All Chapters of 雪の精霊~命のきらめき~: Chapter 131 - Chapter 140

161 Chapters

第131話 新手の詐欺?

 より姉の会社は電車を乗り継いで1時間ほどの場所にあった。毎日この距離を通勤しているって偉いなぁ。 「へぇ、自社ビルなんだ」 エントランスの上に大きく書かれた『Concrete Muse』の文字。コンクリートの女神? いや、具体的なインスピレーションといった感じか。 デザイナーさんにインスピレーションは大事だもんね。 到着したことをメールで送信すると、ほどなくして迎えに来てくれた。「よく来てくれたな! 今日はゆっくりしていってくれ」 上機嫌なより姉。わたしが来るのってそんなに嬉しいのかな。 そんなに喜んでくれたら悪い気はしない。今日は少しくらい派手な衣装でも着てあげようかな。「とりあえず上のスタジオに行くぞ」「スタジオ?」「いや、そこにしか更衣室がねーんだよ。あはは」 そういうものなんだろうか? こういうところに来たことがないのでわからない。 より姉についていくと、エレベーターに乗って3階に案内された。「ここだよ。衣装も全部ここにあるから」 打ちっぱなしのコンクリートで周囲を囲まれた、いかにもといった雰囲気のスタジオブース。 撮影ブースから少し離れたところにハンガーラックが設置されていて、色とりどりの衣装が整然と並んでいる。「まずはこれからだな」 端にあった衣装を掴み、手渡してきた。「まさかそれ全部着るの?」「わかんねー」「は? どういうこと?」 しまったという顔をするより姉。ん~?「いいからいいから! とりあえずそれに着替えてくれよ」 なんか怪しい。でも衣装を見る限り特に露出が激しいわけでもなく、むしろ可愛らしいくらいだ。「ちゃんと個室の更衣室があるからよ。こっちだ」 より姉の言うとおり、部屋の隅には服屋さんでも見かけるような個室が3つ並んでいる。右端の部屋のカーテンを引き、中をチェック。特に変わったところはない。「なにを見てるんだ?」「なんか怪
last updateLast Updated : 2026-02-14
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第132話 飛んで火にいる

「はい、こっち向いて笑って~」 指示されるとおりにポーズを取ると、そのたびにフラッシュがたかれていく。 最初は渋々引き受けたモデルだったけど、撮影が進むうちにだんだん変わってきた。 なにこれめっちゃ楽しい!「その表情いいわね! もう少しだけ右を向いてくれるかしら」 レイさんの言葉に嬉々として従ってしまう。カメラマンってすごいな。 被写体の魅力を引き出す能力に長けているんだろう。声をかけられ、従っているうちにどんどん気分が高揚してくる。 もともとカメラの前に立つのは慣れているし、決して嫌いなわけではない。むしろ好きだと思う。 だけど、これだけ気分よく撮られることは初めての経験。「より姉! 次の衣装は?」 すっかりテンションのあがったわたしは、次々に衣装を着替えていた。どの服も可愛いデザイン。「その恰好も可愛いわね。何を着せても似合うから、写真の撮りがいがあるわね」 そんな嬉しいことを言われたら、もっといろんな姿を撮って欲しくなる。乗せるのがうまいなぁ。「今着替えたそれで最後だぞ~」 より姉の言葉で我に返った。 嘘、あんなにあった服を全部着ちゃったの? 楽しかったから、あっという間に終わってた。「なんだかんだ言ってノリノリだったじゃねーか」 ニヤニヤしてやがる。なんかしてやられたみたいで悔しいぞ……。「……夕飯のメニューは変わらないからね」「しょんなぁ~」 がっくりとうなだれるより姉。どんだけ嫌いなのさ。 ちなみにより姉の嫌いなものはピーマン。子供みたいで微笑ましいんだけどね。  最後の衣装も撮り終えて、今日の撮影はお開きになった。「ゆきさん、今日はありがとう」 清々しい表情で右手を差し出してくるレイさん。なんだか試合が終わった後のスポーツマンみたいだ。「こちらこそありがとうございます。楽しい時間を過ごすことが出来ました
last updateLast Updated : 2026-02-14
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第133話 策士、依子

