All Chapters of 雪の精霊~命のきらめき~: Chapter 141 - Chapter 150

161 Chapters

第141話 最後の夏休み

 結局、エンドレス企画は66曲を唄った時点で終了。 ひよりがわたしの疲労を訴えかけ、それを心配したリスナーさん達が正解をあっという間に選んだ時は心底驚いた。 熱心にコメントをくれる人というのは同接で見てくれる人の中でも一握りだけど、わたしがVtuberの頃から応援してくれている方が多い。 当然付き合いが長いわけで、わたしに対する理解度は高いだろう。だけど単純にファンだからというだけで済ますには足りない。 わたしの想いを理解し、共有してくれるからこそ思考を読むことまでできるんだと思う。 愛されてるって自信を持ってもいいのかな。ありがとう。 そしてもうすぐ最後の夏休み。「進学をしないゆきちゃんはこれで最後の夏休みですし、いろんな思い出を作らないといけませんね」 7月に入ってすぐのある日、朝食の席でかの姉がそんなことを言い出した。「思い出ってことはどこかに行くの?」「そうですね~。夏と言えばやっぱり海でしょうが……」 かの姉が言いよどむ。「海に行ってもゆきがしりとりする羽目になるからなぁ」 より姉の言うとおり。いっつも邪魔が入っちゃうんだよね。「だったらまた旅行にでも行く? バイトで貯金もしてるから自分の分くらいは出せるよ!」 ひよりも含めて学生組はアルバイトをしているし、より姉は社会人だからお金の面に関しては問題ないだろう。 だけど旅行になったら懸念事項がひとつ。「より姉はもう夏休みとかもないし、休みを取るのは難しいんじゃない?」「あたしか? 確かにお盆時期は繁忙期になるから無理だけど、7月末から8月頭にかけて交代で1週間休めるぞ」 なるほど。お盆休みを前倒しで取れるんだね。「それでどこに行くの? 夏休みだから早めに予約とらないと」「うーん、また避暑地に行く?」 確かに涼しくて過ごしやすいから、のんびりするにはいいかも。「ゆきちゃん最後の長期休暇なんですから、もっと派手なことをしたいですね~」 派手って何? パーリーピーポー的な?「遊園地」「それだ!」「おぉ、やるじゃねーか茜」 みんなに褒められてドヤ顔のあか姉。うーん、かわいいな。「遊園地って言ってもいろいろあるじゃない? どこに行くの?」 わたしも久しぶりに遊園地へ行ってみたい。「富〇急ハイランド!」 ひよりが意気揚々と手を挙げた。あんまり聞いたことの
last updateLast Updated : 2026-02-23
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第142話 友情と愛情の狭間で

 高校生活最後の夏休みが始まった。 今年は何かと忙しい。 配信活動や生徒会長の仕事は例年通りにこなしていくけど、今年は文化祭に発表するダンスの練習があるからだ。「穂香、そこは指先をしっかり伸ばすことを意識して。文香はターンの時、お腹にぐっと力を入れて。そうすればふらつかずに回れるよ」 朝のジョギングを終えた後、スタジオで練習を開始。「ゆきの家に招いてもらえると喜んだけど……」「これはけっこうキツイね」 家に学校の友人を招くのはこれが初めて。というかキリママ、きらりさん、琴音ちゃん以外を呼んだことがない。あの三人も呼んだというより勝手に来たんだけど。「ほえ~。ここが伝説の生まれる場所なんですね」 なぜかサキちゃんもくっついてきてる。「あなたはひよりに呼ばれてうちに来たことあるでしょ」「ありますけど、その時はひよりちゃんの部屋にこもってましたから。この聖域に足を踏み入れるなんて畏れ多くて!」 そんな神聖な場所じゃないよ。 そんなことより。「どうしてサキちゃんはカメラを回してるの?」 わたし達の練習風景を撮影している理由を教えて欲しい。「そんなの決まってるじゃないですか。生徒会ドキュメンタリーの撮影ですよ!」「はぁ。なんでドキュメンタリーが必要に?」「そりゃファンクラブで売れ……ゆき会長の伝説を後世まで語り継ぐためですよ!」 本音が漏れてるぞ。「語り継がなくていいから。あとお金儲けに利用するのはダメだよ」「やだな~。お金儲けなんてそんなことするわけないじゃないですか~」 うん、そういうことは目を見て言おうね。「邪魔にならないよう、ほどほどにね」「は~い」 本当にお金儲けしてたら折檻だからね。喜んじゃうから今は言わないけど。 気を取り直してダンスの練習へと向き直る。 文香も穂香も、運動神経がいいので動きに問題はない。歌の内容を体で再現する表現力も残り期間練習を重ねればどうにかなると思う。 あとは楽しんでやってくれるのが一番なんだけど。「きつーい」「そろそろ休憩したい~」 部活にも入っていない二人は体を動かすことに慣れておらず、辛さの方が先行してしまっているみたい。ジョギングは毎日してたけど、ダンスに必要な瞬発力は鍛えてなかったからなぁ。 うーん、どうしたものか。「そんなにきついなら考え直した方がいいのかな…
last updateLast Updated : 2026-02-24
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第143話 五年越しの片思い

