はらり。 はらり。 音もなく雪は降り続ける。 どれくらい時間がたったのだろう。体に降り積もる雪を振り払う元気もない。 キラキラと美しい結晶で形作られた雪は容赦なく小さな体から体温を奪っていく。 手足は寒さでとっくに麻痺しており、声を出すことすらままならない。寒いという感覚すらわからなくなってきた。 向かいのマンションから悲鳴のような声を聞いた気がする。 そんなことはどうでもいい。 眠い。 なんだかだんだん暖かくなってきたような気がする。 このまま目をつむればどうなってしまうんだろう。もう痛いことやこわいこともなくなるかな。 だったらこのまま眠ってしまってもいいかも。起きているのももう疲れた。 さっさと寝てしまおう。 そしてわたしは自分の意識を手放す。 何も聞こえない。静寂に支配されていく。 意識が遠ざかるのを感じていると、誰かに抱きあげられたような気がした。 きっと気のせいだろう。 わたしを見てくれる人なんていない。いつだってわたしはひとり。 ひとりでただ眠るだけ。 考える力も失ったわたしは深い闇に落ちていくような感覚に身をまかせた。 声が聞こえる。「おきて。ねぇおきてよ」 誰かが呼んでいる?「はやくおきて」 やっぱり呼んでいる。わたしに言っているの? 目を開いた……ような気がする。 目の前に羽根の生えた小人がふわふわと漂っているのが見えたから。 少し光っている。「あなただれ?妖精さん?ここはどこ?」 声が出た。と思う。 体の感覚もあいまいで現実感がない。夢?にしてはリアルだ。 妖精さんの羽根の色や少し長くて尖った耳、可愛らしい顔まではっきり認識できる。 ただ自分自身についてはまるで水に溶けてしまったかのように不安定な感じがする。 人間には魂と言うものがあると本で読んだ。わたしは今、魂になっているのかもしれない。「妖精とはちょっと違うかな。私は神様のお手伝いをしている精霊だよ。ここがどこかについてはちょっと難しいかな。この世とあの世の境目、よりはちょっとこの世に近いところ」 自分自身のことを確認しているとそう答えてくれた。 こんな雪の日に現れたのだからきっと雪の精霊だろう。 ここがどこなのかについては聞いてもさっぱり分からなかったけど。 ホタルのように視界の中をさまよいながら精霊は続ける
Last Updated : 2025-12-12 Read more