「門外不出のゆきの写真だぞ! 1枚100円な!」 本当に売りつけやがった。なんて姉だ。「わたし買います」「買う」「わたしもー!」 こらこら、口車に乗らないの。かの姉はその1万円札をしまいなさい。「そんなの買わなくていいよ。データはこのDVDに焼いてもらったから」「あ! てめーゆき! 商売の邪魔すんな!」 身内相手に商売すんな。「社会人が学生からお金を巻き上げるのは黙って見てられません。そんなにピーマン食べたいの?」「ごめんなさい、そろそろ許してください」 たった1日で音を上げるなんて、どれだけ嫌いなんだか。「くっそー。せっかく小銭稼ぎができると思ったのに」 かの姉が出してたのは小銭なんかじゃなかったけどね。「だがしかーし! 誌面が出来上がったら買うよな!?」「「「買うー!」」」「さすが我が妹たち! 1冊3千円な!」 高いわ! ハイブランドじゃあるまいし、高くても千円が相場でしょうが。 だからかの姉は払おうとしない!「はーい、それもダメでーす。雑誌は献本をもらってきてあげるからねー」「ゆきー!」「より姉はお弁当も緑色になるね」「ふぐっ」 黙った。こうなるって分かってただろうに。 それにしてもなんで急にお金を欲しがるんだろう? 社会人になって給料ももらってるから、困ってるってわけでもないでしょ。 食費として家にいくらかお金を入れてるみたいだけど、手元にはそれなりに残ってるはず。「なにか欲しいものでもあるの?」「うーんと、そういうわけでもねーんだけどな……。それよりゆきさん、未遂で済んだんだからお弁当にピーマンは勘弁してくれませんかね?」 誤魔化した? なーんか怪しいな。何かを隠してる感じ。「未遂だったから1日だけで勘弁してあげる」「1回は緑色なのかよ! 容赦ねーな!」「目的を教えてくれたらナシにしてもいーよ」 さぁ吐け。「うく……」 たじろぐより姉。なんだか顔が赤いような?「ゆ……と、……ト……たいから……」 うん? ボソボソ言ってるから聞こえない。「ごめん、聞こえなかった。なんて?」「だから! ゆきとデートしようと思って!」「デ……!」 真っ赤な顔でそんなことを言われたら、こっちまで顔が熱くなってしまう。「より姉、ゆきちゃんとデートするの!? いいなぁ、わたしも一緒に行きたーい」「わ
last updateLast Updated : 2026-02-15
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第134話 さぁお手を、マイレディー