 昼食以降、文香と穂香のやる気が上がった。「友人として、ゆきと同じ目線に立ってみたい!」 そんなことを言って一生懸命ダンスの練習に励むようになってくれたけど、何かを忘れようとして無心になっているようにも見える。 何か、なんて考えるまでもないよね。 二人の気持ちを考えると胸が痛いけど、申し訳ないと考えるのは違うと思うから、わたしは何も言わず練習に付き合う。「三人で踊ったらきっと素敵な思い出になるよ!」 笑い合い、励まし合いながら、動きと想いをつなぎ合わせていく。 ダンスを通じて心を通わせ、わたしの気持ちが少しでも伝わればいいな。 わたしは人に恵まれている。素敵な友人に囲まれ、優しい家族にも愛されて、本当にありがたいことだ。 だからわたしも縁あって出会えた人を大切にしていきたい。「わたし達の友情はずっと変わらないからね! 三人の思い出作り、がんばろう!」「ずっ友ってやつか」「なんか恥ずかしいね」 それはわたしも恥ずかしい。「わたしたちの絆はそんな軽い言葉では表せないよ。中学からずっと、もう幼馴染みたいなもんなんだから」「幼馴染かぁ。いい響きかも」「親友よりも距離が近い気がするね。そっか、幼馴染ならずっと一緒にいられるね」「うん! これからもよろしくね!」 * * * ダンスの練習が終わって夕食もいただいた後の帰り道、隣を歩く穂香の表情はどこか晴れやかだ。「失恋しちゃったな」 彼女は両手を後ろに組み、空を見上げて呟いた。「そうだね。失恋したらもっと悲しくて泣いちゃうと思ってたんだけどな」 気分は不思議なくらいに落ち着いている。「サキの言葉で動揺しちゃったからかな。気持ちを貫き通したお姉さんたちが羨ましいよ」「うん、わたしも勝てないなーって思っちゃった」 何があっても想いは変わらない、そう言い切ったお姉さんの口調や表情からどれだけ深い愛情を持っているかが分かってしまった。 きっとあの人たちはゆきちゃんに他の恋人ができたとしても、それが幸せなら祝福するんだろうと思う。「真似、できないよね」「うん、今のままじゃ、ゆきに恋人ができても祝ってあげることなんて出来ないな。こんなんじゃ、友人としても幼馴染としても失格だ」「もっと、ゆきちゃんに相応しい友人にならないとだね」 彼のそばにいたいなら。「お姉さんが言った時のゆき
last updateLast Updated : 2026-02-25
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第144話 電車内のおやつはいくらまで?

