があそこまで私利私欲に駆られ、他人を傷つけることなど全く構わないような性格でなければ、自分の人生をここまで地に落とす
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第714話

綾芽は話しながら、少し拗ねたように浩之の傍から立ち上がった。彼女はそっぽを向いて、どんどん話しながら真面目な顔になっていった。浩之は心に温かいものが広がっていくのを感じた。ただ彼女が言った「好きな人」という言葉が耳に残った。綾芽の今の様子は嘘には見えない。ここ暫く一緒にいて、彼女は確かに彼の言葉を聞き、とても優しくなっている。しかし、どれほど意図的に彼に気に入られようと振舞ってこられるよりも、彼女が今この瞬間に心から「嫉妬」しているという感情ほど、彼の心を深く揺さぶるものはなかった。「そんなことにはならないよ」浩之はまた後ろから綾芽を抱きしめた。彼は優しい声で笑った。「もし、俺の妹が君のことを嫌ったら、俺がどうにかして君のことを好きにさせてみせる」「もし、あなたが私たちの仲を取り持とうと努力しても無理だったら?私たちのうちどちらか選ばないといけなくなったらどうするの?」「俺は妹を選ぶよ」綾芽は動揺した。彼女は浩之が自分を喜ばせる甘い言葉を吐くと思っていたのに、まさか本心をもらしてしまうとは思わなかった。彼女は振り返って信じられない様子で浩之を見つめた。浩之は綾芽の表情を見て、たまらず笑い声をもらした。「バカだな。君たち二人の間で何かトラブルがあったら、妹のほうを優先するだろうけど、俺は君のものだよ。何があっても一生一緒にいる」浩之の言葉は、間違いなく本心だった。しかし、これも心を揺さぶる甘い言葉だと思っていた。甘い言葉は相手を騙すためのものではなく、本気で愛する人に対して責任を負うことだと。もし、彼の大事な妹と、愛する人が対立してしまうようなことがあれば、彼はその仲を取り持つしかない。妹が欲しいものは全て与える。しかし、彼の心の中は愛する人と共にいる。浩之は根っからロマンチストだ。忠義を尽くすのは難しいもので、彼は自分を犠牲にする方を選ぶ。一番正しい選択を選び、情理上で家族を精一杯守り、そして理解されなくても、いつになっても愛する人と共にする。一方、綾芽のほうは彼の思うようなロマンチックさは必要なかった。彼の言葉を聞いて彼女はただ失望していた。それでも浩之が満足している様子を見て、暫くしてから綾芽は彼に合わせるように微笑んだ。彼の方へ振り返って頬にキスをした。「そうね
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第715話

綾芽は浩之をぼうっと見つめていた。気づいた時には、浩之はすでに彼女をベッドの端に座らせていた。浩之はまた彼女の額にキスをして、微笑んだ。それから何かを思い出したかのようにポケットから数枚のチケットを取り出した。「今話題の遊園地がプレオープンするんだ。颯太君のためにどうにか手に入れたんだよ。休みの日にいつでも彼とおじいちゃん、おばあちゃんを連れて一緒に遊びに行ってきなよ」すると浩之はそのチケットをベッドサイドテーブルの上に置いた。暖かいライトの光が彼の腕に落ち、綾芽の視線が一瞬止まった。彼女はとても驚いていた。浩之が自分に真剣に付き合いたいと思っていて、将来二人が結婚することになったら、颯太を我が子と同じように接すると言っていたが、綾芽はそれを信じていなかった。綾芽はできるだけ早く浩之との関係を進展させるために、長い間息子に会いに行っていない。そして浩之のほうから積極的に息子の話題を出してきたことに、綾芽は心が締め付けられ、涙をこぼしそうになった。彼女も息子と一緒にいたいと願っているし、颯太が恋しくてたまらなかった。しかし、彼女は恐れていた。今、彼女は絶対に浩之という救世主を離さないようにぎゅっと掴み、仕事のチャンスを得なければならない。力を手に入れれば、将来一花が親子二人に何かしようとしても簡単にできないはずだ。浩之のほうは、綾芽が京原市に戻って来てから、息子とほとんど会っていないことを知っているようだ。以前の彼女であれば、仕事が終わればすぐに息子のもとに駆けつけ、仕事の最中にも息子からの電話に出ていた。しかし今、浩之が颯太を彼らの元に呼び寄せるつもりがあっても、綾芽のほうが頑なに拒むのだ。綾芽は颯太がいると騒がしくてうるさいから浩之の邪魔になるのではないか心配し、祖父母が傍においておきたがっていると言った。それに浩之も特に何も言わなかった。そして今、また積極的に颯太のために彼が欲しがっている遊園地のチケットを手に入れてきたのだ。このチケットはなかなか手に入らない。今遊園地はプレオープンの段階で、一万人に満たない数の者だけが優先的に正式にオープンする前に遊べるのだ。いくら金持ちの家庭でも必ずそのチケットを手に入れる必要がある。浩之も颯太のことをとても気にかけてくれているということだ。
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第716話

