All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 831 - Chapter 840

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第831話

しかし、このような付き合いで、和香は初めて、憧れができたという感覚を味わった。匠は他人に厳しいだけでなく、自分自身に対しても何事においても完璧を求めた。彼女は、匠と結婚するためには、十分に優秀でなければならないことを知っていた。しかし、彼女は冷静でもあった。これは政略結婚であり、余計なものを求めてはいけないと。ところが、まさに和香が二人はただの協力関係だと思っていた時、匠は命を投げ出しても構わず、彼女を救い出した。彼女を救うために、彼は子供を授かることができなくなった。その瞬間、和香が匠と結婚したのは、愛のためだ。西園寺グループのためでも、将来のためでもない。彼女はよくわかっていた。自分が匠に抱く感情は、とっくに名誉と利益への渇望を超えていると。結婚後、匠は彼女にさらに良くした。和香は初めて人への警戒心を解き、私心もなく西園寺家と西園寺グループのために力を尽くした。しかし、その結果として得たのは、匠の裏切りだった……「和香」和香が物思いに耽っていると、久しく会っていなかった人の声が確かに耳に届いた。彼女ははっと振り返ると、亮が目の前に立っていた。彼はすっかり年を取っていた。一瞬、彼女にも見分けがつかないほどだった。しかし、見覚えのある面影は、その鋭さを失っていなかった。「……」和香は口元を緩め、黙ったまま相手を見つめた。以前の事を二人でゆっくり話す暇もなく、亮は彼女を連れてVIPルートから搭乗しようとした。南関市を離れさえすれば、どこへ行ってもいい、彼らは完全に自由になるはずだった。しかし、二人がタラップに足をかけたその時、背後からパトカーのサイレンの音が耳に飛び込んできた。和香は一瞬鼓動が止まったかと思ったが、恐怖よりも先に疲労感が襲ってきた。彼女は顔を上げ、果てしなく広がる青空を見つめた。亮は和香の前に立ちはだかり、一体何が起こったのか全く見当がつかなかった。「ごめんなさい、兄さん。あなたを巻き込んでしまって」しかし、和香はとっくに予想していたかのように、淡々とした声で言った。彼女は賭けに負けた。南関市に戻ったその瞬間から、覚悟はできていた。執念を手放せば、もしかすると新たに始められるかもしれない。しかし、匠への憎しみだけは、一生忘れることはできないだ
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第832話

和香はしばらく一花を見つめ、相手に裏があると分かっていながらも、素早く封筒を開けた。はっきりとした、強い筆致。相変わらず見事な字だった。和香は思わず心を動かされた。匠の筆跡は彼女はよく見ているから、この手紙は、確かに彼の書いたものと分かった。――拝啓親愛なる和香へ君がこの手紙を目にする頃、私はもうこの世にいないだろう。私のことを忘れてもいい。元気でいてほしい。書く前は様々な思いが溢れていたが、いざ何か書こうとすると、何から書き始めればいいのか分らなかったよ。君と共に歩んできたこの道のり、あまりにも多くの事を話したいが、どう語ればいいのか分からず、結局伝えなかった。今、私の病気が深刻になり、残った時間が少ないことを知っており、ようやく決心した。君にずっと考えていたことをはっきりと言おうと思ったんだ。君と初めて出会った時から、私は分かっていた。君は良い恋人にも、良い妻にもならないだろうと。それで、君との政略結婚は、純粋な利益交換に過ぎなかった。当時、私は君の協力をどうしても必要としていた。私一人ではできないことを、君の人脈と白川家の支援を借りて、父の支配から完全に逃れ、西園寺グループに対する私の理想を実現するためだった。君もそのことはよく分かっていたはず。だから、西園寺グループの力をもらえると、力を尽くしてくれたのだろう。だからこそ、私たちが付き合っている時、私は君に対して厳しく接し、君を私の理想の姿に作り上げようとした。妻としてだけでなく、有能な助手としても。私は惜しみなく西園寺グループの成果を君と共有した。後には、君がますます私に依存するようになり、私も君に対してますます強い責任感を持つようになった。しかし、私がいつ、本当に君のことを愛するようになったのか、自分でも分からない。共に西園寺グループの責任を負い、手を携えて戦った日々。君が私を喜ばせようとして、ますます優秀になっていくその様子。あるいは、君が誘拐された時、君の過去を知った時。その全部に、可能性があったのかもしれない。とにかく、君と共に過ごした日々の中で、君への感情は徐々に深まっていった。私は自分の感情を表現するのが得意ではなく、夫としても全く十分ではないことを自覚している。しかし、君は結婚した後、いつも私はとても優しく、穏
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第833話