 夏休みに入ってダンスの練習漬けだったけど、今日から1週間はお休み。 本日より家族旅行で大阪へ行ってまいります! 以前水族館のためだけに遠征して以来だから楽しみ。遊園地ももちろんだけど、天下の台所で楽しみと言えばやっぱり食べ歩き。 串カツ、お好み焼き、たこ焼きに焼き鳥。てっちりや土手焼きなんかもいいなぁ。 食べたことないけど、かすうどんも食べてみたい。 スイーツもいろいろあるよね。堂島ロールも食べてみたいし、前にお土産で買ってきてもらった月化粧も美味しかった。 育ち盛りの男の子には天国のような街だ。「なんだ、締まりのない顔して。どうせ甘いもの食べる想像でもしてんだろ」「うっさい」 図星突いてきやがった。わたしってそんなに分かりやすいのかな?「でもでも! せっかく大阪に行くんだからいろんなもの食べないとだよ!」 さすがひより、よく分かってらっしゃる!「だよねー。より姉はほっといて美味しいもの食べに行こうね」「うん!」「ゆき、わたしも」 あか姉が服の裾を掴んできた。「もちろん一緒に行こうね。パフェの美味しそうなお店を調べてあるから食べようね」 こくこくと首を振るあか姉。カワユス。「そんな意地悪言うなよ~。あたしらも行くってば。なぁ楓乃子?」 甘いものがそんなに好きじゃない同士で連帯しようとしてる。「わたしは何も言ってませんから。最初からついていくつもりですよ」 裏切られてやんの。「ごめんなさい。大人しくしてるので連れて行ってください」 まったく、どこに行くにもみんな一緒だよなぁ。誰一人として単独行動をしようとしない、仲良し家族。 今はわたしを中心にしてくれてるけど、姉妹でも仲良くしてね。「朝早いからあんまり騒いでると近所迷惑になっちゃうよ。早く行こ」 開園から入場するために、始発の電車での出発。夏なので辺りはすでに明るいけど人の気配はなく、響き渡るのは蝉の声のみ。 荷物はすでに宅配便で送ってあるから身軽だし、日焼け対策もばっちりで準備は万端。 近所迷惑になると言いながら、あとは移動して遊ぶだけだと思ったら否が応でもテンションが上がってしまう。「すっかりはしゃいじゃって。みんな若いなぁ」 目を細めてそんなことを言っているより姉。お年寄りか。「より姉だってそんなに変わらないでしょ。そんなこと言ってると余計に老け
last updateLast Updated : 2026-02-26
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第145話 メープル、バナナ、チョコ、いちご

「うわぁ、人がいっぱいだねー」 開園時間は少しだけ過ぎたけど、何の問題もなく到着。 まずは入口のところにある地球のオブジェクトの前で記念撮影。 チケット売り場で2DAYパスを購入し、園内に入るとそこに広がっていたのは日常とは大きくかけ離れた空間だった。「ゆきちゃーん! 最初に何から回る?」 目をキラキラさせてはしゃぐひより。うんうん、気持ちは分かるぞ。でもね。「お腹空いた。ドーナツバーガー食べたい」 みんなのおやつを分けてもらうだけじゃ足りなかったんだよ。「まずは食い気ですか。ドーナツバーガーは一番奥の方ですね」 かの姉がマップを見て位置情報を確認してくれたようだ。さすが名参謀。「いざ! 敵陣深くへ!」 わたしの号令に従ってパークの奥へと移動する一行。 黄色いバナナの化け物が徘徊するエリアに到着し、お目当てのフードを発見。早速購入してかぶりついた。 うーん、美味しい! さすがいいお値段するだけのことはある。「うまいな! でもたっけー」「テーマパークのフードなんてそんなもんでしょ。持ち込み禁止だし、他に食べるものもないからね」 パーク内にはコンビニもないから、何かを食べようと思えば売店かレストランしかない。そうなると当然お高い。「足元見てる」 身もふたもない言い方だね。まぁあか姉の言う通りなんだろうけど。「非日常な空間を提供してもらって、その中で食べられると考えたら妥当なところじゃない?」「確かに」 お弁当の持ち込みなんかを認めたらそこかしこでレジャーシートを広げる光景になり、非日常感を損ねてしまうだろう。「もう、せっかく遊びに来てるのに現金な話はやめなってば。純粋に楽しまないとだよ!」「ごめんごめん。ひよりの言うとおりだね。俗物的な考えは捨てて、脳死状態で楽しもう!」「だから言い方!」 ひよりに怒られてしまった。でも、そんなことを言い合いながらも笑いが絶えることはない。 なんだかんだでみんな気分が高揚しているんだろう。 腹ごしらえを済ませたら、いよいよアトラクションを見て回る番だ。 せっかく一番奥まで来たんだからと、すぐ近くにあったバナナ世界のアトラクションを選んだ。「ゆき、こっち」 あか姉に手を引かれ、ビークルに乗り込む。他の姉妹が文句を言わないところを見ると、どうやら早い者勝ちのようだ。 巨大ドーム
last updateLast Updated : 2026-02-27
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第146話 思い出は手の中に