綾芽は不機嫌そうな顔になり、結局我慢できずに尋ねた。浩之はそんな綾芽を無視することはできないと分かったが、ただ正直に答えるしかなかった。「君は今南関市に行くべきじゃないと思う。数年は行かないほうがいい」浩之の言葉が重たく綾芽の心にのしかかった。「私を連れていると恥をかくからね……」「そうじゃない」浩之はどうしようもなくなり、ただベッドの端に腰かけて彼女に説明するしかなかった。綾芽は西園寺一花と、西園寺グループそして伊集院家を怒らせた。ギャロップがこのまま彼女を残しておくにしても、南関市に戻すわけにはいかないのだ。浩之は綾芽が傷つくのを恐れている。もちろん、彼も綾芽と一花の因縁がまだ残っているから、綾芽が何かしようとしているのではないかと心配もあった。「じゃ、私を連れていってよ。絶対にギャロップが西園寺グループと伊集院グループに勝てるように、私は尽力するから!」綾芽は彼に懇願するような目つきで涙を浮かべていた。浩之はさらにどうしようもなくなり、彼女の頬をつねった。「君がそういう考えを持っていると分かっているからこそ、もう二度と南関には戻ってほしくないんだよ。君は以前、西園寺一花さんとの因縁があるけど、彼女との過去の因縁に関して、君の方が全面的に悪いからね。だから過去のことはスッパリ忘れたほうがいい」浩之の言葉が綾芽をモヤっとさせたが、彼女は彼にキスをして、口を塞いだ。綾芽は目を瞑ると、涙がポタポタと流れだした。それが浩之の手の甲に落ちた。浩之は眉をひそめた。「綾芽……」「私が南関に行きたいのは、自分の恨みを晴らすためだと思ってる?私はそんなバカじゃないわ。今はただ、新しい人生をスタートさせたいだけ。私がやる事すべて、あなたとギャロップのためなのよ」綾芽はそう言い終わると、彼の懐から離れた。「分かった、連れて行ってくれないならそれでもいい。だけど、私がそんな考えを持ってるだなんて勘違いしないで、私はただあなたと困難をともにしたいと思ってるだけだから」綾芽自ら南関に行くのはすんなりと諦めたのを見て、浩之はまた心を動かされた。「ごめんな……俺は」「謝らないで、だって私が間違ったことをしたのよ。あなたの言うことは正しいわ。あなたが私のことをそんなふうに思うのも当然よ。さあ、早め
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第717話