そう思うと、私は君を恨まずにはいられなかったし、責めずにはいられなかった。だが、結局のところ、これは私自身の選択であり、誰のせいでもない。それに、私にも君に話していない秘密が一つある。実は、君と出会う前、私はある女性と一夜限りの関係を持ったことがある。ある接待の場で出会った女性だ。彼女は美しく優しく、自ら私を誘ってきた。私も若く血気盛んで、酒に酔ってしまい、その勢いに乗ってしまった。ただ、翌朝には彼女が姿を消し、私は彼女の身分も名前も知らず、それ以来、二度と連絡を取ることはなかった。本来なら結婚前に君に打ち明けるべきだったが、私は君が離れていくのを恐れ、このことを隠してしまった。数ヶ月前、病院に保管していた私のDNAのデータが、ある女性と一致したと言う知らせを受け取った。私は興奮のあまり、君に内緒でこっそりと彼女に会いに行った。彼女は母親と同じく、とても美しく、能力も高く、良い子のように見えた。ただ、彼女がどんなに優秀でも、君が彼女を好きになることはないと分かっていた。しかし、私がこの人生で最も申し訳なく思い、許しを乞いたいと思っているのは、ただ一人だ。それは私の娘だけ。彼女は生まれてすぐに施設に預けられた。母親はなぜか彼女を引き取らず、私はただの一夜を共にしただけだとしか思わず、彼女たちを探そうともしなかった。その結果、彼女は幼い頃からずっと苦労してきたようだ。だから、私は一つの決断を下した。西園寺グループと私の名義の全財産を、彼女に残そうと。君は十分の資産を持っている。西園寺グループという束縛がなくなれば、君は自分の幸せを探しに行くことができるだろう。幼い頃から、君は自分に枷をはめてきて、人生の半分を名誉と利益に縛られて……君がそんな生活に慣れていることは分かっているが、君が幸せではないことも、私にはよく分かっている。勝つために、最後の目標のために、君は自分が誰であるかも忘れかけているんだ。私が死んだ後、君は私を恨むだろうことも分かっているよ。しかし、私はそれを甘んじて受けるつもりだ。なぜなら、少なくともそうすれば、君の心に忘れられない男は、あの男ではなく、私になるからだ。言っただろう、私は負けたくないと。この人生、私はビジネスで負けたことはない。感情に関しても、負けたくないんだ
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第834話