 チュリトスとターキーレッグでけっこうお腹いっぱいになったので、腹ごなしも兼ねてショップを見て回ることにした。 文房具なんかを見ていると、かの姉が嬉しそうな顔で何やら持ってくる。「ゆきちゃんにはこれが似合うと思いますよ」 手に持ったものを見ると、りんご2個分しか体重がない猫のボアパーカー。「さすがにそれは可愛すぎるんじゃない? もういい歳なんだからもっと大人な印象のものでもいいんじゃないかな」 いくらなんでもと思って物申したけど、首をひねる姉妹たち。おい。「ゆきちゃんが大人?」「うーん。少女のように可憐なゆきちゃんにはこれくらいの方が似合うと思うんですけどね」 しょ、少女って。「さすがに少女は言い過ぎでしょ。わたしだってこの間のより姉みたいにスーツを着ればそれなりになると思うんだけど」「……」 ちょっと。なんか言ってください。「可愛いとか綺麗とか。可憐だとか清楚だとか。そんな表現がぴったりなゆきちゃんには可愛い服がぴったりですよ」 ひどい。それじゃまるでわたしが成長してないみたいだよ。背は伸びてないけど……。「より姉~」 髪飾りを見ていたより姉に助けを求めた。「ん? おぉ、可愛いパーカーだな。ゆきに似合いそうだ」 裏切ったぁ。「いやいや、わたしも17歳だよ? いい加減大人に近づいてると思うんだけど」「あぁ~。ま~な~」 なんで言い淀むかなぁ。「もうちょっと成長したら色気が出て来ると思うけどな。それこそ傾国の美女ってやつだな」 そっちに行っちゃうのね。誰が|妲己《だっき》だ。「もういいです。でもさすがにそのパーカーは恥ずかしいから、わたしはこっちでいいかな」 わたしが選んだのは同じキャラクターのヘアクリップ。これくらいならまぁ。「なんでもつけてみないと分かんないってば。試しにこれ!」 ひよりが頭につけてきたのは猫耳カチューシャ。これもさすがに恥ずかしいなぁ。 だけど、わたしのそんな思いを無視して周囲がにわかにざわついた。「なにあの子。めっちゃ可愛い」「くっそ似合ってる」「え、芸能人?」 他の買い物客に注目されている。えぇぇ。「ほーら。ゆきちゃんにはやっぱり可愛いのが似合うんだよ」 ドヤ顔してるのはいいけどさ。目立ちまくってるんだけど。「あれ? YUKIちゃんやん」「知ってるん?」「おぉ。めっちゃ歌うまい
last updateLast Updated : 2026-02-28
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第147話 ゆきとひよりのターン