誠は不器用な外国語で老人の身分と、自分の仲間がどこにいるのかを詰問し始めた。その老人は突然のことにかなり驚き、恐怖の目で誠を見ていた。そして長い間説明してやっと自分が誠を助けたのだと分かってもらった。誠はぎこちない外国語で交流し、老人は最後両手をあげて、誠とともに小屋に戻った。老人は外で干していた乾いた服を取り、誠に返してから昨夜の出来事について話した。昨夜、誠はすでに力を失ってしまった柊馬を担いで長い間歩き、疲労と眠気に襲われて、倒れてしまったようだ。老人はこの密林管理を任されている人物で、巡回していた時に、誠に気づいたそうだ。しかし、誠の傍に近寄ってみると、他には誰もいなかったと言った。しかし、老人の話によると、彼が去る時に、他にも車を見かけたらしいのだ。このような密林に一般車が来ることは滅多にないため、老人も困惑した。老人は誠が何も持っていないし、朝彼は他にも仕事があったため、まずは先に誠を仕事場の付近まで運び、休ませることにした。その話に、誠は衝撃を受けた。まさか、亮の手下に柊馬は捕まったのだろうか?それならどうして自分は捕まらなかった?亮の性格を考えれば、たとえ誠を許すつもりでも、そんなに優しく対処することはありえない。これほど多くの秘密を知り、組織を裏切ったのだから。誠はまだその理由を理解できなかったが、いま一番重要なのは、まずこの劣悪な場所を離れ、情報を仲間に伝えることだと思った。誠はそう思い立ち、すぐにその場を離れようとしたが、一歩足を踏み出すとふらつき、そのまま倒れてしまった。……三日後、一花は突然夢から目を覚ました。一花の声にヘルパーや使用人がとても驚いた。するとすぐに誰かがドアを開けて一花の様子を確認しに来た。「西園寺さん、どうなさいましたか?どこか具合でも悪いですか?」「……」一花は目の前にいるその相手を見つめた。彼女の頬には涙の跡があり、暫く経っても声を出すことができなかった。さっき夢で、柊馬が全身血だらけになり、傷を負った体で深い森の中をふらふらと歩いていた……彼女は彼を追いかけようとしたが、どうしても距離が縮まらなかった。「奥様……」使用人がまた小声で一花に呼びかけた。そのときやっと彼女は我に返った。「……大丈夫よ」こ
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第718話

修治の言葉を聞き、一花は一瞬で全身から血の気が引くのを感じた。修治がこのように言うということは……つまりもう可能性はないということか?一花は口を開いたが、喉の奥が苦しくなり、一言も声を発することができなくなった。そして涙がツーッと頬を伝ってこぼれた。そんな彼女の様子を見たくないのか、徹は下を向いた。美穂はすぐに一花の手をとり繋いでソファに座らせた。不安定な一花が倒れてしまうのではないかと心配したのだ。「……」この世の終わりかと言わんばかりの重苦しい空気がその場を押しつぶしてしまいそうだった。美穂は眉をひそめて、目を赤くさせ修治のほうを見た。修治はさっき一花に心の準備をさせようと思ったのと、慰めるつもりでいたが、急にそんな言葉を言われると、誰でも衝撃を受けるだろう。一花は暫くして少しだけ落ち着きを取り戻し、再び徹へ視線を向けた。「二塚社長、その……私の夫はもう……」「それは……」徹は声を一瞬詰まらせすぐに答えた。「遺体はほとんどが真っ黒に焼け焦げていました。残された組織でも誰なのか特定することは難しかったんです。付近もすでに全て捜索しましたが……ただこれだけが」徹は手を差し出し、少しだけ震わせ、プラスチックの袋に入った物を一花のほうへ押しやった。それは彼が今日、警察から物証として渡されたものだった。ダイヤのペアリングだ。それは一花と柊馬が婚約した時のエンゲージリングだ。その場の全員、それに目を落とした。袋の中には歪んだ二つの指輪が入っていた。熱で合金部分が変色し、明らかに燃えた跡がある。そのうち一つは一度溶けてまた歪んで固まったようだ。そして、変色と変形の中にも、二つのダイヤだけは以前として変わらず、そこにあった。そのうち一つのダイヤは表面に細かい蜘蛛の巣のような傷があり、輝きを失っていた。そのせいで鈍い輝きを見せ、痛々しい様子だった。そしてもう一つは比較的完全だったが、煤がこびりついていて、輝きはなかった。それを見た瞬間一花は呼吸すら忘れてしまった。彼女は袋を手に取ると、じっとそれだけを見つめた。美穂は口元を押さえ、とめどなく涙を流し続けた。修治も見ていられないらしく、目を閉じた。「これは……散乱していた物の中から見つかったそうです。爆発の中心部からは少し距離
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第719話