「……」 ごめんなさい、冒頭から言葉が出ません。 より姉の部屋で指定のドレスに着替えたんだけど……。「より姉、ナニコレ?」「ん? ドレスだが?」 それは分かるよ。うん、ドレスだね。 何の服かを聞いてるんじゃないんだよ。問題はそこじゃなくって。「上半身の布地がえらく少なくはありませんか?」「そうか? そんなもんじゃねーの?」 そんなもんであってたまるか。なんだこの露出の激しさは。 背中はがら空きだわ、胸は半分見えてるわ、腹部に穴が開いておへそが見えてるわ。「なんだ、寒いのか?」 そうじゃねーよ。 もうすぐ夏だし、寒くはない。 体はね。 でも心が凍えそうだよ。「もうちょっと選べなかったのかなぁ……」「何言ってんだ。厳選したっての。依子セレクションだぞ」 そんなモンドセレクションみたいに言われてもなぁ。厳選してこれかぁ……。「より姉を信用したわたしがバカだった……」「何言ってんだ。めちゃくちゃキレイだぞ」 言いながらアゴクイすんな。ほんとにメス堕ちしたらどうすんの。「ゆき……」「……何してんの?」「キス待ち顔だが?」「それって逆じゃないの?」「キスしていいのか?」「ダメ」 なんなのこの茶番。 「より姉、ゆきちゃんの着替えまだ終わんないのー?」 ひよりが入ってきた。 この姉妹たちはノックというものを知らないのだろうか。もう一度しつけをやり直す必要があるのかもしれない。「着替えの最中だったらどうすんの?」「拝んでた」 おまえもか……。「で、キスするならさっさと済ませなよ」「真顔で何言ってんの。しないってば」 どうやらわたしのファーストキスは奪われてもいいらしい。姉妹だから順不同でもオッケーってこと?「より姉が先にしてくれたら、わたしも堂々とキスできるのに」 ただの特攻役だった。誰かが口火を切ったら押し寄せるってことなんだろうか。なんか怖い。「それにしても……」 わたしの方に向き直り、上から下まで舐めるように視線を這わせるひより。ちょっと恥ずかしいんだけど。「エロいね」「でしょ」 そんな感想しか出てこないよね。これでもかってくらい露出してんだもの。「より姉、ほんとにこんな格好で歩かせるつもり?」 こんなハリウッド女優みたいな姿をしたやつが駅前に現れたら、道行く人がびっくりしちゃうよ。
last updateLast Updated : 2026-02-17
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第135話 王子様のエスコート

 より姉に腕を絡ませ、駅への道を歩いていく。 上機嫌なより姉は気付いてないけど、すっごく注目されてるからね。 わたし達って傍から見たら、どういう風に見えてるんだろう。男装してるけど、より姉はどこからどう見ても女性だもんなぁ。「やっぱり百合カップルだよねぇ……」「ん? 何がだ?」 ニコニコ笑顔の依子さん。鼻歌でも歌いだしそうだ。「いや、わたし達ってどういう風に見えてるのかなぁと思ってね」「そりゃ美男美女のベストカップルだろ」 それは無理があると思うな。白い歯を見せてにかっと笑う姿は男前ではあるんだけど。「より姉、逮捕されたりしないかな」「なんでだよ!?」「わたしまだ17歳だし。未成年を連れ回す怪しい人物として」「……」 あれ? いつものツッコミがない。「そんなにおっさん臭いか!?」とか言いそうなものなのに。「ゆき、ちゃんと鏡見たか?」「え? そのまま家を出てきたから見てないけど……嘘! どっかおかしい!?」 慌ててカバンから手鏡を取り出そうとしたら、制止してきた。より姉?「そうじゃない。全然おかしくない。なんてーか、その……大人びた雰囲気だから未成年に見えねーんだよ。……綺麗すぎて……」 え? 大人びて?「またまたぁ。さすがにそれは言い過ぎでしょ。もう口説き文句? ちょっと早くない?」「なんでそんなに自己評価低いかなぁ。そこまで言うなら見せてやるよ」 そう言うとスマホをかざして写真を撮ってきた。そのまま手早く操作すると、画面をこちらに向ける。「ん」 そこに映っていたのは、妖艶な色気を醸し出した女性と「愛してる」の文字。周囲にはきらきらのデコレーション。 この一瞬でこれだけ加工したの!? いや、それよりも&hell
last updateLast Updated : 2026-02-17
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第136話 デートは笑顔で