匠は妻を喜ばせたいから、この宝石をそれほどまでに重視したのだ。一花は事の経緯を知ると、すぐに弁護士に連絡した。彼女は覚えていた。匠の遺産の中で、ただ一つだけオークションに預けられていた、六十億ほど高い価格のあるクリスタルハートという宝石があり、それは一花に代理で保管するよう指示されていたものだ。案の定、一花が金庫を開けると、中には匠が和香に宛てたこの手紙が挟まれていた。クリスタルハートは元々和香に贈るものだった。それに加えて、その金庫の中には、西園寺グループが未登録の二つの特許が納められていた。それは和香と匠が一緒に開発したバイオテクノロジーの特許だった。これらはすべて、匠が和香に残したものだった。この一つの宝石と二つの特許だけで、和香は一生不自由なく暮らしていけるだろう。一花はこれらを見た時、突然匠の考えが理解できた。彼が和香に抱いていた感情は、誰もが思っていたよりもはるかに深かったのだ。匠と和香の理念は異なっていた。和香が西園寺グループを継いでも、彼女が思うようには順風満帆にはいかないだろう。むしろ、これから残った人生を西園寺グループと西園寺家のために全力を尽くすことになる可能性が高い。匠は男として、自分の女が一人で戦うのを見たくなかった。しかし、これらの特許を持っていれば、和香は事業を続けるにせよ、他のどんな生活を望むにせよ、自由に選択することができる。匠は一花と和香の性格も、ある程度理解していた。だからこそ、西園寺グループを一花に託したのだ。彼は一花には全く自分の勢力がなく、突然戻ってきた私生児に過ぎないと分かっている。すべてを一花の手に委ねなければ、西園寺グループや南関市のビジネス勢力の中で彼女が虐げられないように守ることはできない。微かに擦れる音が耳に入った。一花がゆっくりと顔を上げると、皺くちゃになった手紙が机に落ちていた。和香は両手を強く握りしめ、固く目を閉じていた。突然、涙がスッと、彼女の頬を伝っていた。彼女の呼吸は浅くなり、全身が微かに震えていた。一花はようやく口を開き、匠が彼女に残した本当の遺産を告げた。その声は軽くゆっくりとしており、まるで少しずつ彼女の心をズタズタにしているかのようだった。和香が必死に抑えていた感情は、もはや制御できなくなった。「
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第835話

和香は力が一瞬で抜けたように、ぐったりと崩れ落ちた。誰かに支えられながらも、そのまま地面に跪いた。涙が止まることなく、どんどん溢れ出ている。彼女はとても憎んでいた。しかし、その憎しみは、今はすっかり行き場をなくしていた。匠を憎むべきなのか?それとも一花を憎むべきか?あるいは、これほど努力してきたのに、結局悲惨になった自分自身を憎むのか?掴みたいと願ったすべてのものは、たとえかつては確かに握りしめていたとしても、結局はすべて失ってしまった。「父があなたに残したものは、このままあなたに残すわ。でも、それを手にする機会があるかどうかは、あなた次第ね」一花は淡々と言い終えると、振り返りもせずに去っていった。和香は我に返り、地面に落ちた手紙の破片を見て、はっとしたように地面に這いつくばり、慌ててそれらを拾い集めた。……あの紙屑こそが、匠が彼女に残した最後のものだった。そして、それは彼女のこの人生で……最後の慰めでもあるだろう。「一花さん!」一花は弁護士と共に警察署のロビーに出ると、自分を待っていた夏海のことが見えた。夏海は早朝から警察署に通報しに来て、ずっと待っていた。空が白み始めた頃、パトカーが人を連行するのを見て、一花がこの数日間無事だったことを知り、泣きそうになるほど喜んだ。一花はすべてを計画する時、湊にだけ伝え、他の誰にも一切説明していなかった。彼女は夏海を信頼していなかったわけではない。しかし、この件はあまりに多くの人間が知ると、かえって計画の進行に不利になる。もし彼女が行方不明になって、身近な人間が皆冷静だったら、明らかに怪しまれるではないか?湊と誠がいるので、一花は夏海のことを心配していなかった。それに、陸斗が夏海と会社で対立しているように見せかける必要もあった。そうすることで、和香側の人間が陸斗に対して警戒を緩めるからだ。「夏海さん」一花は彼女の憔悴した顔を見て、この数日間、自分のことで苦労したのだとわかり、心を痛めて彼女の頬を撫でた。「ごめんね、心配かけて」夏海は首を横に振った。「大丈夫ですよ。これくらい何でもありません。あなたが無事だとわかって、私は本当に嬉しい!」一花は夏海の手を取ると、すぐにまた彼女の状況を確認した。「陸斗さんと昨晩、誰かに狙
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第836話

