明世の足が一瞬止まったが、振り返らず、歩を速めて充希を抱きしめた。涼介は息子を抱きかかえ、遠ざかる彼女の背中を睨みつける。「明世、お前は本当に冷酷だな」「あ、そう。足元にも及ばないわ」彼女は冷ややかに言い捨てたが、その手は充希の耳を塞ぎ、罵声を聞かせまいとしていた。ボディガードが涼介親子をエレベーターに押し込むと、閉まりかけたドアの隙間から海斗の声が裂けるように響いた。「……ママは、僕だけのママなんだ!」邪魔者を追い払い、翔が静かに尋ねる。「大丈夫か?」「ええ……」階下からは、海斗の絶叫と涼介の怒号が微かに聞こえてくる。「おばさん」充希が涙声で言う。「さっきのお兄ちゃん、怖かった」「大丈夫、しっかり充希のことを守るから」明世はベッドサイドに座り、彼女の頭を優しく撫でる。「もう寝なさい。明日には、元気な充希になれるわ」「おばさん、いなくならない?」「いなくならないわ」明世は力強く頷いた。「これから、ずっと一緒よ」もう二度と、誰にも私たちを傷つけさせない。この子の笑顔は、私が守り抜く!夜が明ける頃、充希はまだ静かな寝息を立てていた。明世は付き添い用の椅子に座り、震え続けるスマホを眺めていた。画面には、涼介からの着信が次々と表示されていた。突然、病室のドアが開き、看護師が顔色を変えて駆け込んできた。「紺野さん!お子さんが屋上で飛び降りるって騒いでます!」明世は全く動じない。「好きにさせて」「えっ?」看護師が狼狽する。「お子さんが、お母さんに会いたいって泣いて、消防も来てるんですよ!」明世は窓の外を見つめ、一瞬の間をおいて、ゆっくりと松葉杖を掴んだ。屋上では、海斗が手すりの外側に座り、両足を空中でぶらぶらさせていた。下では消防士がエアマットを展開し、未鈴が金切り声で泣き叫んでいる。「海斗くん、早く降りて!」「ママは僕が危険な目に遭ったら絶対戻ってくるって、未鈴さんが言ってたよね……」海斗が呪文のように呟く。その声は風に消え入りそうだ。「海斗くん!ほら、ママが来たわよ!」未鈴が明世の姿を見つけ、海斗に教える。海斗はパッと顔を上げ、明世を見て叫んだ。「見損なったよ……実の息子の僕を捨てるなんて!」明世は十メートル手前で足を止め、冷たい視線で海斗を射抜いた。「降りなさい」その言葉を
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