「もう少し時期が早かったら、桜が満開だったんだけどな」 天守閣に登り、|廻縁《まわりえん》で景色を眺めていたらより姉がそんなことをつぶやいた。「緑葉もそれはそれで生命力に溢れた風情があるよ。それに街を挟んで見える海湾も、とても綺麗」 少し強めの風に吹かれて舞い上がりそうな髪を右手で押さえ、左手では天守閣の高欄を握りながら、遠くに見える海へと視線を走らせる。 あの海湾は岸から数分で水深1000mを超え、そのまま外界へと繋がっている。太平洋だ。 太平洋の向こうにはアメリカ大陸。懐かしいかの国の風景を思い出したら、はるか遠い過去の出来事のような気持になって微笑んだ。 記憶の引き出しを開ければ、昨日のことのように思い出せるのに。「どうしたんだ? ずいぶん遠い目をしてるじゃねーか」 より姉がそう声をかけてきた。その表情はとても柔らかく、愛情に満ちている。「ちょっとアメリカでのことを思い出したの。日本に帰ってきてまだ5年しか経っていないのに、ずいぶん昔のことのような気がしてね」 視線を海へと戻し、微笑みながらそう答えた。 隣で息をのむ音がした。 * * * 絵になる、ってのはまさにこのことだろうな。 どこか浮世離れした天守閣の雰囲気。そこに佇む絶世の美女。あまりの美しさに顔が熱くなるのを感じる。 日本に帰ってきてからの事を考えて感傷にひたってるみてーだ。 その瞳は遠くを見つめていて、微笑む横顔はどこか神秘的にすら見える。どこか満足げな表情。「なに年寄り臭いこと言ってんだよ。この5年間でたくさんの思い出ができたんだろうけど、これからもっと時間はあるだろ」 そんなやり遂げたみたいな顔してんじゃねーよ。まだ10代のくせに。「……そうだね」 こちらを見て微笑むゆき。心臓がうるさく跳ねるくらいにキレイだ。思わず見惚れてしまう。 でもその瞳の奥底に、どこか寂しさが漂っているように見えるのは気のせいか……。「そうだよ。何があってもあたしはおまえのそばに居続けてやるからな」 そう宣言して、決して離さないという気持ちも込めてゆきの肩を抱き寄せた。今朝も思ったが、とても男の子とは思えないくらい華奢な体だ。 この細い体にどれだけたくさんの重荷を抱え続けてるんだか。 ゆきにはまだ隠していることがある。この少し寂し気な表情も、きっとそれに関係があるんだ
last updateLast Updated : 2026-02-18
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第137話 ワインで乾杯

「……」「どうしたんだ?」 どうしたんだじゃねーよ。「より姉、何の映画を観ようとしてるの?」「ん? ホラー映画だが?」 おい。ふざけんな。「えっとー。わたしが怖いの苦手なことは知ってるよね? わざとかな? 天然さんかな? かなかな?」「目から光が消えてるぞ。笑顔が怖いっての」 当たり前だ! なーんでデートにホラーなんだよ! ムードもへったくれもないな!「帰っていい?」「ダメに決まってるだろ。もうチケット買ったしな」 なん、だと? 手渡してきたチケットには『死霊の臓物』と印刷されている。ガチもんやんけ!「ちびるよ?」「大丈夫だよ。今すっげー流行ってるし、そんなに怖くねーと思うぞ。たぶん。きっと」 そこは言い切ってくれないかなぁ!「アホだ。アホすぎる……。デートにホラーとか、頭沸いてるとしか思えない……」「そこまで言うことねーだろ。怖かったらしがみついてくれていいからよ」「膝の上に乗ってもいい?」「そこまでか。さすがにそれはマズいんじゃね?」 もうダメだ。おむつ履いたほうがいいかも。「耐えられないほど怖かったらまたピーマン尽くしだからね」「おほっ。勘弁してくれよー」 勘弁してほしいのはこっちだっての。どうか恐怖度が低いものでありますように……。 そんなわたしの祈りは届くことなく。 冒頭から登場人物がドーングシャグシャ。ゆ、油断してた。全部見ちゃったよ。 めっちゃスプラッター系やんけー!「ひいぃぃぃ……」 映画館で大きな叫び声をあげるわけにもいかず、より姉にしがみついて必死に恐怖と戦うしかない。「く、苦し……」 より姉が虫の息になっているような気もするけど、そんなことを気にしている余裕もない。自業自得だからなんとか耐えて。 うぅ、もうスクリーンを見ることなんて出来てないけど、音を聞いてるだけでも十分に怖いよぉ。「目をうるうるさせて。なんだこの可愛い生き物」 より姉がなんか言ってるけど、まったく頭に入ってこないよ。さっき食べたパフェが全部出ちゃいそう……。「よしよし、怖いんだね~。あたしが守ってやるからな~」 より姉が頼もしい。 耳をふさぎ、より姉の胸に顔を埋める。視覚はもちろん、聴覚も遮断してしまいたいんだけど、映画館の大音量では完全にシャットアウトすることもできない。 目を瞑って音だけを聞いてい
last updateLast Updated : 2026-02-19
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第138話 口説き文句はしらふで