その後、夏海は先に警察署へ行き、事情聴取に協力した。昨夜のことを話すうちに、夏海の涙がぽろぽろとこぼれ落ち、声も震えていた。「もういい、もう大丈夫だから」一花は心を痛めて彼女を抱きしめ、必死にその気持ちを落ち着かせた。彼女は、和香が陸斗にそこまで非情な手を使うとは、まったく思っていなかった。一花と陸斗は、和香が彼にさせたのは、単に彼を捨て駒にして罪を着せるためだと思っていた。幸い、危ないところだったが、何とか皆無事で済んだ。夏海と一花が話していると、湊も駆けつけてきた。一花を見た時、彼は自分の感情を抑えきれなかった。「奥様!」「来栖さん」一花は微かに微笑んだ。そして、湊の顔は一瞬強張り、その視線はまるで何かを探しているようだった。一花が入り口の車の中に目をやると、湊もすぐに察した。その時、警察署の外に停まっている黒いセダンの後部座席には、柊馬がいた。「社長」柊馬を見て、湊は危うく涙が零れ落ちそうだった。彼は慌てて顔を背け、みっともない姿を見せまいとした。何しろ、社長の秘書になった初日から、柊馬は彼に外では体面を保つようにと厳しく言い聞かせていたのだ。「来栖、ご苦労だったな」柊馬は低い声で言い、そっと手を上げて湊の肩を叩いた。湊は腰をかがめ、相変わらず悲しそうな様子だった。この数日間、彼は決して感情を表に出さないようにしてきた。一花に影響を与えることを恐れていたからだ。しかし、今はもう我慢できなかった。感情を抑えようとすればするほど、抑えきれず、すぐ手をあげて涙を拭った。「馬鹿者、何を泣いてるんだ。俺は無事だっただろ?」「すみません、社長……私、ただ……あまりにもお会いしたくて……あなたが、これほどの苦しみを……」「……」湊の自分に対してこれほど心配しているのを見て、柊馬は非常に感動した。ちょうど優紀が車を降りてタバコを吸おうとすると、柊馬は彼の方に手を伸ばした。優紀は当然のように彼にタバコを一本差し出したが、柊馬は眉をひそめた。「ティッシュが欲しいんだ」優紀は探してみたが、持っていなかった。そばにいるアシスタントに聞こうとしたところ、夏海が素早く前に出た。ティッシュを柊馬に差し出した。「伊集院社長、お帰りなさい」夏海は思わず微笑んだ。一花が本当
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第837話

しかし、それはあくまでネット民の意向だけで、結局のところプロジェクト側を動かすことはできなかった。ギャロップ側は全く気にしていなかった。浩之は相変わらず、会社の専門性がどれほど圧倒的かという路線で宣伝を行い、利益と国目標を強調した。この一手は、南関市でこの産業プロジェクト分野に関心を持つ多くの人々の支持を勝ち取り、その内容が充実していて、確かに伊集院グループよりもいくらか上回っていた。しかし、総合的に見れば、伊集院グループであれギャロップであれ、どちらがプロジェクトを請け負っても問題はないだろう。ただ、このプロジェクトは二社ともに任せることはできない。さもなければプロジェクト側も両者の提携によるウィンウィンを望んだだろう。結局、最終入札のプレゼンテーションでは、プロジェクト側は公平のため、またこの機会にプロジェクトの影響力をさらに拡大するため、直接、生放送を行うことにした。浩之はギャロップの代表として、多くのことを経験したベテランでもあり、最後のプレゼンテーションは完璧にこなした。プロジェクト側はもちろん、伊集院グループでさえ、反論の糸口を見つけられなかった。しかし、やはり中には、ギャロップの過去のスキャンダルを利用して、質問する者もいた。だが、浩之はとっくに準備をしており、質問に巧妙に答えただけでなく、ついでに伊集院グループの非難を込めた質問にも応じた。彼は、技術的な革新には必ず過ちが伴うものであり、ミスを恐れていては進歩はないと主張した。さらに歴史を鑑みに、強者が超えるべき相手は自分自身だけだと述べた。その自信満々の発言は、盛大な拍手をもらえた。もともと緊張していた陽菜は、ますます自信を失った。陽菜が出る前、如月家の人々と美穂は彼女に恐れずにやるようにと励ました。たとえ入札に失敗しても、彼らは最善を尽くしたのだ。柊馬と一花が今、行方不明である以上、彼らには他のことを考える余裕など全くなかった。たとえ伊集院グループが入札に勝ったとしても、どうなるというのか?どんなに重要なプロジェクトでも、彼らの子供より価値があるはずがない。修治もこの時悟った。彼は一生、強情であり、柊馬に対する要求も非常に厳しく残酷だった。柊馬が既に伊集院グループをうまく管理しているというのに、彼は決して満足しなか
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第838話