「面白かったー!」 幼少期以来のジェットコースターを満喫してご満悦。「後ろ向きがこんなにスリルあるとは思いませんでしたね」 かの姉も楽しんでたみたい。「あたしはやっぱり前向きがいいかなぁ。もうすぐ来るぞーって待ち構える方が楽しい」 なるほど。確かにそういう楽しみ方もあるよね。なんというかより姉らしい。「あか姉は楽しめた?」 ひとり黙っているので聞いてみた。「それなり。もっと激しいのを求む」 おっと。あか姉は意外とスリルジャンキーなのね。「恐竜エリアのコースターに期待してる」 プテラノドンにさらわれた体で下向きのまま疾走するらしいね。確かにそっちも楽しみだ。 合流したひよりは信じられないと言った様子でこちらを見てるけど。「ひよりもいるし、恐竜エリアはまた後でね。それよりテーマパークの名前が冠されたこのエリアと隣のハリウッドは、いろんな映像技術が駆使されたアトラクションが目白押しだよ」「行く」 さすがあか姉。映像技術と聞けば目の色が変わる。「ゆきちゃん、ありがとね」 ひよりが服の裾をつかんできた。 もう、気にすることなんてないのに。「何のこと? みんなが楽しめるものはいくらでもあるでしょ」 苦手なものなんて誰にでもあるんだから。「そうだね! ここにはお化け屋敷がなくてよかったよね!」 そう来たか。「あ! ハロウィンにはホラーナイトってあるらしいから、その時にまた来る?」 分かって言ってるよね?「文化祭の準備で忙しい時期なので来れません。残念でした」 11月の文化祭に向けて一番忙しいタイミングだ。大義名分があるので堂々と拒否できる。わずか数年後に常設のお化け屋敷ができるとは思ってなかったけど。「だったら来年以降にまた来ようね!」「来れたらね」「わたしが大学に入学出来たら時間の都合はつけやすくなるでしょ。かの姉が就職する前に来たいよね」 かの姉も来年は4回生だから、チャンスは来年のみじゃん。「就職しても有給というものがありますから。全ての有給休暇は家族のために使いますよ」 かの姉も会話に参加してきた。「何も全部使わなくても。たまにはお友達と旅行するのもいいんじゃない?」「ゆきちゃんも来てくれますか?」 なんでだ。「いや気まずいでしょ。かの姉の友達ってわたし知り合いいないし」「ゆきちゃんが来てくれない
last updateLast Updated : 2026-03-01
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第148話 眩しすぎる未来

 デザートも食べて満足したお腹をさすりながら、ナイトショーの会場へと向かうわたし達。「ナイトショーって何をやるんだ?」 より姉が質問をしてきた。わたしも聞かれて気が付いた。「何やるんだろうね?」 わざわざチケットを購入させてまで行うショーだから、何かしら見どころのあるものを行うんだろう。中身はちょっと予想がつかないけど。「水のエリアだし、海賊同士の戦闘場面でもやるんじゃないの?」 なるほど。水のエリアなら船を浮かべることも出来るし、海賊と言えば船同士を激突させての戦闘だもんね。 原作もほぼバトル漫画だし。 それにしてもチケット販売所から会場まで結構な距離がある。もっと効率よい配置にできなかったんだろうか。 会場に到着したころにはもうショーが始まっており、登場キャラの紹介をやっていた。『さぁ! ここで満を持して主人公の登場だー!』 ん? なんだかどこかで聞いたような声がするぞ。「ね、ねぇ。ゆきちゃんあれ……」 ひよりが驚いた表情で指を差している。その方向に目をやると……げっ!「こ、琴音ちゃん!?」 マイクを握り、やや大げさとも言える身振り手振りでキャラ紹介をしている女性。 最近見ないと思ったら、こんなところでお仕事をしていたんだ……。「やっぱりそうだよね。アイドルなのにスタッフみたいなことしてるけど、転職したのかな?」 そんなバカな。 最近はキャラが変わったせいでバラエティなんかにも出たりしていたけど、そのおかげで前より人気が出ているからアイドルを辞めるなんてことは考えられない。 数日前にテレビで見かけたし。『今日は琴音がスペシャルゲストとしてお邪魔させてもらってます! みんな来てくれてありがとう!』 そういえばアニメの主題歌、琴音ちゃんが唄ってたな。その縁もあってのスペシャルゲストということなんだろう。 よりによって今日、ゲスト出演していたなんて。 なんたる偶然。「おい、琴音のやつ、なんであんなにキョロキョロしてんだ?」 より姉の言うとおり、誰かを探すかのように客席を見回している。 プロ意識を持って仕事をしている琴音ちゃんにしては珍しい。「なぁ。まさかゆきを探しているなんてことは……ねーよな?」 いや、いくら琴音ちゃんでもわたしの行動をそこまで把握してるなんてことは……。「あ!」 とんでもないことを思い
last updateLast Updated : 2026-03-02
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第149話 湯煙旅情、入浴事変