「世界ぐるぐる~」「真っすぐ歩けー!」 レストランを出て、より姉の酔いを醒ますためにも少し散歩することにした。 せっかくの海辺デートなのに。ムードもなにもありゃしない。「もう、弱いくせに飲みすぎだよ」「いつもはこんなんじゃね~ぞ~」 いつもは飲まないでしょうが。「ゆきとの食事が楽しくてちょっと酔いが回っただけだって~」 楽しんでくれたのならいいんだけどね。 放っておくとふらふらどこかに行っちゃうので、腕をしっかりと捕まえて支えるしかない。「普段はお酒なんて飲まないのに。どうして今日は飲んじゃったの?」「飲まなきゃやってられね~っての~」 何を? まだ就職したばっかりなのに、もう社畜みたいなこと言ってますけど。「もう。せっかく今日はより姉のために一日乙女になるって決めたのに」「今日だけ~? ずっと乙女でいいのに~」 ヤダよ。「バカなこと言ってないで、ちょっとそこのベンチで休もうか」 手綱を操るようにベンチへと誘導する。振り落とされないようにってのはこのことだったのか? この暴れ馬。「お水買ってくるからどこにも行かないでよ」「どこにも行かねーよ。ずっとそばに居るって決めたからな」 急に真顔になるな。「早く帰ってきてくれよ~」 また軟体生物になってベンチに崩れ落ちるより姉。締まらないなぁ。 自販機でお水とレモンティーを買って戻ると、ちゃんと座っていた。「はいお水。少しは酔いが醒めた?」「まだぐるぐる~」 だめだこりゃ。「ん~? レモンティーなんて珍しいな~。コーヒーじゃね~のか」「この格好だからね。一日乙女だって言ったでしょ」 ドレスでコーヒーってのもなんか違うかなと。紅茶の方が乙女っぽいでしょ。偏見だけど。「あたしのためにだよな~。ありがと。愛してるぞ~」「口説き文句はしらふでどうぞ」「……」 急に黙らないで。吐くのかと思うでしょ。「ゆき……」「なぁに?」「あたしはな。こえーんだよ」 怖い? 何のことだろう。映画は平気な顔して観てたよね。目を瞑ってたから表情まで見えてなかったけど。「ゆきはまだ何かを隠してるんだよな。考えないようにはしてるんだけどよ。ふと、お前がいなくなっちまうんじゃねーかって思っちまうことがあって……」 そのことか……。 不安にさせちゃってごめん。 目にいっぱい涙を溜
last updateLast Updated : 2026-02-20
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第139話 活動の集大成