この時、柊馬の淡々とした冷たい声が、会場全体に響き渡った。浩之だけでなく、その場にいた全員が一瞬静まり返り、その後、一気に盛り上がった。伊集院柊馬だ!まさに、ネット上ですでにこの世にいないと噂されていた伊集院グループの社長……伊集院柊馬ではないか!柊馬を見て、陽菜は体中の力が抜けたように感じた。彼女は目が突然輝き、両手で講壇の端をしっかりと掴んだ。柊馬と一花……二人とも無事だった!「……」美穂と修治は、入口からゆっくりと歩み寄る二つの影を見て、一瞬、何も言葉が出なかった。美穂は全身の感覚が痺れ、ポカンとしてから、涙が止まらなくなった。修治でさえ、目を赤くし、口元をわずかに開き、表情も歪んだ。「どうして……」周囲のざわめきはますます大きくなり、会場では同時生中継が行われており、ネット上も大騒ぎになり、コメントが飛び交った。全員は、柊馬と一花の突然の出現に、驚き、衝撃を受けた。これは現実のビジネスの競争なのに、どうしてテレビドラマよりも衝撃的なのか?以前、ネット上で伊集院グループの社長はもういないと噂されていたが、やはりそれはただの噂だったのか?伊集院グループがただこの「逆転劇」を上演するために、自ら会社の内部をここまで混乱させるはずがないだろう。この行動は注目を集める以外、入札に何の利益ももたらさず、むしろギャロップを好き勝手にさせただけだ。つまり……すべてはギャロップの陰謀なのか?伊集院グループの社長が姿を現せない隙に、噂を流し、伊集院グループから公衆の信頼を奪うつもりなのか。そう考えると、もしかすると一花の失踪もギャロップと関係があるのではないか?これは、面白い展開になりそうだ!元々は単なる入札だが、わずか数分で大きな注目を集めた。プロジェクト側もこんな状況は初めてで、少し慌てて、すぐにスタッフに会場を落ち着かせるよう指示した。浩之はしばらくしてようやく我に返り、黙って拳を握りしめた。「伊集院社長、西園寺社長。お二人ともこの間、ずっと姿を見せませんでしたので、もっと重要な用事でお忙しいのかと思っておりました。お二人がお越しになるなら、なぜもっと早く来られなかったのですか? 今、如月さんが既に伊集院グループを代表して発言されました。伊集院グループは臨時に代表を変更され
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第839話

