海斗の担任から電話がかかってきた時、涼介は川京市から臨海市への便を降りたところだった。「紺野さん、息子さんが最近宿題を提出せず、授業中も絵ばかり描いています」教師が困惑した声で言う。「それも全て、脚のない女性の絵なんです……」涼介が学校に駆けつけると、教師が海斗のノートを差し出した。ページをめくると、中はおびただしい数の「脚のない女性」の絵で埋め尽くされていた——すべて同じ顔、同じ車椅子、同じ虚ろな目をした明世だ。「一週間、何かに取り憑かれたように描き続けています」美術教師が深く溜息をつく。「理由を尋ねると、『ママだ』としか言いません」教室の隅で、海斗はハサミの刃先で鉛筆を削り続けていた。指先は切り傷で血だらけだが、二人の教師が止めようとしても聞かないという。涼介は教師の勧めで海斗を心療内科に連れて行った。医師がスケッチブックをめくり、子供の手首に無数にある浅い傷跡を見る。「重度の愛着障害です」医師が眼鏡を押し上げる。「自傷傾向もかなり強い」「……治せますか?」「愛着の源を見つけないと、根本的な解決は難しいでしょう」「分かっています。それは、母親です」「では、お母様に来ていただくしかありません」涼介が明世に電話をかけるが、相変わらず着信拒否されている。アシスタントのスマホを借りてかけると、二回鳴ったところで切られた。【明世、海斗が病気なんだ!】彼は必死でメッセージを送る。【医者がお前にしか救えないと言っている。頼む、一度だけでいいから会いに来てくれ!】三日後、アシスタントの元に宅配便が届いた。中身は枯れ果てた白バラが一輪。添えられたカードには、たった一行。【花は枯れたわ。二度と咲くことはない】涼介はその花を病室に持って行った。海斗はその枯れた花をじっと見つめていたが、泣きも騒ぎもしなかった。翌朝、病室から看護師の悲鳴が響き渡った。海斗がボールペンのペン先を自分の太ももに突き立て、鮮血が病院着を赤く染めていた。彼は虚ろな目で天井を見つめている。「ママはもう僕を捨てた。もうこの世界にママはいない」涼介が駆け込んで息子の手首を掴み、自分自身の頬を何度も平手打ちした。「俺があんな女を信じたせいだ!俺を責めろ。自分を傷つけるな、海斗!」彼の顔は腫れ上がり、口角から血が滲む。海斗はそんな父親を見て、
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