「何かあったのか?」 琴音ちゃんと別れホテルへと向かう道すがら、より姉にそんなことを言われてしまった。 しまった。先の事を考えて暗くなってしまったのかもしれない。「はしゃぎすぎて少し疲れただけだよ」「琴音に何か言われたのか? 戻ってくるまで少し時間がかかっていたよな」 畳み掛けられてしまった。そんなにおかしかっただろうか?「……プロデューサーさんに挨拶されちゃってね。コンサートをやらないかって勧誘されていただけだよ」 琴音ちゃんの口から洩れれば誤魔化しきれるものでもないので、正直に言うことにした。隠すようなことでもないし。「コンサート! すごいね、ゆきちゃん!」 無邪気にはしゃぐひより。喜んでくれているのに申し訳ないなぁ。「ごめん、断った。芸能事務所の人だったから。芸能界に戻るのはイヤだからね」「そうなんだー、残念」 ごめんね、がっかりさせて。「どうして断ったんだ? 今日も楽しそうにしてたし、コンサートやってみたいんじゃねーのか?」 どうしたんだろう。やけに食いついてくるな。 そんなに|訝《いぶか》しむようなことだろうか。「芸能界につながるのはイヤだからだってば。それに今はそんなこと考える暇もないくらい忙しいしね」「どうして先の事を話すといつも否定的なんだ?」 背中に氷水をかけられたような気分になった。 わたしとしたことが。「そんなことないよ? わたしだって先のことは考えてるってば。そこまで刹那的に生きてるように見える?」「……わかんないけどな。約束は忘れんなよ」 約束ってどのことを言ってるんだろう。 今年中に話すと言ったことだろうか。それとも……。「分かってるよ。今まで約束を破ったことなんてないでしょ」「そうだな。ゆきは嘘ついたりしねーもんな」 ようやく笑顔を見せてくれるより姉。
last updateLast Updated : 2026-03-03
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第150話 眠り姫は桃の香り

 お風呂から上がり、ソファーでぐったりするわたし。つ、疲れた。「ゆきちゃん、生きてる?」「死んでる」「平気そうだね」 どこらへんが? 暴走する2人を止めてくれないから大変な目に遭ったんですけど。「なんで止めてくれなかったの」 ソファーに突っ伏したまま恨み言を述べる。「だって酔っ払いに逆らうのめんどくさいんだもん」 顔だけを上げてちらりとテーブルの上を見ると、ビールの缶とチューハイの缶がそれぞれ三本ずつ。 酔ってやがったな、あの二人。弱いくせに飲むからだ。 でもお風呂で少しは酔いが醒めたのか、新しい缶を開けている。もう酔っても知らないからな。「くはぁ! お風呂上りに冷えたビールはたまらんな!」 やっぱりオヤジ臭い。「ひより~。わたしも飲み物欲しい」 お風呂でのぼせて喉がからっから。干物になっちゃうよ。「お水がないからジュースでいい?」「なんでもいい~」 缶ジュースを受け取り、一気に流し込む。あ、これ美味しい。 桃の味が爽やかで、乾いた喉に気持ちよくてあっという間に全部飲んでしまった。「これ美味しいね。気に入っちゃった」「もう一本あるみたいだけど、飲む?」 誰が買ったのか知らないけど、なくなったらまた買っておけばいいだろう。「もらう~」 なんだか気分がいいので二本目をいただいた。やっぱり美味しい。「あれ? もうなくなったんですか?」 かの姉が何かを探してる。えへへ、どうしたのかな。「ひよりちゃん、わたしの桃のチューハイ知りません? まだあるはずなんですけど」 ん~? どうしてひよりは慌ててるのかなぁ? * * * ヤベ。ジュースだと思ってゆきちゃんにお酒の缶渡しちゃった。「あらあら。ゆきちゃんが飲んでしまったんですね~」「ふにゃ?」 お風呂上がり
last updateLast Updated : 2026-03-04
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