事の流れがおかしくなっていくの見て、審査員が柊馬に注意を促した。二人にまずは席に着くよう合図した。陽菜のほうは焦って、直接浩之に言い返した。「どうして変更できないって言うんですか?ルールに、緊急事態には代表を変更してはいけないとは書いていませんわ。私も今日はあくまで臨時に伊集院グループを代表してステージに上がっただけです。伊集院社長と西園寺社長ご夫妻が来た以上、当然、引き続き発言する権利があります」「緊急事態ですね?では、伊集院グループは具体的な事情を審査会に報告したのですか?」浩之は再び口を開いた。しかし、今度は柊馬も口を開いた。「代表は、変えなくていいです。皆様もご覧の通り、我々のプロジェクトの計画や誠意、もうありのまま示されています。仮に発言する代表を変えたところで、これ以上補足することはありません」一花は柊馬の落ち着いた声を聞き、そっと口元を綻ばせた。彼はやはり昔と変わらず、堂々として、自信満々のオーラを放っていた。皆、柊馬と一花が何をしようとしているのか分からず、会場は再び静まり返った。浩之も少し迷いを見せた。その時、会場の扉が再び開かれ、湊が一人の男を連れて入ってきた。その傍には制服を着た二人の警官が付き添い、一花と柊馬のそばに歩み寄った。「社長、連れて参りました」「皆様、二分ほどお時間を頂戴します。この場をお借りして、弊社は皆様に一つ、事実をはっきりと説明させていただきます」浩之は何かおかしいと薄々感じ、立ち上がって止めようとしたが、一花の言葉に阻まれた。一花は審査会のスタッフに向かって言った。「近頃、ネット上には伊集院グループを標的にした多くの偽の情報が出回っております。プロジェクトに責任を持ち、南関市の全ての投資家、及び我々に関心を寄せるネットユーザーたちに責任を持つため、我々にはその疑いを晴らす義務があります。それに、これらの事柄は伊集院グループに関係するだけでなく、ギャロップにも関係しています。入札結果に公平競争を期待するため、皆様も真実を知りたいとお思いでしょう」一花のこの言葉に、会場全体に異論はなかった。ましてや今は生中継が行われており、大勢の目の前で、正当な理由なくこれを止めることはできない。許可を得て、湊は警察と協力し、みんなの前で説明を行った。湊が
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第840話

「それでも、すべて個人的な行動だと主張しますか」「……」浩之は、相手がこんな一手を打ってくるとは思っていなかった。どれほど反応が良くても、弁解の余地はなかった。ギャロップの代表は皆、慌てふためいた。会場も大きく騒ぎ出した。「まさか、ギャロップがここまで汚い手段を使うなんて?どうやら伊集院グループはわざと話題作りをしたんじゃなくて、本当に被害者だったんだ……」「前の如月さんの件の偽の動画も、おそらくギャロップが仕組んだものでしょう?」「ビジネスの競争でここまでやるとは、あまりにも卑劣だぞ!」「……」浩之は深く息を吸い込み、無理に冷静さを取り戻そうとした。プロジェクト側も落ち着いていられなくなった。会場がこれだけ混乱している以上、ネット上は見なくてもおそらく大騒ぎになっているだろう。これで見ると、ギャロップのやり方はあまりにも酷い。プロジェクトをギャロップに任せれば、利益は出ても大衆の信頼を失い、下手をすればどんな問題を引き起こすかわからない。その責任を誰も負いたくない。この状況を見て、審査会側は入札を中断し、結果は後日改めて発表することにした。しかし、柊馬は一花の手を引き、注目の中でステージへと上がった。陽菜はすぐにマイクを柊馬の手に渡した。「皆様、この間、私が伊集院グループを離れ、入札を欠席したのは、決して故意ではなく、実際に体調を崩していたためです。その間、会社の全ての業務は、私の妻に全面的に仕切りを任せておりました。ですから、この機会をお借りして、妻に感謝を申し上げるとともに、皆様の当社へのご支援に、心より感謝申し上げます」柊馬の言葉が終わるや否や、一花がそれに続き、優しい声でさらに言った。「皆様への感謝の気持ちとして、私と夫は、伊集院グループ及び西園寺製薬を代表し、二つの約束をさせていただきます」柊馬は横を向き、一花と微笑み合った。その顔に浮かべた優しさを見ると、まるで甘いハチミツの中にいるかのようだった。陽菜は傍らでそれを見て、一瞬で我を忘れた。やはり、二人はお似合いだった。会場は一瞬静まり返り、誰もが興味深そうに二人の言葉を待った。感謝を表したいと?彼らは一体何をするつもりなのか?修治と美穂は顔を見合わせたが、柊馬と一花に対しては、今は完全に安心
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