 わたしにとっても夢のようなデートが終わり、日常が戻ってきた。 わたしが企画した文化部のフリーマーケットも3年連続で執り行われ、つつがなく終了させることが出来た。これで来年からも問題なく続けていくことが出来るだろう。最初の一里塚を築くことが出来たのはとても嬉しい。 まぁ体育祭でも3年連続で恥ずかしい思いをすることになったけど、さすがにこれは伝統にはならないだろう。 みんなわたしで遊びすぎ。 なんにせよ、当初の目標であった『旧弊に縛られず、新しい学園の伝統にする』というスローガンは達成することが出来そうだ。 集大成は文化祭かな。 学校生活に関しては生徒会長としてやるべきことはやり遂げた。 次は配信者としてかな。 配信者としての集大成は何をすればいいだろう。 やはり歌とダンスをメインにしている身としては、たくさんの人を集めてのコンサートに憧れたりもする。 小規模なコンサートなら十分可能なんだろうけど、今のチャンネル登録者数を考えると数万人規模になってしまう。そうすると個人では難しく、どこかの音楽事務所に所属する必要があるんだよなぁ。 幼い頃に子役として芸能界にいたのを隠すことなんて出来ないし、となると芸能界復帰なんて話も出てきそうでどうしても敬遠してしまう。 やっぱりネット配信で何かやるしかないよね。 今までお世話になった人を全員招いての合同配信も考えたけど、みんなが集合するってなんか最終回みたいになってしまうからボツ。 今後も配信活動は続けていくつもりだからね。「配信をコンサート形式にすればいいんじゃないですか?」 ネタに詰まったので家族に相談してみたら、かの姉がそんな提案をしてくれた。「配信で10曲くらい唄うってこと? それだと単調になって飽きたりしないかな」「ゆきちゃんの歌が飽きることなんてありません!」 それは姉バカの意見ね。「もっとリスナーさんに楽しんで欲しいんだよね」「何か歌に関する企画を考えてみたらどうだ?」 より姉の言うことももっともだ。「肝心な企画を何も思いつかないんだよね~」 どうもわたしの思考は柔軟性に欠けるのかもしれないな。困った時はいつも誰かに助けてもらってる気がする。「条件満たすまで終われない」 お、なんだか興味深い意見があか姉から出てきた。終われない企画はいろんな人がやってるから、その条
last updateLast Updated : 2026-02-21
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第140話 お見通し

 翌週の配信日。 告知通りに『ゆきちゃんオンステージ! 全部当たるまでエンドレス大会』を開催した。「ゆきちゃんすごい! 同接300万軽く超えてる!」 今日のサポート役を務めてくれるひよりが言う通り、過去最高水準のリスナーさんが集まってくれたんだけど。「さっそく集計が上がってきてるね。今のところ1位は『Go ahead』か。わたしが選んだベストにも入ってるよ。みんなありがとー!」 一発目からヒットするとは幸先がいい。これなら無茶な曲数を唄わなくても済むだろうか。「ゆきちゃん、2曲目……」 ひよりの言葉に促され、もう一度集計に目を落としてみると。「なになに……『hi-ho!』……ってこれネタで作ったお遊び曲! 動画投稿もしてない一度唄ったきりの曲なのによく覚えてたな!」 よく見たら3位以降にもマイナーな曲がずらり。 ゆきちゃん選考の曲にかすりもしないまま10曲を超えてしまっている。「すでに20曲確定してしまってるんですけど。マジか」「あはは。ゆきちゃんがんばって!」 これにはひよりも苦笑い。「でも選ばれてる曲って全部、再生数があんまり伸びてない曲ばっかりなんだよね。それだけ今日来てくれてるリスナーさんはディープなところまで見てくれてるっていうことでしょ。そこは純粋に嬉しいから、頑張って唄いきろうって気持ちになる!」 ひよりは最初心配そうな顔をしていたけど、わたしの言葉を聞いて笑顔になった。「そうやって何でもポジティブに捉えられるゆきちゃんはすごいよね。頑張って欲しいけど、でも無理はしないで。これからも唄っていくんでしょ」 感心し、励ましてくれながら心配もしてくれる。そんな可愛い妹の頭を笑顔で撫でつけ、モニターに向き直った。「全ての曲を愛してくれるリスナーさんのためにも、今日は頑張って唄い続けるよ! みんなもどんどんリクエストしてね」【さすがゆきちゃん】【いつもリスナーのことを想ってくれるよね】【限界だと思ったらすぐに言うんだよ】【彩坂きらり:応援してるよ】 怒涛の勢いで流れていくコメントはどれも温かいものばかりで、わたしの想いをさらに強くしてくれる。きらりさんもありがとう。 やっぱりわたしは人々の楽しそうな笑顔に支えられていると再認識した。「これからも唄っていきたいから、喉を壊したりしないように気を付けて頑張るね!」【体大
last updateLast Updated : 2026-02-22
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