徹は眉をひそめ、一花の様子を見たが、同じく窒息しそうなくらいに胸が苦しくなった。彼は何か声をかけようと口を開いたが、いくら経っても彼女を慰められる言葉が出てこなかった。美穂がすぐに一花を抱きしめた。「一花さん、そんなに思い詰めないでね。柊馬は確かに……あなたと最後までいることはできなかったけど、あなたと一緒にいられてとても幸せそうにしていたわ。私には分かるのよ……あの子が一花さんと子供を守ることができて絶対に後悔していないって」「……」修治は人を慰めるのが下手で、何も言わなかった。それに、彼は美穂以外の女性が泣くのを見ても何も思わなったが、今回は初めて一花の泣いた様子を見て心の痛みを感じた。彼は立ち上がり、徹に目配せをしてから先にその場を離れた。美穂は暫く一花を慰めていたが、一花は一向に何も話そうとしなかった。彼女は美穂に腕の中で、ただ静かに目を閉じて涙を流し続けていた。ここまで悲痛な思いをしているのに、頭の中ではしっかりしないといけないと自分が自分に語りかけていた。暫くして落ち着いてから、一花はやっと美穂の腕から離れた。「二塚社長、柊馬は私たちの約束を破ったりしません。もし、はっきりと遺体が確認できない限り、彼がまだ生きている可能性は捨てきれません。もっと捜索範囲を広げることはできませんか?あの山一帯、それかそれよりももっと広範囲に」一花は突然誠のことを思い出した。遺体が六体あるということは、一花が去ってから別の人間が現場にあらわれたということになる。亮の手先が来て、柊馬が逃げられなかったとしても、あの鳥宮誠もただ黙って死を待つような男ではないはずだ。その誠の行方もまだ分かっていない。つまり、柊馬が生きている可能性だってあるわけだ。徹は頷き、すぐに承諾した。「分かりました」今、一花からどんなお願いをされても、彼は全て聞くつもりだった。結局は、もう少し人脈を活かして、費用をかけて調査を進めることに限る。もしそれでも効果がないなら、他人を雇って引き続き捜索すればよいのだ。一花の気持ちが少しでも楽になるのなら、数カ月でも一年でも探し続けよう。徹が帰ると、一花は急に気持ちが悪くなった。彼女は妊娠一カ月だ。しかし、つわりがひどく、今は情緒不安定でもあるから、そのせいで余計に吐き気が増して
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第720話

「修治……今、一花さんには休息が必要だし、あなたは外に出ていて」美穂は小声でそう言った。一花は二人に背を向けて体を丸めていた。彼女はまだ寝ていなかったが、修治にも返事をしなかった。「柊馬は個人名義の財産を全部君に移していた。伊集院グループですらも、一花さんに託すと。もし以前だったら、柊馬がこんな決定をしたと知ると、頭がおかしくなったのかと疑うところだったが、今は……あいつの考えも理解できる。あいつは一花さんを愛し信頼していた。そして、君が柊馬が君を愛するように、全力で彼のために尽くした。だから、二人は互いに相手から託された責任を負ってほしい。そうすることで心に刻まれている愛が無駄にはならないだろう」修治は美穂の言葉も聞こえず、一花の様子も見えていないように振舞っていた。彼は傍に立ち、穏やかな声で引き続きみかんの皮を剥いていた。「修治……」美穂はまた彼を止めようとした。修治はみかんの皮を剥き終わると、そこにおいて一花の悲しげな背中を見つめた。「伊集院グループは最近困難な状況だ。競合企業が来年の公式ライセンスの取得をめぐって私たちと争ってきている。これは伊集院グループの最も核となる事業なんだ。彼らは勢いよく攻勢を展開して、長年にわたって準備も行っている。もし俺たちがヘマをすれば……伊集院グループが長年にわたって注いできた心血はすべて水の泡となり、業界内でようやく築いた地位も守れなくなる。企業の衰退は、ほんの一瞬のことで起こるものなんだ」「修治!」美穂は修治が何を言おうとしているのか分かると、すぐに怒りを露わにした。彼女は、まさにこの重要な時期に、彼がまだ会社や利益のほうばかり気にするとは思ってもみなかった。しかし、美穂の気持ちなどお構いなしに、彼はさらに声を重くして続けた。「一花さんが最初にこの情報を誰にも漏らさないようにしていたのは、伊集院グループ全体が混乱しないように、みんなの安心のためだったことを俺は理解しているよ。君は柊馬の責任を守り、伊集院グループを守りたいと思ったんだろう。なぜなら、あれはあいつの心血が注がれた結晶であり、また彼が君に与えたすべてのものだから。柊馬がいなくなっても、君とお腹の子供は生きていかなければならない。君が深い悲しみに溺れてしまい、最も重要な時期を見過ごして後悔しな
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