きっと部屋の暖房が効きすぎていたのだろう。一雄はそう思い、特に気にも留めなかった。「何の書類だ?」冷たい声で風香に尋ねた。「実はですね。今日、学術交流会で気になった作品をいくつか記録してきまして」風香はにこやかに微笑んだ。「帰ってから、そのデータを一覧表にまとめました。明日もう一度見学に行く前に、一雄さんにもご覧いただければと思って」いかにも真面目な口調だった。もし彼女の本当の狙いを知らなければ、誰だってその真面目な姿に騙されてしまうだろう。「ああ」一雄は頷きながら書類を受け取り、部屋の奥へ戻ると、ベッドの縁に腰掛け、脚を組みながら書類を開いた。風香もそのまま部屋へ入ってきた。ソファ脇のガラステーブルに、赤ワインの入ったグラスが置かれているのを見て、風香は誰にも気づかれないほどわずかに口元を緩めた。やっぱり……ワインは飲んだのね……あの男からもらった薬が、どれほど効くかは分からないけれど……普段から大量の資料に目を通している一雄にとっては、深い意味のない返事にすぎなかった。加えて今は、頭の中が真帆のことでいっぱいだった。仕事に集中する気にもなれず、ざっと目を通しただけで書類を閉じ、風香へ返した。「確認した。悪くない。デザインは君の専門分野だ。あとは君の判断で進めてくれ」一雄にとっては、ただの適当な返事にすぎなかった。だが風香には、一雄が自分を信頼してくれているように聞こえた。頬をわずかに染め、一雄をちらりと見たあと、うつむいて言った。「ありがとうございます。では明日、もう一度しっかり見てきますね」その時だった。風香の手がテーブルの上のワイングラスに当たり、グラスが倒れて赤ワインが勢いよくこぼれた。冷たい液体が一雄の腕に飛び散り、一雄ははっとした。ふと視線を落とすと、風香がすぐ目の前まで迫っていた。あまりにも距離が近い。違和感を覚えた一雄は眉を強く寄せ、勢いよく立ち上がった。風香は驚いたような顔を作り、髪を整えながら言った。「一雄さん……?どうしたんですか?」一雄は目を閉じ、胸の奥から湧き上がる熱を必死に抑え込もうとした。だが抑えようとすればするほど、体温はますます高まっていった。風香は立ち上がると、一雄の腕をつかみ、さらに身体を寄せた。「一雄さん、どこか具合が……」言い終
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